表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

犯人を追え!~終結編・さらなる影へ~

間が空いたりする不定期更新小説ですが更新頑張りたいと思います。

次回も一週間後くらい予定にしたいです。

これまでのお話


ブランジュ王国の絶世の美女アデルハイドは政治にも口出しする才色兼備のお姫様。

隣国から来たフランツは男でありながら美女のような容姿でしかも姫に姿が似ていた。

フランツは姫の影武者にされてしまい、厳しい訓練を経て姫としてデビューすることに。

そしてデビューしたてのフランツに次のさっそく仕事が。「姫の従者が刺された、姫の身代わりをしつつ犯人を探せ!」

容疑者は絞られた。危険な貴族テルミドールか、はたまた・・・唯一の仲間だと思っていたガスパールか。




姫の乳母との不毛なやり取りのせいでガスパール伯が部屋を飛び出して、かれこれ10分くらいが経ってしまっている。


早くガスパール伯とテルミドール侯の決闘を止めねば。決闘にどちらが勝ってもガスパールは滅亡だ。


決闘は禁止令が出ているにも関わらず、私的な決闘が結構行われている。


違法でも、大抵は貴族同士がやっているので国王陛下が特赦してしまうからだ。


今では身分違いの決闘も平然と行われているので、位が低いガスパール伯がテルミドール侯に決闘を申し込んでも問題はない。


しかし事が事だ。姫の家臣のひとりであるデュサンヌ殺人未遂の容疑がガスパールに掛かっている中で例え勝利しても口封じと取られてしまう。


それだけではない。ガスパールは姫の忠臣のひとりでもある。姫の家臣の中で問題があると発覚してしまえばアデルハイド姫自身にもあらぬ噂が飛び火するだろう。


こうなれば仮に国王陛下の特赦があっても、国王の感情は大きく害することは必至。宮廷は王を中心にまわっている。


王が全ての世界だから感情を害することは宮廷人のガスパールにとっては死刑宣告も同然だ。


さらに話によればテルミドールは何度か非公式の決闘を申し込まれていて、確認が取れるだけでも6人は殺している。

銃で2人、剣で4人。負けは無い。


半面、ガスパールは血の気が盛んな南部人には珍しく決闘をしたことすらない。


姫の影武者としても、ガスパールの友としてもこの決闘を止めねばならない。


フランツは宮殿内の姫のプライベート区画にある控えの間に急いだ。


ガスパールが向かった先は察しがつく。

今日の午後にデュサンヌ殺人未遂事件を知っている面々全員で最後の調査をする予定だったから事実を知ってしまっているテルミドールも駆け付けている。


そう、集合場所の控えの間に。


フランツは、急ぎたい気持ちを抑えて優雅に歩るかねばならなかった。


集まっている者は全員がデュサンヌ殺人未遂事件を知っているが、フランツが姫の影武者で本物の姫ではないことを知っているのはごく限られている。


当然廊下で通り過ぎる人たちは姫が偽物であることも事件のことすらも知らない。不祥事を知られる訳にはいかない。


あくまでフランツは姫として行動しなければならなかった。ガスパールが飛び出したことも知らなかったように振舞って。


わずか数十メートルが何百メートルにも感じられる。心にダメージが蓄積される。腰を締め付けるコルセットのせいでさらに心拍数は増大する。

通り過ぎる人たちの視線を感じる。


姫は位も高く美貌でも有名だから普段から誰しも視線を向ける。

しかし今日はなんだか違った視線に感じて居ても立ってもいられなかった。


やっとの思いで控えの間にたどり着く。

乳母の部屋からここまで歩いて従者が扉を開くまでわずか2分。たった2分だったがフランツには1時間にも2時間にも思えた。


