村長と王族の違い
ええと……大変申し訳無いというか申し上げにくいのですが、『アクセス解析』というシステムに気づかずに居まして……。
いつの間にやら10万アクセスというかPV?突破していました!
ユニーク者数も1万とかいう数字になっています!
2014年1月27日現在で13万5千PV。ユニークは1万480人となっております。
驚きやら嬉しさやら申し訳なさで一杯です。
お気に入り登録者数=読んで頂いている人の数だと思っていました。本当にすみませんでした。
というかいつの間にこんな数に……。
お読みいただいてまことに、まことに!ありがとうございます!これからもお付き合いいただければ幸いです!
ダークエルフの特徴として、特にわかりやすいのはその褐色に焼けた肌だろう。砂漠に長いこと暮らしていた影響なのか、元々森の奥に暮らしていた色白のエルフが色黒になっているのは、現地の人間にとっては色々と衝撃的らしい。
俺はと言うと漫画なんかでその存在を知っていたので違和感なく受け入れていた。割となんでも受け入れやすい、という意味ではオタク文化の器は広い。今更肌の色が違う程度じゃ拒否感も起きない。
というかむしろ興奮する。
あのままオークが戦争に勝っていたらと思うとちょっと胸が熱くなるものがある。
夏だし、あの程よく色付いた肌にオイルがテカっているところを想像するとたまらないね。
…………もとい。
エルフ族に共通する事としてはその長く伸びた耳か。人間とは明らかに違う長さの耳が顔の横から伸びている。
漫画等と違う事といえば……その顔に感情が浮かぶことが圧倒的に少ないことか。
なんでもエルフ族は感情が種族的に薄いらしく、とっつきにくい事で有名らしい。怒るときは怒るし、悲しいときは泣くがそれでも日常の生活はほぼ無表情だ。
それでも森を愛するところとか、魔法に長けているところなんかは変わりない。
エルフの魔法は、人の魔法とは違って感情をトリガーにすることがない。魔力の直接行使が可能なのだ。
戦場でいちいち『愛してるよヘレーナ』『ああ、マイケル!』なんてすることがなく、ツガイ級の魔法を使うことが出来る。
…………なんで俺、エルフじゃないんだろうなぁ……。俺みたいな童貞にはエルフみたいな魔法の使い方の方が合っている気がしてならない。
はぁ……ツガイなんて絶滅すればいいのに……。
「…………なんか物凄くダメダメな事考えている人が居る気がするのです……」
「ほぉ。そんなこと考える奴が居るのか。ダメなヤツだなぁ」
「ご主人様の事なのです……」
人をダメ呼ばわりとは失礼な。
ダークエルフの村は戦時中、ということで物々しい雰囲気が漂っていた。
何しろあっちこっちで無表情のダークエルフが武装して歩き回っているのだ。どいつもコイツも無駄に美形なので威圧感が半端ない。
なので俺たちはもっぱら馬車の中で時間を潰しているのだった。
情報収集?何聞いても無表情で『ダメです教えられません』を連呼されたら聞く気も失せる。俺が聞くのが魔法関係ばかりだった、というのもあるが。
どうせコネホの方から報告書は上がってくるのだし、のんびり引きこもっていても問題ない。引きこもり万歳。
「ちゃんと人の話聞いてたですか?」
「ああ、村長・族長と王族の違いだろ」
今、丁度居る場所に関わる話だったので耳を傾けていた。
この大陸では各村、各部族単位での統治が行われている。中心となる交易都市国家エンコントロ・エストラーダは各長が集まって会議を行って決めている。
さて、ここでおかしなことになっているのは『王族』だ。
各村は『村長』や『族長』という名称で代表者を決めているのに、何故一部に王族という名称が使われているのか。
「そもそも村長、族長の違いはなんだ?」
「ええと、この大陸にその種族の源流があるかどうか、ですね」
俺の質問に金ダライに入った人魚姿のレリューが答える。
んん?つまりココ出身かどうか、ということか?
