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犯人を追え(中編)

長らくお休みしておりましたが、この度復活です。更新遅くてごめんね!

今までのおはなし


ブランジュ王国の絶世の美女アデルハイドは政治にも口出しする才色兼備のお姫様。

隣国から来たフランツは男でありながら美女のような容姿でしかも姫に姿が似ていた。

フランツは姫の影武者にされてしまい、厳しい訓練を経て姫としてデビューすることに。

そしてデビューしたてのフランツに次のさっそく仕事が。「姫の従者が刺された、姫の身代わりをしつつ犯人を探せ!」



たかだか13歳か14歳の娘に身動きがとれなくされるとは、男として情けないとフランツは思った。


程なくしてフランツは少女の手から解放され、力が抜けてベッドへ座り込んだ。朝日が窓辺から差し込む。少女は髪留めをとき、白金の長い髪がそよ風になびく。


フランツは従者を呼ぶのも忘れて5分ほどじっと彼女を見つめた。彼女は窓の方を向き身動き一つしない。


だが少しでも動こうものならすぐ様捉えられて殺される--そんな雰囲気を漂わせていた。


「あのー・・・あなたは、その、誰?」

話しかけてみる。


「・・・クロエ」

少女がポツリと答える。


さらに5分間、どちらも何も喋らない。たまらずフランツが次の言葉を探す。


「あー・・クロエさん、何しにきたの」


「ううん、別に大した用事じゃない。デュサンヌ殺人未遂の調査の相談にきただけ」


「そ、それじゃクロエさん、あなたも影武者のひとり?」

意外と味方かもしれないと、にわかにフランツに希望の光が差し込んできた。


「そうではないけど・・話すと長いから、それでいい。今日はガスパール伯さまと会う用事はあるの?」

クロエは可愛らしい殺意を纏わせながら言う。


「ああ、どっちみち調査しないとならないからね。他にこのこと言える人いないし」


「そう、ならガスパール伯さまの剣帯をよく見ておくといい。あと、調査の期限は残り2日よ」


「え、まって、2日ってどうして」

いきなり期限を設けられてフランツは困惑した。


「アデルハイド殿下は2日後にシャンドノワール方面へ公務で出かけるから何日も空く。犯人も逃げおおせる可能性も出てくる。それよりも・・・剣帯、ちゃんと見ておいて?」


「あぁ分かった。ところでクロエさんってなんでそんな歳でこんな任務を?」

フランツは思わず訪ねた。


「私・・・何歳に見える?」

クロエが顔だけ後ろを振り向きながら言う。


「14歳くらいかなって」


「・・・私、18歳よ。女の子に歳を言わせるなんて最低よ」

そう言って窓のほうへ顔を向けると飛び降りていった。フランツは窓を覗いたが下に降りた形跡もよくわからないほど手馴れた脱出の仕方だった。

下の階へ行ったのか、ここはかなり高所だから普通に飛び降りたら死ぬ。


「クロエさんから何歳に見えるって・・・」

誰もいなかったが文句を言いたかった。


フランツはすぐ付き人エレミエとマジョネイユを呼んで“姫”に着替えた。

終えるとタイミングを狙ったかのように付き人やら従者たちと入れ替わりにガスパールが入ってきた。


「いよう、色男、いや色女か!」

相変わらずのテンションだ。


フランツはすぐ言われたとおりガスパールの腰を見た。右には新型の連発式拳銃があり、左の剣帯にはレイピアがある。


連発式と言っても銃の前から弾を押し込むのは他の銃と変わらない。しかし特注のこの銃は3つの穴があり銃身が手動で回転する。弾込めせず3発素早く撃つことができるのだ。


姫の従者殺人未遂事件が起きた際に姫に化けたフランツを守るため、ここ最近はいつもつけていない少し長めのレイピアと拳銃を持っている。

昨日も同じ装備だ。


「どうしたよ、じろじろ見て」

ガスパールは不思議そうにフランツを見ていう。


「いやぁ、拳銃って物騒ですけどかっこいいですよねって思って」


「あぁこれか、最新型のリボルバー拳銃だ。6発も装填なしで撃てる。俺の剣の腕前も合わせれば今なら相手が何人いようと平気だ。守ってやるぜ“姫様”」


「そ、それよりあと2日で解決しないといけないんだ。この事件!」

フランツが言うと、ガスパールは驚いた様子を見せた。


「俺は今それを伝えにここに来たんだぞ。なんでそのことを知っているんだ?誰から聞いた?」

ガスパールは早口で質問してきた。


「いや、まあ、ほらこういう立場にいるといろんなところから聞こえてくるんですよ。噂とか」

