地方の動乱、中央の陰謀 ~ふたつの身分を持つ者~
お待たせしました!クリスマスイブに更新です(*´∀`*)
これまでのおはなし
ブランジュ王国の絶世の美女アデルハイドは政治にも口出しする才色兼備のお姫様。
隣国から来たフランツは男でありながら美女のような容姿でしかも姫に姿が似ていた。
フランツは姫の影武者にされてしまい、厳しい訓練を経て姫としてデビュー。
友を失ったフランツは失意の中、対立の続く南の地へ行かされる。
姫に待機を命じられ、不用意に町中へ出たフランツは姫と似ていると呼び止められてしまった。影武者であることがバレたら命は無い。フランツ危うし。
=====
フランツは平民が着る長ズボンにシャツ、茶色の上着につばの狭い帽子という屋根に群がっていた他の平民と変わらない格好をしていた。
声を掛けてきた男も同じような服装だ。フランツより少し年上の20歳くらいの青年で、青い目に金色の短い髪で周目を引くほど不細工でも上品でもなく、まさに普通という言葉が似合う。
ただし筋肉隆々で身長が高いこと以外は。
一方のフランツは同じような服を着ているにも関わらず、白金の長い髪に薄緑色の瞳、白い透き通った肌で周囲から浮いていた。
女性らしい容貌で男性の服を着ていることも余計に目立つ原因となっている。
フランツは今、姫に変装している必要もなく当然化粧類は落としているが、いつの間にか姫が板についてきたのか、手術の成果なのか化粧がなくとも姫と間違われるほどになっていた。
声をかけた青年を中心に、周りの人たちが一斉にフランツに目を向ける。
沈黙が続く。
「誰か、誰でもいいから喋ってくれ」
フランツは金縛りにあったように心の中で呟きつつ、身動き一つできなかった。
「あぁ、わりぃ!コイツがアデルハイド殿下のように可愛いから冗談言ってみただけなんだ」
さっき声を掛けてきた青年がいう。
「おいおいなんだぁ、おノロけかよドルナンド!まぁ、確かにかわいいけどよ」
町人のひとりが軽いヤジを飛ばす。
フランツが沈黙しているうちにドルナンドと言われた青年はどんどん話を進める。
「はははっ、コイツぁ俺の姪なんだ」
すると町人は表情を替え、気まずそうに言った。
「あぁ・・・そうかそういうことか。だから男装をさせて・・・」
この時フランツにはガールフレンドとかじゃなくて姪だったのかと、そういうことで気まずそうに言ったのだと思っていた。
その考えは後で裏切られることになる。
確かにちょっと前まで姫に完璧に化けていたフランツだが、化粧無く、カツラ無く、豪華な服もない今では“似ている”だけで済んだ。
一部の人がフランツの顔を覗き込むようにしてチラ見して行った以外、立ち止まる人もなく、人々は次々屋根の上から退散していく。
フランツは元来た屋根伝いに歩いてシャトージャンヌ本城に向かおうとすると、さっきの青年ドルナンドが仁王立ちしていた。
「あっ・・・」
フランツは思わず声を出した。
思ったよりドルナンドの身長が高かったからだ。筋肉隆々な上に190センチくらいありそうだ。
「おう、顔も美しいが声もかわいらしい。姫様だと言っても通じそうだ」
(しまった)
フランツは元から声が高かったが、訓練含めて1年以上ずっと姫の声で過ごすことを強要されていたからか咄嗟に出る声も姫そのものになってしまっている。
むしろもう元の声が出ないんじゃないかというくらいに。
「ははぁ・・・なんで男装しているのか分からないがこりゃ上モノじゃないかな」
ドルナンドは独り言なのかこっちに向かって言ってるのか分からない声の大きさで言う。
「お嬢ちゃんは独りかい?こんなむさくるしい要塞の街にどんな御用で」
「身寄りがなくて、大きな要塞が見えたから来てみたんです。それで迷い込んでしまって」
フランツは面倒くさくなった。かといって真実は言えるわけもなく、誰も知り合いがいないからこう答えた。
「あ、あの急いでいるので」
そう言うとフランツはドルナンドを避けて歩こうとする。
するとドルナンドは素早く動いて道を塞ぐ。
「お嬢さん、ここは屋根の上ですぜ、どこへいきなさるんです」
「要塞の、建物へ」
フランツは要塞の中央にそびえる旧時代の高い建物を指差した。
「おっと、それは辞めたほうがいいぞ」
「なんで?」
「大体要塞なんて限られた人しか入れないもんだ。兵隊に見つかってとっちめられるぞ。それにさっきの騒ぎで皆お前さんを見ている。屋根の上を歩くかの麗しいアデルハイド殿下そっくりの男装女・・・要塞の窓から入ろうものならきっともうひと騒ぎ起きるぜ。どうだ、とりあえず俺と来いよ。ほとぼり冷めたらお望みの場所へ送ってやるから」
