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召喚の前に


 さて、そんなことがあってからはや数日。

 もうすぐ英雄召喚が行われる、とあってか、望翠殿の中もだいぶ騒がしくなってきた。裏側では俺に接触を図ろうとする王族たちの動きもあったようだが、全てやり過ごしている。いちいち相手をしていたらキリがない。

 あれから追加の暗殺者は送られてきていない。死体を調べてみたがやはり手がかりになる物は見つからず、進展は無かった。

 そうしていつもと変わらない半軟禁生活をしていたのだが…………。

 今日は珍しく王族の来客があった。


「ふぃー…………。ここはいーわねー。のんびりしててさー」


「…………なんのつもりだ、リツィオ」


「いいじゃない、私がここに居たって。ちょっとくらい休憩させてー。やー、チャルナちゃんフッカフカだねー?」


「にゃうー」


「あ、リツィオ様。これどうぞ。ルカ姉さんが差し入れてくれたお菓子ですけど」


「ありがとールイちゃん。あ、ユー君ついでに紅茶もらえるかな?」


「帰れ」


 そう、何故かリツィオがいつもの部屋に居座ってのんびりとしているのだ。

 何なんだコイツ。あんだけ意味深な予言残していった割に、こうしてホイホイ現れやがって。しかも今日は何故か王族の時の顔ではなく、出会った当初のようなお姉さん気取りの喋り方だ。


「いやね、女王様やってる時の私も素顔っちゃ素顔なんだけどねー。こっちもある意味素なのよ。リラックスしたい時はこうして意識して柔らかい態度とんないとねー。いつも肩ひじ張ってたら疲れちゃうわよ」


 威厳の欠片もねぇな……。


「あ、あのリツィオ様……。すいませんでした。旅の間中、色々とお世話をおかけしたのに無作法な態度を取ってしまって」


「ああ、いいのよレリューちゃん。あの時は私が王族だってバレるとまずかったんだし。それよりももっと楽な話し方で良いのよ?」


「え、あ、は、はい……。いいんでしょうか……?」


「当の本人が良いと言ってるんだから良いんだろう。気にするだけ無駄だぞ」


 レリューはいくら王族といってもまだ王位を持っていない、ただの王族の子供だ。

 一方リツィオは既に王位についてまつりごとを行っている。格はリツィオの方が上だ。どうしても緊張が解けないのもしょうがない。


「そんなことはともかく、ホントにダラけに来ただけなら帰れ」


「一応、今後の行事についての打ち合わせ、という名目があるのよ?今回の会議は夏の大陸の議会ウチがホストだから、私が窓口になってるのよ」


「んなもんほぼ確認だけだろうが。さっさと済ませんぞ」


「はぁーい」


 テーブルでお茶を啜るリツィオには以前会った時のような妙な態度はない。だが、その妙にすました顔を必死になって取り繕っているような感じがする。いつもより意識してお姉さんヅラしている、と言ったらいいのか。

 なんなんだか。

 チャルナ達は別室に移動して遊んでくるらしいので、遠慮なく話し合いをさせてもらおう。



 話し合いが始まってしばらく。

 当初聞いていた予定と大差ないスケジュールについて、すり合わせをしていたのだが、そのうちリツィオが何か言いたげにしているのに気づいた。

 それは俺がリツィオの手元の紙を覗き込んだり、同じ資料に手を伸ばして触れてしまったりした時などに、ビシリと動きが止まるという事を数回繰り返した後のことだった。


「…………いい加減、何か言いたいことがあるなら言ったらどうだ?」


「ふぇっ!?な、何もないってば。おかしなこと言わないで欲しいなー。オネーサン困っちゃう」


「お前が良いならそれで構わんが。困るのはどうせお前だし」


「…………」


「………………」


「………………。ごめんなさい。言います」


 案外簡単に折れる辺り、埒があかないことに薄々気付いていたんだろうな。

 それでも言い出さないってことはよほど言いにくいことなのか?


「えーっとね…………その……………あーっ!もうっ!やっぱりダメッ!調子狂うッ!」


「いきなり叫ぶなよ…………」


「それッ!その顔がダメなのよッ!」


「喧嘩売ってんのかテメェ!?」


 いくら体が丈夫になってるからって、心までは頑丈になってないんだからな!?


