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龍を追う者たち


 俺が夏の大陸に着いてからそろそろ一年が経とうとしていた。

 ダークエルフの村を出発してからも各村に回って護衛をしたり、適当な魔物を倒したり、順当な日々をおくっていた。

 目下の懸案事項である魔人の襲撃はあれからまったく無い。レリューに戦略的な意味が無くなったのか、それとも未だに取り戻そうとしているのか……。動きが全くないというのも不気味なもんだ。

 俺の元々の目標である『黄道十二宮』についても進展はない。いい加減何かしらの兆候があってもおかしくはないと思うのだが……。動植物の凶暴化とか、世界が闇に包まれるとか。

 関連がある、と言えないこともないのだが……。


――――――――――

【ユージーン・ダリア】


スキル

・【鑑定眼の御手】 レベル3

・【剣豪の系譜】  レベル4

・【妖精眼の射手】 レベル3


――――――――――


 【剣豪の系譜】と【妖精眼の射手】のレベルがひとつ上がった。これにより『身体機能上昇(大)』と『命中補正(中)』を会得したのだが……。

 おかしい。

 別に鑑定眼が上がらないのがおかしいと言っているわけではない。鑑定眼については俺が時間を取れなかっただけだ。おかしいと感じたのはその速さ。

 最後にレベルアップしたのは丁度一年前。それを考えれば間が空いていると思いそうなものだが、それ以前では何年もかかってようやくレベルを上げているのだ。それを加味すると明らかにおかしい。

 なんというか…………加速している・・・・・・のだ。


 もし。

 もしも仮にこれが『黄道十二宮』に関係しているというならば。

 悪戯な神が世界に動乱を望んでいて、英雄というキャラクターを用意している、とは考えられないだろうか。


 怪物と英雄の舞台劇。


 それを用意するために強制的に世界に働きかけている、とするとこの現象にも説明がつく。

 全ては推測に過ぎない。

 商団との同道でスキルを使う機会が増えたおかげ、というものだけかもしれない。

 だが、それでもイヤな予感がする。今はそれが外れることを祈るのみだ。





 いよいよお望みのエルフの里に近づいてきた。ここで魔法について学んだ後、エンコントロ・エストラーダに向かうことになる。

 エルフという種族は魔法に優れている。これはこの大陸に限らず世界に共通した認識である。もしその魔法技術を学べたら戦力的に大幅な強化が出来るはず。

 何より貴重な魔道書を読める。

 くふふ。本が読める……。ぬふ。ぬふふふふ。

 あはははははははは。

 あーはっはっはっはっはっは!


「――――残念ながら許可できません」


 …………なん、だと?


 エルフが暮らすという森の奥、大樹と一体化した家屋の中に俺達は居た。

 対面に座るのはこの里の長。かなり若く見える凛とした顔のイケメンがそうらしい。パッと見、20代後半なのだがこの里の中では一番の古参だとか。


「どういうことだ?」


「どうも何もいきなり現れて魔法について教えろ、と言われてもはいそうですかと教えるわけにはいかないでしょう?」


「…………ここならある程度、魔法についての権限が与えられていると聞いたが」


「確かにある程度の権限はありますが、それでも身ず知らずの者に教えるわけには参りません。エルフ族の誰かの推薦が必要になります」


 曲がりなりにも国防に魔法を使っているのだし、機密情報をそうそう簡単に漏らす訳が無いか。考えてみれば当たり前というか、考えなくても当たり前というか。

 なんでこんな簡単なことに気づかなかったのか、と思ったが、ちと浮かれていたのかもしれん。


「ふむ……。その推薦はどうやって?」


「村人に尊重されるような何かを成し遂げる……あるいは我々が尊重する誰かの推薦を受けることでも可能です。今居る巡業商団ストローラーズの中では……そうですね。コネホ殿が当てはまる人物でしょう」


「コネホが……?なんでまた?」


「エルフ族は以前、他の村との交流がありませんでした。我々は他の種族とは流れる時間の早さが違います。その文化も……感情も。それが障害になってなかなか受け入れられることが難しかったのです」


 エルフの村長は無表情のまま、淡々と語る。

 時おり、その瞳が大切なアルバムをジッと見つめる老人のように、懐古の光りを帯びる。コイツもまた、コネホの知り合いか。


「コネホ殿はその際、他種族と我らとの仲を取り持ってくださったのです。それまで全く関係のなかった我らのために並大抵ではない努力をして。お陰で我らはこの大陸での立ち位置を……居場所を得たのです」


 一見いい話だな、で済むのだろうけどそれでも未だにお前ら引きこもり呼ばわりされてますから……。

 しかしその話が本当なら、エルフがその立ち位置を確立したのはそれほど昔の話ではなさそうだ。


「それゆえエルフ族でコネホ殿を知らない者はおりません。彼女の推薦なら他の者達も文句はないでしょう」


「なら話は簡単だな。アイツから推薦貰って来るわ」


 幸いコネホになら今までの恩がある。簡単に推薦はもらえるだろう。こうなればもう魔道書は手に入れたも同然。


「…………そのときをお待ち申し上げておりますとも、ええ」


 無表情のクセに何か言いたげなエルフの村長の家を後にして、俺はコネホのもとへ向かった。







「――――推薦できるワケないじゃないか。バカかい?」


「なん、だと……!?」


 本日二度目の衝撃に、ついに俺の口から驚きが突いて出てきた。

 そんな馬鹿な……。俺が今まで築き上げてきたものはいったいなんだったんだ……。


「俺とお前の関係じゃないか」


「言い方気持ち悪いね!?昔の古傷を嬉々としてえぐりに来るような相手に誰が推薦出せるんだい!?」


 未だに前の事を引きずっているのか。なんでココで娼館を開いているのか聞きに行っただけなんだがなぁ……。


「そうじゃなくても常日頃の言動に問題があるアンタを、大事な商売相手の懐に潜り込ませられるかい。ここの魔道具はウチが一手に引き受けているんだ。ココで機嫌を損ねたら大損だよ」


