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会議の合間に2


 散々ルイの口から罵倒の言葉が吐き出され、いい加減そのおしゃべりな口を黒くて固くて太くて長いモノで塞いでやろうか、などと考え始めた頃。


「――――注文の品を届けに来……なにしてるんだい?」


 部屋の扉が開いて色ボケババアコネホが怪訝な表情で現れた。


「……なんかいきなり喧嘩を売られたような気配があったんだが、気のせいかね?」


「当たり前だろクソババア」


「間違いなくアンタだね。ドブに顔突っ込んで舌噛んで死にな」


「いきなり喧嘩腰で罵り合わないでください……」


 そうは言うがな、レリュー。この婆さんが戸口にいきなり現れてみろ。間違いなくゴ○ジェット噴射するわ。

 俺にとってコイツは黒くて固くて早くてキモいモノと同等だ。流石にルイの口には突っ込めないレベルである。


「アンタの頼みでわざわざ無償でブツを持ってきてやってるのに、いきなりババア呼ばわりとはどういう了見だい……?」


「ハァ?テメェが殊勝にも例の件で謝りたいとか抜かすから機会を与えてやっただけだろうが」


「こんな大量のブツ仕入れてこっちは大赤字なのさ。ちょっとくらいねぎらいの言葉くらいあっても良いだろう?」


「はぁー?俺の倒した炎龍の素材回収でたくさん稼いでる悪徳商社のお話が聞こえてきてるんですけどー?」


「そんなもん研究名目で二束三文で国に買い上げられているに決まってるじゃないか。そんなことも分からない鳥頭なのかい?身長伸びても脳みそはそのままなんじゃないかい?頭振ってみな?カラカラ音がするだろうさ」


「ああ……!?」


「なんだい?やろうってのかい……!?」


 売り言葉に買い言葉、というものだろうか。

 言葉が飛び交うたびに殺気が密度を増していく。


「――――貴様ら!何をしている!?」


 ちっ!警備兵か……!