フランツはクロエのことを言おうか迷ったが、結局隠すことにした。


「それはおかしいな、今日は俺しかお前に連絡する人はいないはずだが・・・。まぁ・・・いい、そういうこともあるのだろう」

ガスパールは明らかに動揺している。ちょっと苛立ちのようなものも見える。任務を穢してしまったからかもしれない。なんか申し訳ないことした。

フランツは罪悪感にみまわれた。



午前中のその日の調査は二人共必要最低限のことしか喋らなかった。

あと2日しかないのに、任務に集中できない。午後は姫の身代わりに公務に出なければいけないのでその日の調査は何もすることもなく終わってしまった。


あと1日しかない--


最後の日が明けた。


明日の早い時間に姫に結果を伝えなければいけない。犯人は誰か、もしくは解決できなかったと!


その日、ガスパールは意外にも機嫌が直ったのか前と同じく積極的に話しかけてきた。

「犯人は既に宮廷を出ているか、あるいは宮廷の外の人間かもしれないな」

ガスパールは半ば諦めたようにそんなことを言っていた。


部屋から出ると別々の方向へ進み、別々に調査をこなすことにした。というのも毎日一介の貴族と姫が会っているとなればそれだけでも噂が出てあらぬ方向へ話が進んでスキャンダルになりかねないからだった。


各々の調査結果を踏まえて午後改めてこの殺人未遂が起こったことを知ってる人全員で調査することに決まった。


姫の親衛隊や間者たちからそれまでに得た情報を姫の乳母が教えてくれた。


相変わらず大した成果は無かったが、「当日、抜き身のレイピアを持った小柄の影を見た気がする」という門兵がいたことが確認されたのと、回復してきたデュサンヌが「刺した人を直接見てないが、男だった気がする」と言っていたと報告してきた。


姫の乳母はチラっとフランツを見た。女性のような身長でかつ男というとフランツくらいしか思い当たらなかったからだ。


「ぼくじゃないですよ?」

フランツも察してそう答えた。否定するほうが怪しい気はしたが、やってないものはやってない。


「・・・お前は馬鹿か、当日は・・・宮廷のパーティに出ていただろうが」

乳母が言う。そうだった。たしかに出ていた。


「・・・まぁ、影武者の影武者がいれば別だが・・・な」

乳母は何やら不吉なことをいい、それ以降黙ってしまった。




フランツは姫の格好で宮廷内を歩いた。とはいえ、内親王である姫ともなると気軽に誰それと声をかけられない。


話す相手、ひと事ふたことが政治と国に大きな影響を与えてしまう。ましてや影武者に過ぎないフランツがどうこうできる問題でもない。


付き人でお手伝いの貴族や使用人を引き連れて宮廷内を散歩し、特定のひとと何気ない話をして過ごした。


噂話のひとつでも小耳に挟めばと思ったが、事件の内容どころか姫が通っただけで口をつぐむありさまだ。


フランツの格好なら自由にできるが、逆にフランツの身分では宮廷で自由に話をかけられない。偉くても身分が低くても自由のない世界が宮廷だった。


ついているエレミエのような付き人は位は低いが貴族の令嬢だ。ついてくるひとの中で、そういう貴族階級の姫の付き人数人らはフランツの正体を知っているものの、さらに後ろに控える使用人たちはフランツを本当の姫だと思っている。

そういうこともあってさらに自由に動けなかった。


宮廷内の一室で重たいドレスで歩き疲れ休んでいたところ、ふいに声をかけてきた貴族がいた。


「アデルハイド殿下、ご報告したい義がございます」

よりによってテルミドール侯だ。人払いをするよう目配せをしてきた。


宮廷では言葉にしてはいけないことも多い。そのような場合はジェスチャーを使う。“宮廷ことば”と言われ、手や扇などの道具を使い、相手にもの言わず意思を伝える。複雑かつかなりの種類があった。

宮廷の高貴な人間ならこれを知らぬものはいない。


「そのほうら、下がりなさい」

フランツはエレミエ以下全員を下がらせた。


王族は何かと秘密が多く、それが当然という世界なので人払いでの会話はよくある話だ。


なんの話かと噂はされるが、この事件のことを言い当てるものは居ないだろう。


後日宮廷人らは「アデルハイドさまとテルミドールさまが秘密のお話!もしかして色恋ものだったの?」

「いやいや、あの方々は仲が悪いと聞いておりますよ。きっとテルミドールさまがアデルハイドさまの気に食わないことをしてしまって謝りにでも来たのではないでしょうか。以前にもそんな話がございました。アデルハイドさまはお強いですからねぇ」

