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スキル考察


 それから数日、瀬奈たちを連れてあちこちで討伐系のクエストをこなしまくった。

 その中で武器変化についての実験を行い、いくつか分かったことがある。


 ・武器の種類は魔物・魔獣を倒し、吸収する(条件を満たす)ことで発現する。

 ・魔物と魔獣では条件が違う。

 ・武器特性が付くものは多くない。

 ・使用されるポイント【E】はエーテル……つまり経験値。

 ・エーテルは『自分の体』と『武器』に振り分けることができる。


 特筆すべきは条件と振り分けについてか。

 魔物と魔獣では発現するための条件が異なる。

 まず、改めて説明すると、魔物は世界に偏在するエーテルから生まれ、死ねばエーテルだけを残して消滅する。

 魔獣はエーテルのふきだまりに、普通の動植物が触れることで変質したものだ。そして死ねばエーテルと変質した生き物の体が残る。


 ワーカメレオンは、分類的には魔物だ。

 そして、魔物の発現方法は、『その項目のゲージにポイントエーテルを注ぎ込む』というものだ。

 ここまではワーカメレオン討伐時に分かっていた事。

 魔獣は、その項目に対応した『魔獣の素材を神器に吸収させる』ことで発現する。

 例えば、ワーカメレオンの前に倒した蟲系の魔獣の場合。


 →○○蟲の薄羽×10

 →○○蟲の体液×5

 →○○蟲の外殻×20

 →etc.……


 ……などが必要になる。

 これがなかなかに面倒臭い。数が必要になるからな。

 たまに変な鉱物や薬品なんかが交じるのは、補強などに使っているのだと思われる。

 ちなみに、鑑定で得た情報やこれらの項目は、瀬奈たち自身でも確認できる事らしい。

 まだ、多くは開放できていないが、瀬奈たちの体感的に魔物より魔獣の武器の方が威力が高い、とのこと。あくまで体感のうえ、種類もなにも違うのだが、実験でも比較的威力が高い物が多かった。


 発現が早い魔物系の武器は、威力が低い。

 逆に発現に手間がかかる魔獣系の武器は、威力が高い。

 バランスが取れている…………のだろうか?



 振り分けについてだが、こちらは単純だ。

 自分の体に振り分けた場合、瀬奈たちのレベルが上がる。

 武器に注入した場合、その武器が解放される。

 レベルが上昇した場合、自覚できるほど急激な変化はないようだ。

 1つ2つ上がったくらいでは、さしてステータスの変化は大きくないらしい。それでも、さすがに何度もレベルアップすれば、はっきりとした違いが出てくるだろう。


 武器の開放に重点を置いた場合は、行動の選択肢がかなり広がる。

 武器特性があるからな。

 だがその場合、自分自身へのエーテルが回らずにずっと同じレベルのまま、ということも十分あり得る。

 そもそも、今開放した分では武器特性がついているものはかなり少ない。それ自体がギャンブルでもあるのだ。


 逆にエーテルをレベルアップに割り振った場合。

 能力自体は高まっていくが、行動の選択肢が狭まる。

 こういうのは自分が目指すスタイルを早くから決めて、それに向かって行くほうが強くなれる、というのはゲームの知識だが、まぁ的はずれではないだろう。

 器用貧乏を上手く扱えるのは上級者だけだ。


 ひとまず、現状のレベルは以下の通りだ。

 ・瀬奈   レベル6 武器数3(初期の形態含め)

 ・ロベルト レベル5 武器数4

 ・こなみ  レベル5

 ・田中   レベル?


