そして人間は
未来、今からずっと先の未来、あるところに一体の機械がありました。
体は全て見たことも無いような金属で出来ていて、全身のいたるところからコードが伸びていました。一目でこれは機械だと分かる機械でした。もしかしたら機械ではないかのかもしれませんが、少なくとも生物ではありませんでした。
機械はいつも人間になりたい、と思っていました。機械であるために常に決められた行動しか出来なかったからです。自分の思い通りに動きたい、そう思っていました。
機械はいつも願っていました、しかしどうやら機械には神様がいないらしく、願いは叶うことはありませんでした。
それでも機械は願い続けます、自分の意思で動ける人間になりたい、と。
そうして何年も何年も経ったある日、機械の前に一人の人間が現れました。
人間は機械に言いました。
「人間になりたいなら、これをあげるよ」
人間が持っていたのは人間の腕でした。
機械はこれがあれば人間になれると、大喜びしました。でも同時に本当に貰ってしまってもいいのかと思いました。なぜならその腕は人間が自分の腕を取り外した物だったからです。
人間は言います。
「もうそれは必要ないんだ、遠慮せずに使ってくれていい」
機械はおかしな人間だと思いながら、その腕を受け取りました。
「付けてあげるよ」
人間は丁寧に機械に腕を取り付けるとどこかへ行ってしまいました。
機械はそっと腕のある位置に力を込めました。すると、腕がピクリと動きました。機械は自分の意思で動かせること気が付きました。そうして今度は勢いよく力を込めてみました、腕は高く上がりました。機械はずっと腕を動かしていました。
そうしてまた何年も何年も経ったころ、腕をくれた人間とは別の人間が機械の前に現れました。
腕を振り続けていた機械を見て人間は言いました。
「君は人間になりたいみたいだね、だったらこれをあげるよ」
人間が持っていたのは人間の脚でした。
機械はこれがあればさらに人間に近くなれる、と思い大喜びしました。でも本当に貰ってもいいのかとも思いました。なぜならその脚はその人間が自分の脚を取り外した物だったからです。
人間は言います。
「もうそれは使わないから、自由に使ってくれていいよ」
機械はおかしな人間だ、と思いながら脚を受け取りました。
そうして人間はどこかへ行ってしまいました。
機械は腕を使って自分で脚を取り付けました。
腕と同じように力を込めると脚もまた機械の思った通りに動きました。機械は脚を動かして歩いて見ました。そうしてどこまでどこまでも歩き続けました。
また何年も何年も経ったころ、また別の人間が機械の前に現れました。
ずっと歩き続けている機械を見て人間は言いました。
「これを付ければ、もっと人間になれるよ」
人間が持っていたのは人間の胴体でした。
もちろん機械は大喜びしました。おかしな人間だと思いましたが、深くは考えずに胴体を受け取りました。
「好きに使ってくれていいよ」
そう言って人間はどこかに行ってしまいました。
機械は胴体を取り付けました。でもいくら力を込めてもほとんど動きませんでした。強く力を入れたり弱く入れたりしたけれど、やっぱり動きませんでした。
いくらやっても動かないので機械は溜め息を吐きました、そこで初めて、自分が呼吸していることに気が付きました。そうして何度も何度も息を吐いては吸いを繰り返していました。
そしてまた何年も何年も経ったころ、またまた別の人間が現れました。
人間は言いました。
「人間になりたいのならこれが足りないよ」
人間が持っていたのは人間の頭でした。
機械はこれで人間になれるんだと思いました。そうして奪い取るようにして人間の頭を受け取りました。
「これで完全な人間になれたね」
そういって人間はどこかへ行ってしまいました。
機械は頭を動かして見ました、すると頭の正面の少し上辺りが動きました、機械は初めて光を感じました。次にもっと下に力を込めました。
「がjyふykfrjk」
すると開いた穴から音が出ました、機械はこれが口かと思いました。
機械は瞬きを繰り返して、意味の無い言葉をずっと喋り続けていました。
機械は機械ではなく人間になりました。
そうして何年も経つより前に、その日の夜が来ました。
人間は光が無くなって慌てました。必死になって光を探しました、そうして今にも消えてしまいそうな小さな灯りを見つけました。人間はこれが街灯と呼ばれるものだと知っていました。その街灯は今にも壊れてしまいそうなくらいボロボロでしたが、確かに灯りを灯していました。
街灯の下に座りこんだまま、暗くて何も見えない空をじっと見つめていました。するとなにやら小さく白いものが空からふわふわと落ちてきました。
人間はそっとその白いものに触ってみました。白い物はふっと水に変わりました。人間はこれが雪かと思いました。落ちてくる雪を触って遊んでいると、だんだんと体を動かしづらくなってきました。人間は初めて寒いと感じました。
そうしているといつしか全く動けなくなりました。横たわったままずっと、寒い寒いと言ってました。
かなりの時間が経って、人間は辺りが明るくなってきたのを感じました。朝が来たようでした。
今度はだんだんと体が動くようになってきました。そしてまたしっかり動けるようになると人間は気が付きました、朝になったはずなのに太陽が見えないと。
朝や昼というのは太陽というものが空にあってずっと暖かいのだと、人間はそう知っていました。しかし太陽はどこにもありませんでんした。黒い雲が空を覆っていました。
そうか、今日は曇りなんだ、人間は思いました。だったらまた明日になれば晴れるだろうとも思いました。
そうしてあまり長い時間が経たずにまた体が動き難くなってきました。夜が来て完全に人間は動けなくなりました。寒い寒い、といいながら、まだ見たことの無い太陽を早くみたいと思っていました。
いつしか夜が明けてまた朝が来ました、人間は動けるようになって空を見上げました。でもそこに太陽はありませんでした。
人間は思いました、明日こそは晴れるだろうと。
そうしてまた夜になり人間は動けなくなりました。寒い寒いと言いながら夜明けを待ちました。
夜が明けて動けるようになった人間は空を見上げてがっかりしました。その日も太陽は見えませんでした。人間は明日こそと思いました。
そうして何日も何日も経ち、何度も寒い夜を過ごしましたが、人間が太陽を見ることはありませんでした。空はずっと黒い雲に覆われてました。
いつしか人間は太陽を見ることを諦めました。
何度も寒い夜を過ごしていた人間はふと機械になりたいと思いました。寒さを感じることない機械になりたいと。
人間は一日のうちのわずかに動ける時間を使って機械になる方法を探しました。何年も何年も経ったころ、人間は一体の機械を見つけました。
人間は機械を見て、そういえば自分はもともと機械だったじゃないか、と思い出しました。人間はそんなことすっかり忘れていたのです。
人間は機械に言いました。
「これをあげるよ」
人間は自分の腕を取り外しました。
人間の部品を外していけば、また機械に戻れると思ったからです。
「付けてあげるよ」
人間は丁寧に腕を機械に付けてあげました。
「もういらない物だから、好きに使って」
人間はそう言ってどこかへ行ってしまいました、次の部品を取り外すために。
あとには、人間の腕を動かしている機械だけが残っていました。
その日も冷たい雪は降っていました、薄暗い世界で白く美しく輝いていました。
童話って聞くと、なんだか昔々から始まるような御伽噺のイメージがあったので、だったら未来から始まる童話もあっていいなと思って書いて見ました。といっても実際は童話っぽくはなりませんでしたけど。あんまりハッピーな話ではありませんが、もし読んで下さったなら、ぜひ未来に目を向けてみて下さい。こんなおかしなタイトルを見て読んで下さってありがとうございました。