と、事実無根の噂をしていたという。


「テルミドール、ご報告したい義とはなんでしょう。お話しなさい」

姫ことフランツが高圧的に詰問する。事実、本当にフランツはイライラしていた。ちょっと休むつもりが捕まった。テルミドールに時間を潰されたくない。


「殿下、例の殺人未遂。レイピアが使われたことはご存知の上かと思います」


「当然よ」


「私の部下が諜報した結果、とんでもない事実が確認されました。至急ガスパール伯の部屋を検めてください」

テルミドールは本当に焦ったように話した。


「私はあなたを含め宮廷の方々を信頼しています。私といえども貴族のプライベート空間を侵すわけには参りません」


そもそも本物の姫ならとにかく、フランツにそんな権限があるわけ無かった。

だが何があったのか気にはなる。

「・・・どんな事実があるというのです」


「フランツの部屋から、レイピアがひとつ消えていたのです。彼がいつも着用していたものです」

いかにも焦ってびっくりしているような口調でテルミドールが続ける。


フランツは驚愕した。だがテルミドールのことだ。何かの策略かもしれない。姫が家臣の部屋に容易に入れないことを利用して。


「テルミドール。あなたのことは信頼しております。ですが、同じ貴族であるガスパールの部屋へ忍び込むとは何事ですか。もしや、他の貴族にも同じことを?」


「殿下、私の部下が直接部屋に入ったとは言っておりません。宮廷は噂が飛び交っております。諜報した者はさる確実な情報源から情報を得たのです。

ガスパール伯の部屋を出入りする者は多いのです。常に着用していた剣が忽然と消えてしまえば、身近なひとなら分かってしまうことです」


フランツはふと思い出した。クロエ、そうだクロエだ。彼女も「腰の剣帯に注意しろ」と言っていた。

彼女もつながりがあるんだろうか。


「ですが、今の段階では確証がありません。事は慎重に運びなさいテルミドール」

フランツはそう言って立ち上がり、出口へと向かった。早く出たい。


テルミドールの横を通るとき、胸が高鳴った。20代後半ではつらつとし、真剣な眼差しで跪きながらフランツの座っていた椅子を凝視している。

何か言われるのではないか、恐ろしい。


「申し訳ございませんでした殿下。噂だけでガスパール伯を疑い、殿下に報告してしまったこと、誠に恥じております」

テルミドールの謝罪は、挑戦のようにフランツには聞こえた。



フランツは付き人たちを従えて姫のプライベート区画へと戻る。

客間にはフランツが控えていた。付き人たちが下がる。


「ガスパールさま、僕はどうしていいか・・・」

フランツは帰るなりスツールに座り込み天を仰いだ。


「何があった」

とガスパール


「テルミドール侯が僕にガスパールさまを疑えと。あなたの部屋のレイピアが無いと言って」

フランツが言うと、ガスパールは明らかに動揺しているようだった。


「馬鹿が!!そんな俺が疑わしいことあるはずあるわけなかろう!!!」

ガスパールが初めて怒りを見せた。今までの付き合いでこんなに怒ったことはない。


「・・・決闘だ!奴に決闘を申し込む!!これ以上の侮辱はない!」

ガスパールはそう言うと部屋を飛び出していった。


フランツは大急ぎで姫の乳母の元へと走った。指示を求めるためなのか逃げるためなのか、自分自身でもわからなかった。



明らかにガスパールが怪しいような雲行きだが、友を信じたい気持ちもある。それにテルミドールも何やら怪しい。


フランツは姫の乳母に全てを報告した。テルミドールの話、ガスパールの決闘申し込み。


すると姫の乳母は

「何も私から言うことはない・・・早く解決せよ。それだけだ」


「なんで!!」

声を大にして乳母に向かって叫んだ。叫びたかった。


「私は結局、姫とお前の連絡役にすぎん。姫のご命令は解決せよ、それだけだ」

乳母はそう言って口を閉じた。


「なら姫にこのことを・・・」


フランツが言いかけ、乳母が口を挟む。

「姫はご不在だ・・」



「え・・・ご出発は明日じゃ」


「姫は大変お忙しいお方だ・・・予定は表への発表にすぎん・・・裏でも常に行動なされている。実は既に現地に着いていて、姿を隠しておられる。そのためのおまえ、そのための影武者でもあるのだ・・・結果のみ姫に現地でお伝えする」


誰も助けてくれない・・・ガスパールも姫の乳母も、そして姫すらも。

フランツは果てしない絶望と孤独を感じ始めた。


そんなときエレミエがノックし、入って伝えた。

「フランツ、いえ殿下。“殿下”のご命令どおり、皆を集めて最終調査を行う時間になりました」


・・・行くしかないか、決めねばならない。自分で。権限もない偽の姫。責任は全て僕の肩にかかっている。


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