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英雄歓迎会2


「あーあー。どうすんだあれ」


 すっかり人気者になった田中を見て、そんなボヤキを口に出す。

 あの様子じゃライスフェルトえんぎのことなど忘れているだろうな。

 あの地震の後、歓迎会は会場を湖のほとりへと移して続行していた。会議場が地震の影響で荒れてしまったためだ。


 どうやら議会の連中はもう一度予震があったら、などとは考えないらしい。

 地震のすぐあとに水場の近くにいるというのも不安になる。

 念の為に人魚族の兵士に命じて津波が来ないか確認してもらった。

 どうやらココに居る連中は、地震そのものにあまり縁のない土地で育ったらしいな。面白いくらいに狼狽えている奴が多かった。

 対策も思いつかないのか、田中の指示に素直に従っていたようだし。


 そういえば、田中に聞いたっけな。

 なんでも、自然災害から逃れた宇宙でも、過去の教訓を忘れないように地震や火事に対する避難訓練は徹底的に教え込まれているとか。

 ある意味、故郷を奪われたことへの執着みたいな感じがする。



 それにしても、さっきの地震……。震度はそれほどでも無かったが、ちと妙だった。


 普通、地震とは初期微動という疎密波(P波)による比較的振り幅の小さい縦揺れがある。

 その後に、大きな本震が来るものだが…………今回はそれが無かった。

 粗密波は本震よりも早く届く。

 だから、初期微動が長ければそれだけ震源から遠いということになる。


 逆にそれが無い、あるいは感じられないほど短いということは、震源地はすぐ近くということになる。

 直下型だとしたら、望翠殿ココに強く影響が出ただけで、他の土地ではさほど影響が無いのかもしれない。

 ただそれだけの話なら良いのだが……何か嫌な予感がする。





「ライスフェルトさま!先程のご勇姿、素晴らしかったです!」


「あー……ええと、その……」


「多くを語らないところも新鮮です!ツガイ目的の方はずっと喋り通しですもの」


「あ、あはは……そうなんだ?」


「はい。それはもう。延々と自慢話された日にはうんざりしてしまいますわ」


「それは私も覚えがあります」


 田中が強く言えないのを良いことに、王女様がたはあるある話で盛り上がっているようだ。

 今まで全くいないタイプの人間だからか、それまでの態度の事は気にしてないらしい。


 男といえば王族、もしくはそれに準ずる家柄の人間か、使用人くらいだろうな。

 一方は多弁、もう一方は声がかかるまで黙ってる人形のような者達。

 それなりに身分があって、話し手ではなく聞き手に回って来るような男はあまり居ないのだろう。


 燭台で照らされた広場で、何人もの女性が田中の周りに集まっている。

 年代は下は10になったかならないかくらいの子供から、上は20どころか30歳手前ほどの人までいる。

 種族もバラバラだ。男についての愚痴に頷いているのは人類種の女性ばかりだ。

 他種族……獣人の娘なんかはしきりに田中に食事を運んでくる。

 魔法ツガイになれない獣人は、そういう文化があまりないんだろう。

 考えて見れば何もツガイの相手として英雄を求めている者ばかりでもないのか。最終的に自陣に引き込もうとするなら同じことだが。


「…………で?どんな気分だ?元・人気者さん?」


「…………」


 俺の隣で膝を抱えて座り込み、田中の方を見ているのは、先程まで歓迎会で最も輝いていた男…………ロベルトだった。


「いや、だってさ、しょうがないじゃん?あんなでかい地震がいきなり起こるなんて思わないじゃん?」


「だから血相変えて走って逃げたのか?」


「………………………………………………はい」


 そして帰ってきたらこのザマである。


「でもさ、何かあったらその場から離れるのが基本だろ?な?おかしくないだろ?」


「俺から言えるのはひとつだけ。――――地震大国日本うちんとこに来ておくべきだったな」


「……そりゃーナイスな判断だ。ご忠告どうも……」


 項垂れるロベルトを放置して、その場を離れる。

 いくら真っ先に逃げ出したからって、英雄という価値はそんなものでは減じない。

 その証拠に向こうでチラチラとこちらを窺う連中がいる。

 ロベルト目当てが6割。残りはさっきから視線で牽制してる、俺目当てのやつらだ。

 俺を落とすように言い含められてるようだが、殺人的な目つきの悪さを発揮してパーティー開始直後から文字通り睨みを利かせている。


 ここに居たらどうにも話しにくいらしい。

 ある意味さっきの田中以上のとっつきにくさだ。それもしょうがないだろう。

 お邪魔虫は去るから、地味にメンタルの弱いコイツのこと、よろしく頼むぜ?お嬢さん方。





「ゆゆゆゆゆユージーンさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」


「ゴボブァッ!?」


 ロベルトを置いてその場を去り、さてどこに行こうかと思案していた俺に誰かが突撃をカマしてくる。

 ほどよく身長の低いそいつの頭が、ちょうどいい感じに俺の腹部にクリーンヒットする。

 ぐぶッ……肺の空気、全部持っていかれた……!

 どこのどいつかしらんがこの俺にぶつかるとはいい度胸してんじゃねぇか……!