ドルナンドの言うことはもっとものように聞こえた。地上では何事かとちらちら横目でこちらを見ている人がいる。
「・・・分かった。じゃあそうする」
フランツはドルナンドの提案に仕方なく乗ることにした。
反対しても逃してくれそうもないし、これ以上ことが続けば注目も増える。それだけバレる危険も増えてしまう。
屋根伝いに行ってもそんな遠くまでいけないと思っていたが、住民の知恵か各屋根に木の板が通してあり、屋根の上も自由に行き来できるようにしてある。
元々北部の建物と違ってカストルーニャ風の家も多く、屋根がつながっているところが多いので地上に降りなくても要塞内の街のどこにでも行ける気すらした。
ドルナンドのがっちりした手に握られてある家のバルコニーへ降りた。
「なかなか身軽じゃねーかお嬢さん」
フランツが辺りを見回すと、他の家より大きめだ。元々狭い要塞に詰め込むようにして家々が建っているので隣家とくっついてはいるが。
ドルナンドが勝手知ったるように大きな窓を開けて部屋のほうに入ってく。
「来いよ嬢ちゃん」
「あの、いいんですか?勝手に」
「ははぁ、この家が俺のものじゃないと思ってるな?そりゃ俺はこの家の主に相応しい風貌じゃないけどよ」
「いえ、そんな。ごめんなさい」
「ま、俺の家じゃねーけどな。俺のじゃないが、勝手に入ってもいいんだよ」
恐る恐るドルナンドについていった。
中はあまり家具が無く、薄暗い。元々密集していて日当たりが悪い要塞内なので当然と言えば当然だが、それを抜きにしても暗い感じがする。
するといきなりドルナンドがフランツのみぞおちを小突いてきた。同時に強い吐き気がしたと思うとフランツはそのまま気絶し倒れた。
・・・
フランツが目を覚ますとまず目に飛び込んできたのは石の壁だった。窓はなく、燭台の火の灯が寂しそうに揺れている。
「目・・・覚ましたのね。よかった」
後ろから声がした。フランツが振り返ると20人ほどボロ切れ一枚着ただけで座っていた。多くの女は上の空という感じで目線が定まっていない。一番下が12歳くらいから25歳くらいの女もいる。声を掛けてきた女は17歳前後に見える。大体フランツと同じくらいだ。
ボロの下は裸だが、黒い長髪と肌は多少汚れていたが、それでも透き通っていた。
鼻が少し高く、南方のカストルーニャの血が混じっているようだ。
「ここは何?」
フランツはドルナンドに気絶させられたことをようやく思い出した。
「ここは奴隷小屋。奴隷を売る前に集めるところ。売れる前にもいろいろさせられる・・・で、あなたは拐われてきたの?」
どうやらここは女部屋らしい。当然のようにフランツも女と勘違いされているようだ。
「え・・・っと気絶させられて」
「そうなの・・・そう。ねぇ、あなたに私、興味あるの。気品があって・・宮廷の人か、そうでなくても貴族の娘とかじゃない?」
「う、うん。確かにちょっと前まで宮廷にいたし・・・うんそうだね宮廷にいた」
フランツがちょっと前まで姫でしたとも言えるはずもなく、とりあえず宮廷にいた事は嘘じゃないしそう言っておいた。
「そう!じゃあ私とお話。するでしょ?私、ブランジュ宮廷に興味あるから。宮廷のこと教えて。私、代わりにあなたにここのこと教える」
いきなり女は生き生きしてきた。まるで場違いの笑顔。
「わかった。ぼ・・・私の知ってることを教える。それじゃ・・ここのことを教えて、えーっと・・・あなたの名前は」
「私の名前?エルーシア」
「エルーシア、ここのことをまず教えて。ぼ・・・私の名前はアデ・・フランシェ」
「フランシェ・・・王国の名前そのものみたいね。あ、じゃあ、そうね。約束通り教える。ここは身寄りの無い人が拐われたりして連れてこられるの。あとは・・私みたく家が貧しい人が娘を売ったりするわ故郷を離れて来てる北部の兵隊が多いから、こういうところが商売繁盛する。つまりね、売春宿としても使われてるの」
フランツは淡々と説明するこの女がすごいと思った。こんな状況で売春させられるかもしれないのに、正気を保っていられるなんて。
「ド、ドルナンドは姪がどうのこうのってぼ・・私のことを」
「あれは・・・あいつの姪っていうのは、この街では“俺の商品だぞ”っていう意味。やつらの経営している売春宿や奴隷小屋はこの要塞には何箇所もあるの。要塞の司令官とも繋がってるから誰も手出しはできないし・・・むしろ娘を提供しに遠くの村からも売りに来る始末・・・」
「あの・・・エルーシア、あなたはどうしてそこまで詳しいの?見た感じもかなり教養もあるようだけど・・・」
「うん、私はシスターになりたかったから。家から逃げるようにしてこの国に来たんだけど、途中で両親に捕らえられてしまってそのまま売られたわ」