扉が完全に空くまで待ち、それからドアを潜る。

まずガスパールとテルミドールが目に飛び込んできた。

ガスパールは飛び出して行った勢いでテルミドールを刺すような間違いはしていなかったようだ。


しかし安心はできない。ガスパールの右手は左の剣帯に伸び、レイピアをいつでも抜けるような体制を取っている。

テルミドールは驚いたような顔をして立ち尽くしている。


フランツは知っている。テルミドール侯は剣を手にした相手を見て立ち尽くすようなタチではない。


フランツが姫になる修行中に貴族年鑑を見て学んだのだ。テルミドール侯は南方のカストルーニャ王国との戦いでいくつもの武勲を挙げている。

それに決闘経験もあるのだ。


貴族年鑑を用いて宮廷・地方貴族を事細かに教えてくれたのは、当のガスパールだった。


控えの間の中央に二人の貴族が向かい合う。


その時、部屋にいたのは姫の侍従長マジョネイユと事件を知っている侍従4人、姫の親衛隊隊長の貴族デローネル侯。

左右にあるストゥールの前や壁・窓際に立ち尽くしている。


そして今フランツと一緒に入ってきた付き人の貴族娘エレミエと他3人、そして姫の乳母だ。


フランツは姫として、居合わせた者として言わねばならなかった。

「いったい、これはどういうことです?」


ガスパールがまず声を上げた。

「この者、テルミドール侯が私を侮辱し、それで今決闘を申し込んだところです」


「理由はどうあれ--私の前で血を流すという行為が、どれだけ私を侮辱することになるか、分かった上での行為でしょうか」

フランツは威厳に満ちた声で一喝した。


ガスパールは今の姫が偽物でフランツであることを当然知っている。

だが“姫”にこう言われてはガスパールも退かねばならなかった。


「申し訳ございません殿下。血が、頭に昇っておりました。南部人の気質でして」苦しそうに、それでも平静を装ってガスパールは答え、剣から手を離した。


ガスパールはフランツに向かって頭を下げ、フランツ一行にだけ見えるようにして唇を動かした。

「なぜ止めた!」と。


フランツは部屋にいる全員の注目を浴びている。宮廷の符丁はみんなが知ってる。返事はできなかった。


「あ、アデルハイド殿下!ガスパール伯殿の剣をご覧下さい!いつも彼が付けている剣と違います」

テルミドールが少し動揺した表情で、しかし声を張り上げて言う。


「殿下!ご存知なはずです!私は以前申し上げました、あなたを護衛するため戦闘用のレイピアと銃に変えていると!」

ガスパールが頭を下げ、跪いたまま言う。


「何を言うガスパール伯!白々しい、ではそのいつもの剣を持ってきてもらおうか。出来ないだろう。それが犯行に使われた剣だからだ!」


テルミドールは先ほどの動揺など嘘のように苛烈な口調で言う。

「お前の剣はついさっき、衛兵詰所の廃品置き場に置いてあったのを衛兵が見つけたぞ!」


「あー・・・テルミドール侯、ちょっと待って頂きたい。

あの廃品置き場に捨ててある古い剣や槍は週に1度鍛冶屋が回収して溶かしてしまうぞ。回収日は昨日だったはずだが」

そう言ったのは親衛隊長のデローネルだ。


姫の親衛隊長であるから事件のことは知っていて当然だが、フランツは一度も話したこともない。


そもそも今の今まで会ったことも無かった。デローネルも目の前にいるフランツが本物のアデルハイド姫だと思っている。


「デローネル侯、宮廷の内側を守る貴殿では知らぬのも無理はない。今週は宮廷行事があったため回収をしていないのだ。私もてっきり昨日回収されたと思っていたからつい調べずに居たのだが、ふとしたことで寄ってみたらこの通りだったのだ!ガスパールは証拠を隠滅するつもりだったようだが、残念だったな!そこのことは衛兵も鍛冶屋も証言してくれるだろう」

