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チャルナの結婚騒動2


 あれから。

 強情なロジャーとの会話では埒があかず、決闘することになった。

 …………何故か当のチャルナとロジャーが、だ。

 将来の嫁を力ずくで手に入れて、本当にうまくいくと思っているんだろうか?


「珍しくガチで怒ってると思ったら、たーいせつなチャルナちゃんにちょっかいかけられて独占欲爆発してたんだって?オネーサン感心しないなぁー。そーいうの」


「うるせぇ。ほっとけリツィオ」


「それで?なんで『ああ』なってるわけ?」


「……俺と戦って勝てるわけがない、だとさ」


 俺たちの見ている先には、武器を構えるチャルナとロジャーの姿があった。周りが柵に囲まれた、円形の広場の中心で2人は向かい合ってお互いの隙をうかかっている。

 周りにはこの村の住人たちが揃っていて、ちょっとしたお祭り騒ぎになっている。

 ロジャーが言うには『俺が勝てなかった魔物を軽々と殺す奴とやったって、勝てるわけがない』だとか。

 だったら最初から勝負をふっかけてくるなよな。

 こちらとしてはそんな馬鹿な話など知ったこっちゃないが、村の掟だとかで自分の意思を通すにはその強さを示さないといけない、だと。

 その結果、『ああ』いう状況になってるわけで。


 チャルナが負ければ、チャルナはロジャーの嫁に。

 チャルナが勝ったら、ロジャーは何か一つ言うことを聞く。

 武器の使用は自由。相手に後遺症の残るような攻撃は反則。

 無論死亡させるのも厳禁だ。


「――でもいいの?村の人に聞いたらあのロジャーって子、結構強いみたいよ?」


「そうじゃ……悪いことは言わん。やめておきなされ」


 突然、脇から声がかかる。

 老人?こいつは見るからに――――


「村長か」


「ほう……儂の正体を見破るとは……なかなかの使い手のようで」


「いやいや……どう見てもそうだろ」


 なんでちょっと強そうな雰囲気醸し出してんだよ。


「ロジャーはこの村の若手の中でも、とっぷの実力を持つ者……。相手が『溶解腐肉メルトゲル』でなかったら、助けられるようなことはなかっただろう。あのような幼子おさなごでは勝てる訳が……」


「そうだよユー君?いくらチャルナちゃんが強くても、アレくらい身長差があったら……」


 確かに、いくらチャルナが成長著しい、と言っても二十歳近いロジャーとでは一回り以上の体格差がある。

 普通に考えたら勝敗の結果は明らかだ。

 ――――だが。


「…………お前らはホントに何もわかってないな」


「え……?それはどうゆう……?」


「お。始まるみたいだな」


 俺たちの心配を他所に、広場の中では戦局が動こうとしていた。



 獣人特有の身体能力の高さでもって、ロジャーが手にした片手剣でチャルナに斬りかかる。

 刃を潰してあるとは言え、重量のある剣での一撃だ。まともに体に当てれば怪我では済まない。


「うにゃああああッ!」


 チャルナその一撃を軽く躱すと、手にした双剣をロジャーの体に叩き込む。

 双剣を同時に叩き込んでの一撃。

 左と右でバラバラに打ちかかる連撃。

 交差した一瞬で、数回の剣擊を叩き込む。


「くッ!このぉッ!」


「にゃッ!にゃッ!うにゃあッ!」


 ロジャーが苦し紛れに放った攻撃も、チャルナにとっては隙でしかない。

 懐に踏み込まれてまた反撃を喰らうだけだ。


「すごい……!当たらない……!」


「おお……!なんと……!ああまで軽々と動けるとは……!」


「これくらい当然だろ」


 ロジャーの攻撃がおお振りというのを差し引いても、チャルナの動きは素早い。今も斬りかかるロジャーの攻撃は空振りし、チャルナの連撃は当たる。

 その実力の差は傍目に見てもはっきりと分かる。


「――――なんせ、アイツはこの俺とずっと戦ってきたんだぞ?」


 武術に長けた家に生まれ、改造チートをその身に施された俺が、ずっと練習相手として選んでいたのがチャルナだ。

 実力差がある相手に鍛えられ、魔物という実戦を長らく続けてきたチャルナに、たかだか村のトップ程度が勝てるわけがない。

 俺に勝てずとも、チャルナの実力はそこらの冒険者よりもずっと高い。




「ま、とはいえあいつにも欠点はある」


 先程から何度も攻撃が入ってるにもかかわらず、ロジャーは倒れない。

 火力パワー不足だ。

 いつもなら剣の鋭さと勢いで致命傷を負わせるのだが、今は刃を潰され、過度の攻撃を禁じられている。


「じゃ、じゃあマズいんじゃない?このままじゃスタミナ切れていつかは当たっちゃうよ。ずっと躱せるわけじゃないだろうし……」


「いいや、当たんねぇよ」


 何度アイツがチートと戦ってると思っているんだ。

 その証拠に先程からチャルナの攻撃が変化していた。


「せぇいッ!そにゃッ!」


「くぅッ!俺の手を……!?」


 そう、チャルナは俺に攻撃が通じないと、大抵小手の要領で武器の持ち手を狙ってくる。ダメージで握りにくくなる上に、衝撃で武器を取りこぼしたら一気に責められる。

 俺とのワンサイドゲームに業を煮やしたチャルナが編み出した、卑怯とも言える戦法だ。

 野生の勘か、生来の才能か、はたまた子供の遊び心か。

 あいつの編み出すモノは、トリッキーで俺もかなり苦しめられた。


「村の連中全員、アイツをなんだと思ってるんだ?」


 ちょっとした優越感とともにそう溢す。

 ついにチャルナの攻勢に、ロジャーが耐え切れず片手剣を取り落とす。


「にゃあああぁぁぁぁぁあああああ!」


 その隙を逃さず、チャルナが素早く走り寄り剣を薙ぐ。

 すり抜けざまに一閃。

 柵を蹴って反転し、さらに一閃。

 銀の軌跡が空間に×の字を残す。

 昔、冗談で教えたゲームの技、『Xクロスターン』だ。


「アイツはこの俺のペットだぞ?負ける理由がない」


 俺の言葉が終わるとともにロジャーの体が地面に倒れた。





 シーンとした空気が当たりを満たす。


「――――それまで!勝者チャルナ殿!」


 静寂を割り裂いて、村長の宣言が響く。

 少し遅れて響いた喝采の中、驚いているリツィオが口を開く。


「随分信頼してるのね?心配もしていなかったみたいだし」


「俺が?はッ!冗談はよしてくれ。当たり前の結果だろ」


 前と同じ、俺はただ知っていただけだ。


『マスター?結局、けっこん?するとどうなるの?』


『んー……。俺の代わりにロジャーと一緒にいなきゃならなくなる』


『うにゃ!?じゃ、じゃあマスターとは!?』


『たぶん会えなくなるんじゃないか?』


『いや!ぜぇーったい!けっこんイヤぁ!』


 ――――アイツが、俺に依存しているチャルナが。


「まぁすたー!勝ったよー!褒めて褒めてー!」


「…………ああ、たまには褒美もいいだろ」


 ――――俺の期待を裏切ることはない。

 その事実を。

 知っていただけだ。

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