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新たな魔道具


 バアさんに掛け合って、ケーラ、レリュー、ルイ、チャルナの4人が俺との直接的な繋がりがない事の証明に一筆書いてもらった。

 名目的にはお目付け役ということで済ませてある。

 村長も無表情ながらも嫌そうにしていたからあっちの利点は無いように思えた。後ろ盾があり、それとは関係のないケーラ達を人質にしようとは思わないはずだ。

 ケーラ達には部屋をとってもらい、それぞれ自由に過ごしてもらっている。



 奇妙な緊張関係のまま、俺と村長の講義は続いている。

 ……はっきり言って俺に講義を続ける意味は無いだろう。むしろ俺に対して教え続けることはマイナスになるはずなのに、何故か講義は続いている。


「ユージーンさんがこの村で一生生活するとなれば私たちのペッ…………もとい、仲間になると同義ですからね。こうしておいた方が後々楽なんですよ」


「今ペットって言いかけたよな!?『もとい』って言えば誤魔化せると思ってんじゃねぇ!?」


 相変わらず毒舌が過ぎる村長。

 確かに俺を殺さないとなればエルフの里で一生飼い殺しになるだろう。エルフの血を……『妖精眼』を拡散させないために。

 考えたくないが、俺のタマが危うくなることもあり得る。

 そんなことはごめんだね。さっさと複語をマスターしてトンズラこくに限る。


「ちなみに本音は?」


「貴方が推薦を受けている以上、ポーズだけでも勉強しているところを示さないといけませんからね。面倒でも」


 一言多い。いつかマスターした魔法で焼き尽くしてやるのが最も良い復讐になる気がする。

 こうして余裕そうに教えている所からすると、今教えている言葉では大した魔法を編めないか、対抗手段が用意されていると考えられるが、想像するのは自由だ。

 見てろ……!いつかぜってー吠え面かかす……ッ!





 エルフの言葉を学び始めてようやく魔方陣に書かれた文字の意味が分かってきた。

 単純な魔法ならひとつふたつの単語で構成されていて非常に理解が楽だ。

 ところがこれが戦闘用の魔法になると話が違う。

 魔法弾バレットの魔法ひとつとっても『魔力固定』『形成』『回転』『圧縮』『開放』『射出』とこれだけある。まだ読み取れていないものもあるので、数はこれ以上ある。

 性質変化や形状変化の特性については構成の一部が変数化していて弄れるようになっていた。これなら魔法陣が見れなくても変化させられる。

 武器精製クラフト・ウェポンの魔法も同様に出現する武器の形を自由に変えられる構造になっていた。

 これから習得するエルフ語によってはさらに強化させることもできる。ま、あくまで希望的観測だが。


「そういえば、魔道具を作ることもできるんだよな?ひとつ頼みたいモノがあるんだが」


「…………ご自分の立場というものを理解していないようですね。逃走の恐れがある人に誰が魔道具を仕立てますか」


「チッ。講義は続けるクセに魔道具はダメなのか」


「コレは致し方なく、やむにやまれぬ事情で継続しているだけです。新たなご依頼はノーサンキューですよ。誰が自分に向けられるかもしれない剣やらなんやらを作りますか」


「いいや。作ってもらいたいのは『服』だ」


「服……ですか?」


 なんでちょっと意外そうなんだよ。俺が服を頼んじゃおかしいってか?

 俺が頼もうとしているのは、防御術式を織り込んだ服型の魔道具だ。俺はどうにも攻撃に特化するというか、偏っていく傾向が強い。

 安定した攻撃は、安定した防御から。

 自分の身が危ういのに、ガンガン攻めて行くのは命をかえりみない蛮勇だ。防御力があるからできる攻撃の仕方というものもあるだろう。

 なのでいつでも発動できる服型の魔道具を持っていればそれだけ攻撃の機会が増える。

 結局攻めるためじゃないかって?