テルミドールは返す。


「エレミエ、あなたの部下に命じて今すぐ鍛冶屋と衛兵に事情を聞いてきなさい。なぜ回収が無かったのかもしっかり聞くのよ?いい、分かった?」

ここまで自信たっぷりに言うならきっと本当のことだろう。一応フランツはエレミエにそう命じておいた。


それからテルミドールに向き直った。

「テルミドール、剣の現物はどこに?本当に剣がそこから出てきたという証拠はお持ち?」


「もちろんでございます殿下。今は私の部屋に保管しています。剣が出てきたとき、衛兵立会いの元、回収しました」

テルミドールは依然自信たっぷりに言う。


「水を差すようで悪いが、あの廃品置き場は滅多に人が出入りしないうえに、よほど怪しい者でない限り呼び止められない。なにせゴミ捨て場だからな。だが貴族は召使に任せるから貴族が行くこともない場所だ。なにせゴミ捨て場だからな。あー・・・でもそう、貴族でも平民の服装やナリになれば行けなくもないかぁ・・・。衛兵詰所の横だから、詰所の中を通る必要もないし誰でもいつでも犯行に使われた剣を捨てられる。これではいつ誰が捨てられたかは分からないぞ」

デローネルは貴族年鑑によれば姫の忠臣で物事を客観的に見る傾向があるようだ。



「そうですな。しかしガスパールの剣が犯行に使われたと分かれば、いつ捨てられたかなんてそんな気に留めることでもなかろう」

そう言うテルミドールの声のトーンが下がったかのように、フランツは感じられた。


「しかしだな、テルミドール。いつ誰が捨てたか分からないのであれば、ガスパールの剣を誰かが盗んで犯行に使って、それから捨てたとも

考えられるではないか」


「確かにそうかもしれませんなデローネル殿。しかしガスパールは剣が紛失していることも殿下へ知らせず、あまつさえ私を口封じしようとまでした!

これは立派な証拠になるのではないかな。殿下の御前で剣を抜き、私を刺そうとしただけでも十分要塞送りの理由になると私は思うな」



「ガスパール、そなたの言い分も聞かせて欲しい。このままでは私はそなたを要塞送りにしなければならない」

フランツが口を挟む、きっとガスパールにも理由があるはずだ。


「殿下、頭に血が昇ってしまい、剣を抜いたことは私の過失です。どんな罰でも甘んじてお受けします。しかし殿下の家臣に刃を向けた

覚えはございません。どうか--」


「ガスパール!言い逃れする気か!」

テルミドールが声を荒げる。


「待ちなさいテルミドール。今はガスパールの話を聞いているの」


「はっ、私としたことが。殿下を愚弄する輩には目をつむって居られずつい」

テルミドールは声を抑えて跪いた。


「テルミドールは・・・裏切り者です殿下」

ガスパールが小さく、しかし怒りに燃えた声で言う。


だが、それはあまりにも弱々しい炎だった。ガスパールに迫る強力な風を前に、消えそうなその言葉は言い訳にすらならない。


それ以降、ガスパールはずっと黙って跪き、下を向いたままだ。

フランツはどこかテルミドールが怪しいと感じはするものの、証拠も一切ない。


対してガスパールは所持していた剣がデュサンヌを刺した剣だった可能性が高く、普通に考えればガスパールを犯人にしなければいけない。


ましてや姫の立場で今テルミドールを断罪すれば、良くてもガスパールとデキてると噂されるか、最悪の場合は何か陰謀でもあるのではないかと噂されるだろう。


そうなればガスパールはさらに疑われ、アデルハイド姫にまで咎が及ぶはずだ。


エレミエが報告しに戻ってきた。

「アデルハイド殿下、ご報告申し上げます。テルミドール侯の言は真実でございます。3時間ほど前に詰所当直の衛兵のひとりが

テルミドール侯と共に剣を見つけたと申しております」


「鍛冶屋のほうはどうだったの?」


「はい、鍛冶屋ギルドに使いを向かわせ問い合わせたところ、今週は宮中行事の狩りが行われたから今週に回収しに宮殿へ入るのは差し控えるようにと宮殿管理の役人に言われたそうです。なので今週は宮殿へ入っていないと申しておりました。なお、当時の管理責任者はラフォレ伯でしたが今回は予定が重なり回収しないよう命じたと申しております」


