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地方の動乱、中央の陰謀 ~敵だらけの戦い~

いままでのお話


姫の気持ちに反して南部に圧力をかける北部人たち。南部の人々はついに反旗を翻した。

反乱勢力は北の代表である姫を狙う。姫の善政の気持ちに感動したフランツは自分と人々のために姫を守る決意をした。


反乱を抑え込み上手くいくかと思われた矢先、姫を失脚させようと躍起になるテルミドール侯とコンドール公の邪魔によって窮地に陥る。

フランツは姫を、そして人々を救えるのか。




テルミドール侯とコンドール公、そして姫の親衛隊長であるデローネル侯の3人は一番良い馬を使い全速力で南部のリュールーズへ向かった。


従う選りすぐりの親衛兵は全員合わせてわずか30騎。

ブランジュ国内でも有数の大貴族二人が移動するには極めて少ない数だ。


夜明け頃、中間に位置する地方都市に着き、王からの緊急詔勅証明書をかざして特別に門を開けてもらった。


全員が新しい馬に替え、30分程度の休憩の後再び街道を駆け抜ける。


2日目の昼間、シャトージャンヌ要塞の責任者3人が全軍を率いて王都へ向かっているのに出くわした。


その数約1万。


「止れ!我が軍は陛下の命により、王都にはせ参じる途中である。騎馬の者、道をあけていただきたい」

先頭を行くシャトージャンヌ要塞駐屯軍最高司令官のリーオン伯が誰何してきた。


わずか30騎の、しかも軽装で走り抜ける騎馬隊が自分より格上貴族だと思わなかったのだろうか、だいぶ乱暴な言いぐさだ。


「私の顔が分からんかね、陛下の命によりそなたらに命令を携えてきた」

コンドールが大声でいう。


リーオン司令官は真っ青になり下馬して跪いた。

「た、大変なご無礼を」


テルミドールが横から出て告げる。

「責任者3人を集合させよ」


リーオンは他の2人を呼びに行き、やがて3人はコンドールらの前に跪いて集合した。


簡易的なテントが立てられ、その中で要塞司令官責任者3人とコンドール、テルミドール、デローネル3人の会談が始まった。


「お久しゅうございますテルミドールさま、我々は陛下の命令書に従い、王都へ向かう途中でございます」


「何を言っているのだリーオンよ、お前は要塞守備というもっとも至極な任務を放棄し、あまつさえ陛下の身内であるアデルハイド殿下を危機に晒した」

テルミドールは言う。


「は・・・しかし」


「おぬしらは、結局のところ自分たちの手柄が欲しいだけであろう」

コンドールも口を挟む。


「今からそなたら3人から貴族の称号をはく奪のうえ、司令官の任務から永遠に解く」

テルミドールがそう言うとリーオンが反論してきた。


「しかしながら、どう言った権限で我々を裁くのですか、いくら大貴族と言えども貴族を勝手には裁けぬぞ」


リーオンがそう言ったとたんバァーンと銃声が鳴り響く。


デローネルはピストルを取り出しリーオンの隣にいた街の責任者である子爵の頭を正確に打ち抜き、テントは血で染まった。


リーオンともう一人の要塞の貴族はがくがくと震えだし何も言えず、硬直したようにデローネルのほうを見つめるだけだった。


「これは軍法会議だ。要塞放棄、敵前逃亡、王族護衛任務放棄の罪で銃殺刑を執行した。陛下からもそなたらを絞め殺してやりたいと言う。お言葉を頂いている。貴様らは決定に不服を申すか」

デローネルはピストルに丸い弾丸と火薬を押しこめつつ、2人に減った貴族を睨みつける。


リーオンは震えつつ涙を出しながらも首を縦に振った。


もう一人は震えっぱなしで何もできずただただ硬直している。


デローネルはピストルを震える貴族の額にピストルの銃口を当てる。撃った直後の銃口は熱い。しかしこの貴族には熱さなどみじんも感じなかった。ピストルは火を噴き、もう一人の貴族も吹き飛び血だまりに倒れた。


「リーオン、お前は罪を飲んだ。我々と共に来い。分かっているだろうが途中で逃げてもそなたに未来は無い」

リーオンを騎馬隊の中央に添え、衛兵の監視のもと移動させることにした。




「この軍の貴族に継ぐ指揮官は誰だ」

テントの外でコンドールが軍隊に向けて叫ぶ。


「私です殿下!シャンドノワール地方第2戦列歩兵連隊、ブロイ連隊長であります!他の連隊の長は貴族の方が兼任しております!」


「ふむ、そうか。我々は反逆者貴族3人に裁きを加えた。そなたらは騙されていた故、罪に問わぬ。緊急事態につきブロイ、そなたに指揮権を与える。至急要塞へとって返し、治安維持に就け」


