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ルカの約束

はーい!山に登った、という記録を最後に、五日間更新が無かったからって作者が死んだとか思った人ー。


……………まことにすいませんでした。

ちと仕事の方で身動きのできない状況になってまして、更新できませんでした。

これからしばらく更新が不定期になるかもしれません。

そちらも合わせてお詫び申し上げます。


 決闘の終わりとともに、チャルナの結婚騒動も終わりを見せた。

 ……というか、今回のコレは自作自演の狂言だったらしい。


 ロジャーには好意を抱いてる女が居たが、そいつはお世辞にも器量よしとは言えない容姿らしく、村の中での孤立を恐れて受け入れられなかったとか。

 ロジャーも村の中じゃ一番の実力、ということで、慕っている女の数もそれなりにいるらしい。そいつらの恨みでも買ったら大変だからな。

 そこでロジャーが計画した……というか思いついたのが、チャルナをムリヤリ手篭めにして自分の株を下げる、というものである。

 いくら村の掟でも、望まない結婚など反感を買うだけだからな。


 当初の計画では、チャルナとの勝負に勝って、その後に俺にコテンパンにヤられる予定だったとか。

 俺がチャルナを手放すことを良しとはしないだろう、との予測のもとに立てられた計画は、チャルナが勝つことによってあっさりと頓挫した。


『いやぁ、まさかあそこまで強いとは思わなかったよ』


 そう言って微笑むロジャーの横には看護に来ている件の娘がいたわけだが…………。その容姿についてはここには記さないでおこう。

 ――――ただ、一つ言えるとすれば、『髪上げれば実は綺麗なんじゃね?』ということ。





「――ったく。リア充の都合に振り回されただけかよ」


「いいじゃない。最後に思いっきりぶん殴っていたし」


「あれは……ちょっと可哀想でしたね」


「ヤキモチ?ユージーン焼きもち焼いてるの?」


「にふふ…………マスターが『俺のチャルナに手を出すな』って言ってくれた〜♪」


「んなこと言ってねぇ。俺が言ったのは『人のペットに手を出しておいてタダで済むと思ってんじゃねぇ』、だ」


 都合よく記憶の改変を起こしているチャルナの頬を抓む。

 既に猫獣人の村は出発して次の村に近づきつつある。今回は村どうしがそれほど離れていないようで、割合早く着きそうだ。

 最近はレリューの護衛に専念しているのでもっぱら馬車の中だ。そうしているせいで、ケーラやリツィオが集まってくるのだが。



 それはともかく。

 にゃーにゃー言ってるのを無視して、先程から馬車の隅にいる様子のおかしい人物に目をやる。

 この馬車には俺とチャルナ、レリュー、ケーラ、それとリツィオとルカが居るわけだが……。

 ルカの様子がおかしい。


「………………」(そわそわ)


 部屋の隅に陣取って、落ち着かない様子で居る。

 何だあれは?猫獣人の村を出発してからずっと『ああ』だ。終始落ち着かない様子で右往左往している。


「なんだアイツは?様子が変だが……」


「ルカ?あの子はほら、故郷の村が近いから」


 故郷?アイツの故郷って言うと狼の獣人の村か?


「妹が、ね。故郷で待っててさ。その子と約束してるんだって」


「約束?それがどう関係してるんだ?」


「その子……ルイって言うんだけどね。彼女はなんていうか……真面目すぎてねぇ……」


「…………それはルカあれよりもか?」


 コクりと頷くリツィオ。

 マジか。あいつも結構真面目で面白みがないんだが、ルカ以上と言うと頑固頭過ぎて融通効かないだろうな……。


「ルカの一族は代々誰かに仕えることで生計を立ててる一族なんだけど、それをルイちゃんは重く受け止め過ぎていてね。なんていうか……仕える主を探そうと、すぐに飛び出していこうとしちゃうんだって」


「――――なんだそりゃ……」


 野良犬かよ。いや野良の護衛か。


「で、腕は立つんだけど融通が利かなくてねー。このまま出てもご主人様を見つける前に倒れちゃうか、その人に迷惑かけちゃうからって事で里から出してもらえないらしいのよ」


「……約束ってのはそいつを引き止めるになってることについて、か?」


「そうなのよ。『自分に勝てるようになったら里を出ても良い』ってね」


「なんだ。それじゃ楽勝だろ」


 この商団にアイツに勝てる警備の者なんていないくらいだ。ロレンスは技巧派ではあるがそれは技の幅が広いという意味で、ルカに勝てる訳ではないしな。

その妹がどれほど強くたって、まさか本職の冒険者より強いわけないだろうし。


「ううん……問題はそこじゃなくてね」


「ん?」


「約束するときに『商団で一番強い自分に勝てたら――』って言っちゃったんだって」


「んん??いや、だから、アイツに勝てる奴なんて…………あ……!」


「そう、君だよキーミ。炎龍を退ける男なんて他にいない。『一番強い』のは他でもないユー君だからねー。どう言い繕ったって約束は成立しないんだよー」


 そうか。そもそも前提が崩壊するから約束が成り立たないわけで。

 どうりで最近、本気じみた訓練ケンカをふっかけてくるわけだ。

 こっちはいい迷惑だが、ルカも俺がこなければ安泰だったので文句を言うのはちと理不尽か。


「んじゃあいつはにっちもさっちも行かなくなって困り果ててるわけか」


「そうそう。結局私にはどうしようもないから放置してるのよ」


「へー。つっても俺が何かしてやる義理もないしな。あいつがどんな風になじられるか見ておいてやるくらいか」


「悪趣味ー」


 ほっとけ。

 俺の言葉が聞こえているのかいないのか。当のルカは未だに眉根を寄せて落ち着かない様子で居た。

 さぁて。どうなることやら。





「決闘です!!やるったらやるんです!」


「――――こうなったかー……」


 俺に湾曲片刃の軍刀サーベルを突きつけているのは、後ろで申し訳なさそうに縮こまっているルカとよく似た相貌を持つ少女だった。…………その目尻は正反対につり上がってはいたが。