「殿下!何卒、この悪党にご裁決を!」

テルミドールが熱を上げて言う。


「デローネル、そなたは親衛隊長だ。我が家臣たるデュサンヌが刺されたことは、そなたにも責任があろう。そこでまずはそなたに罰を与えよう」


「は・・・その通りでございます。お裁きは覚悟しておりました」

デローネルは跪いて言う。最初から私の責任だと名乗り出なかったところを見ると、特に咎めが無ければ何事もなかったようにしようという魂胆だろう。


もっとも、姫を守るのに手一杯尽くしているから名前も覚えられないほどたくさんいる家臣のことなど当然守りきれないだろうが。


「この件について、そなたと部下は解決するまで調査を継続すること。そして今後より一層努力しなさい。これが罰、わかったわね?」


「あ・・・ありがとうございます!なんと申し上げてよいやら・・・」


フランツにデローネルを解雇する権限などあるわけない。だから真相を探るため利用することにした。デローネルの自分の事以外は中立で冷静な判断と思考ができるし実際親衛隊長として無能な訳でもないという。証拠集めや調査をしっかりしてくれるだろう。


「それからガスパール。そなたはテンドイユ要塞へ行きなさい。罪状は、私の前で決闘をしようとしたこと。頭を冷やして来なさい」


その判決に異を唱える人物が出た。テルミドールだ。

「お待ちください殿下、こやつはあなたの大事な家臣を刺し殺そうとしたのですよ。罪状が決闘だけというのは・・・」


「疑わしきは罰せず。確固たる証拠が出た時・・・その時はガスパールは国家反逆者として再度裁きます。デローネルと共に今後も調査を続けます。いずれ確固たる証拠が出るでしょう」


テルミドールはその判決にしかめっ面一つせずただ

「はい、その通りでございます。殿下のご英断に感激いたしました」

と言って深々と頭を下げた。


ガスパールを要塞送りにする理由は2つある。

ひとつはこの場を収めて調査を続けられるようにすること。ガスパールが本当に犯人か、はたまた別の人物か分かるまで犯人扱いするのは避けたい。

内心、ガスパールが唯一の友だから、唯一の味方だったから犯人でいてほしくないという身勝手な考えもあったことは認める。


もうひとつの理由はガスパールの命を守るため。人生で一度もやったことない決闘まで持ち出したということは本当に犯人であるか、あるいは命を賭けるほど追い詰められているかだ。

どちらにしても野放しにしていたら暗殺なり自殺なりしてしまうだろう。

要塞は城壁と法の壁で捕囚を内外から保護するのだ。


間もなく、デローネルが外へ出て自身の指揮する親衛隊兵2人を連れて帰ってきた。ガスパールは武装解除をなされていてデローネルと兵2人が連れ出して行った。


王都ルテティアの郊外にあるテンドイユ要塞へ彼を連れて行くために。


「まだガスパールが犯人と決まったわけではありません。しかしこれで彼も逃げることはできません。各々些細なことでもよい。何か手がかりを見つけたら私の乳母に知らせなさい。それともちろんこの事は口外禁止。破った者は重い罰を受ける覚悟をしなさい。ここにいるのは皆私の信じるに値する家臣であるからその心配は無いと思うけど一応言っておくわ」

そう言うとフランツはエレミエ以下付き人の貴族を伴って退出した。


部屋に残されたのはテルミドールただひとり。

テルミドールは窓に向かってひとり立っている。従者が重たい扉を閉め、やがて彼の姿は視界から消えた。


きっと放っておいたら既成事実がガスパールを本当の犯人にしてしまい、事は終わるだろう。


本当に犯人であったとしても、そうでないにしても、こんなスッキリしない終わり方は嫌だ。


犯人なら犯人で、ガスパールに面と向かって、フランツとして話したい。

なぜそんなことをしたのか。




次の日、姫ことフランツは王都ルテティアから旅立ち、南方のカストルーニャ王国の国境に近いシャンドノワール地方へ向かった。


一方、テルミドールは姫の出発を見送り、出発したのを確認した後ある人物を呼びつけた。


「はい、テルミドールさま」


「さて、マジョネイユ。例の殺人未遂について知っていて、職務上自由に動けるのは君しかいない。ちょっと話を聞いて貰えないかな」


二人は光り輝く姫の居ないテュイリア宮殿の影へと消えていった。


つづく

読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