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鬼と桃


 ルイが商団に参加してから一ヶ月。あいつもぼちぼち慣れてきたようだ。

 あの契約の際にいきなり態度が急変したので驚いたが、どうやら本質的に誰かの役に立つ、ということに対して快感を覚え……ゲフンゲフン。

 仕えるということに対して、生きがいを見つける性質たちらしく、酔いが醒めたあとでも前言を撤回することは無かった。

 当初はあまりの態度の違いに『まさかコイツこそ一目惚れしたか』などと考えたが、そうではなく仮とは言え主人ができたのが嬉しかったようだ。しかしそう考えると、ルイはかなりのマゾ――――


「…………なんか物凄くシツレーなこと考えてないです?」


「はっはっは。こんな紳士じぇんとるがそんなこと考えるわけあるまい」


「誤魔化すにしてももっと別のやり方があると思うのですよ……」


 まったくゲスなご主人様です、と溢すルイ。

 セクハラ的な発言をしてもルイが主従関係を解消しないのは、俺があの時言った『下心』のギセイを出さないように近くで見張るため、らしい。

 俺からすればただの免罪符というか、建前のように見えるのだが、本人は大真面目だ。


「そんじゃワンコロ。棒の先に意識を集中して、自分の体温を分け与えるイメージで振ってみ」


「はい……ってルイは犬じゃないです!」


「ただのテンプレだ。気にすんな」


 現在、ルイには『発火』の魔方陣を刻んだ、ただの木の棒を渡してある。

 簡易魔道具を使ったちょっとした実験だ。


「うぐぐ…………上手くいかないです……」


「ふむ……お前、『古代遺物アーティファクトの剣』について話してたよな?アレを扱ったことはあるのか?」


「いいえ、あれは村の大切な宝なのです。そこらの村人が簡単に触れる物ではないのですよー……。ふんっ!せいあっ!ちょわーっ!」


 どうやら上手く発動できないらしい。

 獣人には魔道具の発動ができない、というわけでは無いだろう。村に伝わる剣が古代遺物なのだとしたら、使えない剣を後生大事に取っておくわけがない。

 出がけにルカにも棒を握ってもらったが、発動もせずにいた。アイツは村の剣を使ったことがあるらしいが、棒は煙も上げず、沈黙を保ったままだ。

 ちなみに俺は普通に使える。

 これはつまり――――


「――――古代遺物には2種類・・・ある、ってことだよなァ……」


「え?でもそんなの聞いたことないですよ?」


「そりゃ、流通してる絶対量が少ないからな。比較実験してるやつなんざ少ないだろうし」


「ふーん…………でもご主人様は簡単に作ってたです。なんでです?」


「そこはほれ、紳士じぇんとるだからな」


「紳士スゴイですっ!?」


 頭に『変態』と付くタイプの紳士だがな。適当に誤魔化して思考を続ける。


 チャルナの『変化の輝石』、『村の秘剣』などの、魔力の放出ができない獣人にも使えるタイプ。

 俺の『拳銃型魔道具フライクーゲル』やこの木の棒のような魔力の放出により使えるタイプ。

 この二つがあるのではないかと考えている。


 『輝石』には魔方陣が刻まれていない。そこから考えて抱いた疑問だったがそこそこ当たっているはず。

 問題は獣人にも使えるタイプの方だ。

 どんな原理で、何を原動力にしてその力を行使しているのか。

 それとも俺の知らない何かのせいで、実験が不発なのか。

 疑念は尽きない。


「あっ!ご主人様!次の村が見えたですよ!」


「ん。おう。んじゃ下に降りてレリューとチャルナとケーラを起こしてこい」


「了解なのです!」


 尻尾を振りながら馬車の屋根・・・・・から降りるルイを見送る。

 ――古代異物の持つ可能性。

 この世界にはまだまだ俺の知らない力があるのかもしれない。




 着いた村は薄ピンクの花がたくさん咲く木々の茂る場所にあった。

 あれはどうやら桃らしい。その木の幹に空いた穴に住んでいるのが今回の村人だ。

 住んでいるのはフェアリー。身長三十センチほどの小さな妖精だ。小柄な少女の姿にトンボのような透き通った羽を持つ。

 光る鱗粉のような粉を落としながら飛び回っている姿は、童話の一ページのようでとても綺麗なのだが……。

 そこかしこで飛び回って非常に…………うっとおしい。


「…………うぜぇ……」


「そだねー。大きさが違うから結構気を使うし」


「でも可愛いですよー?」


「うにゃあー」


「あ、こら!ダメです!食べちゃダメなのです!」


 飛びかかろうとするチャルナにルイが待ったをかける。いや、まさかレリューに対してじゃないよな?

