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結論


「そんな……!?」


「意外な結論になりましたね……」


 ユージーン・ダリアは英雄ではない。

 それが議会の……世界中の王族が出した結論だった。

 とはいえ話はこれで終わりではない。


「ただし、今後、身の潔白を証明出来たら撤回するとさ」


「……?それはどういうことです?」


「まぁ要は『魔人を倒して連れてこい』ってことだろうよ。んでその上で試練を言い渡すと」


「ええー?人の事疑っておいて、事件の後始末をさせて、まだ何か言い渡す……それってメチャクチャおうぼーじゃない?」


「俺の『魔人の協力者』という疑惑は、その真偽はさておいて十分に弱みになり得る。そこにつけこんで都合のいいようにこき使いたいんだろうな」


 連日会議に出席させられて暇潰しに人間観察していたのだが、本気で俺のことを疑っている人間は少ないことが分かった。これからそういった人間がこちらに接触してくる可能性は大いにある。

 その連中のとっかかりになるのが今回の疑惑だ。


「でも……それでは民の皆さんが不安になってしまうかもしれません…………」


「そこは向こうの生命線だからな。ちゃんと考えてあるらしい」


「というと?」


「『英雄召喚・・・・』の時期を早めるそうだ」

 

「ええっ!?それってあれだよね?別の場所から英雄を連れてくるヤツ!託宣で言われた『世界の異変』に対応するための人をそんなところで使って大丈夫なの?」


「しかも、その方がどこに行くのか、どんな対応をするのかが本来の『天上殿会議オリュンポス・サミット』の議論の趣旨のはず…………。いたずらに呼べば混乱を助長するだけではないのでしょうか?」


 もっともな疑問だ。そんな状況と理由で呼ばれた方もたまったもんじゃないだろう。

 だが――――


「裏っかわでコソコソ動いてたみたいだ。今回の俺の件を隠れ蓑にして、それぞれの王族や代表が派閥を作ってやり取りしてたんだとよ」


 これは俺の方で調べてようやく分かった事だ。

 洗脳した兵士に見張りをさせて各王族の動きを調べていたら、どうにも夜中に頻繁に行き来がある。その目的が分からなくて手をこまねいていたが、今回のことでようやく意味が分かった。

