英雄たちのギルド入会
「おぉーーーーーーっ!!」
「スゴい……!」
「へぇ……!さすがにこりゃー地球じゃ見られない光景だな」
「月でだって見れませんよ」
望翠殿から外に出て通用門をくぐった途端、目の前に飛び込んできた光景に瀬奈たちが歓声を上げる。
なにせ、明らかに人間とは異なるパーツを持つ者がそこかしこを闊歩しているのだ。
これまで関係してきた者の中には当然獣人もいたが、壁と呼べるまでの人波はまた別の感覚なのだろう。
例え、いくらロベルトが旅慣れているとして、この街と同じ町並みが有ったとしても。
この街の光景は全く別のものに見えるはずだ。
住んでいる者が全く違う。
今、目の前を横切っていった男は大きな槌を担いでいるが、妙に身長が低い。ドワーフだ。
そこの店で店員と値引き交渉している女性は、背中に翼を持っているし、その店員も獣の耳を持っている。
ふと視線を上げれば何か小さい者が、ふわふわと飛んでいる。鳥にしては大きいそれは妖精種なのだろう。
「ふぅ……ようやく街に出られたです」
「にゃははっ!あたしもおっきーっ!
瀬奈たちの後ろから出てきた二人も、この街ではさほど違和感はない。
ガッチリと装備に身を固めたルイと、最近ずっと猫だったチャルナである。
ちなみにレリューは輝石をチャルナに返しているので、人魚状態だ。そのため、ケーラと護衛の兵士と一緒に留守番だ。
ドワーフ、翼人、獣人、妖精――――
一見しただけでもこれだけの種族がいる。
人並みなど探すのが追いつかないほどだ。
逆に人類種を探すほうが大変だ、と言っていたのは誰だったか。
「そこで口あけて呆けてると飢えた商人どもの客にされちまうぞ」
「商人は飢えへんやろ……」
こなみがツッコミを入れてくるが、まだどこか上の空だ。
そんなに衝撃的だったか。
ちなみに今のこいつらの服装は目立たないように、現地の物を買ってきてもらい、着用している。
それまで学校の制服のようなブレザーやスラックス、スカートなどは、こちらではあまりにも目立ちすぎる。
用意されたのは、動きやすそうなシャツとズボンだ。
地球の中東の国のように、全身を覆うような服ではない。袖も普通に短い。
夏の大陸には水は豊富にある。
問題となる日差しも、日射病予防の軟膏(日焼け止めクリームではなく)があるからさほど問題はない。
だから袖も短いのだろう。普通、日差しがキツい国では露出が多いとヤケドか日射病で死ぬ。
「おい、フラフラすんな。こっちだ」
「あ、はーい。そういえばユージーンさん、今日は小さいのですね」
「こっちの姿で冒険者ギルドに登録しているからな」
「子供のカッコで見る街の様子ってやっぱり違いますか?」
「まぁな」
最近ずっと青年状態だったので、急に身長が縮むと違和感がでかい。
こうして人ゴミを見ても、足とかそのへんしか見えん。
そして………春の大陸ではお目にかかれなかったものが見えることに気づいた。
目線の高さにほどよく肌色面積の多い腰があるのだ。
子供で良かった……ッ!惜しむらくは長いこと見てると例の耳鳴りが聞こえ始めることか。
暑いだけあってかなり大胆な物を着用している者もいる。
耳鳴りに耐えながら、肉付きの良い脂肪の塊がよじれて動く様は……何とも言えない。
『文章にできない』などという逃げ道を作り、詳しく描写しないことで誰かを悔しがらせようなどと、そんなことは露ほどどころか碧湖ほど思っている。
大いに悔しがって欲しい。
まぁいつまでも怪しげな視線を向けていると、『お巡りさんコイツです!』とかいわれて警邏の連中を呼ばれてしまうので、さっさと移動する。
望翠殿から冒険者ギルドまでには、長い路地を歩いて行かなくてはならない。
すると、襲撃の爪痕が残る建物が嫌でも目に入る。
焼け焦げた壁や文字通り獣の爪痕が付けられた看板がそかしこにある。
一ヶ月やそこらでは、元には戻らないようだ。
当然、それは建物だけではなく、行きかう人々にも、その記憶は深く刻まれている。
…………。
…………はず、なのだが。
「お!久しぶりに来たなチャルナちゃん!うちの新製品、食ってってくれ!」
「うにゃあ〜!」
「おいおい、魚屋の妙なもん食ったら腹壊すぞ。肉にしろ肉に。ほら、これ持ってきな」
「にゃはー!」
「ルイちゃんも最近見なかったねぇ。ほら、これお食べ」
「あ、ありがとうございますです、おばあちゃん」
道の端には屋台やら店やらが並んでいるのだが、そこの店主らしき連中がひっきりなしに声をかけてくる。
どいつもコイツも揃って笑顔だ。中には自分の娘や孫でも見るような目でチャルナたちを眺めている者までいる。
なんだこりゃ?ちょっとしたアイドルみたいなことになってる。
「マスター、マスター!見て見て!いっぱい貰った!うにゃー!」
「ほぉ……ボウズが嬢ちゃんたちの『ご主人様』ってやつかい?」
「ああ、まぁな」
「身なりのいい服着てるからどっかの貴族様の息子かねぇ。最近高ぇ服着た連中がぞろぞろ来てるから、違和感も有り難みもあったもんじゃねぇ」
「何言ってんだバーさん。ボウズ、俺たちゃあの事件の時に、嬢ちゃんたちに助けられたんだよ。この通りに店出してる奴はみんな嬢ちゃんたちに感謝してるんだ」
「うにゅー」
ガハハ、と笑いながらチャルナの頭を撫でる店主。
チャルナもくすぐったそうにしているだけで、嫌そうではない。
なるほど。あの時のか。
「そうだったのか。うちの猫が世話になっているようだな。こちらこそ感謝する」
「ハハハ!そんなかしこまんなくてもイイって!そっちで呆けてる嬢ちゃんたちにも食わせてやれ」
そう言って串焼きらしきものを差し出してくる。
ありがたく受け取って、まだボーッとしている瀬奈たちへと渡す。
ついでだ少し話を聞いておくか。
「随分活気があるようだな」
「ああ、『天裂の英雄』に加えて、イセカイってとこから来た英雄が四人もいるって言うじゃねぇか」
「そんな話聞いてたら、いつまでも家の中に閉じこもってられんよ。ちょうど商品を積んだ巡業商団が到着して、物が行き渡り始めたしな」
「…………『天裂』?」
「ん?ボウズは知らんのか?馬鹿デカくておっかない炎龍を、これまた馬鹿デカい漆黒の剣で真っ二つにした英雄様だよ」
「その剣が天まで届いて雲を割った、って話があってねぇ。だから『天裂』なのよ」
……俺の事か?
