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犯人を追え(前編)

今までのおはなし


ブランジュ王国の絶世の美女アデルハイドは政治にも口出しする才色兼備のお姫様。隣国から来たフランツは男でありながら美女のような容姿でしかも姫に姿が似ていた。

フランツは姫の影武者にされてしまい、厳しい訓練を経て姫としてデビューすることに。そしてデビューしたてのフランツに次のさっそく仕事が。「姫の従者が刺された、調査と身代わりをして欲しい」



 本物のアデルハイド姫は自分の従者が刺されたと聞き、すぐに自身の親衛隊と間者に事件の調査を指示した。


 姫は狩りの行事のあと3日間開かれる宮中大晩餐会すべて出席するようにした。何事もなかったかのように振舞った。ただし間者たちによる目に見えない警戒線を張って。


 護衛の数を増やすと怪しまれるので親衛隊は通常通り行動した。少なくとも表向きは。


 フランツは狩りの行事のあと、2回ほど姫の身代わりを果たした。3日経ち、大晩餐会も終わると宮廷貴族や遠方の領主たちはそれぞれの領地や家に帰っていった。怪しいと思われた貴族全員に姫の間者がこっそりとついていく。


 従者に化けているものもいれば、料理人や貴族の中にさえ姫の指示を秘密裏に受けて任務をこなす部下や協力者が多数居た。父王に頼らず、ほぼ全て20年に満たない自分の人生の中で作り上げたスパイ網だった。


 姫の乳母から「姫の身代わりをするにあたって、情報も収集せよ・・・」とのっそりした口調で命令された。さらに「お前の命にも関わる・・・姫の身代わりなのだからな」と少々脅しめいたことも言われた。


 フランツは姫のためというより自分が生き残るために事件を解明しようと努めることにした。


 姫の乳母は緊急事態ということでより信用できる昔からの従者をフランツと姫に付け、それ以外は解任するか、姫とフランツから離された。


 そして新たにフランツの世話役のトップ、侍従長にマジョネイユという女性が就任した。フランツより年上で、3代続けて王に仕えていて姫が生まれた時から姫の従者だった。


 フランツがいつもどおり従者のエレミエに着替えを手伝わせ、“姫”に変身するとマジョネイユがフランツの部屋に入ってきた。


「私の名前はマジョネールですフランツさま。以後あなたの世話役の責任者を努めます。お見知りおきを」丁寧なことばを使うもののどこか機械的な印象を受けた。


「さっそくですが、今回の事件についての調査も命じられました。そしてあなたの調査活動に全面的に協力せよとも」


 フランツは「う、うん、わかった、ありがとう」と取り敢えず返しておいた。次に言うことばが見つからなかったので会話はこれで終わり、新侍従長はエレミエや他の従者に指示を出していた。ここにいる従者は誰も彼も姫に近しい人間だったので、就任直後と言えども両者は互いに知り合いのようだった。


 それ以降、フランツは姫となって宮廷内を自由に調査に出ることができた。もちろん自由と言っても本物の姫が秘密の部屋に隠れている時間で、しかも調査するにおいて自由なだけで本当の自由は無かった。


 姫の乳母にマジョネールかエレミエなどの従者を使いにやると、本物の姫が現在自身の作った秘密の部屋に隠れているかを教えてくれた。


 狩りから10日ほど経った寒い朝、姫の乳母を通してある程度の情報が与えられた。

「刺された者の名前はデュサンヌといい・・・姫の従者だった・・・もちろん本物のほうのな」

「そのデュサンヌの意識が回復した・・・姫は見舞いに行かれ、そこで聞いた話によるとな・・・いいか聞き逃すな、一回しか言わぬ」


 フランツはごくりとつばを飲み込み、一言一句聞き逃すまいと耳を立てた。

「デュサンヌは宮廷大晩餐会の最中・・・中央広場右脇の噴水へ水を引くための堀のそばに倒れていた」

「後ろから何者かに殴られ、そして振り向く前に刺されたと言っている・・・当日は夜で大晩餐会の最中だったし人通りも少なかった・・・・・・あとそう・・・それから武器は長剣だ・・・刺された傷跡からの判断だ」


