地方の動乱、中央の陰謀 ~命の価値①~
新年あけました!今年もよろしくお願いします。
いままでのお話
ブランジュ王国の絶世の美女アデルハイドは政治にも口出しする才色兼備のお姫様。
隣国から来たフランツは男でありながら美女のような容姿でしかも姫に姿が似ていた。
フランツは姫の影武者にされてしまい、厳しい訓練を経て姫としてデビュー。
友を失ったフランツは失意の中、対立の続く南の地へ行かされ、不用意に町中へ出たフランツは奴隷商人ドルナンドに拐われてしまう。
同じ奴隷のエルーシアは姫に対する反乱を企てていた。奴隷か姫か、どちらかしか助からない状況に悩むフランツ・・・。
「待ってエルーシア!」
「・・・何?」
フランツは勢いでエルーシアを呼び止めたが、何を話していいか分からなかった。
沈黙が続く。
「エルーシア、その、ごめん」
フランツはこれしか言えなかった。
「ごめんでなんでも済めば苦労ない」
「そう言われたら・・・返す言葉がない・・・」
とフランツ。
「そう。だから何も言わないで。もし何か言うならごめんじゃなくて『ありがとう』と言って。ありがとうは受け取るけど、ごめんは受け取らないからね」
「エルーシア・・・ありがとう」
「私、あなたを外に出すわけにはいかないけど、反乱が終わったらここからあなたをここから助け出す。約束する。でも・・・」
エルーシアはひと呼吸置いて続けた。
「そうしたらあなたは貴族、私はただ異国人に戻るの。私はあなたのこと、身分が違っても友達だと思えると思う。あなたはどう?私達はあなた方貴族へ戦いを挑むの。それでも、あなた私を友達と言える?」
「今も、これからも友達って思えるよエルーシア。貴族とか身分とか関係なんてないよ」
「ありがと・・・」
そう言うとエルーシアは暗がりへ消えていった。
(でも・・・全てが終わってからじゃ遅い。僕は僕のために反乱から姫を救う。こんなの裏切りだよねエルーシア。嘘だらけの僕はあなたの友達になんてなる資格、本当はないんだ)
反乱を防ぐ、と心に決めたからと言ってここから出ないことには何も始まらない。
しかしエルーシアに加勢しないことを打ち明けた今、フランツがここから出られる望みは限りなく薄くなった。
加勢すると嘘をついて途中で抜けて要塞内城へ走れば、反乱を事前に知らせられたかもしれない。
しかしただでさえエルーシアを裏切っていると感じているフランツに彼女を使い捨てるような真似はできなかった。
2日後、アデルハイド姫が村の視察を終えて要塞へ帰る日の夕方。
エルーシアとそのほか2~3人が“客に買われて”出て行った。
たぶん夜までは、いや、もしかしたら明日も奴隷小屋に帰らないかもしれない。
例のごとく反乱勢力の人間が売春目的に一晩奴隷を買うフリをして外に連れ出したに違いない。
フランツの頭の中に詰め込まれている予定表ではアデルハイド姫はその日の昼頃に到着の予定だった。
後から知った話では近くの村で近隣豪族の借金取りが武装して村に襲撃に入っていることが確認され、危険回避のために姫はその手前の村で待機していた。
当然この襲撃をする側も受ける側も反乱勢力の人間が扮していて、姫は危険回避のつもりが皮肉にも危険に突入する羽目となったのだ。
表面上は何事もなく、フランツはずっと奴隷小屋の中でうずくまって過ごした。
こうしては居られないという気持ちだったが、特段何かできるわけでもなかった。部屋には鍵が掛けられているし、他の奴隷の中には反乱勢力に身を投じている者も当然多く、見張られているも同然だったからだ。
しばらくして、外から声が聞こえた。
姫が出て行った時の歓声と似た群衆の声。と言っても暖かく見送られたあのときと違って怒りに震えた
反乱の声だ。
カーンカンカン、カーンカンカンと警告の鐘が鳴る。
ほぼ同時にエルーシアが扉を開けて現れた。
階段の上の方から夕日の光が漏れる。
外の床にはドルナンドの巨体が血まみれで倒れている。
夕日がその赤をさらに赤く照らす。
「皆!戦い!命をかけて自由を掴みたい者は私に続く!いい!?」
部屋にいた13人ほどが立ち上がり、ぞろぞろとエルーシアの方へ向かっていった。残ったのは5人ほどの、こんな時でも上の空という感じで茫然自失している女達だけだった。
中には胸すら隠さず仰向けで死んだように天井を見ている女もいる。
これが魂が抜かれた者の姿か、とフランツは思った。
自然とフランツは開いた扉のほうへ歩いていった。すると目の前にエルーシアが立ちはだかり、フランツはその柔らかい肌にぶつかった。
「フランシェ、あなたはダメ。お願い分かって。でも必ずあなたは反乱が終わったあと助け出す。巻き込んであなたがもし死ぬようなことがあれば
私は耐えられないから・・・。じっとしてて。もう少しの辛抱」
「エルーシア!私はあなたに嘘をついてる!私は・・・」
フランツが言いかけた瞬間にエルーシアは人差し指をフランツの口に当てて封じた。
「女の秘密は海より深い。私だって嘘のひとつやふたつくらいあるもの。私とあなたは友達。それでいいじゃない」
そう言うとエルーシアはフランツを抱きしめて頭を撫でた。
そして去り際にフランツにこう囁いた。
「私が戻るまでここに、いて。でも、扉の鍵は“仕方なく”壊しちゃったから。私が戻らなかったら、そっと、遠くへ行って。じゃあね私の友達」
そう言うとエルーシアは先に行った仲間の元へ階段を駆け上がって行った。
あとには半開きになった扉とフランツが残された。
階段の上のほうからワーワーと怒声がかすかに聞こえ、時折ドーン、パァーンと銃声のようなものが散発的に聞こえる。
(今出れば、いや出なければアデルハイド姫は・・・でも、僕が出て行ったところで意味はないかもしれないし、支配者3人が兵隊を伴って街を出ていると言っても、さすがに幾人か兵隊はいるだろうし、お城に篭っていいれば姫は安全じゃないか僕はエルーシアとの約束を守って、ここに居た方がいいかもしれない)
しばらくつっ立っていると、次第に銃声と怒声は遠ざかり、要塞の中心に建つお城に向かっていっているようだった。
(このままだと本当に姫は・・・!)