「大陸間の移動が盛んに行われていた時期がありまして、それによって新たにこの大陸に渡ってきた種族、他の大陸に出て行った種族がそれぞれ居ます」
「ああ、なるほどな。新しく入ってきた連中の代表が『村長』。元から居るのが『族長』か」
「そうなのです。族長の所はいわばその種族の故郷なのです」
今度はルイが答える。
これでようやく納得できた。族長は世界中に散らばっているその種族の長だ。対して村長はただの村の代表。
しかしそうするとやはり『王族』の特異性が目立つ。古来から居るというのなら『族長』も王族と呼ばれていてもいいはずだ。
「まず、今現在『王族』と呼ばれているのは『人魚族』『ダークエルフ族』のふたつです」
「その二つしかない王族の娘がコレだというのが未だに信じられんがな」
「酷いですっ!?」
そう思うならもうちょっと王族っぽくしてろ。
少なくとも話してる最中ずっと桃のタルト頬張ってるヤツを王族とは思わん。
「ま、まぁレリュー様のことは置いておくです……」
「置いてかないで欲しいですよ……」
「後で構ってやるから置いておけ」
「ひぃーん……」
ひぃーんて。
「このふたつの種族、それぞれ『藍玉碧湖』と『白砂漠』に拠点を置いていたです。この場所に共通する物があるのです」
「共通するもの……?」
まったく違う環境なのに共通する物……。なんだ?
魔物が出る?いや、意味が分からん。
開けた場所がある……。いや、森の中に作れば良いだろ。
考えろ。
白砂漠と湖。塩の砂漠と湖。
――――塩と水……?
「塩と水、か?」
「正解です。その二つは生活になくてはならない物ですね。それぞれを手中に収めていた種族は絶大な権限を持っていました。私の所は大陸の水利権をまるっと持っていましたので」
なるほど。
水の中に暮らす人魚族は水の管理をするにはうってつけ。そいつらの機嫌一つで作物の出来もまるで違うものになるだろう。
藍玉碧湖はこの大陸で最も大きな水場だ。その利権もとてつもなく大きなものになるだろう。
気温が高く日射量も多いこの大陸では、水利権を持つことはまさに命を握るのに等しい。
「力を持っている種族の下に降る所もあるだろうな。だから『王族』か」
「その通りです。私はこれでも偉いんですよ?」
「はいはい、偉い偉い」
「扱いがおざなりです……」
と言われてもな。
懐から干した芋(非常食、味付き)を取り出して目の前で振ってやる。するとレリューは金ダライから身を乗り出して手を伸ばす。
手が届くギリギリのところに居るのでレリューの指は芋を掠らせるのみだ。
コレを王族として敬え、と言われてもなぁ……。
「あっあっあッ!もうちょっと……!うぅ……ユージーンさん!下さいよう!」
「最近腹回りに肉が付いてきたからダメだ。…………つまり、砂漠の塩を管理していたダークエルフも同じように大きな権利を持っている、と。なら普通のエルフはどうした?」
「え、ええと、森の奥に引きこもっていて、あまり俗世間に干渉してこないようなのです」
「奇妙なもんだな。一応、本家に近いのはエルフの方だろうに」
「ダークエルフは地理関係上、他の部族との接触が多いのです。必然的に大きな力を必要としていたと思うのです。エルフは接触自体を避けているみたいです」
ダークエルフについてはまだ分かるが。
排他的な種族、というのはエルフに付き従うイメージだ。森に入った者、あるいは森を汚す者は弓で排除、みたいな。
ソレはさて置き。
ダークエルフの権限は砂漠に依存するものだというのは分かった。
だが、そうなると――――
「ダークエルフが何故、その利権を捨ててまでココにいるのかわからなくなったな……」
「?……オークの人たちが可哀想だったからじゃないです?」
「外の無表情なツラ見てそう思えるなら相当オメデタイな」
「む、むぅ……」
ルイは唸り声を上げて黙ってしまった。
そこだけが唯一腑に落ちん。裏側にあるのは何らかの政治的な理由だというのは分かったが、巨大な利権を捨ててまでやることなのだろうか……?
