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幕間:ルイ視点

―――――ルイ視点――――――


 レリュー様……。

 レリュー様ッ……!


 ルイは……ルイはどうしたらよかったです……!?

 みんなレリュー様より会議の方が大事みたいに言ってるです……。

 何度でも開くことができる会議なんかよりレリュー様の命の方がずっと、ずっと大切なのに。


『無いな。タイミングが微妙すぎる』


「――ッ!!」


 ああ……。こうして耳を塞いでいても、あの時のご主人様の言った言葉が聞こえてくるです。

 ……ホントはルイにだってわかってるです。

 会議は止められないし、止まったとしてもレリュー様は帰ってこないって。


 それでも危険がそばに近づいているというのに、今、まさに危険にさらされている人がいるというのに、あんなことを言わなくても良かったはずなのです……!

 いつも最低だなんだと言っていても、どこか心の中ではご主人様様ならなんとかしてくれると思っていたです。


 なんでもない顔しながら、危険な魔物だってあっさり片付けてしまうような人。

 ルイより小さいのに、ルイには決してできない事をやってしまう人。

 いつも悪口言いながら、そこだけは本当に尊敬していたのです。

 なのに……。


『そんなこと出来るわけがないだろう』


 ……あんな事、言って欲しくなかったです……ッ!

 ご主人様ができないのならば、ルイにできることなんてないのです。

 周りの頼りになったはずの大人達はレリュー様より会議を取ったのです。


「――――レリュー様が死んじゃう、です……ッ!」


 助けてほしかった。

 意地悪ならなんでも聞くから、レリュー様を助けてほしかった。

 いつもみたいに。なんでもないように。

 大人も、魔人も、炎龍も。

 ジャマするもの全て吹き飛ばして、笑ってほしいのです。ご主人様……。


 ルイの大切な、『初めての友達』を守ってほしいのです……!





 里にいた頃のルイにとって、友達なんてものは必要なかったのです。

 強ければ戦って、弱ければ守って。

 同じ立場で話をするなんてこともありませんでした。

 ルイと同じくらいの年の子供は遊びまわってお洒落して、毎日楽しそうにしていました。

 ルイはそれを眺めるだけ。


 アレは守られる側の者。

 ルイは守る側の者。

 そう心に刻んで剣を振っていました。


 やがてご主人様に出会って、挑んで、虚仮にされて……泣かされて。

 あの時、レリュー様は本気で怒ってくれたです。ルイはそれがすごく嬉しかったのです。

 だから一緒に旅をすることになった時不安もあったですけど、レリュー様が居るなら大丈夫だと、そう思えたのです。


 家族の不安を打ち明けられたり。

 勝てない悔しさを慰めてもらったり。

 ご主人様のすることで笑い合ったり。


 長い旅の間に、ルイとレリュー様は友達になっていたです。護衛と保護対象ではありましたけど……。

 それでも間違いなくルイたちは友達だったのです。

 だから……だからこそ……!


「――ルイはこんなところで友達を失いたくはないのです……!」


 こうして毛布の中で震えているだけではなにも解決しない。

 大人は頼れない。ご主人様もダメ。

 なら、どうすればいいのです……?ルイに何ができるです……?


 気持ちだけが空回りして解決策が浮かんでこない。

 どうしたら……どうしたら……。

 そんなことを続けているうちに、いつの間にか空は明るくなっていたのです。




「――イちゃんッ!ルイちゃんッ!?」


「あ……ケーラ……?」


 朝になっても動く気持ちになれず、部屋でじっとしていると慌てた様子のケーラがやって来ました。

 ケーラはレリュー様のすぐ近くに居たのに、と自分を責めてルイと同じように部屋にいたはずなのです。

 それがなんで……?


「大変なのッ!今度はユージーンが居なくなっちゃったんだよッ!」


「ッ!?」


 ご主人様が……!?

 なんで?まさか……レリュー様を救いに……?

 どうして?ご主人様はレリュー様を見捨てたはずじゃ?


