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マーセナリーガール -傭兵候補生-  作者: 海野ゆーひ
第06話「簡単な仕事・後編」
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06-B

 汽車の中、始めは元気に喋っていた私たちだけど、いつの間にか眠っていた。

 先に起きたフランカが起こしてくれたからよかったものの、もしも2人とも眠ったままだったら、うっかり乗り過ごしていたところだ。




 モンテスに着く頃には、すでに日は落ち、暗くなっていた。


「やっと着いた……」

 汽車を降りた私たちは、とぼとぼと駅を出る。


「なんか、いつか乗り過ごしちゃいそうで怖いね」

「そうですね~」

 声にも張りが無い。


 仕事で疲れて、汽車に3時間ほど揺られる。キツいんだけど、でもきっと、そのうち慣れるんだろうなとも思った。

 それに、傭兵になって本格的に仕事を始めたら、キツさはこんなもんじゃないだろうし。


 ……まぁ、今はそんなことはいい。


「早く帰って、寝たい」

 とにかく、疲れていた。フランカも、「はい」と同意する。


 私たちは、夜の街なかをフラフラと歩き、家へと向かった。




「おかえりなさ~い」

 玄関を開けると、すぐにミリィが出迎えてくれた。その後を追うように、スヴェンがダイニングから顔を出して「おかえり~」と言う。


 私たちは「ただいま」と返事をし、リビングにいる父のもとへ。


「おう、お疲れさん」

 父は新聞を読むのをやめ、私たちを笑顔で迎えた。


「とりあえず、荷物を置いてこいよ」

 そう言って立ち上がると、ダイニングのテーブルにつく父。


「もうそろそろ帰ってくると思ってな、飯食わずに待ってたんだ」

「え、そうなの? 先に食べててよかったのに」

 時計を見れば、いつもより1時間は遅い夕食だ。


「姉ちゃんたちが仕事から帰ってくる日はさ、家に帰ってくるまで待とうって決めたんだよ。あまりに遅い時は別だけど」

 父に続いてテーブルについたスヴェンが、そう言う。


「そうそう。疲れて帰ってきてさ、2人で食事ってのは寂しいでしょ? 私とスヴェンで考えて、お父さんもそうしようって言ってくれたんだよ」

 ミリィがそう付け足す。


「へぇ、そうなの」

 隣に立っているフランカと顔を見合わせる。彼女も困っているのか、心なしか笑みがぎこちない。


 私たちとしては、正直、2人でも構わないんだけどな。


「ありがとね。なんか、気を遣わせちゃって」

 でも、そう言うしかない。せっかく私たちのことを考えてくれているのに、無下にはできないもんね。


「じゃあ、荷物置いてこよっか」

「ええ、そうですね」

 私たちはそう言って、それぞれの自室へ向かった。




 食事中、私とフランカは主に父からの質問に答える側に回った。とにかく疲れているので、こっちから進んで報告の口を開けなかったからだ。


 やがて報酬の話になり、私たちが初めてお金を稼いだことを、父たちは笑顔で祝ってくれた。

 早速、生活費に充ててと手渡そうとしたんだけど、父はなぜか拒否。


「それはお前が持ってろ。お前が頑張って初めて稼いだ金なんだから、お前が自由に使うべきだ。生活費のことは、お前が傭兵になってから考えてくれりゃあいい」

 ……そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、私としては、せっかく家族のためにお金を稼いだのになという思いもある。