 旅慣れたケーラは、イタズラしようとひっついてくるフェアリーをやんわりと離している。ちなみに俺には怖がって一匹たりとも近寄ろうとしない。ま、ベタベタ触るなら野郎よりも女の方がいいだろう。

 ここでは桃が特産らしいので近くのやつからある程度買い取っておいた。足が早い桃もアイテムボックスの中なら劣化しないからいくら買ってもいい。


 さておき、俺は各村で情報収集をしている。近くの生態系の異変や強い魔物なんかの情報だ。必然的に村人が活動している日中の聞き込みが主になる。

 そしてここは夏の大陸だ。日中の活動がどのような変化を及ぼすか。考えるまでも無いだろう。


「ぅ暑〜……」


「そ、そうですねー……」


 日頃から夜間に活動しているケーラと、基本的に水の中が生活範囲のレリューが弱音を上げる。全身から汗を流していかにも暑そうだ。


「う、うにゃあ〜……」


 チャルナなんかは猫に戻っているために、毛皮プラス黒色の効果で見てるだけで暑い。燦々と降り注ぐ太陽光線がチャルナのところにだけ集中しているような気さえする。

 というかアレはもはや黒い毛じゃなくてコゲなんじゃないか?


「みんなだらしないですよー。こんなの心頭滅却すれば涼しいのです」


 娘たちの中で唯一平気そうなのは、最近まで普通の生活をしていたルイだ。トボトボと歩く中で一人だけ快活に足音を響かせる。

 涼しい夜の間だけ動くようになると、昼に動こうとしてもダメらしい。エアコンの効いた部屋で過ごした奴が突然外に出されると、普段以上に暑く感じるようなものか。


「みんなご主人様を見習うですよ!この暑いのに汗一つかいてないです!」


「……なんでユージーンだけそんなに平気そうなのよ?おかしくない?」


「ずっこいですよぅ……」


「なう〜……」


 ルイ以外の全員がジトっと湿気の高そうな視線を向けてくる。

 なんで、と言われてもな。


「そりゃ俺は『冷風』の魔法で服の中を涼しくしてるしな」


「ええー!何それ!ずるい!」


「本当にずっこいです!」


「うう……ちょっとでも尊敬したルイが馬鹿でした……」


 何故か一斉に非難された。これでも結構大変なんだけどな。常時魔力を一定量放出しながら歩いてるので訓練にもなるし。


「…………うにゃ」


 チャルナが熱気に負けたかのように、敗残者の顔をして服の中に潜り込んできた。

 まぁしょうがないか。


「あー!チャルナちゃんまでずっこい!」


「わ、私も入ります!」


 暑さで頭がおかしくなったのか、レリューが変なこと言い出した。

 なんか目が尋常ではない輝きを放っている。


「はぁ!?おま、大きさを考えろ!アホか!」


「るっさい!ほら服の裾開けて!」


「あ、ちょとひんやりしてます!」


「腕突っ込むなぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ああ!?冷気が!?せっかく溜め込んだ俺の冷気が!?


「…………ついて行けないのです……。これが異文化交流の弊害なのです……」


 ルイ!なんでちょっと寂しそうな顔してんだ!いいから助けろ!





 ……結局冷たい水を振舞って、他の連中にも冷風の魔法をかけることで冷気争奪戦は終戦した。魔方陣×5をずっと並列起動するのは結構な負担だ。

 戦闘用魔法よりは処理が軽くて済むが、ずっと起動しておくのが面倒くさい。常に感情を波立てておかないといけないからな。


「――お?お客さん疲れた顔しとるんよー?これで気付けでもしたらいいんよ」


 おっと。村人発見。イントネーションがなんか変だがフェアリーの特徴なのだろうか?

 見ればコップに何かの液体が注がれている。薄桃色でやや濁っている。これは……酒か?


「村特製の果実酒なんよー。口当たりが良いから子供でも飲みやすいんよー」


「いや、いい。遠慮する……」


 後ろに酒乱がいるからな。

 そんなことよりも情報の提供を求めた。


「この辺で厄介な魔物……?うーん……魔物はいないけど、ちょっと困ったのがいるんよー」


「困ったの?」


「この辺ではよくオーガが出るんよー。見境なく人を襲うから手を焼いてるんよ」


 オーガ?オーガってのは――――


「――アレみたいな?」


「……え?」


 俺が指差す先に木を振りかざすオーガが見えた。

 …………またなんか面倒事の香りが……。


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