フランツはボロを着たまま部屋を飛び出し無我夢中で階段を駆け上がろうとした瞬間、後ろから脚を引っ掛けられ転倒した。
仰向けにされたフランツ。目に入ったのは血まみれのドルナンドの巨体だった。まだ生きていたのか。
「お前・・・逃げられると思うなよ。貴様ら反乱軍なんざ城の兵隊が粉砕してくれよう・・・」
フランツはボロを掴まれ引きずられるようにして階段を上がる。
「さて・・・俺もアデルハイド殿下を守るのに貢献すれば・・・もっといい立場を手に入れられるか・・・ふふぅふふ」
ドルナンドは滴る血が目に入らないかのごとく、ゆっくりと、しかし力強くフランツを1階の部屋に連れ込んだ。
この期に及んでもやはり独り言を言っている。
ドルナンドは机に置いてあった剣をフランツに向け、チェストの中にあったドレスを投げた。
それはアデルハイド姫が普段身につけているような高価なものだった。
本来は奴隷がそれを着て、上客を喜ばせるための小道具の一種だ。
「それを着ろ。ボロの上からで構わない。早くしろ。それを着て城壁の上に立ち、『私こそアデルハイド姫だ』と叫ぶんだ。遠くで今の暗さなら民衆も
お前を姫だと思うだろう…容姿も似てるしな」
ドルナンドはフランツが姫の影武者だということを、もとより男であることを知る由もない。
しかしフランツは例えボロを着ていても姫に劇的に似ているらしく皮肉にも姫の影武者は奴隷となってなお姫の影武者をやらされるのだった。
フランツが姫の格好で反乱勢力を陽動している間に、ドルナンドは本物の姫を助けるという筋書きだろう。
これまた皮肉にも、これこそフランツが姫を助けられる唯一の方法だ。
連れ出されたとはいえ、フランツはエルーシアを裏切り、あまつさえこの憎いドルナンドに協力する形となって、良心の呵責から崩壊寸前だった。
それでも姫を救う為、やるしかない。アデルハイド姫を失えば、友のガスパールを救うことも自分すらも救うことができなくなる。
姫が死んだら彼女のスパイ達がフランツを殺すと以前から聞いている。影武者は存在がバレたり本物が死んだりしたら存在が抹消される。
そういう決まりごとを作っておかなければ、簡単に影武者であることを暴露したり姫を意図的に殺して逃げ果せようとする者も出るからだ。
フランツは友と自らの命を守るため、最悪の敵と手を組み、せっかく手に入れた最高の友を裏切る。かっこよく死を選べない自分。ガスパールを助けるためとか、姫を救う為とか、そういう理由も確かにある。
でも、本音から言えば、一番の理由は自分の命を失いたくない。それに尽きた。
いつもそればかり。古今東西、人の為友の為に戦って死んだ英雄の伝記を読んできた。そういう人になりたいと、なろうと思ってこの国に来た。
なのに自分は、大義を成すどころか自分の命を守るために必死になっている。
黄昏の空に砲声が遠く響く。シャトージャンヌ要塞内城を取り囲む怒声はさっきよりも増していた。
つづく
いつも読んでくださりありがとうございます(*´∀`*)
投稿が順次なので長い日もあれば短い日もあり、わかりにくくなってきているのでそろそろ章というものを導入してみようかと思っています。
分かりやすい方法ないかなぁ。
今回は制作上のちょっとした事情で①と②で分かれてしまっています;
既に②はほとんど出来ているので近いうちにアップします(`・ω・´)