それからしばらく話を聞いてると馬車に新たな声が響く。
「たっだいまー。何の話ー?」
「にゃー!見て見てマスター!変な食べ物ー!」
外に買い物に行っていたケーラとチャルナが帰って来た。
こいつらはダークエルフの無表情にもめげずに元気に買い物に行っていたのだ。神経の太さが羨ましい。
「おう。おかえり。身の上話……みたいなものか」
主にレリューの。
それはさて置き、チャルナの持っているのは何だ?デカイ瓜みたいだが……。パッと見、なんということはない実だ。
「あー。これね。なんでも木の枝じゃなくて幹になる実らしいの」
「幹に?」
「そうそう。メチャクチャ苦いらしくて面白がって買ってきちゃった」
幹になる実。苦い。
となると……。
「そりゃカカオだろ。これで美味い菓子が作れるぞ」
「ええっ!?ウソ!?マジで!?」
「お菓子!?にゃうーっ!」
熱帯に生える樹木で、植物の中では珍しく幹に実がなるというカカオ。たしかあの実の中にカカオ豆があるはずだ。あのままいきなり料理には使えないから加工方法を知らなければ使えないが。
うまくすればチョコやココアが出来る。砂糖も旅に出る前に大量に購入しておいたから問題ない。
……というか加工前の物を買ってくるな。
「後で加工法を聞いておいてくれ。使うのは豆の部分で実自体は使えるのか分からん」
「うんっ!了解ー!……それで何の話だって?」
「今はルイの村の英雄の話。なかなか興味深いものだぞ」
俺の隣に座ったケーラに返事を返す。チャルナは……疲れたのか丸くなって眠そうにしてる。
なんでも各村には独自の英雄がいてそれを信仰しているらしい。
その信仰を今まで見なかったのは信仰同士がぶつかり合って宗教戦争がしょっちゅう起こっていたから、という理由からだ。中心となる石像が何度も壊されるので、表には出さずに隠れて信仰するようになったとか。
他種族が暮らすこの大陸の弊害か。
「――――それじゃ、お前のところでは護衛の仕事がダントツ人気なのか」
「はい。英雄のウルフェン様が王族の方をお守りして武勲をあげたのです。それに憧れるのか護衛につく村人が多いです」
国民性、というか民族性にも影響してくるから信仰や宗教というものは面白い。『ススメ』のメモにルイの話を書き付けながら続きを聞いた。
こういうのもこの世界の楽しみ方としてアリだろう。アリアリだ。アリーデヴェルチだ。
「そういやケーラのことは聞いたことなかったな。お前はどうして商団にいるんだ?」
「うわー……ユージーン、そんなあっさり聞くんだ……」
「今更何を遠慮することがある。めんどくさい」
「普通、娼館で働いてるんだからもうちょっと配慮みたいなものがあるんじゃない」
「必要ならする。いるか?」
「今更遅いよ。…………まぁそんなに珍しい話じゃないけどさ。口減らしってやつだよ。あの時は兄弟の中でも一番下だったからねー。人買いに売られてそっから逃げて、ひもじくて死にそうなところをコネホさんに拾われたんだ」
なかなか波乱万丈らしい。
暗い過去を背負っていても本人が明るいのは、今の状況を楽しんでいるからか。
「…………可哀想とか言わないの?」
「お前の能天気ヅラを見て、そんなこと言うなら目がおかしいのか、自分の価値観を人に押し付ける偽善者だろ」
「…………ユージーンってとことん変な人だねー」
何だその苦笑いは。
最近、ごく最近似たような物言いを聞いたような気がする。俺はそんなにおかしいか。
しっかし、あのコネホが人助け、なぁ……。
「考えていることが顔に出てるよユージーン。今はただの娼館の主だけど、コネホさんは本当はスゴイ人なんだよ?」
「そうは見えんがな」
「ホントだって!昔は商人を束ねていた巨大な商団のリーダーだったんだよ!その頃は商団はひとつしかなくて不便だったのに、コネホさんが分解して小分けにしてくれたから今の形になったんだよー!」
それが本当ならあのババア、かなりのやり手じゃないのか。
なんで今更、こんなところで娼館なんざやってるんだか。しかもケーラの話から察するに慈善事業じみた真似までしている。
そのへんの疑問をケーラに聞いてみたが、いい答えは返ってこなかった。
「んー……そのところは聞いても教えてくれないんだよね……。あんまり聞かれたくないんじゃない?」
「そうか、それじゃ今度聞きに行く」
「…………私の話聞いてた?」
「もちろん。その上で聞きに行くに決まってるじゃないか」
今はそこそこ良好な関係に見えるが、そもそもあいつと俺は仲があまり良くない。弱みがあるのなら積極的に狙いに行く所存だ。
「サイテー……」
「ご主人様、ゲスです……」
「流石にヒドイと思います……」
「マスター……」
一斉に非難の視線を向けてくる女子一同。
何とでも言え。今更どうということはない。
「むぅ……そう言うユージーンはどうなのさ?」
「俺?」
「私たち、ユージーンがどんなところで生まれて、なんでこの大陸に来たのかあんまり知らないもん」
「そういえば……聞いたことありませんね」
「確かに……です。そもそもなんでそんな幼さであれほど強いのかも分からないです」
あれ?言ったこと無かったか。
まぁ聞かれること自体が少ないし、そんな疑問が出てきてもおかしくないか。
当たり障りのないことだけ答えれば良いか。
「俺は春の大陸のアルフメートという国出身でな。この大陸には修行のために来ている。強いのはそういう風に鍛えてるからだ」
「へぇ……。そんな目的だったんだ」
「鍛えるだけで炎龍を倒せる訳がないです……」
ルイが懐疑的だ。
もうちょい情報出しておくか?