「ハッ!」


その後3人はリーオン司令官を縛ったまま馬の背に括り付けて連れ、まる2日徹夜で走り抜けた。


途中で馬を何度か乗り換え、3日目の午後3時ごろ南部中心都市リュールーズの王国軍駐屯地へ到着。

全員とも馬は泡を吹いている。


ここまで来るのに5人ほど途中の街に置いてきた。


「よくぞおいでなさいました、わたくしリュールーズ伯であるジュリアンが館をご案内させていただきます」

リュールーズを治めているジュリアン伯が丁重に出迎えてきたことに目もくれず、兵舎へ直行する。


「リュールーズ伯どの、そなたは我々の状態が分からないのか?今は急いでいる。早急に軍隊編成の手伝いをしろ」

コンドール公爵はドスの利いた大声で一喝した。


「ははっ…数カ月前の命令により、出動準備はすぐ行えます」

しょんぼりした顔でジュリアンが退出していく。



「あいつは空気が読めないのか」

ひそひそとデローネルが言う。


「申し訳ないなアデルハイド殿下の親衛隊長デローネル殿、あれは親から地盤を継いだだけのボンボンです。それにあいつの親は北からの部外者だった。元々の支配者の息子のラングドッグ伯のほうが利口ですよ。連れて行くなら彼のほうがいい」

テルミドールが言う。


「じゃあなんで彼がここの支配者じゃないんだね。私は宮廷ごもりで南部には疎いので教えていただきたい」

姫の親衛隊長デローネルが問う。


「そりゃ、彼が南部の人間だからですよ親衛隊長どの。南部の反乱を指導するのではないかと懸念があってね。でも実際は従順だった。今回の反乱だって、彼はむしろ止めようとしていたと聞く。依存が無ければラングドッグ伯どのを姫救出の軍についてきてもらいたいのだがどうだろう」


「依存はない。ジュリアン伯よりはマシそうだ」


「コンドール殿下、いかがでしょうか」


「そなたらが言うなら。特にテルミドールどのは南部にも詳しいからな。そなたの決定に従うとしよう」


「それでは早速、ラングドッグ伯どのを呼んでまいります」


そう言うとテルミドールは別の馬に乗り換えて彼の居城へ向かった。

ほかの2人は急ぎ軍隊出動準備を監督しにいく。





姫がシャトージャンヌ要塞に籠って5日目の朝。


出動準備が万全に整った王国軍1万8000人とコンドール公の私設軍隊1個連隊約2000人が加わり2万となった大軍がシャトージャンヌ要塞へ向けて出動。要塞前方へ本陣を張った。


数日前に司令官を処刑し、取って返させている王国軍1万はさすがにまだ到着していないが10日もしないうちにここに戻ってくるだろう。


陣地は一応大砲の射程外に設営されたが、要塞の外城壁の大砲は全て自爆されていて竜騎兵隊をかなり前方まで偵察に出しても安全だった。


全方位を取り囲み、しきりに偵察ができたため、要塞外部の様子は手に取るように分かった。


門は閉まっていたが、大砲と兵隊の無い要塞など、訓練された兵隊にはただのアスレチックに過ぎない。


今の状態でも十分いつでも陥落させることができたが、王国軍は陣を張り威圧するだけに留まっている。


「まともな武装した反乱軍はたった1000人という…それに対して、これはいささか多すぎはしないかね」

デローネルが言う。


「殿下を人質に取っているようなものなのですよ親衛隊長殿、これは国家と戦ってるも同然。ゆえにこれでも少ないくらいだ」

とテルミドール。






その頃、リンデ侯爵とフランツは城の細い地下通路を通って内城壁を抜けて例の4階建ての建物まで出てきていた。


出口側では姫の親衛隊が相変わらず3人、家の住人に扮して見張っている。


「内城城壁は抜けられたが…問題は外側要塞城壁をどう抜けるかだな…なんで脱出口のくせに要塞外まで続いていないのだ」

リンデが不平を言っている。


「これは大昔に建てられたお城の脱出口なのですよリンデ様。外の要塞は後から作られたものですから無いのです。今どきの戦いは穴掘って内側に行く戦法が主ですから、わざわざ弱点作るのはやめたんでしょうね」


王国軍が到来して以来、反乱勢力が混乱してまばらになっているので、前まで張り詰めていたこの親衛隊員も安心したのか結構朗らかになっている。


しかしリンデとフランツはそうはいかない。王国軍と反乱軍が戦いを始めてしまえば姫の融和の努力も無駄になってしまいかねない。


「それで…誰か外に抜ける作戦は無いのかね」


リンデは皆に意見を求めているように言いつつ、フランツをじっと見つめた。


「ええっ…と、そうですね…僕が今殿下になって陽動する手もありますけど…そしたら後々厄介ですし。うーん」


「あ…僕、声色も殿下そっくりですから、声だけ出るのはどうでしょう。西日の城壁の上から姫の声で叫びます。誰か駆けつけても僕は殿下に化けていないので咎められないと思います」


「それで…その後は?」


「みんなをこちらに引きつけますから、リンデ様は門を開けてください。

北部住人は皆逃げたがってますから、ちょっとつつけば皆、門に殺到するはずです。今は内城の包囲を解いた反乱勢力が全部の門を抑えてますから、皆近づいていないだけで。僕が引き付ければきっと、なんとかなるでしょう」


「なんとかってお前な・・・しかし、門開ける以外、手がないしな…。分かった仕方ないやろう」

リンデは渋々という顔に反しててきぱき行動に移した。渋々顔なのは、プライドのせいのようだ。


まったく貴族っていうのは面倒な生き物だなぁ。


フランツはそんなことを思いながら、これからのことを考え始めた。


次の更新は来週ごろになる予定です。

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