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たまにはこんな趣味の日を


 こなみの指摘ももっともなので、たまには休みの日を設ける。

 とはいえもちろん街に出すわけには行かないので、室内で遊べるものを持ってきてもらい、それでリフレッシュしてもらうことにした。


「ふむ……。なるほどな。魔法使いの次は果物で変身するのか……」


 パチリ。


「そうそう。最初は流石に無茶やろ、みたいな反応やったんけどね。話がおもろくて展開していくうちに『これもアリだ』みたいな反応に変わっていったらしいで」


 パチリ。


「基本みんな好きだからな。飛び蹴りライダー。基本を外してなければ割と受け入れるやつは多い。――――というか、お前にとっては10年ほども前の話だろ?年の割にはよく知っているが、そういう情報はどっから引っ張ってきてんだ」


 カチリ。


「そりゃ、当時のスレやら個人のブログやらからいくらでも。当時の世代が社会に出るようになってからオタク人口もこっそりと増えとるしな」


 パチリカチリ。


「まぁ裾野が広いおかげで成り立っている面もあるからな。江戸時代にもそういう風習があったらしいし」


 カチリパチリ。


「そうなん?妙なこと知っとんねー?民俗学とかそういう方面に強い人?」


 カチパチカチパチ。


「趣味みたいなもんだ。…………。祐次ともそういう縁で知り合ったしな」


 カカカカッ。


「ユージーンさんの趣味って読書だと思ってたんやけど……」


 カカカカカカカカカカカカカカッ!


