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幕間:レリュー視点

―――――レリュー視点――――――


 最近、ユージーンさんが不機嫌そうです。

 ルイちゃんが私の護衛になって、その後でユージーンさんと主従関係になったとかで、人数も増えて毎日とても楽しいのですが……。

 ユージーンさんは違うのでしょうか?




「ああ、違う違う。そうじゃない」


「ええっ!?」


「ん?いや、だから、俺が不機嫌なのは毎日が楽しいとか関係ないから」


「ああ、そちらのことでしたか。毎日が楽しいのはなによりです」


「いや、楽しいとも言ってないんだが……」


 一日ずっと馬車の中も気が滅入るということで、こうして夜間に馬車が止まっている時は外で遊ぶように言われています。

 私も久しぶりに人魚の姿に戻って、藍玉碧湖の水に浸からせていただいてますし、チャルナさんとルイさんも剣を片手に・・・・・ジャレあってます。

 その時に思っていた事を思い切って聞いてみたのですけど……。


「それではなんでですか?」


「んー。まぁ要は『エサに魚が食いつかない』からイラついてんだよ」


「エサと魚、ですか……?」


 ユージーンさんは水面から顔を出している私と話しているので、湖の方を見て話をしているのですが、そこには釣り竿なんて見えません。

 手元にあるのは……黒い手袋?


「どこに釣り竿があるんです?」


「ああ、釣り竿はないけどエサはあるな。今、目の前に」


「……?どこですか?」


 ユージーンさんはそういうのですけど、どこにもエサなんて――


「お前だお前」


「はい?」


「魔人共が食いつくと思ってワザワザ隙を見せてんのに、まったく食いつきやしない。お前に利用価値が無くなったのか、それとも他の理由が――――」


「わ、私の事だったんですか!?」


 ヒドイです!ユージーンさんが魔人達を懲らしめたいのは知ってましたけど、そんなことするなんて!


「ご丁寧に警備にも穴開けて、俺も離れてみても姿さえ見せやしねぇ……。

――ん?どうしたレリュー?そんなに膨れて?」


「もう!もうもうもう!ヒドイです!そんなユージーンさんなんてこうです!」


「おお!?うわっぷ!」


 尾びれで思いっきり水を掬ってかけてあげました!

 見事に水浸しです。

 私だっていつもならこんなことしませんけど、今回はいくらなんでも我慢できませんでした。

 王女様だって怒るときは怒るんですよ!?


「――レリュー……テメェ……いい度胸してるじゃねぇか……!」


「知りません!ユージーンさんが悪いんです!」


 ユージーンさんは凄んでみせますけど、もう怖くはないです。

 この方は色々とヒドイ方ですけど、本当はちゃんと分別はつけられる方なのは、短い間でも分かりました。

 粗暴で乱暴で、もう本当にヒドイ方ですけど、今では安心して一緒にいられるんです。

 …………ま、まぁまだちょっとだけ怖いですけど……。


「あー……チクショウ。これまで水浸しじゃねぇーか……」


「あ、すみません……。大事なものでしたか?」


 見れば先程まで手元にあった手袋がびしょ濡れになっていました。烏の濡れ羽色というんでしょうか?水をかけられたというのに、その手袋はとても綺麗な色艶を放っていました。

 ひと目で上等なものだと分かるシロモノです。

 もし、誰かからの大切なプレゼントだとしたらどうしましょう……?


「ある意味大事なものだ。なんせ魔法の道具……になる予定だからな」


「魔法の道具……古代遺物アーティファクト、ですか?」


 だとしたら物凄く高いはずです。

 でも、『なる予定』っていうのはどういうことでしょうか……?

 ユージーンさんはもう片方の手に持っていた、針と糸で黒い手袋を数回縫いました。

 それで完成したのでしょうか。手に嵌めて数回確かめるように握ったり開いたりしています。


「さァて、上手くいってくれよ……」


 なんでしょう?

 ユージーンさんが魔力を込めたと思ったら、シャボン玉みたいな光の玉が手の平から浮き上がってきました。

 綺麗な赤色をしています。

 パアァァン!


「きゃっ!?」


「よしよし。ま、こんなもんだろ」


「び、びっくりしました……」


 いきなり光の玉が破裂して、中から真っ赤な炎が小さく広がりました。

 結局今のはなんだったんでしょう……?