たまに言葉が変なのは・・私、あっちの人間だから。
あっちというのは旧敵国のカストルーニャのことだ。南部のブランジュ系住民はもっともカストルーニャを嫌う。皮肉なことにブランジュでカストルーニャ人が一番多いのもこの地だ。
「ごめん、変なこと聞いちゃって」
「気にしないで。今は同じ囚われの身。私、夢ある。奴隷小屋も売春宿も潰して、要塞の司令官も何もかも倒してやるの。こんなんじゃ私はシスターに向いてなさそうね。とにかく、あいつらを倒すには宮廷とか、この国の情報が欲しい。実は今ね、ブランジュのお姫様がこの街に来てて、街の貴族どもがこぞって王都に行こうとしてる…なにかやるなら今しかないの!」
フランツはその眼差しと姿に心を打たれ宮廷の様子を一晩かけてエルーシアに教えた。
要塞の司令官である貴族の年鑑で見た知識、地理、風習などをとりとめもなく。
それでも姫に関することや、ガスパールに関連することなど、自分に関わることは自然と教えるのを控えた。
翌日、ドルナンドが食事と共にボロを持ってきてフランツに「着替えろ」と命令した。
フランツは男とバレないようたくみに着替え事なきを得たが、このままではいずれバレてしまう。
早くここを出る必要があった。
出るにはエルーシア達に“反逆”をしてもらうしかないだろう。それに純粋にフランツはこのかわいそうな女の望みを叶えてやりたいとも思った。
でもやりすぎれば、つまり成功してしまえばアデルハイド姫に危害が及ぶし、自分にも危険が迫る。
フランツは宮廷のただの下働きの身でありながら姫であり、そして今や反逆を企てる奴隷でもある。
自分の身を守るにはこの女と共に一瞬でも姫に敵対しなければいけない。
自分はその敵対される姫でもある。自分が自分に刃を向けなければならない状況。どうすればいいか、慎重な行動が今、求められていた。
夜になると客入りがいいのか何人もが連れ出されていった。
エルーシアによれば羽振りのいい上客を捕まえれば客と共に外に出る機会があるという。
それで外部に協力者がエルーシアを“買いに”来て外に連れ出し、ひっそり情報の交換をしているという。
その日もエルーシアは外へ出て、朝頃になって帰ってきた。
要塞の街は入り組んでいて、監視に目を光らせている売春宿の男たちからも隠れることが容易だった。
「やはり事前の情報通り、アデルハイドがこの要塞に2日後に戻って来る。しかも機を見計らったようにここの支配者の貴族ども3人が王都へ向かうわ。どうやら重要な宮廷行事があるみたい。この時のために、外も中の私達も、アデルハイドが来ると知った時・・・数ヶ月前からずっと、ずっと計画していたの・・・ようやく果たせる・・・」
エルーシアの声がなわなわと震えている。
フランツはふと思った。宮廷行事・・・そんなもの無かったはずだ。細かい宮廷行事も全て頭に入っているし、出る前に聞いてなかった。僕がいない間に何か動きがあったんだろうか・・・。
「指揮官の貴族も姫もいないその間にドルナンドを倒してここの人を解放するの?」
「フランシェ、さすが宮廷人、察しがいいわね。でもドルナンドはただの下っ端。売春宿を統括しているのはオルナンという腐った聖職者なのそいつを倒すのよ。そして私達は自由になるの。でも・・・」
「でも?」
「フランシェ・・・言っておくことある。私はアデルハイド殿下がはっきり言って嫌い。いいえ、貴族というもの全てが嫌いかもしれない。それはたとえあなたが宮廷人であって、もしかしたらアデルハイド殿下を信奉しているかもしれないと、分かった上で言ってるの。だから・・・アデルハイドが要塞に来たら彼女も利用するわ。人質にするかもしれない。それでもいいの・・・?」
フランツは答えに迷った。もしかしたらその人質になるのが自分かもしれない。でもこの奴隷たちを救いたい。所詮、全部救うなんてことは無理なのか・・・。
「ごめん・・・エルーシア。やっぱ私、もう奴隷の身とは言え元々宮廷にいたの・・・だから・・・だから」
「うん。分かった。私達にはこれ以上協力できないってこと。やっぱりあなたは宮廷人。今いる場所は同じでも、いるべき場所は違う。それなのに私達に教えてくれた。いろいろと。・・・ありがとう。さようなら」
エルーシアは奥の暗がりに向かって歩いていった。
「待って!エルーシア!」
フランツは飛び上がってエルーシアに向かって言った。
エルーシアが振り向く。
「・・・何?」
つづく
お読みくださりありがとうございます!
少し文が溜まっているので次回更新は週内の予定です。
おたのしみに!