 ……自由に使え、か。いや、そう言われても困るな。

 一体、何に使えばいいんだろう。


 その後私は、父に褒めてもらってデレデレしているフランカを見ながら、そしてお金の使い道を考えながら、ミリィの作った料理を腹に収めていった。




 そうして食事も終わり、お風呂へ向かう。もう、すぐにでもベッドに突っ伏したいところなんだけど、シャワーくらいは浴びたいからね。


 そしたらなぜか、フランカもついてきた。


「私も、ご一緒してよろしいですか?」

 ……もうちょっと、父のところにいなよ。その時ばかりは、そう思ってしまった。


「いいけど、2人で入ると狭くない? いいの?」

 まぁ、これで諦めてくれるとは思ってない。


「そんなこと気になりません。さぁさ、行きましょ」

 やっぱりね。はいはい、行きますよ。やれやれ……。


 フランカに背中を押されながら、溜め息一つ、お風呂へ。




 いつもより一段と狭く感じる浴室で、順番にシャワーを浴び、身体を洗い、浴槽へ。


 疲れを癒す場所のはずが、なんだかちょっと、逆に疲れが溜まった気がするけど、そんなことを気にする余裕は無い。




 特にこれといった会話をするでもなく、淡々とやることをこなして風呂から上がると、2人して歯を磨く。




 それが済んだらダイニングへ戻り、風呂が空いたことを弟らに告げ、「おやすみ」と言ってそれぞれの部屋へ。


 リビングに父の姿があるにもかかわらず、フランカが「おやすみなさい」の一言だけで踵を返したことに、ちょっと違和感を覚えた。

 いつもなら、もうちょっとベタベタくっついて話をしたりするはずなのに。


 ……ああ、もしかしたら、フランカもさっさと休みたいって思ってたのかな。

 だから、私がお風呂から出るまで待てなかったのかも。


 たぶんそうなんだろうなと思いつつ、部屋に入ってすぐにふら~っとベッドに向かい、そのままうつ伏せに倒れると、すぐに意識が薄れていった。




 翌日。私は、まだ少しだるい身体を引きずりながら登校。

 今日も1日、だま~って過ごすことになるんだろうなと思いつつ、教室へ。




「……?」

 いつもなら、完全に空気扱いの私に、なぜかクラスメイトたちの視線が集まっているような気がした。


 その妙な空気を全身で感じつつ、いつも通り顔を伏せながら自分の席へ移動し、鞄を机に置いて椅子に座る。


「……」

 やっぱり、なんか見られてる……よね?


 なんだろう。……あっ!

 おいおい、まさかこれって、あれか?


 イジメ?


 そういえば、なんかヒソヒソ話してるのが聞こえる。視界にぼんやり入る彼らの顔が、私の方へ向いている気もする。


 どうしよう。

 鼓動が激しくなる。喉が無意識にゴクリと鳴った。


 ……いや、でもそうか、今までこんなことにならなかったのが不思議なくらいなんだよね。

 うわ~、ただでさえ学校に来るのは辛いのに、それがますます酷くなるってこと?


 最悪だ。


「ティナさん」

「――!」

 背後からの声に、身体がビクンと跳ねた。


 き、来た。一体何を、私は何を言われるんだ? 何をされるんだ?


 おそるおそる振り返ると、そこには数人の女子生徒。

 いずれも、同じクラスの子だ。たぶん。


「な、……なぁに?」

 今、私の顔、絶対引きつってる。緊張と恐怖で、頭は真っ白だ。


「ねぇ、これってティナさんのことだよね?」

「え?」

 後ろの席の子が、私の目の前で一冊の冊子を広げてみせる。


 それは、傭兵支援協会の広報誌。この前、アレットに見せてもらったのと同じ物だ。


「ここにさ、ティナ・ロンベルクってあるんだけど、これってそうでしょ?」

 彼女が指差すそこには、私の名前。そしてそれは、確かに私のことだ。


 ……どうする? 素直に答えたら面倒なことにならないか?

 面倒事になるのが嫌で、今まで誰にも言わなかったんだし。


 でも、ここで嘘をつくのも変だよね。

 ちょっと調べれば、私のことだってわかるし。


「そうだけど……」

 観念する形で、私は正直に答えた。


 すると、私の顔を見ていた彼女たちの目が、一斉に輝きだした。


「やっぱりそうなんだ!」

「ティナさん、傭兵になるの?」

「え、すごくない?」

「傭兵候補生って何?」

 そして、一斉に喋りだす。


 ……あれ? なんか、想像してたのと違うな。


「おい、マジなんだってよ!」

「なぁなぁ、試験ってどんな感じだった?」

「試験って、何人受けたんだ?」

「確か、女子は1700人くらいじゃなかったっけ?」

「その中で18位って、すげぇよな」

「じゃあ、すげぇ強いってことだよな。見えね~」

「人は見かけによらないってことだろ」


 私の周囲に、後から後から人が集まってくる。

 そして、私そっちのけで盛り上がり始めた。


 ……これは一体、どういうことなのか。


「ホント、驚いたんだ。この広報誌見たらさぁ、ティナさんの名前があるんだもん」

 最初に声をかけてきた女子が、広報誌をバシバシ叩く。


「えっと……」


「うちの父親がさぁ、こういうの好きで集めてんのよ。で、この前テーブルの上に置いてあったから、ちょっと見てみたの」

 へぇ。


「それで、今日持ってきて、みんなに見せたんだ。でも、やっぱちょっと信じられなくてさ、だから、ティナさんが来るのを待ってたってわけ」

 ああ、なるほどね。


 私は、心の底から物凄く安堵した。


「そうだったんだ」

 よかった。何かヤなことが始まるのかと思った。緊張で固まっていた全身が、弛緩していくのを感じる。


 傭兵を目指していること、別に隠さなくてもよかったかも。

 あ、でも、ずっと隠してたからこそ、こういう感じになったとも言える……かな?


 まぁいいや。

 注目されるのは恥ずかしいけど、気分は悪くないし。




 それから私は、チャイムが鳴って先生が教室に来るまで、私を取り巻くクラスメイトたちからの質問に答え続けた。


 ……何年ぶりかな。こんなふうに、同じクラスの子とまともな会話をするのは。


 みんな、私のことを応援すると言ってくれた。

 これは、ますます頑張らなきゃいけないな。


 これだけ注目されて応援されて、でも駄目でしたじゃ、カッコつかないもんね。

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