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成長


「もしかしなくてもお前の仮の主人、ユージーン・ダリアだが」


 ルイが何を戸惑っているか知らんが、リツィオ。無表情で顔だけ真っ赤になるのはヤメろ。なんて言うか……こう、不気味だ。


「ええええええええええええええええええッ!?」


「うおッ!?」


 な、なんだ?いきなり無表情で大口開けて叫ぶな!?


「え、あの、う、ウソ……?ちょ、ちょっと!?」


「…………おおぅ」


 リツィオのこんなに動揺している姿は初めて見た。いや、顔には出てないが。

 なんだってんだ……?ルイもルイで変な顔でこっち見てるし。唯一変わらないのはチャルナだけだ。


「おっきく、なってる、です……」


「誰のどこが大きくなってるって?」


「どこがとか聞くなです!?明らかな誘導を感じるです!これ絶対ご主人様です!――――そうじゃなくてご主人様の体が大きくなってるという話です!」


 一瞬俺のナニが大きくなってるという話かと思った。ほら、死の間際に生存本能がどうのこうの、って話があるから無意識に――――

 …………って、なんだと?

 視線を下げると今までの子供のモノではない、筋張った手のひらが目に入る。


「お、おお!?」


 なんだこれ!?ゴツッ!?ゴツいぞ!?

 太ももなんかも目に入るが今までのひょろっこい足じゃねぇ!筋肉の盛り上がりがはっきり分かる!キモッ!

 というか――


「服がズタボロじゃねぇか!?」


「気になるのはそこです!?」


 程よく下半身は破れていないが手袋やら上半身は完全に細切れだ。

 理由はわからんが俺の体が大きくなった……というか成長しているのは確実だ。


「にゃははッ!マスターおっきー!」


 ええい。腕にぶら下がって揺れんな。というかチャルナちっさ!


「ど、どど、どうなってるです……!?変なものでも拾って食べたです!?」


「俺は子供か……」


 あれ?いや、待てよ……?


「宝珠――」


「宝珠?」


「宝珠、食っちまったかも……」


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 そうだ。確かドラゴンの上で宝珠をもぎ取って、んで振り落とされた上にブレスを吐かれて。

 体を丸めてレリューを庇って、そん時両手を使うために咥えたんだった。

 で、今。どこにも宝珠はない。

 コート型魔道具セグメントの包みの中にあるのは倒れたレリューの体だけ。それと服の端に引っかかっていた拳銃型魔道具フライクーゲル2丁。


 今の俺の状態は体が大きくなってるだけで別に変調はない。

 いや、戦闘のダメージはある。あっちこっちで火傷が痛むし、背中では爆発と裂傷の傷でじくじくと脈打っているような感覚がある。

 だがそれは子供の体の時でも感じていた。この状態になったことでの異常は特に感じられない。

 害はない、と考えて良いのだろうか?


「……ってそうだよ。ホレ、レリューだ」


「そんなお土産感覚で!?――ってご無事だったです。良かったです……!」


 俺が無造作にレリューを掴み上げると、ルイが取り敢えずツッコミを入れてから抱き寄せる。

 案外冷静だな。

 と、思ったがルイの目の端に光る雫に気づいたら何も言えなくなった。

 レリューの体には火傷はなく、寝息も落ち着いている。至って健康だ。


「おお……レリュー……よくぞ無事で……」


「カンタンテ王か」


 こちらもこちらでボロボロと涙を溢れさせている。目を腫らしてまでまぁ……。

 レリューを抱いているルイを、さらにカンタンテ王が上から抱きしめた。

 感動の再開、というにはちとアレだが、これはこれで良いだろう。

 …………とりあえず、おかえり。レリュー。


 っと、センチメンタルになってる場合じゃないな。さっさとドラゴンに追撃をかけないと。

 リツィオならエルフなので簡単に魔法を使える。トリガーになる感情が必要ないからな。俺の治療やら手袋の修復やらの補給をしてから戦闘に戻りたい。あわよくば飛行の魔法を使えるかもしれない。


「リツィオ、ちと手伝え――――何してんだお前?」


 仲睦まじい親子|(+1)から目を離して振り返れば、まだ顔を赤くしているリツィオが頭を抱えているところだった。

 ルイの動揺はまだ分かるが、コイツのこれはいったいなんなんだ?


「おい、リツィオ!」


「ふぇっ!?な、ななな何かな?じゃ、なくて……なんですか?」


「おま……なんだ『ふぇっ』って」


 そんな可愛らしい素の声なんざ、初めて聞いたぞ?