「そこを何とか。オーガの族長も助けてやったろ」


「それを差っ引いてもアンタが起こした騒動の尻ふきをさせられているんだ。こっちもそれなりに貸しがあるんだよ」


「そんなもん忘れたに決まってんだろ」


「アンタは……」


 頭を押さえて頭痛に耐えるような仕草を見せるコネホ。

 どうした?更年期障害か?あんまり無理すんなよ、年なんだから。


「――――はぁー…………。どうしても、って言うなら条件がある」


 しばらく動かなかったコネホがようやく顔を上げてそう言う。

 条件、ね。


「内容によるな」


「まぁ、そんなに難しい話ではないんだけどね。まず、向こうさんに迷惑をかけない。絶対に、だよ」


「まずそこから難しいな」


「………………。次。アンタが持ってる炎龍の尻尾。アレを譲って欲しい」


「これか?」


 『ススメ』のアイテムボックスからズルリと炎龍の尻尾、その先端を覗かせる。

 ドラゴンの襲撃の時、切り落とした尾を回収しておいたのだった。…………ほら、なんかの武器に使えそうかな、と。ウロコとか骨とか。

 決して焼いたらうまそうだなとか考えていたわけではない。

 というか俺がコレを持ってるのバレてたのか。見分された後にこっそり回収しておいたのだが。


「…………今更聞くのもアレだけど、どうなってんだい?ソレ」


「企業秘密」


「なんだいそりゃ……まぁ、いい。そいつの価値はとてつもない物になる」


「こんなこんがか?」


「未だに倒されたことがない炎龍の尾の現物。好事家でなくともそれに金を出すヤツはたくさんいるのさ。たとえそれがウロコのひとかけらでも」


 こんなものすら金になるのか……。いつかは腐り落ちるだろうに。

 コレを渡すのは正直惜しい。だがこれも魔法のため。涙を飲んで献上することにしよう。


「そして最後に――――」


「ちょっと待て。まだあるのか?」


「これっぽちじゃ割に合わないんだよ!」


 自分で『とてつもない価値のモン』を要求しておいて、それはないだろう。がめついバアさんだこと。

 さてはて、最後の要求は何かな――――――



「アンタが倒す予定の炎龍・・・・・・、その死体だ」


「…………」


 先程までのとぼけた空気が一気に引き締まる。

 コネホは鋭い視線を投げかけてくる。コイツ…………!


「アンタのここ最近の訓練の様子を見ていると、どうにも対大型魔獣の訓練に偏っている。道中の村で炎龍の行き先や情報を集めていたようだし、十中八九、アンタは炎龍に再戦を挑む」


 スパイどもの情報か。俺も取り立ててドラゴンを追っていることを隠しているつもりはなかったが、ここで出してくるか。


「…………人が追ってる獲物を横取りしようとはいいご趣味だな」


「勘違いしないで欲しいね。アンタがアレを狙っていたように、私らもあの化物に復讐したいと願っていたのさ……!」


 執務机の上でコネホの拳が握られる。肌が白くなったところを見るに、相当キツい力で握っているらしい。

 …………そりゃそうか。あのドラゴンが今まで暴れていたら相当な恨みを溜め込んでいるだろう。この老人も復讐者のひとりか。


「悔しいが私らの力じゃアイツは倒せない。だからワザワザアンタみたいな爆弾抱えてここまで来たんだ。…………ぶちのめす権利はアンタにくれてやる。私らはせめてその死体を切り売りして稼がせてもらうよ」


「もっともらしく言ってるが、つまるところ『自分らにできないから仕留めてください』ってところだろう。権利もなにもあったもんじゃない」


「いいや。私らは商人だ。売ったものには対価を求める。アンタに売ったのは情報――――道しるべだ。それがなければアンタはここまで来れなかった。その対価を払う時なのさ」


 商人らしいな。何にでも価値を見出し対価を欲す。下手に裏を探り合うよりはよっぽどやりやすい。

 が。

 かと言ってそう簡単に俺も獲物を渡すわけにはいかない。


「俺は俺の裁量でドラゴンの一部を貰う。お前らに流すのはそれ以外だ」


「…………良いさね。具体的な分量は持ち帰ってきてから詰めていこうじゃないか」


 交渉成立。いや交渉の下地か。

 モノはこれから。

 少なくとも天上殿会議オリュンポスサミットが終わって英雄召喚が行われるまではお預けだ。

 何はともあれこれで推薦は手に入れられる。魔法を手に入れられる。

 モノを用意できなくては折角の交渉も意味がないからな。精々戦力強化させてもらうさ。

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