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暗殺者

今回はちと短めで


 宴会はそこそこ盛り上がり…………うん。まぁなんて言うか、盛り上がりはしたが一気に収束していったな。

 どこぞの兵士が下心を出してレリューたちに酒を飲ませたのがまずかった。

 マッチが最後の一瞬に一気に燃え上がるように、酒の飲み比べが始まってしばらくが今回の宴の最も騒がしい時間となり、その後、火が消えたように静かになっていった。

 レリュー歓迎会を再現するかのように場末の酒場に瓶の林が植樹され、その近くには琥珀色の湖が…………いや、やめよう。これ以上思い出すのは精神衛生上あまりよろしくない。


「はぁ……すまんな、ケーラ。お前も飲まされたってのに、こいつらの後始末を丸投げして」


「あはは!いいよいいよー!あたしはほら!慣れてるし!」


「ああ、それじゃよろしく頼む」


「はいはーい!んじゃまた明日ねー!」


 女子の世話は女子に、ということで酔いつぶれた3人の世話を任せて、俺は部屋に引っ込むことにする。

 飲んだ量はそれほど多くないようだし、朝になればケロッとした顔でいつものように起きてくるだろう。


 しっかりとした足取りで薄暗い廊下を一人で歩く。

 こちらは酒の影響は全く残っていない。やはり何らかのスキルの効果でアルコールが効かなくなっているようだ。

 酔って醜態を晒すよりは良いが、酔いたくなったらそれはそれで問題だな。


「………………」


 ふと、廊下を流れる空気が一瞬変化したような気がして立ち止まる。

 …………。

 何かいる、な……。

 目に見える範囲では誰もいないが確かにこの空間に誰かがいる、という実感がある。なんだろうなこの妙な感覚は。

 ん?

 何かが首筋に触れた、というよりはぶつかったような感覚の後、チャリン、と金属音がすぐ下から聞こえてきた。そちらに目を向けると、長い針のようなものが落ちているのが見えた。

 なんだこれは?

 久しぶりに鑑定のスキルを使ってみると、『暗殺者の細針』という表示が出る。

 …………暗殺者?


 こちらが顔を上げるよりも早く、複数の気配が廊下に現れて接近してきた。

 視線を上げた時にはもう、その何者かはその手に持つ短刀を振りかざし――――


「………………狙いは悪くなかったが、相手が悪かったな」


「ッ!?」


 振り下ろされた短刀は7。

 しかしそのいずれも俺の肌を傷つけることなく押しとどめられていた。

 スキルで強化された防御力は、やはりちょっとやそっとの力では突破できないらしい。短刀の表面に何か毒物が塗られていても、傷がつかないのであれば意味を為さない。

 いや、例え傷から体内に入ったとしても、俺には効かないのか。


「くっ…………!」


 暗殺に失敗した連中が踵を返して逃げようとするが、それを許すほど甘くない。触手で捕らえたり当て身で動けなくしたりして、速攻で無力化する。

 そうして改めて襲撃者たちの格好を見てみると、なんというかまぁ……コッテコテ生でに怪しい格好だった。今時全身黒ずくめって…………○ナン君の犯人かお前らは。

 それはともかく。


「さて、誰の差し金だ?…………ああ、別に言わなくてもいいぞ?こっちには精神魔法があるからな。最終的には口を割る事になる」


「………………」


「だがここで俺の手を煩わせることなく喋ってくれたら生かしておいてやってもいい、くらいの気分にはなるだろうな」


 我ながら陳腐な脅しだ。

 だが、口を割ろうが割るまいが関係なくこいつらを差し向けた雇い主の事は喋ってもらうことになる。

 俺の脅しを聞いて、襲撃者の反応は――――――


「こふ…………っ」


「なっ!?」


 口から血を吐いて倒れる、というものだった。

 周りを見ると詰問されていた一人だけではなく、残りの六人全員が死んでいるようだ。あらかじめ毒でも仕込んであったか、舌でも噛みちぎったのだろう。

 あっさりと倒された割にはプロっぽい幕引きだ。

 これで残された手がかりは死体の持ち物くらいだが…………自殺するような手の込んだ連中が、そうそう迂闊に証拠や手がかりを残すとは思えない。


「………………。――――――まぁいいか」


 そう呟きながら拘束していた死体を放り捨てる。死体は力なく廊下の床へと落下して鈍い音を立てた。

 このタイミングで襲ってくるなんて、余程のアホだ。

 昨日の今日で俺に関する会議が終了して、仮とはいえ処遇が決まった矢先の出来事なのだ。このまま俺に生きていられては困る連中、なんて簡単に想像がつく。


「訂正する。悪かったのは相手じゃなくて雇い主だったらしいな」


 ドラゴンを倒した英雄(仮)だからといって、不意を突けば殺せるとでも思ったのだろうか?実に浅はかな考えだ。

 この程度のチョロさなら俺が直接手を下さなくても自滅して馬脚を表すに違いない。


 あー……。しっかし一気に冷めちまったな。

 切れ者が王族の中に居ると分かったと思ったら、こうして考えなしのバカが出てくる。なんとも興醒めだ。

 しかし世界を混乱させるにはこう言う馬鹿に、馬鹿な真似をしてもらうことも必要になるかもしれないな。



 興味を失ったからといって死体をこのままにさせておくことなどできない。とりあえずススメのアイテムボックスに収納しておくことにした。

 生き物ならボックスに入らないが死体ならなんとかなるだろう。

 暗殺者達の死体を集めて、その上にススメを置くといつもどおり溶けるように消えた。あたりには血の一滴すら残っていないのでここで何かがあったと気づく者はいないだろう。

 さて――――――ん?

 アイテム欄の項目を確認すると、暗殺者の死体の項目がある。

 そこはいいんだが、他の物品と何か違う。

 試しに選択してみると、暗殺者の持っていた物の一覧が出てきた。

 これは………………フォルダになっているのか?パソコンみたいだな。

 丁度いいので他の物も後で分けておくか。魔剣グラムを使うたびに一文無しになるのは嫌だからな。

 試しに小分けにした食材を、フォルダごと吸収用の青い枠にドロップすると問題なく吸い込まれていった。

 これでよし。つまらない襲撃だったが、こうして得るものがあったのはいいことだ。


 今さっきまで血生臭い事件があったことなど感じさせない静まり返った廊下を、俺は自室に向かって歩いて行った。




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