 コネホが開いた扉から中の様子を見守っていたらしい兵士が、剣呑な空気に血相を変えて中に入り込もうとしてくる。

 仕方ないここは一度やめにしておくか。


「…………。さっさと物を置いて帰れコネホ」


「そういうわけにはいかないねぇ。サイズや仕立てのことだってあるんだからさ。――――さ、お嬢様方はこちらへどうぞ。別の部屋にご用意してありますよ」


「わ、分かりました……」


「分かったのです」


「すいません。コネホさん。あたしまで一緒に用意してもらっちゃって」


「アンタの分はお勤め・・・の駄賃さ、ケーラ。気にしないで楽しみな。ほら、そっちの猫娘も行くんだよ」


「にゃあー」


 ぞろぞろと部屋から出て行く女たち。

 一触即発の空気が消えて、兵士も落ち着いたらしい。そのまま外の警備に戻るのかと思ったが――――


「いいか?今度何か怪しい真似をしたら、躊躇なく切り捨てるからな」


 などと言い始めた。

 今、扉の外に居る兵士は3人。その中にはこの間の精神魔法をかけた兵士たちはいない。そして、部屋の中には俺ひとり。

 やかましいのは嫌だし、見ている者がいないので丁度いい。このへんでアレをやっておくか。


「おい!何か言ったら――――」


「『洗脳ブレインウオッシュ』」


「な――――」


 有無を言わさず正面から兵士のひとりに精神魔法を浴びせかける。

 異常に気付いて近寄ってきた残りの兵士も同様に、魔法の支配下においた。虚ろな目の肉人形が3体、俺の目の前に出来上がる。


「俺の声が聞こえるか?」


「――――はい」


「お前らは監視対象をどう聞いている」


「――――とても強い、魔人の協力者の疑惑がある怪しい人物だ、と」


「ならそいつが暴れだして、お前らの方に向かって襲いかかってきたら、どう感じる」


「――――とても、恐ろしい、です」


「そうだよな。そうなるのは嫌だよな?」


「――――はい」


 ――――――実はこの精神魔法、使い勝手があまりよくない、と気づいたのは、例の兵士たちに使ってからかなり後のことだった。


 催眠、と言うとなんでもできるかのようなイメージがあるが、そうではない。

 魔法を使っていくらか手順を省略できる、かけやすくできるとはいえ、基本的に本人が望まないことは実行させられない。

 試しに色々とあの兵士たちに試してみたが、本人が心底嫌だと感じることを

させようとすると催眠状態が解除されてしまったのだった。


「お前らが気づかなければ、そいつもまたお前らに気づかない。そうだな?」


「――――は、い…………」


「気づかない。お前らは部屋の中の出来事に気づかない。見なければそれは起こってなのと同じ。聞こえてなければ起こっていないのと同じ」


「――――気づか、ない……見えない……聞こえない……」


 だからこうやって本人達が望む方向に誘導してやる必要がある。


 俺がこの魔法を盗んだ人物――――ミゼルは、レオの劣等感を見抜き、それを煽ってやることで俺に刃を向けさせた。

 レリュー誘拐事件の兵士達は、元々一度歌で催眠状態になっていたために魔法にかかりやすくなっていたことに加え、本人たちも無意識レベルで思い出したがっていた為に成功した。


 今は、兵士達が持っている不安を煽り、その対象……つまり俺から目を背けさせる事で『部屋の中のことに干渉しない』催眠をかけるところだ。

 部屋の警備は当然のことながらローテーションを組まれている。

 毎回、例の兵士たちだけ都合のいい時に配備されているわけじゃない。ここでもう少し傀儡を作っておけば、いちいち干渉されずに済む。


 意外と融通の聞かない魔法だな………。だが、こうやって人を操る手順を踏みさえすれば、その使い道はかなり広い。

 何度も重ねることによっていつかは本人が嫌がることでも実行させることが可能になるだろう。それにはそれなりの時間が必要になるだろうが。

 もっと手軽にかけられるんだったら……色々と楽しみたいんだがなぁ……。





「あ、ご主人様、すいません。忘れ物です」


「なんだルイか。何を忘れたんだ?」


 兵士達の催眠を完成させた後、ルイがひょっこりと部屋の扉を開けて顔を覗かせた。

 ひと仕事済んだからそっちに行こうと思ってたんだが……。

 まぁ、それはそれとして、向こうに用意した物に気を取られているのか、いつもはしつこいルイも機嫌が良さそうだ。

 さっきのことしばらく引きずりそうだったからな。よかったよかった。


「ああ、いえ。具体的に物を忘れたわけじゃありません」


「……?んじゃなんか用なのか?」


「はい。ちょっと――――」




「ご主人様が覗きに来ないように、です」



「…………」


「…………なんで目を逸らすです?『いくらお前らがパーティー用のドレスを着ても、大して変わりゃしねぇよ』とか言ったらどうです?いつもみたいに・・・・・・


 あ、こりゃまだ怒ってるわ。そんで全部バレてる。

 コネホに頼んで用意してもらったのはこいつらのドレスだ。現在働きにも行けず、蓄えもすっからかんになりそうな俺が、『一着金貨○枚』みたいなドレスを用意はできないからな。

 コネホならそういった服飾関係のコネもあるんじゃないかと考えて、丁度いい償いにもなるからと用意してもらっている。

 風俗…………もとい娼館なんかで他人との差をつける為に、扇情的な服を着る事が多いからそっち方向のコネはあるはずだ。


 さて、そんな繋がりのところから出来上がるドレスだ。意識はしなくとも、日常的に作っている物に引っ張られる可能性は大いにある。

 後は言わなくてもご理解いただけるだろう。

 無駄にエロいイブニングドレスやら民族衣装っぽいドレスやらを身にまとった奴らが隣にいるのだ。覗きに行かない訳が無い。


「…………くっくっく……。例えここで俺をどうにかしようとしても、お前に俺は止められまい。ここでお前をふん縛ってしまえば後は思いのままよ……!」


「やっぱり覗きに行くつもりだったですか。そっちがそういうつもりなら、ルイにも考えがあるのです……!」


 そう言って懐から何かを取り出すルイ。

 馬鹿め!何を持ってこようが俺を止められることができるわけが――――


「これが何か分かるです?」


「――っ!?そ、それはッ!」


「そぉいッ!ですッ!」


「あっぶねッ!?」


 取り出された物を見て、俺が硬直した一瞬の隙を狙ってルイが思いっきりそれをぶん投げてくる。

 咄嗟に開いたままの『ススメ』でそれを受け止め、挟み込む。


「おまっ……!バカ野郎!危ないだろうが!」


 無論、ルイの懐に入るサイズのナイフなんかを投げられた所でなんのダメージにもならない。そう思って油断していたのだが…………。

 やられた、ルイのやつめ……!なんてものを投げやがる!