 細けぇことはいいんだよ。攻撃は最大の防御だし、戦争は火力だ。


「それくらいなら問題はないでしょう。講義の後に服飾関係の店に案内しましょう。ですが、魔道具だけあって高いですし時間もかかりますよ。お小遣いは足りますかね」


「ガキ扱いすんな。問題ないっての」


 文句言う割に作るのか。しかもあっさり。

 途中に倒してきた魔物・魔獣のお礼金や、その死骸から取れた牙やら爪やら皮やらを売って資金にしていた。結構な余裕がある。アレがなかったら、レリューやチャルナの食費ですっからかんになるところだった。

 時間もエストラーダに行っても近場だから取りに来やすい。…………指名手配的な状況になっていたら忍び込んで取りに来るがな。


「ふむ……。この村に永住する覚悟ができましたか。いい傾向です」


 勘違いしているようならそのままにしておくか。むやみに警戒されると困るからな。


「……っと。そういえば聞きたいことが有ったんだった」


「機密に触れなければなんでも聞いてください」


「釘刺さなくても分かってるって。…………古代遺物アーティファクトの中に魔力がなくても起動する変種のようなものが混じってるが、アレはなんだ?」


「…………機密ど真ん中ですよ、それは……」


 あっ、ヤベぇ。地雷踏んだ。

 無表情のまま、こちらに顔を近づけてくる村長。だから威圧感あるって。


「あなたという人はとことん危険分子のようですね。むしろ私たちを動揺させて情報を引き出そうとしているどこぞのスパイの方がしっくりします」


「変な疑念を持つなっての。スパイならもっと上手くやるよ」


「確かに、と言いたいですが、あなたの場合『任務なんか関係あるかー!』と言いそうで納得しかねます」


「んなわけ……」


 無いとは言えない気がする。というか言いそう。


「今更貴方に隠してもしょうがないですね、その様子だと。……未だに解析できていませんが、一説によるとアレはどうにも魔力ではなく、魂が持つ力で動いているようです。魔力、魔力の源たる生命力ではなく、魂そのものが持つ力です」


「そんなものがあるのか……」


「今は魔道具として一緒くたにされて分類されていますが、根本的に違う原動力、構造、システムで成り立っています。魔法はしっかりとした論理の上で成り立っていますが、あの古代遺物が起こす現象は滅茶苦茶です。条理や法則を超えた作用を対象に及ぼすことが確認されています」


「確かに……俺の手持ちの古代遺物もありえない働きをするな……」


 『変化の輝石』が持つ『人化』作用。アレは魔法では起こりえない現象のような気がしていた。ならばアレは一体なんだというのか。


「私たちの方では詳しいことは判明していません。最初は魔道具を語った粗悪品だと思われていましたが、実際はまるで違いました。アレは真に古代の遺跡から出土した遺物です」


「ここなら何かわかると思ったが、見当はずれだったか」


 魔道具の生産地でも詳しいことが分からない謎の遺物。魂の力。

 得体のしれないモノを使い続けていて、チャルナは本当に無事なのだろうか?





 紹介された職人は中年の女性だった。彼女に魔道具の服を頼むことになる。


「私に何か御用でしょうか?」


「この布で新しく魔道具を作ってもらいたい」


 俺が取り出したのはアルフメート出発の際に渡されたひと巻きの布。

 アルフメート王家の感謝の印、ということだが今まで少し使っただけでだいぶ余ってしまっている。

 魔力の通りが良く、普通は魔法使いのローブにするのが一般的のようだ。


「それは……春の大陸の『夜天布』……ですか?」


「鑑定によるとそうらしい。これで防御の魔法を織り込んだ服の魔道具を頼みたい」


 黒い生地にキラキラと輝く粉が散らされているように見える。確かにその名のとおり、夜の星々を思わせるデザインだ。滑らかな肌触りで触っているだけで心地よい。


「防御用の魔法となると『硬化』『障壁構築』『反発』などですね……戦闘用魔法と同じくらいの魔力を使用しますが、大丈夫でしょうか?」


「ああ。そこら辺についてはツガイ魔法までいかない程度だと助かる」


 『硬化』はそのまま服自体を固くする魔法だろう。『障壁』は……アクアシールドのような魔力で作る壁かな。

 『反発』は……攻性魔法や物理攻撃に対して斥力を生じさせる力だろうか?飛んできた石何かが逸れていくイメージ。

 せっかくの機会だし、入れられるものは全部入れてもらおうか。


 魔力は人並み以上にあるようなのでガッツリ使えるような仕様がいい。それでもツガイ魔法よりは少ない方がいいな。それ以上となると制御しきれず、折角の魔道具を損壊させてしまう危険がある。