「馬鹿言ってんなよ。読書は生活であり、人生だ」


「――――……あの。それは何をやってるんですか?」


 俺とこなみがオセロをしながら、某ヒーローから見るオタク社会の広がりについて雑談していると、脇から瀬奈が口を挟んできた。

 見ての通りだが……。あッ、クソッ。負けちまった。


「打つ速度……というか音が尋常じゃなかったのですが……」


「テト○スとかだってやってるうちに早くなるだろ。そんな感じだ」


「流石に1分かからんで勝負ついたのは初めてやで。うつの早いなぁー」


 64マスあるので、一枚一秒もかからずに打っていた計算になる。

 捲り返す事も考えるともっと早いのか。

 俺もアレだが、それについてくるこなみの方が化物だ。


「一時期仲間内で決戦してたからな。お前らもたまにやるだろ?闇鍋大会とか年越し読書大会とか、24時間読書とか、ファミレスで全部読むまで帰れまテンとか」


「だんだんテレビ企画っぽくなっていきますね……」


「しかも酷く偏っとるで……」


 個人的に一番辛かったのはアレだな。『世界一抜けたい授業』。

 オタクというのは自分のテリトリーの範囲外に居る人物……例えばミリタリーオタクと鉄道オタクなら、それぞれの知識を長々と語ったりはしない。

 鉄道なら鉄道、ミリタリーならミリタリーの仲間と語らうものだ。


 俺の仲間内では何故かそれぞれジャンルの違う奴らが揃ってた。無駄に。

 さっきの理屈に従ったわけではないが、自然とそれぞれの住み分けの外には出てこなかった。

 それぞれの保有する知識を誰かに話すことなく、何故かずっと一緒につるんでたんだよなぁ。


 で、まぁたまには存分にしゃべりたいだろうと思って企画したのが……先の『世界一抜けたい授業』だ。

 それぞれのジャンルをプレゼン形式でまとめて、他の奴に聴かせる。

 だが、何もひねらないのは面白くないということで、特定の行動をするとペナルティが課せられるようにした。

 授業中に寝たら昼食おごり。とかな。

 他にも講師の設定した条件をしたらサ○イフルコーラスとかもあったな。

 桜ぁ〜ふぶーきのぉぉぉぉーで何故か全員で歌ってた記憶がある。


「兄さん、理系の大学にいたはずなのに、遺品に妙に民俗学やら宗教学やらバラつきがあったのは、そういう遊びが原因でしたか」


「まぁ、やつは読めればなんでもいいみたいな所はあったからな。本の収集癖、ってやつか」


「ああ、聞いてた祐次さんの性格からして、ユージーンさんみたいな人とどうやって知り合ったか不思議やったんやけど、そこから繋がるんやね」


「みたいな人ってどういう意味だそりゃ」


「あ、あはは……」


 困ったように笑う瀬奈の態度が、『みたいな人』の印象が悪いことを非常に良く現していた……。





 さて、俺とこなみがオセロ。特に趣味のない瀬奈がその観戦、および雑談と称しての昔語り(祐次関連)。

 では残ったメンツといえば――――


「黒色火薬を110グラム……しまった。計量用の計りがない……。先に中身の配線をいじって……」


 田中が何やら怪しげな実験を始め、


「へぇ……。中身はこうなってんのか。形式はニューナンブ、の……なんだこりゃ。見たことない機構してんな。オリジナルか。輪胴弾倉に魔法陣を刻んだ弾丸が……」


 ロベルトが俺の拳銃型魔道具フライクーゲルを分解して中身を検分している。


 いや、ロベルトは分かる。

 地球では銃を持っていたようだし、俺の持ち出したフライクーゲルに興味を持つのは理解の範疇だ。

 だが田中。お前は何してんだ。

 田中の手の中にあるのは真っ黒な――――


「…………なぁ、ユージーンさん。アレ、なんに見える……?」


「――――爆弾、だな……」


 真っ黒で真ん丸なボディ。頂点からチョロっと伸びた導火線。

 非常にレトロで昭和感あふれる爆弾だった。

 今現在、田中は本体のボディを作って中身にごちゃごちゃと線上の何かを入れている。


 ちなみに火薬は衛兵から、ボディの素体はこなみが神器で加工した木材だ。

 コルク状の木を用意して削り出すつもりだったらしいが、銅貨一枚と引き換えに変形させてもらったらしい。

 その上に油紙をベタベタと張って黒く色付けしたのがアレだ。


「そうか……ヨッシー……。ついに中二病をこじらせて……」


「作り慣れてるところを見るにありゃあ何人かやってるぞ。田中……恐ろしい子……!」


「あのー……すいません。全部聞こえてますよ」


 ため息ひとつついてこちらに向き直る田中。

 その妙にロマンあふれる物をこちらに向けるな!なんか妙におっかないだろ!?


「前にパズル系のゲームでかなり昔の爆弾を作ったことがありまして。もしそれと同じものを作れたら、最低限身を守るくらいはできないかと」


「妙なゲーム持ってんなー。そんなもん危なっかしくてしゃあないやん」


「テロリストに限らず爆弾なんか一般人が作れたら危なっかしくてしょうがないだろ」


「黒色火薬なんて爆発力が弱いんで、花火か初期の火縄銃くらいにしか使用してませんよ。それに作ってたのはAR上の素材ですから現実には存在しませんし」


「そうは言うがな……」


 田中の話ではそもそもの素材が宇宙空間では手に入らないものだったらしい。なのでこういうお遊びもできる、と。

 確かに火薬なんて馬糞やら人糞やらを地中に埋めて、硝石を作り出し、その上で硫黄やら木炭片やらを混ぜる必要がある。


 月面基地に馬がいるのか。それに硫黄も月にあるのか。

 そう考えるとお遊びでそういうもんがあっても不自然ではない、か?