 あいつの取り出した物は――――本だ。

 俺にぶつかった所でどうということはない。…………『俺は』。

 だが本自体はぶつかった衝撃を余すところなく受け取ってしまうわけで。


「それでも読んで時間を潰しているです。ご主人様は本を与えておけば大人しくなるですから扱いが楽なのです。いいです?覗きに来たら用意した本を全部ぶつけてやるですよ?」


「くっ!この鬼畜が……ッ!」


「そんな血の滲んできそうな声で悔しがらなくても……」


 そう言ってルイは今度こそ部屋を出て行った。

 馬鹿め……俺がそんな姑息な手段に屈するとでも思っているのか?

 先のように投げられる本を全て受け止めてしまえば――――お?このシリーズ新刊

出てたのか。最近缶詰状態だったからな。知らなかったな。

 ふむ……。今度の舞台は絶海の孤島?村おこし物だったのにそんなトコロに行ってどうするつもりなのか……。

 ………………。

 …………。

 ……。





「――――はッ!?」


 しまった!つい読みふけってしまった!

 気づけば窓から差し込む光の角度が随分と傾いてきている。結構な時間が経過しているらしい。

 クソッ!まさか呑気な村おこしから凄惨な殺人事件サスペンス物に変わるとはッ!その上、殺人事件で村おこしとかどんな筋書きだよ!つい読みふけってしまった!早く桃源郷に向かわねば――!

 そう思って立ち上がろうとしたとき、足に重みを感じた。


「ん?」


「うにゃ…………。すぴ〜…………」


 見れば猫状態のチャルナが体を丸めて寝入っている。

 幸せそうに目を細めて寝息を立てている姿を見ると、焦っていた気持ちも落ち着いてくる――――


 訳も無く。


「どけ!チャルナ!俺は行かねばならない!」


「にゃ〜……?」


 まだ寝ぼけているチャルナを持ち上げてどかす。

 すると下に挟み込んであったらしい紙がひらりと床に落ちた。そこには……。


『買い物に街に出てくるです。夜になるまでには帰るです。あと、レリュー様はちょっとだけおうちの方に帰るそうです』


 と書いてある。文体からしてルイか。

 間に……合わなかった……!なんてこった……!俺の眼福が……ッ!

 ルイめ……やってくれる。後でもう一度触手で鳴かせて……もとい泣かせてやる!

 それはそれとして続きを読むか。帰ってくるまで暇だし。


「にゃう〜……」


 半分まだ夢の中にいるような顔で、どけられたチャルナが戻ってきた。慣れきった自然な動きであぐらをかいた俺の足の上に乗ってくる。

 大きく成長したせいか、いつにも増してチャルナの小ささが際立って見えるな。

 子供のモノではない、大きな指でチャルナの小さな頭を撫でる。ゴロゴロと心地よさげに喉を鳴らしながら頭を擦りつけてくる。


 ふむ……。耳や尻尾をいじっても大して反応がない。

 普通の猫だったら特に尻尾をいじられるのは嫌がるはずなのだが……。むしろ擦りつけてくる。

 ルイみたいにビクンビクンしなくてもいいがちょっとぐらい反応があっても良いだろう。どっかに弱点がないかねー?

 眠っているのにかこつけて体中をまさぐってみる。猫の時じゃないとただのセクハラだからな。


「うにゃにゃ……みゃふ……ぐるぐる……」


 欠けた耳、鼻先、喉元、胸元……。黒い毛並みに覆われた体を順に降りていく。

 お?飼い猫と違って肉球が結構硬いな。弾力があって非常によろしい。だがここじゃあないようだ。お次は、っと。


「うにゃッ!?」


「お、ここか?」


 それまで寝ていたチャルナが跳ね起きるほど劇的な反応を示したのは、リボンを巻いていた腹部だった。開いた手の平で円を描くように撫でてやる。


「いにゃッ!?うみゃあッ!?」


「あ、コラ暴れるな」


 弱点を掴んだというのに、ルイの時ほど興奮しない。

 相手が猫だからか、それともチャルナだからか。淡々とひたすらに撫でまくる。

 毛のさらさらとした感触と、地肌の温かさ。それを心地よく感じながら手を動かす。


「うぅ〜……!にゃッ!」


「あいてっ!?噛みやがったな!?」


 最近は噛み癖も出てこないから安心していたが、元々コイツは気に入らないとよく噛んでいた。

 そこまで嫌か!