 流石に可視化するほどの魔力を注ぎ込んだら壊れかねん。


「分かりました。それでは準備をしておきますので、着用する方を連れて来てください。採寸いたします」


「目の前にいるだろ?」


「…………え?」


 驚きを口にするエルフの女。驚いてるんだろうけど無表情なせいで『こいつなに言ってんの?』という感じになっている。


「ええと……人間の子供では扱いかねる魔力量と仕様になりますが…………村長?」


「彼の言うとおりにしてやってください。ただ、一生モノになるでしょうからウンと頑丈にしてサイズ調整機能もつけてやってください」


 それまで案内するだけして見ていた村長が口を開いた。

 そうか。普通の子供は戦闘用魔法を使うくらいの魔力はないからか。


「『変形』ですね。……ではこちらに」


 いまひとつ納得してないようだが、客の要望に今更ダメとは言わないだろう。奥の部屋に案内されてメジャー……ではなく木の棒のようなモノを当てられた。


「変形っていうのはどんな機能だ?」


「基本の形状を記憶させておいて、魔力によって部分的にサイズの変更が可能です。魔力を切れば形状は記憶させた形に戻ります。新たに形を記憶させることも可能ですが、その場合はそれ以前の形状は消去されてしまいますから、気をつけてください」


「形状記憶合金、みたいなもんか?」


「はい?」


「いや、なんでもない。気にするな」


 そういえばちょっと昔に同じようなコンセプトのスーツが、某服飾店から出ていたな。と言っても俺がこっちに来る前の『ちょっと』の話だが。

 アレは服に折り目が付いても水につけて乾燥させれば元の形状に戻るという、サラリーマンお助け機能だったはずだ。

 こちらの『変形』はサイズのアジャスト機能らしい。俺が成長するのを見越した提案だったか。なかなか商売上手だな。


「この巻いてある布全部を仕込むことは出来るか?」


「それはできますけど……相当重くなりますよ?圧縮した状態に『変形』すれば見た目はごまかせますけど、重さは変わらないですから」


「つってもこのひと巻き分だろ。問題ないからやってくれ」


「はぁ……」


 ちょっとした思いつきで、持っていた『夜天布』を全部ひとつの服につぎ込んでもらった。布を伸ばせば他の人を防御圏内に入れられる。いざ、ほかのヤツを守ろうとした時に、布が足らなくてはどうしようもない。

 ついでに自動的に直せるようにしてもらおうか。


「それに『自己修復』を付けて作るとすればいくらになる」


「はい。こちらになります」


 そう言って告げられた金額は……。


「…………おい。軽く家が買えるぞ、この金額。庭付き一戸建ての」


「それはまぁ、魔道具ですので……」


 使い方によっては小型の要塞と化すとはいえ、ひとつの服に対する値段としてはまさに法外。破格。

 ギリギリ記録板カードにはあるとは言え、コレを買うとしばらく質素な生活になるだろう。……あの暴飲暴食の王女様にはしばらくひもじい思いをしてもらうか。

 砂糖、塩に加えて、調味料もタダではない。いくら魔獣の素材を流用できるとはいえ、日々の食はタダではないのだ。

 …………あいつの家もエストラーダに近い水中にあるというし、人魚族王家に食費を請求できないかな?


「完成予定は何時だ?」


「今からですと10日ほどかかります」


「結構早いな。布があるとはいえ一から作るものだろうに」


「それはまぁ、魔道具ですので」


 それで済ませる気か。作るものが魔道具だからなのか、魔道具で作るからか。

 たぶん後者だな。エルフの生活にはだいぶ魔道具が浸透しているらしい。魔法の織り機でもあるのかね?

 それにしても10日か。

 それまでハイエルフの方で俺抹殺のゴーサインが出ないのを願うばかりだ。


「では10日後に取りにいらっしゃってください」


「おう。よろしく頼んだ」


 採寸が終わってようやく解放された。コレが完成する頃には俺は果たしてどうなっているだろうか?

 飼い殺しか、抹殺か、はたまた逃避行の真っ最中か。

 殺されるかもしれない、というのはほとんど考えてない。俺を殺せるくらいなら、エルフの連中がドラゴンを始末してるだろうし。

 一番ありえるのが逃避行か。服はこっそり忍び込んで回収しておこう。その時はもののついでに機密文書をコピーさせて貰う。ふっふっふ。

 次点で可能性が高いのが飼い殺し。ありえないとは言えないのが今の現状なんだよなぁ……。面白そうな本が結構あるし、魔法の修業ができる。

 何も考えないでこもってたいなぁ……。先に魔人共とドラゴンぶっ飛ばさないといけないが、ココで何もなくて順調に倒せたらエルフの里に戻ってきてもいい。

 エストラーダから近いしな。ここ。


 ま、エルフの連中が何もしないなんてありえないけどな。


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