 新たに現れる英雄。その旅先をどこにするか、という話し合いが行われていたのだろう。


 俺を疑う人数が少ないのに、会議は長引く。

 それは何も混乱だけが原因ではなくて、その後ろで蠢く連中の都合だった、という話。


「『英雄召喚』によって新たな英雄を呼べば、そちらに話題の軸が動く。適当な活躍をさせれば民衆は安心して、新たな希望の柱とするだろうな」


 英雄召喚の情報と合わせて、『ユージーン・ダリアと連合軍が協力して炎龍を倒した』という情報を流す。活躍したのはなにも巨剣の英雄だけではない、と。

 するとどうなるか。

 活躍の印象が薄くなっていくのである。


 俺を扱いづらいのは、その短期的なネームバリューが大きすぎるためだ。

 これがあるいはこのような非常時でなかったら。

 世界の異変が告げられていなかったら。

 民衆の中に不安が広がっていなかったら。

 きっと平時の中ではもっと容易く扱える。そう考えた王族がいたのだろう。

 だから俺の話題を、扱える程度にまで薄める。


 元々十分に浸透しきった話題の、更なる追加情報は埋没しやすい。

 目新たらしい英雄の話題や連合軍のあり方などの議論に紛れて、ユージーン・ダリアの印象が薄くなっていく。

 濃い果実酒を水で割るように、『巨剣の英雄』という話題を『新たな英雄』で薄めていくのだ。





「卑劣……なのです」


「そうは言ってもそれぞれの国や利益を守る為だからな。致し方ない」


「……?ご主人様、怒ってないのです?」


「ああ。ちぃとばかり面白くなってきたんでな」


 慌てふためく王族を見て、心の中で酷く落胆した自分がいた。

 俺がいる世界には、張り合いのある人間はいないのか。

 人類をまとめているのが、この程度の人間なのか、と。


 今回の件でむしろあの慌て様は演技だったのではないか、そう考えるようになった。

 全体からすればわずかでも、そういう骨のある奴がいるというのは嬉しい情報だ。

 それに何より――――――


「あんまり簡単に英雄になっちまったらツマンねーだろ?」


 こちとらまだ本番にすら入っていない。

 こんなところで幼い頃からの目標を達成してしまうのは、あまりにも味気ない。

 約束の一年後にいきなり英雄になったりしたら、春の大陸に居るレオにどんな顔して会いに行けというんだ。


「簡単、って…………一応、ドラゴンはこの辺の生態系の頂点に居る生物ですよ?軍隊でも倒せるかどうか分からないって言うのに……」


「その辺は突っ込んだら負けです。レリュー様…………」


「ま、今更だねー」


 なんだその諦めたようなため息は。

 まぁいい。話の続きだ。


「話を戻すぞ。俺の扱いを英雄候補にまで引き上げるのはいいんだが、『魔人の協力者』の話がひとり歩きしているようでな。民衆の間で話が広まっているらしい」


「いきなり出てきた話の割に、いつまでも残るね。その協力者の噂」


「『協力者』ならまだ人間だからな。まさか自分達のすぐそばに魔人そのものがいて暗躍していた、なんて考えたくないんだろ」


 人間、不都合な情報からは無意識に目を背けてしまうものだ。


「で、だ。どう話が転がったのか知らないが、それは目つきの悪い10にも満たない子供の姿をしていると」


「あー……」


「えーと……」


「まるっきり変身前のユージーンだねー」


「その通りだ。このままじゃ英雄として民衆の前に出たときに支障が出る。なので議会は青年この状態の時の姿を『英雄候補』のユージーンとして扱うらしい」


「ってことはつまり?」


「俺の姿を分けて考えるとさ。輝かしい栄光は『青年えいゆう』に。 汚い疑惑は『子供きょうりょくしゃ』に」


 少なくともおおやけにはそういうスタンスで発表するということだろう。

 裏でこそこそと活動するには子供の姿の方が都合良くなる訳だ。人々の視線は青年状態の姿に向けさせておけばいい。

 事情を知らないやつにはそれが同一人物なんて分からないだろう。


「めんどーだね?」


「面倒だよ。だが利点もあるんでな。精々活用させてもらうとするさ」


「はぁ……こんな悪そうな目つきの人間が栄えある英雄候補だなんて…………」


「なんか文句あるのか?ルイ」


「少なくともその怖い顔つきには文句あるですよ。完全に英雄じゃなくて悪党の顔です」


 生意気言うようになったな。だがこれで身の振り方は決まったわけだ。

 おおやけでは『青年状態』

 裏では『子供の状態』

 上手く使い分けていかないとな。


「英雄召喚の儀式は1週間後。共闘する可能性もあるから顔合わせもしておいてくれとさ。多分歓迎パーティのときにでも紹介されるから、それまでに最低限のマナーを叩き込んでおく」


「ご主人様にマナーを教わるとか、悪い冗談にしか聞こえないです」


「え、ええと……ユージーンさんも貴族ですから、そういったことには慣れているでしょう。大丈夫ですよ」


「あ、あたしも参加するよー。コネホさんから付き人役やれって言われてるんだー」


「にゃ?マスター。お話終わったー?」


 大丈夫か?こんな連中を社交界の……それもVIPばかりの世界に放り込んで。

 付け焼刃でもなんとかボロが出ないように鍛えておくか……。


 それにしても……さっきも言ったが面白くなってきた。

 裏側で暗躍してる王族達。

 新たに召喚される英雄。

 少しずつ、役者が壇上に集まり始めている。

 これからどんな物語が紡がれていくのか……じっくり見定めて動いていかないとな。

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