 そう思って視線を下げると…………妙に見覚えのあるつむじが見える。


「何してやがんだ、レリュー……?」


「だだだだって!地面が!グラグラァーって!」


「待つですよー!レリューさまー!」


「はぁはぁ……やっと追いついた……!」


「うにゃー!」


 レリューの後を追いかけてきたのか、ルイ、ケーラ、チャルナが合流してくる。

 チャルナは猫の状態で、走ってきた勢いそのままに俺の体を駆け上がってくる。爪の食い込みが地味に痛いな……。


「何してんだお前ら……」


「えーと……地震にびっくりしたレリュー様が、人化してそのまま逃げちゃったんです」


「……つってもあれから結構経ってるぞ?まさか今まで逃げてたのか……?」


「まぁ、そのまさかってやつなんだよね」


 道理で息せき切って走ってくる訳だ。

 スーツの内部まで潜り込んできたチャルナが、もそもそと動くので少しくすぐったい。


「レリューちゃーん?」


「お、なんや、ユージーンさんまで居るんかいな」


 さらに後から瀬奈とこなみまで合流する。

 何してんだホントに。


「そっちの方は地震は大丈夫だったか?」


「あ、はい。大丈夫でした」


「むしろあんだけ武勇伝してた連中が、腰抜かしてへたりこんどってオモロかったわ。そのまま撒いてきたんよ」


「さすがに地震慣れしてんな」


「ご主人様は大丈夫だったです?」


「まぁ、ご覧のとおりだ。ルイこそチビってないのか?パンツ大丈夫か?」


「なー!?レディーにそういうこと聞くのはマナー違反なのです!地震くらいへっちゃらです!!」


「夏の大陸じゃ、たまにこういうのは有るからね。問題ないよ」


「の、割には夏の大陸出身のお姫様がビビりまくってんだが」


「へうぅー……」


 うめきながら頭ぐりぐり擦りつけんな。なんかむず痒い。

 そういえば異変に関して調査させた時に、小さな地震が頻発してるという報告書が上がってきてたな。

 特に問題になってないあたり、この程度の地震は珍しくないのだろう。


「レリュー様は仕方ないのです。初めて陸で地震を体験したみたいですし」


「うぅ……水槽がすごくグラグラして……」


「ああ、なるほどな」


 水中なら大して異変はないだろう。

 せいぜいが土砂が舞い上がったり、衝撃が波となって岸辺に打ち付けるくらいだ。

 地上にいるときに地震に遭うなど、レリューにとってそうそうできる体験ではないのだろうな。


 なんとなく魚が船酔いするという話を思い出した。

 水槽に入れた上で船などで移送すると、船の揺れがダイレクトに伝わって水槽の水が揺れ、中の魚に影響を与えるという。

 ちなみに水槽を隙間なく上まで水で満たし、揺れないようにすると魚の船酔いはなくなるとか。

 どうでもいいか。


 なんとなくレリューの頭を撫でながら、瀬奈たちに話を聞いてみる。


「どうだった?いきなりモテモテになった感想は?」


「エラいオモロかったでー。何言っても持ち上げられるし、お姫様扱いもええとこや。最後の最後で地震でオチもついたしな」


「私はちょっと……。どうにもチャラチャラしてて、空気が浮ついてたように感じました」


「まぁ、そんだけ綺麗ならしょうがないだろ」


「そう、ですか……?…………。ありがとう、ございます」


 凛とした空気が少しだけ緩み、恥ずかしそうに頬を染める瀬奈。

 なにコレ。うちの妹、めっちゃ可愛いんですけど。


 これで浮つくなというのは少々酷だろう。


「む。ユージーンさん、ウチは?」


「はいはい可愛い可愛い」


「適当にもほどがあるで!?」


 中々楽しんでたようでなによりだ。

 そういえば田中とロベルトには恋愛授業を受けてもらったが、瀬奈たちには何もしてなかった。

 どっか抜けている男性陣と違って、しっかりしてそうだったから特に何も言わなかったのだが……。


「会話の主導権を握られてるとか、話の中で無理やり関係を迫られたりとか、恋愛方面で不安はなかったか?」


「ああ、そういうんは大丈夫や」


「こちらも特に不備はありません」


「やけに自信満々だが、何か根拠はあるのか?」


「そんなもん簡単や」


 ふむ。何か秘策でもあるのか?

 ソレを田中たちに応用できれば、もっと安心してあいつらを女子共の中に放り込める。


「オトコなんてなぁ、カ・ラ・ダを使えば一発で会話の流れを引っ張り込めるで!」


「……………………ハッ」


 なんとなく、その平らなフラットチェストに目がいってしまい、ついつい鼻で笑ってしまった。

 うん、まぁ……いいんじゃないか?世の中にはそういう趣向の人間もいると聞くし。


「むむ。その笑いはどういう意味なんや?」


甘い罠ハニトラというには甘味が足りないんじゃないスかね。フラッチェさんよ」


「むむむむむ……!いてまえ!ゴーレム部隊!」


「ちょ、おい!?」


 いつの間に取り出したのか、例の猫のぬいぐるみを構えて宣言するこなみ。

 その宣言で、地面に幾何学模様が浮かんで、その中から部屋にいるはずのログゴーレムが這い出てくる。

 というか、この前の修復用の包帯が残っているせいで、ゾンビが墓から這い出て来るように見える。


「ひゃあッ!?」


 怖気に駆られてレリューの頭を引っペがし、すぐにでも走り出せる態勢になる。


「「「「ミ゛ッ!マ゛ーーーーーーーーーーーーッッ!!」」」」


「ちッ、緊急召喚用の機能でも付いてたのか?」


 さすがにこんな祝いの席で物騒な事態にさせるわけにはいかない。

 例えダメージが入らないとしてもだ。


「逃げるが勝ちッ!」


「まぁてぇー!うちの希望数値分、タコ殴りにして膨らませたる!」


 それは一体どれだけ殴られれば済むんだ?

 とりあえずゴーレムに追い立てられて、逃げるように瀬奈たちから離れる羽目になった。


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