 顔の赤みも取れるどころか余計に増しているし。不審な奴だ。

 ……ちょっとだけ面白い、と思ったのは口には出せないな。


「別になんでもないんだけど……えっと、その、顔……近い、です……」


「ん?おっとすまん。まだ距離感が掴めなくてな」


 全部が全部、いきなりサイズが縮んで見えるせいで細かい距離が測りづらい。気づけばリツィオにぶつかりそうなほど近づいていた。というかなんで敬語。


「大丈夫か?なんか様子が普通じゃないんだが」


「大丈夫だ、よ?ただちょっと、その、ね?」


「なんだはっきり言えよ。まどろっこし――――」





「――いい加減にするのですッ!」


 突如、怒鳴り声が響く。

 なんなんだ、まったく。せっかくリツィオの珍しいところを楽し……もとい観察していたというのに。

 振り返ると湖に面したところに魔人の片割れ……サキュバスの方の奴が居た。相変わらず露出度が高い奴だな。


「なんで炎龍から男が降りてくるのですか!?しかも私を無視してお話をしないでくださいッ!」


「なんかお前、感じが違うな?レリューを攫いに来た時と違って堂々としてる」


「そ、それは頑張ってつくろって……じゃなくて!なんでアナタがそんなことを知ってるのですか!?あの時、あそこに居たのは……」


「レリューと悪魔系の魔人、お前、そして。そうだったろ?」


「ッ!?ま、まさか……あの時の子供、なのですか……!?」


「――――チャイナ服」(ぼそっ)


「ッ!?」


 びくりと身をすくめる魔人。

 ぼそりとつぶやいた言葉に過剰に反応するところを見れば、あの時のことを覚えているのは確実だ。

 くっくっく……。そういえば魔人を倒してどうするか、別段決めてはいなかったが……これだけのことをしでかすヤツらだ。洗脳して支配下におけばかなり強力な手駒になるだろう。


「洗脳してチャイナ服……洗脳してチャイナ……一部メッシュ地(応相談)……ッ!」


「ひぃっ……!?い、イヤです……っ!チャイナはイヤですぅっ!!」


 おっと、煩悩が溢れていたか。くくく。

 しかしやはりこれであの時のやつだと確信できた。向こうも俺があの時の子供だと理解できたようだ。


「お、おい……!あの者は何者だ……!?魔人をあれだけ怯えさせるとは……!」

「わかりません……!ですが、相当の手練かと……」

「ちゃいな、とはなんでしょう?魔除けの呪文でしょうか?」

「魔人があれほど怯えるのです。並大抵のモノではないのでしょう」


「ん……?」


 なんか騒がしいと思ったら、ここは望翠殿の会議場じゃねぇか。腰の抜けた王族が人の後ろでざわついてやがる。

 ふむ……。ちょどいい。ここで魔人を倒したら俺の力を宣伝できる。

 魔法で当社比5倍の輝きを放つ剣を作り出し、適当なポーズで魔人に突きつける。


「魔人よ!貴様らの悪行もこれまでだ!魔王の復活の計画は潰えた!悪夢はここで終わり、新しき夜明けが人の手で開かれるだろう!!」


 …………こんなもんで良かったのか?


「おおぉ……!」

「なんと雄々しき姿……!」

「一体彼は何者なのでしょう……!?」


 良かったらしい。

 適当なポーズと臭いセリフなんだが、多少芝居がかっていた方が受けがいいようだ。


 というか雄々しいって……。後ろからはコートで見えないだろうが、前から見るとビリビリに破けた服なんかで見られたもんじゃないぞ。


「くっ……!やはり私たちの邪魔をしますか!貴方が居ると言うことは……」


「お前の相棒はまだ元気に生きている。というか後ろ後ろ」


「え……?」


 俺が指指す方……魔人の背後に視線を移す。

 見上げた先、そろそろ赤みがかってきた空を、先ほどまで我が物顔で飛び回っていたドラゴンがもう近くまで来ている。その背中にしがみついている人物が悲鳴をあげていた。


「いやあああああああああああああああああああああッ!落ちるううううぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅッ!?」


「…………。ほら見ろ元気たっぷりだ」


「どこがですか!?」


 ――――失速して落ちてきていた。

 俺がダメージを与えまくり、あおい湖に真っ赤な血を垂らしながら辛うじて飛んでいたんだ。その上、水を浴びせかけられて体温が落ちてきている。

 常なら多少の水なんて関係なく活動していただろうが、今は甲殻を穴だらけにされて血肉を晒している。高高度の飛行をすれば活動に支障が出るほどの低温になっていてもおかしくない。