 田中については神器が起動(と言っていいのかどうか)していないので、ステータス画面が見えない。

 一応エーテルを吸収させられる位置にいるために、経験値は取得しているのだが、確認のしようがない。



 それとこなみの変化についてだが、ゴーレム用の装備が充実した、というのと、ゴーレム自身にエーテルを注ぎ込むことが可能になったことの二つだ。

 例に出せば、ワーカメレオンのエーテルを吸収して、それまでの棍棒にウロコの装飾が付いたものを装備できるようになった。

 とはいえ、ロベルトのような武器特性はなく、ちょっとばかり攻撃力が上昇したか?程度のもの。

 ゴーレムにエーテルを注ぎ込むというのも単純だ。瀬奈たちと同じように、ゴーレムのレベルが上がっていく、というだけ。

 今のところ、ログゴーレムが6体、その中の大抵はレベル1だ。一体だけレベル2がいて、そいつを中心として戦うようになっている。





「――……結局さ、スキルとかアビリティとかいうのは何なんだ?」


 今日も今日とて、ここ数日のように魔物狩りに勤しんできた、その帰り道。

 ロベルトがふと思い出したようにそう言った。

 ゲームなんかのサブカルが発展してきたのは、戦後だ。

 俺と同じ、あるいは似た世界から来た瀬奈とこなみ、より高度な発展を遂げている田中だったら『ああ、ゲームの』という感じで、すんなり受け入れるのだが……。

 戦後のその時期に電気系統がイカレる、超常現象じみた事態に見舞われたロベルトの世界じゃ、理解は難しいらしい。


「俺たちの世界だと、ゲームの中の特殊技能とか、特殊能力……みたいな認識だな」


「SFとかなら分かるんだが、ゲームって言われるとな。超能力みたいなもんか?」


「そんな認識でいい。この世界じゃ、そういう特殊能力を持っているのが……大体千人にひとりくらいだな」


「それが……英雄?」


「いいや、すべての英雄はスキルを持っていたが、スキル保持者すべてが英雄ではない。目に見えて分かるほどのスキルを持ち、功績を挙げて民衆に認められたら、そこで晴れて英雄だ」


「人気が必要なのか。なるほどな。ユージーンがつまずいてるのはそこなのか」


 なんとも微妙な質問だ。

 そうだとも言えるし違うとも言える。


「強いて言えば反対してるのは王族だ。俺が魔人の協力者の疑惑がある以上、英雄に担ぎ上げる訳にはいかない、ってな」


「なるほどなるほど。その真偽は置いといて、やな」


 前を行くこなみが口を挟んでくる。

 聞こえていたのか、と思ったが、全員がこっちを見ている。丸聞こえじゃないか。


「…………置いておいて良いのか?」


「疑い始めたらキリないやん。それにそんな人やない、ってぇーのはこの短い期間でも分かるからな」


 そりゃ心強いお言葉で。

 こなみの場合、本心ではなく、その場のノリでしゃべっている可能性が否定できないんだよな。

 瀬奈たちも頷いているから良しとするか。


「そうやのーて、ロベルトが聞きたいのはその本質や。『英雄の持っているのがスキル』なんて言われても、いまいちピンときーへんて」


「あ、いや、俺はそれでもいい――」


「根本的に『スキルとは何か』!それが聞きたいんや!ユージーンさんならそのへん見当ついてんのやろ?」


「……と、言われてもな」


 俺にだって分かることと分からないことがあるんだっての。


「…………体感で良いなら話すが」


「お願いします、センセー」


 誰が先生だ。調子のいいやつめ。

 聞かれると少々厄介なので、ルイとチャルナには辺りの警戒に行ってもらう。


「まず……そうだな、スキルにも種類がある」


「根本的なとこ聞きたいんやけど?」


「まぁ待て。後にしろ」


「なんやかんや言って話し好きやね?」


「今更だぜ?」


「うるせぇ、黙ってろ」


 瀬奈と田中は大人しく聞いてるのに。

 …………俺、そんなに話長いか……?

