パリの戦い
三日ぶりのお目見えとなります。
いつもご覧いただいている方はお久しぶりです。
始めての方は始めまして。
それではお楽しみください!
「で、どうする?まさか対応策を考えてないわけじゃないだろうな?」
1000人ものメンバーの作る輪の中心へ雪菜が入ってくる。
「もちろん考えてますよ。〈暁の幻魔団〉はルーアンまで直接侵攻してくるには距離があり過ぎて、いざという時に撤退することができません。だからまず足場となる拠点を手に入れようとするはずです。」
それを聞くと雪菜をはじめ、メンバーの数人がフォーカスオンバーチャルで地図を開く。
「確かに遠過ぎるな。これでは補給もままならん」
「それでその足場となる拠点で先に待ち伏せをしておき、奇襲で一気に敵を仕留めるのがいいでしょう。」
「ほう、その作戦は理にかなっていると言えるな」
背後から声がしたので振り向いてみるとさっきのスキンヘッドだった。あの後、ダイとでも呼んでくれという誘いを丁重にお断りして、ダッサンと呼ぶことにこの場の全員で決めた。かなり嬉しかったのだろう、野生を存分に感じさせるその瞳からとめどなく涙を流していた。
「それで待ち伏せの場所はどこであられるのですか?」
半蔵が腕を組み直立不動を決め込んでいる。戦う前に疲れないのだろうか。人間は二本の足を使って立つのは結構疲れることなのだ。だから普段は交互に片足に体重をかけているのだ。
「パリか……」
雪菜がぼそりと呟く。
「ご名答です。ルーアンに近い最も大きな都市と言えばパリですからね。実を言うと直接ルーアンに向かう方が近いんですが、万が一があると一敗地にまみれますから、まずそっちに行くと思います」
光真の言葉にしかし、と前置きして雪菜が疑問を投じる。
「パリは先ほどの試練の襲来で燃え尽きてほぼ廃墟になっていたはずだ。そんなところに果たして〈暁の幻魔団〉が本当に来るのだろうか?〈暁の幻魔団〉もそのことを知っているだろう?」
「ええもちろん。しかしそれでも絶対にパリに来るんですよ。なぜなら都市にあるクリスタルを取れば、街を初期状態に還元することができるからです」
「初期状態に還元?」
雪菜がわけが分からないと言ったように首をかしげている。
「これも領土戦のルールで、クリスタルを取り直した都市は元の状態に戻るらしいんですよ。今パリは空白地。あっという間にパリを元通りに出来ます」
その時誰かが輪の中心に入って来る、どうやらシャルルのようだ。
「確かにさっき調べたらそんなことが書いてありましたね」
嘘をつくんじゃない、その口の端についているパンくずはなんだ。どうせまたどこかで何か食べていたんだろう。光真はそんなツッコミを禁じ得なかった。
「まずはパリに向かいましょう。こちらからの方が圧倒的に近いので早く着きます。詳細な作戦は現地に行ってから決めましょう」
そして光真が全員にパリに出発することを告げると、〈閃光の師団〉のメンバーの動きはにわかに慌ただしくなり、初めての試練の襲来を受けたパリに歩を進めた。
残月が冷ややかに最後の光を照らす。
間もなく夜が明け、それと共に〈暁の幻魔団〉がパリに侵入してくるだろう。
先ほど決めた作戦はこうだ。
まずシャルル率いる弓、魔法攻撃などで遠距離から攻撃できる部隊が、敵の部隊が全員入って来たところで建物を上手く利用して攻撃をしかける。
次にに光真率いる部隊が野戦で敵にダメージを与える。
そして敵が敗走したところを敵がパリの街に入り切った後に、裏門から密かに出て
敵の背後に回り、機動力のある部隊で雪菜と半蔵が追撃する。
以上が今回の作戦だ。
ゲリラ的に攻撃できれば5000人もの敵を打ち破ることが可能だろう。
数の多さが有利に働くのは平地戦の時であり、複雑に入り組んだ場所ではむしろ数が多いと動きが阻害されてしまうことすらあるのだ。
「大将!」
フォーカスオンバーチャルを開くとどうやら半蔵からの連絡だ。まあ大将と呼ぶ奴はこいつぐらいしかいないのだが。
「敵影が見えました。間もなくパリに入って来ます!」
「わかった」
通話を切るとかくれていた瓦礫の残骸によじ登り大きな声で叫ぶ。
「全員に告げる!敵が入り切るまで絶対に攻撃してはならない!そして全員無事にルーアンまで帰るぞ!」
光真は全員に向かって右手を掲げる。それに反応してたくさんのメンバーが一斉に手を掲げた。
「よし、全員持ち場につけ!」
その言葉によってメンバーが元の瓦礫の中に隠れる。
しばらくしてギギギという音と共に北門が開く。そこからはまず先陣をきる馬に乗ったものたち、ざっと100人ほどが遠目から窺える。
馬は一部の都市で買う事ができる移動ユニットの一つだが、なにぶん買うための硬貨が高く開始直後でここまでの数を揃えれるのは広大な領土を持つクランならではの所業だろう。
その騎士の軍団の中ほどに一人豪華な甲冑を身につけているのが目に入る。恐らくその騎士が指揮官なのだろう。
「まだだ、まだだぞ……」
光真は小声でシャルルに通話を送る。それに反応してシャルルがメールを一通送って来る。
「こいつらを倒したらご飯をよろしくお願いしやす byシャルル」
平常心を失わないのは結構な事だが、もう少し緊張感を持ってもらいたい。
そのようなやり取りをしているうちに、敵の部隊の八割ほどがパリに入る。
「全員に武器を構えるよう言ってくれ」
「了解」
「御意」
「あいあいさ~」
隣ではダッサンも鋭く研がれた斧を構えている。軍服のような服に斧を持っている姿は猛々しいを通り過ぎて恐ろしいほどだ。
最後の一兵がパリの門をくぐる。そこで光真は全員に大声で告げる。
「作戦開始!第一部隊攻撃開始!」
その言葉と共に雨あられと矢、炎、雷などが〈暁の幻魔団〉に降り注ぐ。
突然の攻撃に〈暁の幻魔団〉は完全に不意を突かれて、一人また一人と体力が尽きてバタバタと倒れて消えて行く。
領土戦で体力が尽きると最寄りの自分のクランの都市まで戻されてしまう。離れた都市を攻めるのが難しい理由はそこにもある。
先ほどの甲冑の人物が部隊に号令をかけて次第に敵も降り注ぐ攻撃から身を防ぎ、足並みを揃えていく。
そんな時その甲冑の騎士の兜に一本の矢が直撃する。矢はその兜を穿つも、ダメージを与えるには至らなかった。
「嘘だろ……」
光真は思わず声をあげてしまう。兜から覗かせた顔の主は意外にも女性であった。
しかし驚くべきところはそこではなかった。
その顔の主は光真のよく知る人物ーーそう、鳥宮早紀であった。
いかがでしたでしょうか。
いやはや数奇な運命とは皆さんの周りにもあるでしょうか?
次の話も是非ご期待下さい。