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暗礁

 警備総出の捜索によりすぐに暗示をかけられた兵士は見つかった。

 だが、その必要はなかったようだ。

 水辺にあった水槽を捜索していた人魚族が見つけたのだ。

 水槽の中には、ひとりの人魚族の子供と、慌てて書いたと思われる走り書きのメモが残されていた。


「…………この子供にも暗示がかけられていた。さっきと同じように記憶の再生を試したが、どうやら魔人に人質にされていたようだな」


「そうかい……まったく卑怯な事をするね」


「ああ。そうだな」


 俺がまったく同じことをやっていたのはこの際置いておく。

 魔人のやった行動はこうだ。

 まず人魚族の子供を人質に取り他人の居なくなった頃を見計らって窓から姿を見せる。

 そして言うのだ。子供を殺されたくなかったら表に出て来い、と。


 この時レリューはうかつに歌で魔人を撃退はできない。

 要人の住む部屋は地上からの侵入を防ぐため、身分が高いほど上の階になる傾向がある。

 もし歌で操り人形状態にされたら魔人ごと人質が地上に落下する恐れが有るのだ。

 あるいは他にも人質をとっていて、仲間の魔人が歌の効果範囲外で首に刃を突きつけている場面を見せたのかもしれない。


 後はレリューが指定された場所までなんとしても来るだろう。厳重な警備を抜けて、誰にも知らせることなく。

 唯一出来た抵抗が残されたメモ、というわけだ。




 メモ、というか水槽の内側に石か何かで刻んであるだけだ。『魔人 炎龍山脈 山頂 神殿』とだけ残されていた。

 魔人が炎龍山脈の頂上に逃げた、とも取れるがこの神殿という文字だけが分からない。山の頂上に神殿なんてあるわけがない……と思うがここは異世界だ。もしかしたら有るかもしれない。

 しかし問題はよりにもよってドラゴンの居る山脈に魔人が逃げたことだ。

 最悪ドラゴンと魔人が組んで襲いかかってくるかもしれない。

 なにより――――


「まずいね…………。エストラーダから山脈までは直線距離でも最低4日はかかるよ」


「ああ……もし魔人の目的が想像通りなら絶対に会議に間に合わせようとしてくるぞ」


 それも麓までの話だ。

 ここから山登りの時間を考えればさらに時間はかかる。救出が間に合わないことは間違いない。

 今の時間はもう夕方。実質残っているのはあと2日だ。

 会議の前に魔王復活のおどろおどろしい儀式があるとすれば非常にまずい。

 どうにか……どうにかならないのか……!?




 いつまでも水辺でうだうだしててもしょうがない。

 詳しいことを話して方策を練らなければ……。


「…………簡単です」


「ん?ルイ、何か思いついたのか?」


「魔人は会議を狙って来るです。なら会議自体を無くしてしまえばいいです……ッ!」


 何を言ってるんだコイツは……。


「そんなこと出来るわけがないだろう。もう各国の王族が到着しているんだぞ」


「それでも……!魔人が来ていると知れれば中止になる可能性は……!」


「無いな。タイミングが微妙すぎる」


 魔人がレリューの誘拐に踏み切ったのは、あるいはしなかったのは時期によるものだ。

 一年前にならまだ『昔の事だ』として会議を開けた。

 これが半年とか数ヶ月前なら脅威アリとして会議の緊急中止もありえたかもしれない。


 王族が到着してしまった今、ここで開催を見合わせたりしたらホスト国としての沽券に関わってくる。

 何よりも王族が護衛団を引き連れて居るのがまずい。

 なまじ戦力があるのが厄介なのだ。

 これから神の試練を越えようとする者達の代表が魔人に屈してはならぬ、と護衛団同士で連携をとって対抗しようとするかもしれない。

 魔人を恐れて会議を取りやめにすることになれば人類種代表としての示しがつかない事態になるだろう。


 どっちにしろ会議は開かれる。

 ここでルイが動いたところで中止になることはありえないのだ。


「どうしてそう簡単に諦められるです!?ご主人様はレリュー様が心配じゃないです!?」


「なにもそんなことは――――」


「見損なったです!!いくら卑怯な事をしても本当に大事な事は分かってると思ってたです!」


「おい!?」


 そう叫ぶとルイは走り出してしまった

 あのバカ、どこに行くつもりだ!?