 かと言ってこれ抜きには話ができん。


「まず、単純に何かを強化、増幅、あるいは何かの才能を与えるスキルだ。おそらく、潜在的にはこれが最も多い」


 俺の場合はステータス欄に記載すらされていない、『魔力量増大』『魔法の強化』なんかがそれに当たる。

 あくまで仮定だが。

 そんな分類が有る、というのはさっきも言った通り、ただの体感だ。


「2つ目、これは…………に宿る。そいつ自身の血筋に眠っている、先祖の記憶だ」


 【鑑定眼の御手】、【剣豪の系譜】、【妖精眼の射手】……。

 このうち【剣豪の系譜】【妖精眼の射手】はダリア家に由来する可能性がかなり高い、というのがエルフの里を訪れてから立てた仮説だ。

 【剣豪の系譜】はそのまま、武で身を立てたダリア家のことを示し、

 【妖精眼の射手】は遠いご先祖にいたと思われるエルフを示す。

 【鑑定眼の御手】もきっと、先祖の誰かが手に入れた能力だったのだろう。


「この血筋に宿るスキルには、レベルがある。己の力を自覚して、鍛えていけば強力な力になる。英雄のスキルはこれだろう。そして3つ目は――――」


「ま、待った待った!凡人の・・・スキルと 英雄の・・・スキルは分かる! それ以外の・・・・・スキルってなんだよ!?」


「アビリティ……とは、違うんですか……?」


「違う。言っただろう。初めて聞いたって」


 その証拠に、瀬奈たちのステーテス欄には、スキルとアビリティが別々に記載されている。

 あるいは――――それは『英雄』として、世界に認められた者に授けられる力なのかもしれない。


「3つ目は精神……心の、具現化だ。心に深く根ざした何か・・が、スキルとして現れる。最も強力で、最も胸糞悪い『力』だ」


「こころ……?」


「知っての通り、俺は一度死んだ」


「…………」


「…………」


「死んだ時のトラウマの一部が、スキルとして発現した。それを使うたび、その強い感情に飲み込まれて塗りつぶされる」


 【愚者の強権】――――《強権簒奪の愚者フール》。

 あれは俺の憎しみに反応して発現した。

 感情の針が振り切れた時に発動しやすい。だから、『心』の具現だと言った。


 気まずそうに口を噤む瀬奈たち。

 今まで普通に接していたせいで、あるいは『転生』という言葉を使っていたせいで、俺が亡者だったという事を、こいつらは実感しにくい。

 いや、できない。

 目の前で傲慢そうに語る男が、既に一度死んでいるということを。


「――――スキルとは、境界を超える・・・・・・・力だ。

 才能が、経験を超えて体に影響を及ぼす。

 記憶が、時間を超えて今に受け継がれる。

 精神が、肉体を超えて現実に発現する」


 固まって動かない瀬奈たちひとりひとりに近づき、その神器をそれぞれ軽く叩く。

 田中は一番最後に近づき、その胸を軽くトントンと叩いた。


「意思を原動力にして、境界を超えるのがスキルだ。お前らが持っているのが、どれかは知らん。当てはまらない場合だってあるだろう。だが、それは必ずお前らの中にある。…………田中、お前の中にもな」


「…………ユージーンさん……」


「俺のように、薄暗い感情に囚われるな。お前らは『英雄』だ。俺のような根暗の象徴のようなスキルじゃなく、英雄の名に相応しいスキルを持てるように、精進しろ。いいな?」


「……はい」


「ああ」


「了解や」


「頑張ります」


「よし。――――そんなら、そろそろチャルナ達も戻ってくる頃だし、さっさと帰って飯にするとしよう」


「――……飯は嬉しぃけど、魔獣の肉は簡便な?」


「良いだろ別に。食費だって馬鹿にならねぇんだから、ちっとは貢献しろ」


 少しばかり茶化すように飯の話題をふると、こなみが意図を察して乗ってくる。

 暗い感情に囚われるな、と言っておきながら、暗い雰囲気を作ってたんなら世話がない。

 さて、どんなバカ話に繋げようか。

 そんなことを思いながら一歩を踏み出して――――


「…………あ?」


 次の瞬間には地面に倒れていた。


「え、あ……?ユージーンさん……?何しとるん?」


「お、おい?」


 狼狽する声が聞こえてきて、それに応えようとして……意識が急に薄れてきていることに気づく。

 既に視界が暗くなって、何も見えない。

 なんだってんだ……いったい……?


「おい!?しっかりしろ!ユージーン!」


「大丈夫ですか!?しっかりしてください!ユージーンさん!!」


「どうしたです?――――ご主人様!?」


「にゃ!?ますたー!?」


 朦朧とした意識の中で、騒ぐ瀬奈たちと、ルイ、チャルナの声を聞きながら……俺は意識を失った。



 次の更新は今日の23時予定です。

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