「これだって派手に火花は散りますけど、あくまで牽制用くらいにしか効果はないです。威力をあげようとすればデカくなりますし」


「それは分かったが……それはそれとして楽しいのか……?」


「あ、はい。それはもう!データ上ではなく実物があるというのは達成感有りますねー」


 地味だ。

 趣味まで地味なのか、地味だからこんなものが趣味なのか。

 ニコニコしながらコロコロと黒い玉を転がす田中を見ると、不憫でしょうがなくなってくる。

 こなみも可哀想なものを見る目で合掌して……っておい。田中は死んでねぇぞ。



 一応、引火の危険だけを注意して、ロベルトの元へと向かう。

 が、そこで待っていたのは、厳しいお小言だった。


「いいか?ユージーン。こういう可動性のものはこまめにメンテが必要なんだぞ?それをこんなになるまで放置して……」


「…………」


 どうやら中の機構……特に雷管を叩く撃鉄周りの摩耗がひどかったらしく、ともすればあと少しで使えなくなる可能性があったとか。

 そういえばロクにバラしてない。

 油を極々たまに引くくらいで、本格的に分解した覚えがない。


「珍しいなー。ロベルトが説教側に回るとか。いつもはウチと一緒に叱られる側なのに」


「自覚はあったんですね」


 後ろからそんな声が聞こえる。

 しくじったな……。実際に撃つわけではないからと、それほど気にかけなかったのがまずかったか。


「というか、ガンスミスも居ないのにどうやってこんなものを用意したんだ?」


「あー……鍛冶師に図面渡して、1年くらいかかったっけな」


 ガンスミス、と言うと、殺し屋という意味のものではなくて、直訳の方の銃の職人スミス、銃の組立やらメンテナンスやらをする業者のことだろう。

 そんなもんがいたらこれを入手すんのも、もっと楽になるだろうに。


「コナミに金属の加工は……」


「まだ無理みたいやね。レベル的なもんが上がれば出来るんやろうけど」


「なら部品の一部を鍛冶師に頼んでおいて、後々取り替えようか」


「そ、それで頼む……」


 かなり詳しいみたいだな。

 ……というか、いくら銃社会に生きる者とはいえ、そんなに詳しいものだろうか?

 ふむ…………。


「なぁロベルト。これ、一回分解してからもう一度組み立てて見てくれないか」


「なんだ、その程度のことでいいのか?ホレ」


 そう言って事も無げにフライクーゲルを分解する。

 普通の銃ではなく、銃身自体が半分に別れるプラモっぽい構造なのだが、いとも簡単にやってみせる。

 そして30秒も経たないうちに組み立ててしまった。

 パーツの数はそれなりだが、組み立てるのは手間取るはずだ。

 だというのに……。


「スゲー!ロベルトスゲー!」


「…………なぁ、ロベルト、前に銃で護身してたって言ったが、何と戦ってどうなったんだ?」


「ん?まぁ色々だな。テロリストやら正規軍やら。野盗団とも戦ったし。ウチの親はたまに戦争に混じって金稼いでたしな」


 それは……バックパッカーじゃなくて『傭兵』というものではないか?

 古来から武器の分解組立はできる兵士のステータス、という。

 あれだけの速さで組み立てるこいつは……どんな修羅場を潜ってきたというのか。


「でさぁ。ここの構造なんだが、なんでこんなふうになってんだ?」


「ああ、ここは魔力の通りがだな……」


 聞いてくる質問は実際の銃と魔道具としての差に由来するものだったが、いくつか改善点を教えてくれた。


「俺にもいくつか作って欲しいな。やっぱり使い慣れてるもんがあれば、いざという時にも対応できるだろう?この棍棒ランデッロも良いが、遠距離から攻撃できればそれに越したことはないだろうし」


「ふむ……ドワーフが鍛冶関連が得意だと聞いた。出歩けるようになったら発注しにってみるか」


 一応、全員分頼んでおくか。

 この望翠殿にドワーフの族長だか村長がいるはずなので、そっちから話を通してもらおう。

 それまでにもっと細かく図面を詰めておくか。




 ススメのメモ機能を使っても良かったのだが、それだと引渡しができないので、適当な紙を用意して書き付ける。

 改造第一案をざっぱに書いていると、さっきからずっと聞こえていた喧騒が気になってきた。


「あ、6が出ました。ひーふーみーの……ああッ!一回休みです!」


「きっとルイを追い越させないように神様がサイコロをいじったのです。このままゴールにまで逃げ切るで――――ああッ!?ルイも一回休みです!?」


「うにゃッふー!」


「あ、チャルナちゃんも一回休みー」


「うにゃああああああああああッ!?」


 部屋の一角ではうちのかしまし娘どもが、手製の双六……に似たボードゲームをやっていた。

 巡業商団ストローラーズを模した双六で、丁度この大陸を一周するようなマスの配置になっている。


 なんだかんだ言って、今日の休みを最大限楽しんでるのはこいつらだと思う。

 子供の無邪気さには勝てんな。


「なぁ……ユージーンさん?」


「ん……。こなみか。どうした?」


「いや、ちぃと聞きたいんやけど……」


 そこで声をひそめるこなみ。

 なんだろうか?他人に聞かせたくない話か?


