魔法ツガイ
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【複数人で行う魔法〈ツガイ〉について】
先にも述べた通り魔法の発動には感情が関わってくる。もし魔法を軍事利用しようとすると障害になるのがこの部分だ。
兵士を死に至らしめるほどの魔力を引き出す。この部分で男性の魔力量はあまり適していない。使いどころにもよるが、恐らく片手で足りる数ほどしか殺傷できない。故に魔力保有量に優れた女性が適任になる。
そして魔力量に応じた規模の感情の高まりが必要になってくる。もし仮にそれほどの感情を呼び起こしたとして、果たして魔方陣の構築などできるのであろうか。答えは否である。激情と呼ぶにふさわしいほどの高まりの中、緻密な魔方陣構築は困難を極める。
さらに個人でそのように大きな激情を発生させるのは難しい。今、この本を読んでいる最中に「人を殺せるほど怒れ」などと言われても困り果ててしまうだろう。記憶の中から思い出を掘り出して感情を高めよう、というのは得策ではない。思い出すのに時間はかかるし、何よりそうして発生した感情は魔力になりにくい。
これらの問題をクリアする方法が―――――――
――――――――『男女の仲』になることである。
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「・・・・・。」
あまりに突飛な論理の飛躍に俺は黙って本を閉じた。
え?なにて?コイツほんとに何言っちゃってんの?あれか。頭良すぎると一周回ってバカになるってやつか。
落ち着こう。状況を整理しろ。
俺は確かに魔法について調べていたはずだ。なぜに『男女の仲』とか週刊誌に載ってる方が自然な単語が出てきているのか。
眉間を揉みほぐしながら再度本を開いた。
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いささか誤解を招く表現だろうが、これが適切な表現であると思える。
まず先にも述べた通り魔法の発動が女性主体になる。そして感情の発生に必要なのは『自分以外の誰か』である。感情は人と人、他者の存在とのつながりによって生まれる。なので強力な魔法を使う場合は最低限、二人ひと組で行うのが望ましい。魔法陣の構築の問題も、片方が魔力を、片方が構築を行うことで解消される。
ここまではいいだろう。
さて、ここで偉大な古の先人たちは考えた。
『最も強く感情が揺れ動く、他者とのつながりとは何か』
議論は幾日も続き、会議は荒れた。
そして七日七晩の議論の末に至った答えが『恋愛』だった。
発生する感情は何でもよく、希望だろうが絶望だろうが感情の大小が魔力の引き出す量に関係する。ならば、すべての物事に対して感情の振れ幅が大きくなる『恋愛』状態が最も適している、という結論だった。
それ以来戦場では男女関係を結んだカップルの男性が女性に愛の言葉をささやくようになる。
そして、その関係になったものを魔法の番、通称【魔法ツガイ】と呼ぶようになった―――――。
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「なった――――。じゃねええええええ!!!!!!!!」
俺は手にした本を棚に叩きつけた。衝撃でいくつかの本が落ちるが気にしてはいられない。
ふざけやがって!何の冗談だこれは!?
魔法ツガイ?
恋愛で魔法?
戦場の中心で愛を叫ぶ!?
おちょくってんのかああああああああ!!
「ぜぇっ!ぜぇっ!ぜぇっ!」
息が荒くなる。興奮しすぎているようだ。しかしこんなものを認めるわけにはいかない。今まで待ち望んでいたものが、必死に追い求めていたものが、こんなものであるわけがない!
そのまま飛びつくように本棚の本を荒らし始めた。間違っている!あの本は異端なだけだ!きっとまともな方法があるはずだ!
しかし、結局、それ以外の行使形態が見つからず、捜索を諦めた俺は本の山に突っ伏した。
【結論】魔法は、リ ア 充 専 用
俺は静かに泣いた。