「今、コネホさんやリツィオ様が集まって話してる!お願い!協力して!」


「……分かったのです」


 ご主人様が本当にレリュー様を救いに行ったのか、それは分からない。

 だけど、あの人が動くのなら何かが動くということ。

 何か……なんでもいい。レリュー様を救うチャンスになれば……ッ!


 急いで装備を整えて廊下へと飛び出して走り出す。

 希望がこの先にあると信じて――――





 しかし、着いた部屋でルイに告げられたのは思いもよらない事態でした。


「兵士が……暴れてる……!?」


「ああ……それもひとりふたりじゃない。エストラーダの各所で大隊規模の人数の兵が暴動を起こしている」


 集まったのは6人。コネホさん、リツィオ様、カンタンテ王、ケーラ、警備長。

 レリュー様のお母様は地上では上手く逃げられないということで湖に帰っているらしい。

 各国の王族は会議場で延々と対策会議を続けているらしい。夏の大陸の代表はカンタンテ王やリツィオ様以外にもいる。当然、格は落ちるが。


「でも、なんでそんなことに……?」


「あたしらにも全くわからない。いきなりなんの前触れもなく兵士たちが蜂起したのさ。幸い、ここには各国の護衛団が居たからね。大きな騒ぎになる前に鎮圧できたが……」


 苦虫を数匹まとめて噛み潰したような表情のコネホさん。

 このタイミングで守りのかなめとなる連合軍が裏切ったとなると、それは非常にマズい。例え魔人が来ても逃げることすらできないかもしれない。

 それ以上にまずいのは……。


「あの……ご主人様は……?ご主人様が居ないというのはどういうことなんです……!?」


「…………」


 部屋の中を重苦しい沈黙が包む。

 まさか……兵士に襲われたのです!?いくら強くても不意を打たれればご主人様だって……。

 ……いや、違う。それなら『居なくなった』なんて言い方はしないはずです。ならば本当に姿が見えないだけ……?


「き、きっとさっそく外に出て暴れている兵士を正気に戻しているだけです!心配しなくてもそのうちひょっこり戻ってくることだって――――」


「――あたしはそうは思えない」


「え……?」


 どういうことです……?


「さっきまで話していたことなんだがね……ユージーンは魔人の放ったスパイ・・・なんじゃないか。そう思っていたんだよ」


「ッ!!?」


 ――え……!?

 い、言われた意味が……わからないのです……。

 ご主人様が……スパイ……?


「ユージーンが居なくなったのは少なくとも今日の早朝。その後、兵士の暴動が起きた……いささかタイミングが良すぎると思わないかい?」


「そ、それは……事前に暴動のことを知って止めに行ったとか……」


「ユージーンみたいなアホが暴れてたらすぐにでも分かるさね。だが、蜂起した兵士はまるで乱れがない動きでこの望翠殿を包囲しようとしている。完璧な連携で、だよ」


 ご主人様のように強かったら、包囲のどこかしらが破れていてもおかしくないです。逆に何事もなく包囲が進んでいるのは不自然。

 ならばご主人様は……。


 こんどは警備長が前に出てきて口を開く。


「そもそもいくら貴族といってもあの強さはおかしい。儂がただの子供に敗れるはずがない。ならば魔人となんらかの悪しき契約をして手に入れた強さ……というのも十分に考えられる」


「なッ!?いくらご主人様に負けたからって、その言い草は許せないですッ!ご主人様はここまでレリュー様を守ってきた張本人です!魔人とだって戦って勝ったのですよ!?なぜそんなことをする必要があるです!?」


 あんまりな言葉に頭の中が赤く染まるほどの怒りが湧き上がるです。

 なぜ、レリュー様を魔人の手から守ってきた人が、ここで魔人のスパイなどと言われなくてはいけないのです!?


