地方の動乱、中央の陰謀 ~核心~
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いままでのお話
ブランジュ王国の絶世の美女アデルハイドは政治にも口出しする才色兼備のお姫様。
隣国から来たフランツは男でありながら美女のような容姿でしかも姫に姿が似ていた。
フランツは姫の影武者にされてしまい、厳しい訓練を経て姫としてデビューしてしまった。
ひと旗あげようと思っていたフランツに試練が降りかかる。
フランツは対立の続く南の地へ行かされちょっとしたミスから奴隷商人ドルナンドに拐われてしまう。
そこで友となった奴隷のエルーシア達は反乱を起こし姫を襲う。
姫を失えば命も失うフランツは姫を救う決意を固めた。ところが姫を守る司令官に悪人ドルナンドが就任しまう・・・
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部屋に入った途端、リンデ侯は我に帰ったのかそわそわし始めた。
(なんてことをしてしまったのだろう。アデルハイド殿下に楯突くなんて。私は殿下を守る忠臣!命令は疑問ひとつ持たず全うすべき者・・・!)
「殿下!私は狂っておりました!このフランツめにそそのかされてしまい、ドルナンドを司令官に任命したことについては疑問ひとつありません!
全ては殿下の成すことでありこの私は・・・」
リンデは申し訳なさそうに、声を張り上げて言う、が言いかけたことろで姫に口を挟まれた。
「本気でそう思ってるの?だとしたらあなたは腰抜けよ。いいから聞きなさい。家臣に疑問を持たれていては、心ともなりません」
アデルハイド姫はリンデの言葉を制して説明を始めた。
「私だって本当はドルナンドなんかに任せたくありません。でもドルナンドは現地貴族はで聖職者オルナンを除けば一番位が高いの。国法で言えば彼が司令官になるのは道理」
姫は一息おいて、そしてため息をひとつついて続けた。
「それに彼はカストルーニャ出身だとオルナンは強調した。これで彼を採用しなかったら、『アデルハイドは感情でお気に入りの人を採用する』とか『やっぱ北の人だけ贔屓する』とされてしまう。そうしたら、私が決めたことを誰も守らなくなるから。感情でモノを語っていいのは・・・民衆だけなの」
リンデの横で聞いていたフランツはこの時少し心が動いた。この人はすごい人だ。
自分を殺してまで、こんな瀬戸際でも将来のことを考えている。民衆に実弾発砲しないのを徹底したり、姫を毛嫌いする人が多い南部に自ら出向いていくことも、本当に民衆のことが好きなんだなと。
それなのに性悪な連中の妨害で苦労ばかりしている。姫は北部でも民衆の人気こそは高いけど、貴族や政府からはよく思われてない事の方が多い。
フランツはふと自分を省みた。(英雄になりたいとか思っていながら、いざピンチになると自分の命のことしか考えなかった。本物の英雄ってのはこのお姫様やエレミエ様、そしてエルーシアのような人なんだろう。なんて僕は愚かだったんだ)
ドルナンドは司令官になったものの、姫の厳命でただのお飾りとなっている。命令は守られ、威嚇射撃以外の攻撃はしていない。
ドルナンドとしても、命令を忠実に守って成功したら恩賞が期待できるし、失敗したらしたで姫の責任だから従っておいて損は無かった。
リンデとフランツが退出した後、姫は鎧戸が下ろされてロウソク一本で照らされた暗い部屋で次の会議の時間、午前2時まで物音ひとつさせず出ても来なかった。
2時の会議は何もなく終わり、現状報告と現状維持だけが言い渡されてすぐ解散した。
報告ではドルナンド指揮下の兵士18名が負傷し、行方不明だった親衛隊員のうち2人の死亡が確認された。
次の日もまた次の日も姫の「積極的な消極作戦」は実行され、両者に全くと言っていいほど動きがなく夜を迎えた。
ある意味で”何事もなく”6日が過ぎた。
会議室に伝令兵が駆け込む。
「申し上げます!要塞の住人が反乱勢力を妨害しています」
会議室には城壁で戦っているドルナンドと親衛隊司令官以外の全員が揃っていた。
「詳細を申せ」
姫が言う。
「はっ!城の陥落が絶望的と見たのか反乱離脱者が出ています。さらに北部系住人が『いい加減にしろ、日常生活を返せ』と南部人たちに喧嘩をふっかける場面もあり、突発的に祭り気分で参加した多くの人間が反乱をやめて
帰っていきます」