 ルカと同じ白い髪を腰まで伸ばし、髪留めで邪魔にならないようにまとめてある。夕日に白銀の髪の毛が透けて一瞬、美術品めいた美しさを感じた。

、年の頃はケーラと同じくらいか。

 こいつが件の妹、ルイらしい。


「…………事情はある程度聞いてはいるが、なんで俺がお前と決闘しなくちゃいけない?」


「貴方があの巡業商団ストローラーズで一番強い、と聞いたからです!」


「マジで信じたのか?俺の方にとばっちりが来るとしても、相当後だと思ってたのに」


 いくらなんでも初見で見た目子供の俺がルカに勝った、もしくはルカ以上の実力を持つと言われて、信じるような酔狂な輩はいないと思っていたのだが……。


「姉さんがルイに嘘を吐く事なんてありえません!」


「…………随分信頼されているじゃねぇかルカ」


「すいませんユージーンさん……。ちょっと付き合ってくれたら済みますから……」


 ハナっから説得諦めんな。

 とはいえ話に聞く以上に堅物そうだ。梃子でも動かない印象。

 それと…………暑苦しい。ルカは冷静で淡々としている分、妹の方は熱血さが倍増している気がする。


「ルイの騎士道にかけて負けませんよ!」


「騎士道、っつーならテメエの名前くらい名乗るんだな」


「うぐッ……!る、ルイです!ウルフェミア族、ルカが妹のルイ!いざ尋常に勝負ですー!」


 そこまで言うと踵を返して歩き去るルイ。食堂ココじゃ決闘するのは不向きだからどこか開けた所に場を移すつもりなのだろう。


「…………なんていうか……すごかったね。ルイちゃん」


「にゃあう…………」


「び、ビックリしましたー……」


「この前あった時から変わらないなー、ホント」


「…………すみません。ルイがご迷惑おかけして……」


 順にケーラ、チャルナ(猫)、レリュー、リツィオ、最後にルカのセリフだ。大体同じような感想らしい。

 しっかしまぁ……。

 キャラの作り込みが甘いっていうか、なりきれてないっていうか……。いまいちだな。


 あ。それと俺はやるなんて一言も言ってないぞ?





「何してるですーーー!!」


「ひゃあッ!?」


「……にゃう?」


「ん?ああ、なんだお前か」


 あの後ルイの向かった方向には行かず、馬車で護衛という名のリラックスタイムを堪能していると、当の本人が突撃してきた。時間はもう夜に差し掛かっているのだが。

 なにやら相当ご立腹のご様子だ。


「どうした?なんかお怒りのようだが?」


「どうしたもこうしたもないです!なんで決闘しに来ないで、呑気にご本読んでるです!?」


「そりゃお前、俺は行くなんて言ってないし、ましてや決闘するとも言ってないからな」


「む、む、むきゃーー!」


 あ、なんか爆発した。


「決めました!ボッコボコです!完膚無きまでにボッコボコですー!」


「おいおい、お前の言う騎士道ってのは戦いたくないヤツをムリヤリ戦わせるのか?イヤイヤやって勝ったとして、本当にそれは勝ったと言えるのか?」


「う、ぐぐ」


「もしそうだとしたら、大した騎士道だ。まったく。感服するね」


「むうう〜!」


 俺がアメリカ人のようなオーバーリアクションで首をすくめ、HAHAHA!と笑ってみせると、ルイが物凄く悔しそうに顔を歪める。狼の耳もパタパタと動いて落ち着かない。

 …………いいぞ。そのまま存分に悔しがってくれ。正直、決闘を持ち出された時は、面倒なことになったと思っていたが、こうして弄れるオモチャが見つかったと思うと悪くない。ああ、まったく悪くない。


「ユージーンさん、物凄く悪そうな顔してますー……」


「うにゃ」


「おっと」


 レリューに突っ込まれ、チャルナに頷かれて慌てて顔を引き締める。


「お、男なら売られた喧嘩は買うのが筋というものです!悔しくないんですか!?」


「それを言うなら女は大人しく家事でもしていろ、と返されても文句は言えないな」


「がう!?」


「なぁ、悔しい?こんなガキに言いくるめられて悔しい?」


「………………」


「ん?どうした何か言ってみ――――」


「…………ぐすっ…………」


「ッ!?」


「あー!泣かせちゃいましたー!」


 ポタポタとルイの瞳から雫が溢れる。

 しまった。やりすぎたか。

 春の大陸でセレナにやらかした時からまったく変わっていない。


「う、ううぅ〜……。泣いてませんん〜……。これは涙じゃないです……きしは泣かないんです……」


「うにゃー……」


「うぅ……こんな猫にまで慰められて……」


 チャルナがルイの膝に飛び移り、ペロペロと目尻を舐めて涙を舐め取っていく。その間にレリューが非難するような視線を俺に投げかけていた。

 なんだ。そんな目で見るな。たかだか女の涙でこの俺が、英雄になろうというこの俺が反省するとでも思っているのか。


「…………最低です……!」


「……何とでも言うがいい」


「ここまでやっておいて決闘しないつもりですか!?」


 な、なんだその気迫は。いつもの気弱なお嬢様っぽさはどこに行った。

 なんとなく気まずくなって目を逸らす。


「…………」


「どうなんですか!?やるんですか!?やらないんですか!?」


「…………」


「ユージーンさん!?」


 …………何故か『やらない』とは言えなかった。


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