 轟音と共に望翠殿のすぐそばの湖にドラゴンの巨体が堕ちる。

 水が津波となって建物に押し寄せた。会議場にも水が入ってくる。


「る、ルトちゃんッ!!」


 っと、そりゃ相棒が落ちてきたんだ。心配にもなるか。

 落下地点に向けて飛んでいく魔人の背中を見ながら俺も追撃の用意をする。

 ドラゴンのブレスを防いだとはいえ、セグメントは端々が焼けて穴が空いているところもある。

 縫い込まれた『自己修復』の魔法でそれを塞ぎながら後ろを振り返る。


「チャルナ、こっちに来い。ルイはレリューの様子を見ていてやれ。リツィオは……まだダメか。ならカンタンテ王。王族の誘導を頼む。ここから逃げ出せないならせめて何が起きてもいいように、見晴らしの良い所で一箇所になっていてくれ」


「うにゃあ!」


「はいです」


「分かった」


 それぞれが動き出す。

 場の主導権を握っているのは俺だ。全員が呆然としていて動けないなら真っ先に動き出した者に主導権が集まるのはどこでも同じだ。


「魔人・炎龍討伐戦だ。――――見ておくがいい。これが世界の変革期、その始まりだ……!」


 ――だからこそ、今更ここで王族にタメ口を言っても何か言うヤツはいない。

 何を言っても咎めることはできない。

 見ている観客に印象づけることができる。ここから世界が変わっていくのだと。






 近寄ってきたチャルナを抱き上げる。

 大きくなった体ならなんの問題もなく抱いていられる。


「にゃふふ……」


「力は借りないつもりだったがどうにも手が足りん。お前の猫の手、貸してくれるか?」


「いいよ!マスターっ!」


 まったく、いつも元気だな。

 その熱を染み込ませるように小さな体を少しキツく抱いてから――――湖の上に足を進めた。


「『障壁構築』」


 足元に魔法で足場を作り、その上で歩を進めていく。

 障壁を次々に作り出しながら、ドラゴンの元にまで近づいていった。



 墜落したドラゴンは望翠殿の目と鼻の先で半身を湖の中に沈めており、その上で魔人が動き回っていた。


「無い!無いわ!宝珠が無い!あ、あれ!?どこ行っちゃったんだろ!?」


「ルトちゃん……。それより早く手当しなくちゃ」


「で、でも無いのよ!?ルティもそっち探して!」


 うろたえる姿はとても街ひとつを混乱に陥れた連中だとは思えない。ちょっとばかり

哀れみを感じる。

 せっかく探してるブツは俺の腹の中だと知れたら泣くんじゃないか?

 ま、それでも倒させてもらうんだが。


「おいテメェら。いくら気の長い俺でも、いつまでもお前らの騒動イベントで手間取ってられないんだ。さっさと終わらせるぞ」


「あっ!?アンタは……っ!?」


「うう……っ!構えて、ルトちゃん!」


「グルル……!」


 俺が声をかけてようやくこちらに気づいたらしい。

 ウダウダウダウダと、何度も何度も逃げられてこっちもこっちで相当イラついてんだ。ここら辺できっぱりと終わらせてしまおう。


「たかが人間風情が、アタシたちを同時に相手にしてただで済むとは思わないでよね……ッ!」


 威勢が良い悪魔系の魔人。

 明らかに腰が引けてる夢魔系の魔人。

 手負いで機嫌が悪そうなドラゴン。


 同時に相手取るにはたしかに無事に終わるとは思えない布陣だ。

 こっちの切り札の手袋は失ってしまったし、体はまだ慣れていない。

 だが、今なら負ける気はしない。

 むしろワクワクする。この戦いから英雄になれるのかもしれないのだ。


「さぁ……行くぞ!ここで踏み台になりやがれッ!」


「うにゃあああああッ!」


「い、行きますッ!」


「ゴルゥアッ!」


 再び戦いは始まった。

 碧い湖の上で、役者を増やし観客を増やし。

 互いの譲れないものの為に。



「アンタが誰か知らないけど、ここで死んでもらうわッ!!」


 ――――約一名の勘違いを残したまま…………。

次は22日更新予定です。

もう少しで通常の更新頻度に戻れる……かもしれません。

毎日更新とか看板掲げといてアレですけど。

本当に申し訳ないです。

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