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「で、だ。何をしとるんだお前らは。」


 父のドルフが呆れた目でこちらを見つめている。

 あの後、ブチギレたナタリアが俺の首根っこを引っ掴み、当主であるドルフの前まで連れてきた。ナタリアが半泣きになっている理由を聞かれたので、そのまま答えて返されたのが先のセリフである。重厚な作りの机の向こうでドルフは質問を重ねた。


「そもそもなんだってこんなことをした。というかどうやった。お前が鍛冶屋に行く暇などなかったろうに。」

 

 ここから一番近い鍛冶屋まで約1時間ほどだ。往復で2時間。子供の足ならもっとかかるだろう。

 四六時中監視付きの俺には到底不可能だ。そう考えているんだろうが・・・。


「兄上の鷹狩りの際にちょこっと抜け出してな。」


「いつの間にそんな・・・。油断も隙もあったもんじゃないですね。」


「そうか。ふむ・・・。カードはどうやった。儂の公爵用のカードは厳重に管理しているが・・・。

 ム・・・?ここにあるぞ?」


 呟きながら机の中から緋色の装飾が施してある箱を取り出すドルフ。恐らくあの中に公爵用のカードがあるんだろう。


「あって当たり前だ。俺が持って行ったのは父上秘蔵の酒購入専用カードだからな。」


「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「お、落ち着いてください旦那様!?」


 悪ぶる様子もなく胸を張る子に、今にも襲いかかりそうになる父。止めるメイド。ここダリア家では割とよく見られる光景である。よく見られるが故に俺の問題児っぷりと、この家の連中の頭の硬さの程がよくわかる。

 ちなみに持っていったのはドルフが秘密裏に用意したカードで、公爵用のものとは別の、酒専用のものである。

 ドルフ個人のカードは公爵用とは別にある。だが並大抵のものは公式の公爵用の物で買う。いわゆる御用達の店で高級なものを買い、公爵家の威信を示すため、と理由があるからなのだ。

 転じて個人のカードを使うのはやはり個人としての用件になる。食費などが公爵用のカードで済まされている分、普通の家庭より私的な消費が浮き彫りになりやすい。 こうなると奥さんの目が怖くなるのはどこの世界でも貴賎を問わない。奥さんが怖い。でも贅沢はしたい。

 そこで考えらたのはカードを複数作り、小分けにして管理することである。バラけている分だけ表面化しにくい。どこかで一つの使い込みがバレても芋蔓式には発覚はしない、という利点がある。

 この方法は貴族だけでなく平民にも広く伝わって、世のお父さん方の安息(息抜き)を守っている。


 これは半ば暗黙の了解として広まっている。・・・・妻にも。


 実はこのシステム、隠蔽対象である妻の側にもメリットがある。小分けにしているだけに一気に使い込みがしにくいということだ。彼女たちも夫の娯楽を制限して息苦しい生活を送らせたいわけではない。

 適度に息抜きをしてくれるのは構わない。だが娯楽であるが故に使い込む可能性は高い。なので使い込みをしにくいこのシステムは都合が良いわけだ。


 まるでパチンコに行く際、金を小分けにしてストッパーがわりにするような話だな、と俺は息を荒げているドルフを見て思う。いやまぁ「俺」が「ボク」だった頃にはパチンコはしなかったが。


 ドルフも酒豪と呼ばれるほど酒をよく飲む。なのでカードを作っていないわけがないし、その中身が他と比べて振り分けの比重が高いのも簡単に予想がついた。予想通りたんまりとチャージしていた。そして・・・。


「これの中身と用途を母上にチクったらどうなりますかねー?」


「うぐっ!?」


 この点についても都合が良かった。以前金の行方についてユーミィに指摘され大喧嘩になった際、ボッコボコにされたことがあった。なのでおいそれとドルフは逆らえないのである。

もっと付け加えるならば最近酒の量を減らすと誓ったばかりなのだ。なのに酒用の予算が減ってない、となればどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

 先程まで顔を赤くしていたドルフは今度は青くなっていく。


「うぐぐぐ・・・。・・・まぁ持ち出した点では妥協しないでもない。だがそもそも何故そんな真似をした?」


「父上が頭の固いことを言って魔法について教えてくれないからだろ?自分で調べようとすれば教本の閲覧を禁止するし。手当たしだいに聞きかじったことを試してみたくなるのは当然だろ。」


 そう、このことが今回の騒動の原因だった。

 ダリア家は騎士の家柄である。その出生から、勉学に励むよりも武術の腕を磨くことを良しとする、そんな家柄だ。兄上達も成長してからは毎日稽古に精を出している。

 問題児とされる俺はその中において異質だった。武術より魔法の興味が強く、それを調べるために揉め事を起こすのを厭わない。今までに起こしたトラブルのほとんどが魔法関連でなおかつ、屋敷の人間を総動員する騒ぎは両手を使っても数え切れない数に登る。

 たかだか5歳の子供が、である。


「伝統を無視して、軟弱な魔法に傾倒しないための処置だ。幼い頃から魔法を学ぶとそれに引き込まれるからな。」


「今更俺が分別がつかないタマに見えるのかよ?別に鍛錬をおろそかにしようとか言うんじゃない。稽古もするし。その上で魔法を学ばせて欲しい、そう言ってるだけだぜ?」


「・・・・・・・・。」


 ドルフが思いっきり苦虫を5匹まとめて噛み潰したような顔をしやがる。ものすごく何かを言いたげな表情も追加だ。まったく、何が不満だって言うんだ。不思議でならない。

 くだらない決まりに制限されるなどゴメンだ。本の中のようなファンタジーが手の届くところにあるというのにいつまでも手をこまねいてなどいられない。


「・・・・。」


「・・・・。」


「・・・・。」


「・・・・・はぁ。わかった好きにしろ。」


「よろしいのですか?」


「これ以上騒ぎを起こす方が有害だ、と判断した。仕方なかろう。」


「ケケケ。わかってんじゃん。ついでに父上のことオヤジって呼んでいい?」


「バカを抜かすな!」


 おお怖。さっさと退散しますかね。ナタリアから書斎の鍵を受け取り部屋を出る。ようやく新しいおもちゃを手に入れられる。俺は嬉しくてたまらず、声を上げて笑った。

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