 そして10秒ほどの間を置いて唐突に姫の乳母は語りだす。

「この情報はアデルハイド殿下とごく少数の従者、そしてお前しか知らぬ。いいか、いかに顔見知りの側近であろうとも軽々しく話してはならぬぞ」

それから

「今日は1日中、アデルハイド内親王は隠し部屋におわす・・・この意味がわかるな」


 と微妙な間を置いて話した。フランツは即座に理解し「本格的に調査へ出向けということですね」と答えた。

姫の乳母は何も言わず立ち去った。


 外へ出ようとしたとき、ひとりでは不安だったのでまたガスパール伯に一緒に来てもらうためにエレミエを使いにやった。


 数分後に待ち構えていたようにガスパールが現れた。

「君も本物の姫様のようになってきたね!貴族である私が宮廷の従者の君に呼ばれる日が来るとは」

「あっ、す、すみません・・・」

「ははっ、いいってことよ!本物の姫のようになってもらわないと、君は任務が達成できないんだからね」


 フランツは自分が従者だったことを忘れていた。宮廷では偽の姫ではあるが敬われ頭を下げられたし従者も姫と同様な扱いをしたから、ついつい自分が何者か忘れてしまっていたのが恐ろしかった。


 フランツは新たに分かった事実をガスパールに話さずに居たが、次第にひとりで調査し命を狙われるのに孤独を感じてガスパールに先ほどのことを全て打ち明けた。


 ガスパールは姫の従者が刺されたことまでは知っていたので大丈夫だというフランツの判断だった。

「それでガスパール伯さま、どうしましょう」


「私に言われても困りますお姫様」


「ガスパール伯さまは本物の姫には“殿下”と言いますね」


「君は姫の役だから姫だ。殿下は殿下。陛下のお子さんだからな」


「それではバレてしまいますよっ」


「ハハハ、そこまでバカじゃないさ。ちゃんと表では君のことを殿下と呼んでいるさ」


 その後2、3の軽口を叩きつつ、ふたりは事件があったという堀の近くに行った。


 現地ではガスパールが姫の代わりに聞き込みをした。


「宮廷晩餐会があったとき君たちはここにいたかな」

 庭師たちは「いえ・・・夜は作業をいたしませんので」


「実はここで密会をした不埒な者がいると聞き、アデルハイド殿下は大変ご立腹だ。自らここに来られるほどにな」

「それは存じませんで・・・へぇ・・・」


「まぁよい、それで晩餐会期間中にここにきた貴族が居たら教えて欲しい」


 このように表向きどうでも良い醜聞の調査という名目で調査を進めたがあまり収穫は無かった。ただ当日に近くを通ったという貴族の組がいたが誰も悲鳴など聞いてはないという。


