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幕間:とある排斥派議員視点


――――とある排斥派視点――――


「―――ではこれをもって本案を可決し、天上殿会議は以降対象…………ユージーン・ダリアに対する基本姿勢とする」


 議台にいる司会進行役からその旨が伝えられると、議場のあちこちからため息が漏れる。それは果たして安堵のためか、落胆のためか。

 いずれの理由にしろ、皆、緊張から解放されていた。

 こちらは逆に拳を血が滲むほど握りしめているというのに……ッ!


 悔しさを感じないのか、奴らはッ!?

 今回の議案はいわば妥当の結果だ。ユージーン・ダリア迎合派、排斥派、その両方が折れて落としどころを見つけた形になった。

 フザケるな……ッ!惰弱なウスノロどもが……!

 何が英雄だ!?あの小僧は確かに力はあるが、『英雄』と呼べるような品格も知性も無いではないか!?本来なら民衆を導く英雄にはそれが欠かせない物であるはずなのに、それを目先に迫った危機の為に見過ごすとは!


「では、彼の者をここへ。決定を伝えなければなりません」


「待って下さい議長!私は反対です!奴が本当に魔人に与する者ならどうするのですッ!?その案を実行すれば、王族のみならず民衆が危険にさらされるのですぞ!」


 気づけば腰を浮かせて声を張り上げていた。

 背後から自国の高官がなだめに来るが、振り払って立ち続ける。他の王族達からも非難の視線が飛んでくるが構っていられるものか!


「――――先も言いましたが彼が本当に英雄にふさわしいかどうか、というテストの意味を持っています。この件が終わってからもう一度検証して見れば良いでしょう」


「だからその方法が問題だと言っているのです!何もこれほど危険な方法を実行しなくても……!」


「彼の命を危険にさらす以上、こちらもそれ相応のリスクを背負わなければいけません。それほどまでに『英雄』という存在は……重い。それはよくご存知でしょう?」


「くッ……!それはそうですが……!」


 見透かされている。

 儂が数年前に自国で『英雄の試練』に挑み、無残に失敗したことを、コイツは知っている……!


「もし今回の件が失敗すれば私たち王族はその意義を失う。しかしだからこそ、英雄の選別には慎重になるのです。人々を導くという点では我々王族もそう変わらない。

 魔人襲撃で王族の信用が地に堕ちている以上、新たに人々を導く存在が必要です。

 …………命を導くなら、命を選ぶなら、命の軽重を問うというのなら。同じく命を天秤に乗せる必要があるでしょう」


「ですが……!」


「――――それとも、まだ命惜しさに民衆を窮地に追いやるのですか?魔人が襲ってきた時に、いの一番に逃げ出そうとして、まだ懲りていらっしゃらないので?」


 議長がそう言うと、議席のいくつかから失笑が漏れる。

 そんな退廃者の理屈でこの儂が納得できると思っているのか!汚らしい穢れたダークエルフめ……!

 認めん……!儂は絶対に認めんぞ……!ユージーン・ダリアッ!!




 

 いくら英雄への道が閉じていないとはいえその道は遠く、長く、辛く、険しい。

 ユージーン・ダリアが英雄として認められる条件は困難を極める。

 その困難さに普通なら絶望するというのに――――――――


「そうか」


 連行されて来たヤツはそう言ってただ不敵に笑うだけだった。

 ――――なぜだッ!なぜ絶望しないッ!?

 傷だらけになって、死にかけて。ようやく手に入れた成果だというのに……。

 まるで『そんな物はただの踏み石だ』とでも言わんばかりに。

 剣奴が他者の首を刈る時にそうして見せるように。本番はこれからだとでも言いたげに。歯を剥いて口の端を歪めるだけだった。


「そんな馬鹿なことがあるか……!」


 炎龍を倒しただけでなく魔人を退けて王族を救ったのだぞ!?

 それが例え魔人がダリアを送り込むための虚構だったとしても、王族と民衆への浸透度を考えれば十分に利用できる価値のある物だ。

 それを事も無げに捨て去るだと!?いったい何を考えている!?

 この怪しげな若造を絶対に信用する訳にはいかない!なんとしてでも引きずり下ろしてやる――――――! 


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