「殿下、さすがでございます。読みが当たりましたな。この要塞の住人は北部出身の兵で占められていますから、いずれ反乱に反感を持つ
流れができると思っておりましたぞ」
オルナンが昨日とは打って変わって希望に満ちた顔つきで姫を褒め称える。
「調子者めが」
リンデがぼそっと言い、オルナンがチラッと睨む。
「わかりました。各々、最後の頑張りです」
アデルハイドがそう言い、会議がお開きになるだろうという空気の中、別の伝令がノックもせずに飛び込んできた。親衛隊員だ。
「殿下!!王国軍が、王国軍が!」
「どうした」
「王国軍の旗が見えます!かなりの数です!要塞外城壁から約2kmのところまで迫り、要塞を包囲しつつあります!陛下の御旗とコンドール公爵旗が確認されました!」
「馬鹿な!王国軍がそんな早さで編成してここまで来れるか!王都までどれだけ離れていると思っている!」
リンデが叫ぶ。
「今王国軍が要塞に来たらせっかくの殿下の栄誉を横取りされてしまいますぞ!なんたることだ」
オルナンが言う。
「名誉も栄誉もどうでも良いのです。それより、このままだとせっかく無傷に近い状態で押さえたのに南部の住人感情が悪化して火に油を注ぐことになってしまいます。どうにかして彼らを止められないものか・・・」
アデルハイドが思案している。フランツは横目でチラっと姫と顔を合わせ、ちょっと頷いてみせた。
「・・・王の軍は王族である私がどうにかするべきでしょう。時間をください。でも対策はもう立てましたのでご安心ください皆さん」
そう言うとフランツとリンデを引き連れてアデルハイドは退出した。
扉を閉めるとすぐに姫はフランツに言った。
「反乱勢力は混乱しています。フランツ、お前はこの隙にリンデと協力して要塞の外の王国軍の元へ行くのよ。そこで“私になって”王国軍を止めなさい」
「いいですか二人共、私は城壁の上に立って民衆の前に姿を晒し陽動します。フランツ、そこでお前は男の格好で城外へ抜け、外で着替えて私に化けて王国軍司令官に“姫として攻撃停止命令”をするのです。リンデ、道中は全て任せました」
リンデとしてはあまり気が進むものでもないだろうが、姫の命令ということで喜んで聞き入れた。
「お任せください!」
リンデとフランツは同時に言い、二人とも顔を見合わせ、そして背けた。
--数日前 王都ルテティア・テュイリア宮殿
「マジョネイユ、本当に何もなかったのか」
腕を組んだまま、テルミドールが詰め寄る。かれこれ秘密裏に会うのはこれで6回目だ。
これ以上会っていたら、あらぬ噂が立てられてしまいかねない。テルミドールも焦っていた。
「はい。あなた様に呼び出されて『アデルハイド殿下に関わる重大なものを部下が発見した。だが私が取っては
怪しまれるからこっそり拾ってきて欲しい』と言われたので、必死に探しましたが何もありませんでした」
「本当か、不透明のガラスの小瓶で、確かに姫の従者が刺された現場の、そう堀の底に落ちていたはずだ」
「でも何もありませんでした。隠していません。本当です。私は何度も休日を返上してドブさらいに変装してまで探したんですよ」
その瓶はクロエに既に回収されていることは、当然二人は知る由もない。
「ふむ・・・」
「テルミドール様、なぜその瓶とやらにそこまでお詳しいのです?それに執着される意味はなんなのです?殿下に関わることなら教えて頂けませんか」
マジョネイユは6回も執拗に探させたテルミドールを次第に疑うようになってきた。別に犯人かとかじゃなくても、何か関わりがあるんじゃないかと。
「いや、気になっただけだ、もう良い。私の勘違いだったようだ。苦労を欠けたなマジョネイユ」
「いえ、アデルハイド殿下のお役に立てるならなんでも致します・・・」
(いかん。私としたことが何たる誤算!“あの毒瓶”が消えてしまったとは・・・これは私もうかうかしてられぬな。一体誰があの瓶を持っているのだ・・・)
テルミドールは知り合いの貴族の挨拶もそっちのけで顔を曇らせて自室へ戻った。
テルミドールはあくる日の朝、自室で公務をしていると執事が入って来て伝えた。
「閣下、陛下がお呼びです。至急出仕の支度を整え参上せよとのことです」
宮廷とはなんと面倒くさいところか。至急なのにちゃんと衣服を整え着替えて来いというのだ。軍隊だったら呑気に衣装選びしているところを見られでもしたら銃殺モノだ。
