プロローグ
―魔法。それはこの世の理から外れた力。自然界には存在し得ない現象。これを扱えるのは人類種と一部の魔物のみである。
―――少なくとも、この世界、サグール・カナフでは。
人類種の魔法の発動プロセスは
1 火種となる感情を喚起する
2 感情によって引き出された魔力を脳内にある仮想空間に構築した魔法陣に流す
3 仮想空間から現実に現象として顕現させる
という三段階に大まかに分けられる。
規模の小さい魔法(火をおこす、コップに水を満たすなど)は単独でも展開が可能だ。
しかし、戦闘に使用できるほどの規模になると話は変わってくる。
例えば、バスケットボール大の火球で敵を焼く魔法を使うとなると、まずそれほどの魔力が必要になる。
そして魔力を引き出すために感情を喚起するのだが・・・。これが人ひとりでは難しい。
どうしたって個人ではそれほど大きい感情を出し得ない。
感情とは人と人、人格どうしでのつながりで生まれてくるものだからだ。 そこらの木石と感情のやり取りなどできない。
できるとしたらそれはそれで問題である。
ならば記憶から感情を引き出す―――
ようは昔の腹立たしいこと、嬉しかったことなどを思い出して魔力を引き出せばいいではないか。
そう考える者もいた。
しかし、記憶というのは風化する。
どんなに感情が揺さぶられたことでも何回も思い返すうち、何年も経つうちに薄れていく。……記憶に付随する感情などは特に。
さらには詳細を思い出そうとするあまり魔法として行使するのに時間がかかることもある。
また、記憶から喚起した感情は何故か魔力を引き出しにくい。(変換効率が悪い)「生」のものに比べて、威力は低く、速度も劣り、効率も悪い。
命のやり取りをする戦場では、文字通り命取りだ。
ではどうするか。簡単である。
その場で感情を喚起する「生」のやり取りをすればいい。
例えば―――眼の前にある光景のように。
「ケイト、この戦争が終わったら、俺と・・・・・結婚しよう」
「マーク・・・!!嬉しいわ!」
なんのフラグ立てだ、と思うような一場面と共に、
「ぐあああああああ〜〜〜!!」
「ぎぃやああああああああああああ!!!」
前線に居たムサいおっさんが吹き飛ばされる。
敵軍のカップルを中心に、放射状に兵士の列が崩れた。
「ち、畜生!!ダルタニスがやられた!」
「ボルドス!ボルドーーーーース!!」
広がる阿鼻叫喚。それをユージは後方の陣で半笑いで見ていた。
敵軍カップルの仲睦まじいオーラの圧力に、鍛錬一直線で青春を生きてきたおっさん方が耐えられなくなって吹っ飛んだ、わけではない。
魔法の行使により発生した、放射状に広がる衝撃波がぶち込まれたのだ。
前述の通り、魔法の行使には感情の喚起が必要だ。そしてこの世界では男より女の方が魔力に優れる。
必然的に魔法の行使形態は―――
「戦場でもきみの美しさは変わらないなキャサリン・・。安心してくれ・・・・・あの野蛮な連中を近づけさせたりはしない。僕が君を・・・守ってみせる!」
「ジョージ・・!あなた・・・!」
「くそおおおおおおおおおおおおお!」
「うわあああああああああああああ!」
女性をイケメンが口説き落とす、という形になる。
――――これは、この奇妙な異世界へと転生した、とある青年、ユージの物語。