 俺の手を噛んで逃げ出したチャルナは部屋の隅に置いてあったチェストの上から『変化の輝石』を取ると、人間に変化して叫んだ。


「い、いくらマスターでもッ!おなかは触っちゃダメなのッ!」


「――ほう……」


 基本的に俺のやることを拒否することがないチャルナがあれほど嫌がるとは……。顔を真っ赤にして恥じらっている姿は長いこと一緒にいるが初めて見た。

 いつもはじゃれついてもなんてことない様子のチャルナ。てっきり父親代わりだと認識されていると思っていたが、そんな相手にも反応する弱点……。


「ま、マスター?だ、ダメだからねッ!?そんな怖い顔で笑っても、おなかだけはダメだからねッ!?」


「ああ、そうだな。いけないな」


 と言いつつ、既に捕獲の用意はできている。

 全身のバネの力を使って、チャルナに急接近。逃げようとしたチャルナの両手首を掴んで壁に押し付けた。

 変身直後でチャルナはほぼ服を着ていない。それが両手を上げた無防備な状態で壁にはりつけになっている。

 その身を守るのはその弱点ハラに残る、薄い布地のピンク色のリボンのみである。


 非常に扇情的な格好だが……今、用があるのはその腹の部分だけだ。


「やーッ!マスター!ダメッ!離れて!うにゃー!」


「いけないと言われたことほどやってみたくなる、というのは人の常だ。観念しろ」


 ジタバタと暴れるが俺の手はビクともしない。

 さっきの踏み込みに少しでも反応したのは流石だが、いかんせん、スペックが違い過ぎる。

 結局、チャルナはゆっくりと伸びていく俺の手を見続けるしかないのだ。


「や、やぁ……!ダメ、だよ……!――んにゃッ!」


 白い、滑らかな肌だった。

 肌理きめの細やかな肌の上を無骨な俺の指がゆっくりと這っていく。

 リボンが覆っているのはへその辺り。

 それよりも少し上――――みぞおちの辺りから手を這わせて、段々と指先を下げていく。

 緊張で少し汗をかいているせいか湿気があるが、それが逆に吸い付くような触り心地を生み出している。

 単純に触っていて気持ちがいい。


「ふにゃッ!?あ、ああ、んん〜〜ッ!?」


 俺の指が肌の上を擦るたび、チャルナから声が上がる。

 その声に引かれて熱に浮かされたように肌を撫で回す。

 先ほどいくら弄っても官能のかけらすら無かった奴が、今は息を切らして喘いでいる。そう考えるとたまらなく――――


 『〈ザザッ〉ホントは君のこと、ずっとうざいと思ってたんだ♪〈ザザッ〉』


 ああ、うるせぇ。黙ってろ。

 俺は今、コイツを弄ってたいんだ。

 こいつなら、チャルナなら――――

 お前のようにを罠にかけたりしなイ。

 僕を見捨てた友のヨウに俺を裏切らナイ。

 この子なラ僕ノ孤独ヲ――――


「――――ーうぅ〜…………にゃああああああああああああああああああッ!!」


「うおッ!?」


 それまで大人しくいじられるままにされていたチャルナが絶叫を上げる。

 その声を間近に聞いたお陰で、頭に浮かんでいたノイズも女の声もかき消える。

 ――――俺は今、何を考えていた……?


「……えっぐ……ひっぐ……ますたーの……ますたーの……」


「――はッ!?」


 チャルナが泣いている。

 瞬間的に罪悪感が湧いてくるが……それもすぐに別の感情に押し潰されてしまった。

 圧倒的なまでの――――恐怖。

 チャルナの裸身が……光り輝いている。

 何かの魔法ではない。これは……!


「ますたーの…………ぶわぁかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああッ!!」


「伝説のスーパーサイ……ぐわあああああああああああああああああああああああああッ!?」


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