「もーだめ!もーやめなさい!ユー君がちっちゃくないと、普通に話ができないの!」


「なんだそりゃ?ルカみたいな趣味があんのかよ?」


「いいからその顔ヤメて!ヤーメーてー!禁止ー!オネーサン命令!」


「ったく、わがままな…………」


 わけがわからないが、このままじゃいつまでもリツィオがココから動かない。やりにくいってんなら子供に戻るしかないな。

 ススメを取り出してアイテムボックスの赤枠から例の赤い宝珠を外すと、みるみるうちに体が縮み、元の子供の体型に戻る。


「…………これで良いのか?」


「よろしい。はー。これで遠慮なく喋れるよー」


「さっきまで遠慮してたのか…………」


 そう言って呆れた視線を投げかけている俺に構わず、リツィオは机の反対側から俺の隣ににじり寄ってきた。

 なんのつもりだ、と思う暇もなく抱き寄せられて膝の上へ。


「ふぃー……補充補充」


「…………なんの補充だ」


「ユー君分だよ?」


「そんな怪しい物を放出しているつもりはねぇよ!?」


「――――……何を、しているのですか?」


 やいやいと言い合いをしていると、戸口に人影があることに気づいた。

 見覚えがある…………というかこのエストラーダに来る前に顔を合わせていた人物、エルフの村長だった。


「こちらにリツィオ・ワースティタースがいると伺ってきたのですが……。何をしているのです」


「あ、あはは…………す、スキンシップ、かなー?」


「…………いつものあなたらしくないですね。猫を被っていないではやくいつものあなたに戻って下さい。さっさと要件を済ましたいのですが」


「…………お前ら知り合いだったのか」


 考えてみればそう不自然な話ではない。

 リツィオはダークエルフの王。本家に近いエルフの代表と面識がない方がおかしいのか。


「相変わらずふてぶてしい面構えですね、ユージーン・ダリア。良い格好で」


「そっちこそ相変わらずよく回る毒舌だな。噛みちぎって死ね」


「もー。ダメだよ二人共。仲良くしなくちゃ。メッ、だよー?」


「「…………」」


 仲裁しようとするリツィオに同時に微妙な視線を向ける。

 素、というか無表情の方のリツィオを知っている身としては、今のコイツはぶりっ子している印象が強く感じられてしょうがない。


「…………もうなんでも良いから行きますよ。お歴々の方々が首を長くしてお待ちです。早くしないとまずいことになりますよ」


 つっこみきれないと判断したのか、強引に連れ出そうとする村長。

 ん?なんの話だ?


「えー……。まだ時間あるよね?オジーちゃん達の相手はちょっとねー」


「アホな事言ってないで早く行きますよ。常用的には非常にまずい事になっているんですから」


「はぁーい…………」


「おい、何がまずいことになってるって言うんだ?」


「ああ、貴方は知らなかったのですか?実は――」


「い、いいから!早く行くんでしょ!?ほらほら、行くよ!?」


「あ、ちょっとおい!」


 何かを誤魔化すかのようにリツィオが扉の向こうへと村長を押し込む。

 怪しすぎるな…………。


「ユー君はさっき言った事お願いねー。英雄召喚まであと何日も無いんだから」


「あ、ああ……」


 にこやかな笑顔を残してエルフ二人組は居なくなった。

 あのリツィオのわざとらしいまでの隠しぶりは引っかかるな……。後で手を回して調べておくか。


 英雄召喚……他の世界から呼ばれてくる英雄か。

 どんなやつが来るんだろうな?

 わざわざこんなタイミングで来るんだから実力があるのは間違いないだろう。

 最終的にはその人となりを見てから方針を決めるつもりでいるが、基本的に対立する方向に持っていく予定だ。

 対立候補がいれば人心は割れる。

 両陣営がいがみ合えば混乱は大きくなっていく。

 ターブを引きずり出すためにはその存在は欠かせないだろう。



 その数日後。

 英雄を召喚する為の宴が今、開かれる――――


 最近、日を開けて投稿しているせいか、場面が頻繁にコロコロと変わっている気がします。

 読みにくいかと思いますがどうかご容赦下さい。

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