「だが……あたしらは誰もその現場を見ていない」


「え?」


「魔人に追われていたのはレリュー様の話から間違いない。ユージーンに出会ったのも。……だけどね。肝心の戦いを、当のレリュー様ですら見ていないんだ」


 そんなことは初めて聞いたのです。

 ルイが出会う前、レリュー様が魔人に追われているところをご主人様が助けた、とだけ聞かされていたです。

 …………ご主人様に。


「私が一度ユージーンさんの眠っているところを見させていただきましたが、壁に背をつけて魔道具を持って眠っていました。……まるで敵地で兵士が剣を抱いて眠るように」


「リツィオ様まで……」


 確かにルイたちが起きるとご主人様はもう起きて支度をしていることがほとんどでした。

 ルイがご主人様の寝顔を見たのは……気絶していたあの時だけ。


「ついでに言えば、ユージーンが使った精神に干渉する魔法。あれは人間の中では禁忌とされて、今では使い手は居ないはずの魔法なんだよ。それをもし使えるとしたら……」


 人間ではないモノに教わった……?


「いつも何かを警戒して隙を見せない。魔物にすら引けをとらない戦力を持つ。……ただの10にも満たない子供が、だよ?おかしいとは思わないかい?」


「で、でも……」


「ユージーンは私らを信用してない。隙を見せず打ち解けず……そんな奴が信用されると思うのかい?あの子には不可思議なところが多過ぎるのさ」


 ご主人様が本当に……?

 ルイを……レリュー様を……みんなを裏切っていた……?


「ユージーンが魔人の協力者だとすると全てが説明つくんだよ。レリュー様を救う茶番を演じ人間の懐に潜り込む。そして1ヶ月かけて仕込みを済ませ、何食わぬ顔で行動に移す。それがあいつの計画だ」


「…………」


「昨日の夜にとんでもないことを言いだして話し合いを混乱させたのもその一環だろうね。実のない話し合いで時間を潰し、早々に撤収させる。……卑劣な手だよ」


「ご主人様が……そんな……」


 信じられなかった。

 ご主人様は……馬鹿で短気ではあるけど、そんなことをする人じゃない。そう思っていたです。

 でも……今、確かにご主人様は居ないです。

 この非常時に他にどこに行くというのです?


 レリュー様を救いに行った?

 ここから4日以上かかる炎龍山脈まで?


 魔人の行方を探っている……?

 なら街の状況を無視しているのはおかしい。 

 

 逆に魔人に捕まった?

 一度退けた魔人に、誰にも気づかれないようにして捕まるなんて不自然すぎるです。


 考えれば考えるほどこの状況の説明がつかない。

 周りを見てみるとみんな暗い顔をしているです。きっと散々話し合った結果がこれなのです。

 コネホさんの言った言葉が重くのしかかる。

 胸の内、心の一部がすっと冷たくなる。


 ご主人様が……裏切り者……。





「大変です!暴動を起こした兵士の合間を縫って魔物が市街地に現れました!」


 段々と下がっていく顔を引き戻したのは、室内に入るなり大声を出した兵士の声。

 先ほどまで誰も言葉を発していなかった部屋の中の空気が、一気に緊張に満たされました。


「詳しく報告を!」


「はッ!物見の話ではまるで連携を取るかのように動いて、続々と侵攻してきているそうです!」


「数はどれくらいだッ!?」


「今は30匹に満たないようですが、街の外に後続が控えているようです!空から来る魔物が数匹、この望翠殿の外壁にも取り付いています!今のうちにお早く脱出を!」


「どこに逃げろと言うんだ!周りは兵士に包囲されつつあるんだぞ!」


「これで……少なくとも蜂起した兵士の後ろにいる奴が魔物に通じているのは間違いないね……」


「…………」


 今は蜂起した兵士ですら持て余しているというのに、そこに魔物が加わったりしたら……街は大惨事になることは明白です。

 せめて蜂起した兵士をなんとか出来るなら、まだ手の打ちようはあるのですが……。


「きゃあああああああッ!」


「ッ!?」


 ケーラの鋭い悲鳴が上がる。

 視線の先は…………窓!?