「ケーラちゃんてさ、もしかして夜の商売的なとこで働いてんのちゃう?」


「…………どうしてそう思う?」


「なんや、コソコソと隠し事しとるみたいやけど、どこで働いてるとこの話になった途端に隠すから丸分かりやで。夜中に居らんようやし、こないだの恋愛経験がどうのって話と合わせると、そう考えるんが妥当かなって」


 案外鋭いらしい。

 まぁ遅かれ早かれ気づくと思っていたから、意外でもなんでもないか。

 無断で明かすのは悪いと思うが、こなみの目はすでに確信している目だ。


「……そうだ。近場の娼館で……キャバクラみたいな仕事をしている」


「やっぱりそうか……。ウチの趣味は人間観察やからね。これくらいは朝飯前やで」


「の割りに時間がかかったがな」


「うぐ…………」


「別段隠すこともないと思うんだが、気にしているようだから内緒にしておいてくれないか?」


「それは重々承知の上やで。ウチもケーラちゃんが傷つくんは嫌やしな」


 なんとなくふたり揃って、無邪気に遊んでいるケーラに視線を向ける。

 仕事が仕事だから、と考えるのは容易い。

 だが、きっとこの世界ではそれほどおかしな職ではないと思う。

 危険と隣り合わせの冒険者や巡業に出る商人の、一夜の癒し。

 外で付き合った連中も、俺が娼館に住んでいると言っても、あまり拒否感や嫌悪感を見せる事はなかった。

 娼婦というのはここいらでは受け入れられてる存在なのだ。


 それでもケーラが気にしているのは、きっと……。


「気後れ、してるんやろね。ウチらが『英雄』なんて大仰なもんやから」


「多分な。だからこそ、知られたら何を言われるか分からない。それが怖いんだろうな」


 かつてのどこぞの警備長のように、外面を過剰に気にする連中にはウケが悪い。

 それが雲の上にいるはずの人ならどうか。そしてその人たちが自分の職を知ったのならどうなるのか。

 きっと罵声を浴びせかけられて追い出される、くらいは想像しているだろう。


「ボチボチお前らの人となりも、アイツは理解してきたはずだ。折を見て、軽く話してやってくれないか?お前一人だけでも、受け入れてくれているということを示したら、きっと心労もいくらか軽くなるだろう」


「ま、タイミングを見て、やな」


「にゃーッ!」


「あ、チャルナちゃんゴール!」


「うぅ……先を越されました……」


「く、事業失敗のせいで通行料が払えないとは……油断したです……」


 少なくとも今ではないだろう。

 あの楽しそうな笑顔に、小難しい話はしたくないな。

 そんなことを考えながら、休みの時間は過ぎていく。





「あ、ちなみに人間観察が趣味のウチからすると……ユージーンさんのタイプは……」


「……聞くだけ聞いておくか」


「ハリーポ○ターで大技の呪文だけ音声英語で聞くタイプやな」


「ピンポイントすぎる!」


 良いだろ!?好きなんだよ『エ○スペクト・パト○ーナム』とか、日本語版よりあっちのナチュラル発音の方が!


「お前と話してると、ホントに異世界に来たような気がしないな……。実は奥多摩のあたりに生息してないだろうな……?」


「いくら埼玉がジ○リ関連にやたら強くて、近い奥多摩がそれっぽくても、流石にパラレルワールドには通じてないと思うで」


 あると思うんだがな……。奥多摩。

 普通に天空な城とかありそうな気がする。


「通じてねぇかなー……。例の神聖大陸とかに、奥多摩に続く謎空間とか」


「話が飛んだような……でもせっかくやったら探しに行かへん?藤岡弘、的な感じで」


「暇になったら行ってみるか」


 秘境探索か。

 心が踊るな。


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