『天裂』とはまた大仰な名前が付いたもんだ。
話を聞くと、どうも歓迎会に参加したこの街の長(自治会長的な身分。最高意思決定機関は議会)から俺の外見的な情報が漏れているらしい。
王族ばかりに目がいって、それらしき者には気がつかなかったな。
その情報で『天裂の英雄は実在する』ということが広まって、瞬く間に情報が広まったようだ。
店長たちに礼を言って、ついでに商品もいくつか買って、それからようやく冒険者ギルドだ。
フードを作っていつものスタイルでギルドに入る。
子供が入ってきたと見て何人かが腰を浮かすが、俺だと気づいてそのまま着席するのが遠めに見えた。
いつもどおりの光景だ。
カウンターに近づいて、係りのものを呼ぶ。
「はい。今日はいかがしましたか?」
「ああ、後ろの連中を冒険者として登録したい」
「当ギルドでは15歳未満の方々は登録できません。よろしければ年齢の確認を」
「俺は18だ。問題ない」
「ウチは16やからギリセーフやな」
「私と田中さんも17です」
そう言うとちょっと意外そうな顔をする受付の女性。
何かあるのかと聞いてみる。
「いえ、そちらのお三方は見た目からするともう少し下かと思っていました。元服を済ませているくらいの歳なんですね」
「まぁな。顔立ちから髪の色まで、そうそうみないだろ?外見年齢的にちょっと歳が若く見えるんだよ」
「承知しました。……そちらのお二人は?」
「ルイは登録しないです。見学です」
「うにゃ。チャルナも」
「なるほど。では、さきの方々はこちらの書類の項目を埋めて提出してください」
いつぞや俺も書いた懐かしい書類が出てきた。
あの時は脅しつけて無理やり登録したんだっけな。
ちなみに今回は、瀬奈たちにも偽名を使うように指示してある。
まさか英雄がこんなところにいると思わないだろうが、念のためである。
「えーと、なになに……?」
「ふんふん……。チーム名?そんなの決める必要があるのか」
「ああ、あとで修正できるからなんでもいいぞ」
「ユージーンさんはなんにしたん?」
「俺は……」
と、そこまで言った時にこちらを見つめる無数の視線に気づいた。
ギルドの中の一部のものが、明らかにこちらに意識を向けている。
なんだ……?
「ユージーン、って……あの?」
「いや、そう言われたのはあの子供だ。同じ名前の人違いだろう」
「いや、でもさ、聞いた話と似てない?フードから金髪が覗いてて……」
む。しまった。漏れ出した情報から俺に当てはめるやつが出てきたのか。
まさか気づくとは思わないが……まぁいいか。
「俺のチームは問題児集団って名前だな」
「うわー……趣味ワル」
「一時期、問題児問題児と呼ばれてたからな。ほぼヤケだ」
「一時期どころか今でも…………」
後ろでうるさいぞルイめ。
「まぁウチらはトランプ・ブレイブスでええやろ」
「それで良いです」
そう言ってちゃっちゃと書いて提出する。
だが……。
「すいません。勇者の名称は、現在使えないことになっています」
「どうしてだ?」
「召喚された英雄さま方が、そう名乗ったと聞いて、チーム名を勇者に変更するところが後を断たなくて…………」
「「「「………………」」」」
妙なブームが。
利権侵害で訴えてやろうか。
「んー……じゃあしゃあない。ユージーンさんのとこ入ろか」
「良いのか?趣味悪いのに」
「なんや気分が削がれたからなー」
「私は構いません」
「俺も」
「以下同文です」
適当か。もっと燃える名前にすればいいのに。
そんなこんなで提出した書類は無事に受理され、晴れて瀬奈たちは俺のカンパニーに 入社した。
これによって、俺も一人では受けられないクエストも受注できるようになったらしい。
さて、では記念すべき最初のクエストだ。
今回だけ二班には別れずに、全員で行く。
選んだのは討伐系クエスト。『キャンプ場に出没する魔物を討伐せよ』だ。
天上殿会議目当てに集まった民衆が、ストラーダに入りきらずに街の外でテント生活をしている。
その敷地内に襲撃の時に呼び寄せられた魔物の残党が出没するとか。
それを狩るクエストだ。
この小説を投稿し始めて、本日で一周年です。
そしてこの話で190話です。
365日で、190話。
皆さんお察しのことかと思いますが、ほぼ二日に一回更新です。
『テメェ毎日更新つってただろうが!ああん!?耳から手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせんぞコラァ!』
……とお思いの読者様もいらっしゃることかと思いますが、そこはどうかご勘弁を。
あ、ちなみに実際に作者に上記の言葉を言うと、アヘ顔ダブルピースで悦びます。(ドM)