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問題児

 いや自分の家なのに自由に移動できないとか意味分かんねーから。それよりとっととイイトコ(書斎)行って、俺とイイコト(読書)しよーぜ?

とかよっぽど言いたくなった。

 どうもこのメイド――ナタリア、だったか?―――は自分の監視下に俺を置いておきたいらしい。動けるようになってからというもの、1000回以上脱走して己の興味が向くまま、調べ尽くす。とういうことを繰り返した結果、こいつはひと時も俺から目を離さなくなった。

 たかだか1000回だぞ?動けるようになった時期を換算すると毎日1・2回は捜索していた計算になる。そのたびに屋敷の連中総出で俺を捕獲に来る。うんざりだ。

もっと自由にさせて欲しい。 コイツのおかげで自分の置かれた状況を確認するので精一杯だった。



「いいじゃないか別に。ここ自分の家だぞ?俺が何しようが勝手だ。」



「いーえダメです!」



「・・・はぁ。そんなお堅いからお前の胸はまな板(超合金)から成長しな」   スコンッ!  「ウヒィッ!?」



「なにか、おっしゃいまして?坊ちゃん?」



「いえなんでもございません!」


 ここここいつナイフ投げやがった!右のもみあげが一直線に切り揃えられている。く、くそ!暴力に屈するものか!膝ガクガクしてっけど!


「と、とにかく!なんでダメなんだよ!?理由を言ってくれないと納得なんてできない!」



「・・・・・・・・・・・・チッ」



 舌打ちぃ!?こいつ舌打ちしたよ!



「いいですか坊ちゃん?坊ちゃんは興味のおもむくままに行動する癖があることをご自覚ください。」



「それがどうした。放っておけばいいだろう。このくらいのガキなんざそんなもんだ。」



「どこのガキがそんな客観的な意見を述べられますか。」



 だいたい―――とナタリアは後ろを振り向きつつ言った。

 そこにあるのは鉄板の山。


「どこの世界に父親の記録板カードを盗んで魔導用の鉄板を購入する子供がいるんです?」



 ああバレてら・・・。

 こいつが言うカード、記録板は提示された金額をカード内にチャージされた分から引き出す魔道具だ。元の世界のSuicaみたいなものか。

 カードとカードを接触させて金額のやり取りができるし、店なんかに置いてある装置でもやりとりが可能だ。

 この世界の銀行の役割をしているところ(ギルドなどが兼ねている)に行き、払った金額分だけチャージできるシステムだ。逆にチャージ分から硬貨に両替もできる。

 いちいち硬貨を持ち歩かなくて済むため、冒険者や行商人なんかに重宝されている。

 防犯体制もキッチリしていて今のところ、出所不明なお金がチャージされ、不当に硬貨になった、といことはない。そもそもこれに細工するのも難しいらしい。

 とはいえ、カードが本人認識を行うわけではないため、誰かのカードを手に入れられれば、あっさりと引き出したりできる。

 例えば―――――俺のように。



「いったい何時、坊ちゃんは抜け出して鍛冶屋に行ったんでしょうねぇ・・・?」



「・・・。」


 わざわざしゃがみこんで視線を合わせ、顔を近づけながら問うナタリア。俺は必死に顔を背けた。


「抜け出すだけならまだしも、行った先々でトラブルを起こすのは誰でしょうね〜?」


「・・・。」


 わざわざ回り込んでくるな!汗がダラダラと垂れてくる。


「情報収集と称して本を勝手に書斎に増やしたり、魔石を探しに森へ行って迷子になったり、魔物を連れ帰ってペットにすると言い出したり。

 そんなことをするのは、いったい、どこの、どいつでしょうねぇ・・・?」



「こいつがやりました。」



「キャウン!?」


 しれっとした顔で鉄板の方を指差す。そこにいたのは黒い大きな犬だった。こちらを見ながら「バカなッ!?」って顔をしているのはナタリアが話したペットになった魔獣だ。

名前はクロクロー。森を探索中に怪我をして弱っていた所を見つけて連れ帰ったのである。



 当初、この家の連中は連れ帰ったクロを見て、「問題児だけど根は優しいのね。」みたいな反応だった。

 いつもトラブルを起こす俺が、善行をしようとするのを見て感動に打ち震えているようだった。




 ところがどっこい。弱ったこいつを前にして俺は


「さて、魔獣の体内構造がどうなっているか、調べさせてもらうぞ。」


 と言ってぶっとい肉切り包丁を持ってきた。

 そう、別に俺は可哀想だから助けようと思ったのではなく、魔獣のことを調べようとして持って帰ったのである。

 元の世界にはいない、魔獣というものを俺は知りたくて知りたくてしょうがなかった。そこに降って湧いたように都合よく弱った魔獣が居たのだ。

 連れ帰らなきゃ損だろう。


 だが屋敷の連中はそうは思わなかったらしく、真っ青になって俺とクロを引き離した。クロも「こいつはやべぇッ!」って顔になってユーミィの後ろに隠れたんだ。

 そいつを渡してもらおうか、だの、痛い目にあいたくなかったら、だのと問答を続けた結果、魔術師であるユーミィと契約を結んで、クロは我が家のペットになった。

 所有権があるのは俺の母なので、渋々諦めた。流石にムチは怖かった。怖かったんだよ・・・。




 見慣れない物(鉄板)を嗅いでいただけなのに、いきなりありえない濡れ衣を着せられて驚いているようだ。その表情は「何を言っているのかわからねぇ!」とでも言いたげである。

 冷静に観察しているとナタリアが呆れたように言葉を返してくる。



「んなわけないでしょうが。とにかく理由は話したんですから納得してくださいよ?」



「理由を話さなかったら納得しない、とはいったが、話したからと言って納得するとは約束してないな。」



「・・・・!」


 あ、あれ?お嬢さんそんなに青筋浮かべてどうしたの・・・・?

 ナタリアはこちらに大きく踏み出して――――――思いっきり鉄板を踏みつけた。

それはナタリアのバランスを素晴らしくいい具合に崩してくれた。


「え?いきゃあああああああ!?」

 ドデーン!とでも表現したくなる音を立ててうつ伏せの状態で倒れるナタリア。

 あー。そういえば捕まるまいと逃げた時にいくらか鉄板の山が崩れたっけな。


「あいたたた。」


うめきながら身を起こすナタリア。その胸――――


「おおッ!」


「え?なんです?――――ハッ!?」


 俺の視線をたどって気づいたんだろう。ナタリアも下を向く。


「ちょ・・ちょっと見ないでください!」


 転倒の際に開けた胸元――――


「違う。」


「え?」


「お前の平ったいものじゃない!床だ床!」


 そこには一枚の鉄板が落ちていた。―――――割れた鉄板が。

その位置はちょうど倒れたナタリアの胸元あたり。 そこから導かれる事実はつまり―――――――


「鉄板より、まな板(超合金)のほうが、硬い・・・!!」


「い、イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ゲハアアアアアアアアア!?」


 絶望の声をあげるナタリア。空飛ぶ鉄板。衝撃を受けて歪む俺の腹。床に沈む俺。クロが呆れた目で全てを見つめていた。

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