「付け加えるなら俺の家は名の知れた武家で施設も人材も揃っていたからな。強くなる下地は有ったわけだ」
「ありゃ?それじゃ結構お金持ちみたいだね?」
「ああ、何しろ公爵だったからな」
私設軍とは比べ物にならない人材と軍備があったはずだ。……俺はほぼノータッチだったが。流石に『ススメ』の事だとか、改造のことだとかは話せないので、納得できるような要素を持ってきた。
だが、ケーラたちの反応は悪く――――
「ユージーン……流石に嘘でもそれはないと思うよ〜?」
「ああ?いや、ホントなんだが……」
「いえいえ。いくらルイが里から出たことがなかった田舎者でも、別大陸の貴族の息子がこんなところに居るなんて嘘に誤魔化されないのです」
「そうですねー。それに人間の貴族の方ならもっとこう……優雅さが漂っているはずだと聞き及んでいるので、それは無いです〜」
「ほぅ……」
それは俺に優雅さが足りない、ということか。好き勝手言いやがって。
確かに見た目7歳(……じゃないな、そろそろ8歳か)の子供を死の危険がある別の大陸に送るなんて周りの大人は正気じゃない。
が。
そもそも俺の親はあのダリア家当主、ドルフ・ダリア。
心配しなきゃいけない筆頭が進んで我が子を千尋の谷に突き落とすような気性の持ち主だ。
仮にも公爵。他の貴族連中は何か言おうにも萎縮するだろう。アレに何か言えるとしたら王家か……もしくは妻のユーミィーくらいか。知らせる間もなく出発したから家に帰ったら悲惨なことになるだろうな。ドルフは帰ってからが地獄だったのかもしれん。
親父……オヤジの死を無駄にはせん。俺は今、自由を満喫しているぞ。
ま、個人的に付き合いのあったエミリアにはきっついお叱り受けてから来てるしな。アレもアレで帰ったら面倒そうだ。宿の主人達はどこか割り切った感があった。一応忠告はされたが深く踏み込んでは来なかったし。
「つくならもうちょっとマシなウソついて欲しいよねー」
「いっつも適当なこと言って誤魔化せると思っているようなのですが甘いです」
「確かに最近扱いがおざなりですよ」
俺が考え込んでいる間もケーラたちの話は続いていた。
黙って聞いていたがそろそろムカついてきたな……!
「大体、ユージーンって貴族のガラじゃないよねー?」
「そうなのです。いいとこ、下級貴族の五男坊ってところです」
「ですですー。ユージーンさんも見栄張っちゃって可愛――――」
「――――てめぇら……良い度胸してるじゃねぇか……」
『はっ……!?』
俺の様子にようやく気づいたのか、油の切れた人形のような緩慢な動きでこちらに振り返るケーラ、ルイ、レリューの3人。
俺は両手に持ったハチミツの瓶を持って立ち上がった。
「ゆゆゆユージーン……?そのハチミツ、どうするつもり、かな?」
「最近、お前らは食う側に回ることが多いみたいだからな。たまには食われてみろ」
「どどどっどういうことなのです……?」
「なぁーに。たっぷりコレを塗ってお外に放置するだけだ。簡単だろ?」
「ででっででもでも、そんなことしたら虫がたかって酷いことに……」
「なんとかして見せろ。優雅に」
「優雅に……出来なかったら……?」
「誘蛾灯になるだけだな。さぁ、行くぞ?」
「き、きゃあああああああああっ!?」
「ゆ、許して欲しいですー!」
「あ、あわわ……待って下さい!置いてかないでー!」
…………最終的に逃げたふたりがハチミツまみれでテッカテカに。
最初から逃げられなかったひとりがハチミツ塗れになった上、スタッフ(チャルナ)に美味しく頂かれました。
流石に虫が全身にたかる前に回収はしたが、しばらく虫と猫にうなされたそうな。