テルミドールは高級貴族であるものの軍隊生活も長かったからか、効率を重視する傾向があった。
「分かった」
テルミドールは呼び出しの理由がまるで分かったように冷静に、かつ急いで支度を整え始めた。
テルミドールが宮殿大会議室に顔を出すと、お歴々が着席して待っていた。
「お待たせいたしました陛下。只今テルミドール参上いたしました」
テルミドールが着席するや否や、国王オーギュスト3世が口を開いた。かなり焦っているようだ。
「皆の者、急に呼び出したのは他でもない。我が娘、アデルハイドが向かった先で反乱が発生したと聞いた。規模は大したことないと聞いていたが、なんと誰も留守をせず責任者3人が不在だと言う!要塞責任者を吊るし上げてやりたい気分だ!・・・それで、この事態をどうにか解決したい。良き案はないか」
「よもや東部国境へ王国軍遠征のため、各地の兵が集まっているときとは。いやはやタイミングが悪いですな」
大臣のひとりが言う。
30秒ほどの沈黙の後、コンドール公が口を開いた。
「よろしいですかな、私、コンドールめに良い案がございます」
「なんだ、申してみよ」
「あの行動力がお有りなアデルハイド殿下に万が一の事があってはと、殿下がお発ちになる日から我が私兵と南部リュールーズ駐留軍に非常体制を敷いておきました。私なら対処ができると存じます。いやぁしかし、まさか要塞責任者が全員出世の為に留守にしてしまうとは思いもよりませんでしたな」
「でかしたぞコンドール!やはり最後は行動力を伴うそなたの力が頼りだ」
オーギュスト3世の顔が晴れあがり、手を叩いて喜んだ。
「つきましては陛下、リュールーズ駐留の軍を使って要塞を攻撃することと、テルミドール侯爵とデローネル侯爵両名を同行させていただくことを
許していただきたいのです」
コンドールは身体が大きいが声も大きい。王はその堂々たる姿を見て安心したのかすぐ許可をした。
「ところでだな、デローネルはアデルハイドの親衛隊長だから分かるが、なぜテルミドールを連れてゆく?いや、優秀なのは分かるのだがな、そなたのことだ、何か別に理由でもあるのかね」
王が尋ねる。
「デローネルは陛下の命令を各地方貴族に伝達した責任者でございます。彼に罪はありませんが、不届き者が要塞を全員留守にしてしまったという結果になり、彼は自らの手で解決を望んでおり、その熱意を汲んで私は連れて行こうと思ったのです」
コンドールはオペラ歌手のように太くしっかりした声を響かせる。
「そうかそうか、お主ら二人が居れば王国も安泰であるな。それにテルミドールは歴戦の勇将でもある。行動力のコンドールと勇者テルミドール、まさに鬼に金棒!我が娘を救い出し、南部を見事平定してみせよ」
「はっ!陛下の御心に、そして王国に平穏があらんことを。それでは早速準備し南部へ向かわせて頂きます!」
二人は声を張り上げ深々跪いてから退出した。
バタンと扉が閉まる。
「見事ですコンドール殿下」
「お前の謀略っぷりも見事だぞテルミドールよ。東部国境に不穏な空気をもたらしたのも、シャンドノワール要塞の3人だけ“全員兵を引き連れて参上するべし”としたのも、南部の軍に非常事態宣言を敷くよう進言したのも、全部お前なんだからな」
コンドールは先ほどのオペラのような声をひそめ、今度は誰にも聞こえないくらい小さい声で囁く。
「いやいやまだこれからですよ。しかし殿下良いのですか、アデルハイド様は一応、殿下のご家族でございますよ」
「ああ・・・家族の前に政敵だ。あんなもの、目の上のタンコブ以外何者でもないわ。失脚させてやる」
「そうですか、なら私も良心の呵責なくアデルハイド様を蹴落とせます。我らに勝利があらんことを、コンドール殿下」
「頼むぞテルミドール。あのお姫さんはちょっと出過ぎた。あいつがいると貴族からの反発も強くて政治がままならんからな」
「えぇ、全ては宮廷と王国の為に。でも気を抜かずにお願いしますよ殿下。アデルハイド様から永遠に権力を奪い取るまでは終わりません」
二人は数騎の自身らの騎馬親衛隊を伴って最速で南部の都市リュールーズへ向う。
それはちょうどアデルハイド姫が籠城を始めて初めての朝を迎えた時だった。
次回投稿は早ければ明日に、でも遅いと1週間ほど先になりますー!
相変わらずの不定期っぷりですがよろしくお願いします。
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