 その場を後にして俺も走り出す。あのままにしては何をしでかすか分からない。

 ルイは『望翠殿』の中、会議場の方に向けて走っていく。


 目当てはあの中か!確か今はあそこに王族が集まっているはず!

 このまま会議場に乗り込んで洗いざらいぶちまけるつもりか!?

 させるかッ!


「――にゃうッ!」


「ッ!?チャルナッ!?なんの真似だ!?」


「マスターッ!マスターでもルイの事止めちゃダメなのッ!」


 横合いから飛びついてきたチャルナに体勢を崩されてタタラを踏む。その先は…………階段ッ……!?


「――――ッ!?」


 手すりを掴んで宙に投げ出された体を支える。

 生まれた隙を見逃さずルイは先に行ってしまった。

 くそッ!肝心なところで……!


「アホかッ!俺が心配してないなんて誰が言った!?それに会議が中止になったからってレリューが無事だという保証がどこにある!?魔王の復活に利用されるのは確実だ!闇雲に突っ走って解決できないんだよッ!」


 俺自身、いつものように力技で解決出来るなら、とっくの昔にそうしてる。

 それができないからこそこうしてイラついているというのに……!あのアホ騎士はッ!

 チャルナを横抱きに抱えたまま、体を持ち上げて俺は『望翠殿』の柱の間を駆けていく。今ならまだ間に合うはず。



 幸いルイは議場の扉を守る警備兵に足止めを食らっているようだ。

 警備とルイの力は拮抗しているらしい。火事場の馬鹿力ってやつか?

 俺も押し合いし合いしている人並みの中に近づいていく。


「なんだこの子供はッ!?」


「そいつを止めろッ!」


「そこを退くですッ!」


 誰が怒鳴っているのかもはや分からない状況。

 ルイの力が凄まじいのか、数人いる警備兵がまとめて扉の方に押されている。その背中が扉に付きそうになっているのが分かる。

 俺も素早くルイを回収しようと動く。


 が――――


「にゃあああああああああッ!!!」


「おおッ!?」


「なんだこの力ッ!?抑えきれんッ!」


 いきなり抱えていたチャルナが俺の体を踏み台にしてルイの背中めがけて跳ぶ。

 猛烈な勢いのまま、ルイの背に飛び込むようにして突っ込んでいく。

 それまでかろうじて押さえ込んでいた警備兵も、いきなり増加した力には耐え切れず、吹っ飛ばされるようにその背で議場の扉を開けてしまった。


「ぐあッ!」


「おおおおおおおッ!?」


「な、何事だッ!?」


「狼藉者かッ!?」


 いきなり開かれた扉に瞠目する王族が向こう側に見える。

 ああ……やっちまった……。

 俺が頭を抱えている間に体勢を立て直したルイが室内に向かって叫ぶ。


「どうか聞いてくださいッ!すぐに会議を中止して……」


「うるさいッ!黙ってろ!…………すいません!すぐにつまみ出しますッ!」


 必死にルイの歩みを止めようと、その体にまとわりつく警備兵。

 そんなものは意に介さぬとばかりにルイは声をあげようとして――――


「――――…………え……!?」


 そこにいるはずのない姿を見て固まった。

 扇状に広がる会議場。その中心。

 全ての出席者から見下ろされる壇上。

 そこでこちらを何も映さない完全な無表情で見つめているのは――――


「――――リツィオ、さ、ま……?」


「………………」


 エルフの村で別れた褐色の美女………リツィオだった。

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