「そういやぁ、エサといえばお前初めて会った時、釣られたよな?つまり俺が吊るしたイモムシに食いついたってことなんだよな?」


「ええっ!?」


 な、なんでいきなりそんな話に!?誤魔化すにしてももっと別の話題が有ったでしょう!?

 わざわざこんな話題を選ぶなんてやっぱり意地悪です!


「ち、違いますよ!?」


「いやはや、いくら逃避行で腹を空かしていたからって、あんなイモムシに食いつくなんて……どんだけ食いしん坊なんだ?」


「食べてません!あ、あれはちょっと針が引っかかっちゃっただけで、私はイモムシなんて食べてません!」


「つまり食いしん坊ではない、と?」


「そうです!」


「ふーん……それだけ食べてまだ食いしん坊じゃない、って言われても、なぁ?」


「うぐ……」


 水面から顔を出している私の近くの地面には、山になった小魚の骨がうず高く積まれ、今まさに手を伸ばそうとしている先には、火で炙られている美味しそうな魚たちが。

 だ、だって!ユージーンさんの作る料理が美味しいのが悪いんです!あれだけ粗雑な人なのに、味付けは香辛料の使い方を工夫した繊細な味だなんて反則です。


「お前、ホントは人魚とかじゃなくてオーガだったりしないよな?」


「わ、私あれほど大食いじゃないです!」


「いいから、ほらそこどけろ。ったく、海水なんてかけやがるから、一回水で洗わんといけないだろうが」


 そう言ってユージーンさんは着ていたシャツを脱いで木に掛けようとします。

 ………。

 …………海水・・……?


「あのユージーンさん?」


「ん?なんだ?おかわりがいるなら自分で取ってこいよ?」


「あ、いえ、そうじゃなくて……私がかけてたのはただの水ですよ?」


「は?何言ってんだ?」


 ええと、何を言っていると言われても……。

 この藍玉碧湖の水は海水でもなんでもなく真水なのですが。

 そう言うと驚いたように目を大きくしています。それほど意外だったのでしょうか?そもそもなんで内陸のこの湖に海水があると思っていたのでしょう?


「いや、だってあれだけデカイ塩の砂漠があるし……」


 うふふ。日頃知ったかぶりをしているユージーンさんでも、そんな勘違いをするなんて。

 水に塩を混ぜたからといって、海水になるわけではないのですよ?

 そんな勘違いするなんて、普通の子供みたいです。

 ユージーンさんはそのちっちゃいお手々を伸ばして、湖の水面から水を掬って口元に運びます。


「…………本当だ。しょっぱけも無い。潮の香りがしないのは森に囲まれているせいだと思っていたが……」


「あ、あの……ワザワザ私の近くの水で味見しないで下さい……」


 なんとなく恥ずかしいです……。


「………………」


 ユージーンさんはそれまで喋っていた口元に手を当てて、考え込んでしまいました。水面をじっと見つめて、何を思っているのでしょうか?

 その横顔を見ていると、ふと私も考えてしまいます。

 彼は一体何者なのか、と。


 魔人といえば、その言葉が聞こえただけで人々は身を固くしてしまうほど、恐ろしい存在です。

 魔王の手先、破滅の使徒。個人の力でどうにかなる魔物から知性を得た魔性の者。

 一度、その存在が確認されれば大きな都市が一つ消滅してしまう。そう言われるほどの怪物。

 それを2人相手にしながら犠牲を出さず、自らも傷ついていない。

 魔人の気まぐれでしょうか?いいえ。ありえない。

 あの時の魔人は必死で、ただの人間の子供が障害になったからって気にも止めないはず。

 だとしたら、彼は魔人すらも止めうる力を持っている、ということになります。

 なんど考えてもその結論しか出てこないし、魔物相手に立ち回る所を見ています。その実力は確かなもの。

 でも、彼は一体なんなのでしょうか?

 私よりも年下の子供で、魔人よりも強い。挙句に炎龍を退けたとも。

 もしかしたら、本当の怪物は――――



「……お前本当に人魚か……?」


「はいっ!?」


 いつの間にか。

 ユージーンさんは水面から私に目を移していて、本当に疑わしそうにしています。

 と、いうか……。


「わ、私は本当に人魚ですってば!」


「でも、そうするとなぁー……」


「なんなんですか!もぉー!」


 うぅ……やっぱり私にとってこの人は怖いとかスゴイとか言う前に、すっごく失礼な人です。

 私、一応王女なのに……。

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