 見れば窓の外に昆虫型の魔物が張り付いていて、今にも部屋の中に押し入ろうとしている。


「はぁッ!」


 咄嗟にサーベルを手に取り刺突で魔物を攻撃する。

 硬い手応えが返ってくるが、衝撃で地面に向けて落下したようだ。


「ッ!外で魔物を迎え撃つです!」


「あッ!?ちょっと!ルイちゃんッ!?」


 魔物を追うようにその窓から飛び降りる。

 集まっていた部屋は上階にあったが、途中途中にいた魔物を踏んづけることで衝撃を緩和しながら降りていく。

 地面に着いた時には蹴落とした魔物がこちらに敵意を向けていた。

 いくら小型の魔物だといっても、5匹以上に囲まれている状態はマズい。

 そうは思ってもここで背中を見せるわけにはいかなかった。


「お前たちが……お前たちが居るからっ……!お前たちのせいでレリュー様があああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 魔人は魔物が変化して生まれるもの。


 魔物さえいなければ、レリュー様は危険にさらされることはなかった。


 魔物さえいなければ、ご主人様がみんなを裏切ることはなかった……。


 魔物さえいなければ…………ルイはこんな気持ちを抱えることはなかった!!


「ぁぁぁああああああああああッ!」


 ガツン、と硬い感触。

 魔物の甲殻にサーベルの刃が通らない。

 それでもガムシャラに剣を叩きつける。


「死ぬですッ!死んでいなくなってしまえばいいですッ!お前らなんてこの世から消えてしまえぇぇぇぇぇッ!」


 胸の中の黒い感情を吐き出しながら、ひたすらに、技もなく剣で突く。

 魔物が首を振って吹き飛ばされても、すぐに立ち上がって同じことを繰り返した。


 涙が溢れて止まらない。

 なぜ、こんな気持ちにならなければいけないのだろう。

 ルイはただ、大切な人を守りたかっただけなのに。


 もうすぐ大切な人がいなくなってしまう。

 レリュー様は魔王の生贄に。

 ご主人様は魔人の仲間に。


 そんなのは嫌だと思っても自分にはどうしようもなくて、手が届かなくて、それがたまらなく悔しくて。

 その苛立ちを込めてサーベルを振り下ろし続けた。

 後ろから別の魔物が攻撃してきても構わない。

 足や手を獣のように振り回し、ただただ攻撃した。


「ああッ!あああああッ!うああぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!」


 こんなのはルイの戦い方じゃない。

 むしろ、こんなふうに感情をむき出しにして暴れまわるのは……

 いつも楽しそうに暴れていたのは――



『――ッの、アホ犬があああああああああああああああああああぁぁぁぁッ!』



「ッ!?」


 い、今の声は……ッ!?


『何が人を守る剣だ!護剣流の名が泣いて呆れるわ!テメェの剣は誰かを守るためにあるんじゃなかったのかよ!?他人どころか自分の体も危険にさらすようなアホなマネしてんじゃねぇッ!』


「ご、ご主人様ッ!?」


 突然聞こえてきた口汚い罵倒に、それまで動いていた剣がぴたりと止まる。

 あの声は……まさしくご主人様の声だ!

 やっぱりだ!ご主人様はいなくなってなんかない!

 きっと何かの事情で離れていただけだったんだ!


「どこにいるんです!?居るなら出てくるです!」


「オメーの目は節穴か?ここにいんだろうがよ。こーこ」


 さっきよりもずっと近いところから声が聞こえてくる。

 そちらに目を向けると、見えたのは探していた金髪の目つきの悪い子供――――


「…………え?」


 ――ではなく。


「ちッ!やっぱり他人の体じゃ勝手が違うな……」


 そっくりな表情を浮かべてはいるが、ご主人様じゃない。

 いつも太陽のような笑みを浮かべている、いや、浮かべていたはずの猫獣人の姿だった。


 確定申告ェ…………。(´Д` )

 ちと立て込んできたので更新遅れます。本当にすみません。

 次回更新予定は一週間後の月曜日、3月3日です。

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