 聞き込みを続けているとテルミドール侯とフレイユ伯がふたりして現れた。隠れる暇も無かったし、そもそも姫がこそこそとしていたらそれだけで醜聞になってしまうだろう。


 姫ことフランツはふたりに形どおりのあいさつをした。ふたりの貴族は姫の手の甲にキスをし、形式どおりのあいさつを交わしたあと、テルミドールはこう切り出した。


「ガスパール伯、このような場所で殿下と一体何を?」


 ガスパールは「殿下のご命令で醜聞の調査だ」


「ほう?」


 ガスパールはフランツにジェスチャーで「テルミドールは危険だ」

フランツは「前にも聞きました。注意しています」と同じくジェスチャーでさりげなく返す。


 フレイユが言う「醜聞とはなんでしょうか。できれば私達も調査にご助力いたしたい」


 ガスパールは「無用でございます。醜聞とあれば本人の名誉もあります。それでよろしかったですよね殿下」


 フランツは言う「私がそのように命令したのだ。分かったかフレイユ。助けは無用だ」


 するとテルミドールが近寄ってきておもむろに口を開いた。「フレイユ伯、コルドール公にそろそろ例の件を伝えに行くべきではあるまいか」


 フレイユ伯は思い出したように「うむ、そうであった。これにて失礼する」と少々慌てた様子で立ち去った。


 テルミドールはさらにフランツに近寄って「さて・・・醜聞とやらはつまるところ殿下の従者が刺された件でございませんか?」


 フランツは驚愕した。驚愕していることが分からぬように努めつつ「なぜ知っている?」と冷ややかに返す。


「醜聞というのは外に聞こえてしまうものです・・・おいたわしや、殿下」


「テルミドール。そなたがそう言うとあらば、真っ先に疑われるのはそなただぞ」


「殿下、私はあなたに反対しているところがあります。それでも忠実な家臣であり国家に忠誠を誓う者で犯罪者は許せません。ですから私は疑われるのを覚悟で身の潔白を告白しているのでございます。私めの告白を聞いてはいただけませんか」


「話してみなさい」


「実は私、大晩餐会のとき、数人の貴族や従者と共にここら辺にいたのですよ。そして見てしまったのです・・・もっとも私の従者のリリエという娘がね・・・そう倒れていた殿下の従者を医者に届けたのは私の従者のリリエなのです」


「それは本当か」


「はい、私と共に居た他の貴族・・例えばノルフェイユ侯爵やモンテルノ男爵にお尋ねになられれば証明できます・・・殿下が存じないのは当然です。なにせデュサンヌはその時気を失っていましたから。医者には秘密を誓わせました。あなたの身に危険が及ぶといけないので」


 フランツにはテルミドールの行動は当然の措置のように思えた。


「恐れながら殿下。王家の醜聞は外に漏れるのはよろしくないです。それは私も同じ。ですからここは普段のわだかまりを忘れ共に調査いたしましょう」


「断る理由は無い。調査した結果は従者のエレミエを通して私に知らせよ」


「かしこまりました。・・・あとですな・・・フレイユ伯爵だけには知らせないほうがよろしいですぞ。口が軽くて有名ですから」


 確かにフレイユは口が軽かった。軽いというより付き従っているコルドール公に忠誠を誓っているので、見聞きしたもの全てを伝えてしまうからだった。


 ずっと黙っていたガスパールが口を開く。「テルミドール侯、私も同じく殿下に忠誠を誓う身。互いに調査を協力しようではありませぬか」


「もちろんだともガスパール伯」


そう言ってテルミドールと別れると再びフランツはガスパールと歩き始めた。

「どう思います?ガスパールさま」


「殿下、外ではその呼び名はよしたほうが良いと思われますが」


「そうであったなガスパール。そなたの言うとおりだ」


「・・・でどう思うガスパール」


「はい殿下、テルミドールには警戒したほうがよろしいと思います。もちろんフレイユにもです。彼が犯人とも思えませんが何か企みがあるかもしれません」


「結局は私たちだけで調査を進めたほうが良いな」


「そのようですな」


 こうしてふたりは姫の管理する宮廷区画へ戻って行った。フランツは姫の姿のままでそのまま姫の乳母の部屋に直行しその日の出来事を報告した。姫の乳母は「うむ」とか相槌以外ひと事も発することが無かった。マジョネイユに明日の準備の指示と警備警戒の人数を増やすよう指示を出した。


マジョネイユは「万事滞りなく。警戒体制の強化は殿下からもご命令を受けております。今夜より区画の警戒を増やします」そしてその日は何事もなくフランツは眠った。



 翌日、フランツが起きて自室で着替えるため従者を呼ぼうとするといきなり背後から柔らかな腕が首に巻き付き、耳元で可愛げな女性の声がした。


「動かないでください」静かな感情の無い声が耳元でする。ほのかな匂いも漂ってきた。


 フランツは何も言わずつっ立った。というより完全に拘束されて身動きができなかった。


 やがて腕がはなされフランツは解放されると娘のほうを振り向いた。そこには小柄で見た目は13歳くらいにしか見えない少女が隙を見せず立っていた。ドレスは身につけておらず、狩猟服を改造したような動きやすい服装。黒い髪の白人だった。


 フランツは驚きに包まれた。なんと自分より背の低いであろう女性に完全に捉えられてしまっていたのだ。


この娘は、何者なのだ・・・



つづく

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