結成
本日二度めの投稿になります。
肩の力を抜いてお楽しみください。
誤字、脱字、感想等是非お知らせください。
ピエロを倒すともはや廃墟と化したパリを出て、草原にポツンとある大きな木の木陰で話を聞く事にした。
「タゲール様、お腹が減りました」
「ちょっと空気読みなさい。今から大事な話をする所でしょう」
頬を膨らませて文句をいうのはさっきのテンガロンハットの女性だ。どうやら見た目に比べて性格は大そう幼いらしい。
「とまあ、まずは自己紹介して置くのが礼儀でしょう。私の名前はタゲール。この世界のマスターの一人でした。こちらは助手のシャルル君です。」
「初めまして。お腹が減りました。」
シャルルがつぶらな瞳でこちらを見つめてくる。
いきなりこんな挨拶を交わされたのは光真の人生経験にはない。
「わかった、後でな」
そう言うとシャルルは嬉しかったのだろう、すごい勢いで光真の手を取り上下に振りまくる。
「ありがとうございます。絶対ですよ!」
満足したのかシャルルは木陰でグッスリと眠り出した。ずいぶんとのんびりした助手である。雪菜も横で苦笑いを浮かべていた。
「話を戻しまして、今このゲームのゲームマスターだったと言ったでしょう。」
一つ咳払いをしてタゲールが話を始める。
「しかし現在は一人の男にこのゲームを乗っ取られている状態なのですよ。元々は五人で運営してたのですが急にこのような状態になりまして……」
タゲール言い終わると忌々しそうに顔を伏せる。
「今起こっている現象を説明しますと、一日の裏にもう一つ影の一日と呼ばれるゲーム内での時間ができております。」
「影の一日?」
光真は意味のわからないタゲールの言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。
「ええ、現実世界での一日が終わりし時にやってくる時間です。この時間内はプレイヤーはログアウトする事ができませんし、現実世界では一瞬の時間も過ぎません」
「マジ⁉」
確かにログアウトを光真が試みるも全く反応がない。横で雪菜もやっているが、結果は同じのようだ。
「現実世界で時間が過ぎない?」
「どうやらそのようです。何故かは分かりませんが」
雪菜の問いに申し訳なさそうに答えるタゲール。
今更だけどこの人はどこの国の人だ?日本語はかなり達者だが。
「それにさっきからプレイヤーが激増しています。恐らくは無理やり引き込まれているのでしょう。」
そうしてタゲールは一度言葉を切るとさっきよりも神妙な顔つきでこちらを見る。
「貴方達に頼みがあります。これからも先ほどのピエロのような試練が何度もやってくるでしょう。どうかそれらを全て倒しこの”Tarot Quest”に平和を取り戻してください」
老人はそう言うと光真と雪菜に向けて深く頭を下げた。
「いや、頭を下げる事はないですよ」
光真はタゲールの元に行くとすぐにその頭を起こす身体はとても軽い。しかしこの人はこの人でこのゲームを元に戻す為に動いてきたのだろう。
「お詫びと言ってはなんですが、これを持って行ってください。」
タゲールは懐から黒く光る正八面体のかなり大きなダイヤのようなものを取り出した。
指環といいこれといい、この人の懐は四次元にでも通じているのだろうか。
「これはクランストーン。これがあればプレイヤー同士の協力組織、クランを作る事ができます。早速使って見てください。」
光真は受け取ったクランストーンを天にかざしてみた。
しかし何もおこらない。
「どうやって使うんだ?」
恥ずかしさに穴があったら入りたいくらいだったが、それを隠して尋ねる。
「フォーカスオンバーチャルから使うんですよ……」
タゲールがこちらを呆れ顔で見ている。
フォーカスオンバーチャルのアイテムリストにクランストーンというさっきまではなかった文字が浮かぶ。
それを使用すると目の前にホログラムの画面が飛び出す。どうやらクランの名前などの初期設定を行う画面のようだ。
ポチポチと操作して行くとクラン名の欄に行き着く。しばらく考えた挙句、〈閃光の師団〉というそれらしい名前を付ける。
そしてOKのボタンを押すとThank Youの文字が浮かんだ後、クランの編成画面が開かれる。新規メンバーの所から〈sparrow〉と打ち込み加入招待を送る。
雪菜の方でも招待が届いたようでしばらくの操作の後、光真の画面に雪菜が加入した事を知らせる画面が浮かぶ。
「クランには領土戦というものがあり、勝てば相手の領土を奪う事ができ負ければ奪われます。また試練は各地の都市を無差別に襲いますから、都市を守らねばプレイヤーはこの世界で生きて行くことはできないでしょう」
タゲールはそこまで言うと疲れたのか木の根元に腰掛ける。
「後は、この世界に無理やり引き込まれた人たちを助けてやってください。その中には貴方に関係のある人たちもいるでしょう」
「わかった。必ず助ける」
光真が力強く頷くとタゲールは安心したのか、ホッと一つ息を吐く。
しかしすぐに目を伏せると恐る恐るといった様子で重苦しく語り始める。
「あの男が言っていたでしょう。このゲームでは棒を全て失うと、死が訪れると。それは間違ってはいないのですが、一部語弊があります」
「語弊?」
雪菜が即座に尋ねる。
「ええ、このゲームで棒を全て失うと現実世界からも仮想世界からもいなかった事になるんです」
光真はそれを聞くと衝撃の余り口を開く事ができなかった。隣の雪菜も呆然としている。
「このゲームをしている人の記憶には残りますが、世間からは全てが抹消されます」
場を沈黙が飲み込む。急に死んだら消えると言われて信じる事が出来るわけがない。光真ももしあの場でピエロに何度も殺されていれば、消え去っていたかもしれない。
「なに、貴方たちなら大丈夫ですよ。伝える事は伝えました。そろそろ時間のようです。この世界を頼みます」
そうしてタゲールは目を瞑るとその場からフッと消え去った。
「嘘だろ……」
先ほどまでタゲールがいた木の根元を触ると微かにぬくもりが残っている。
人の死というものはにわかには受け入れ難かった。
そんな時、一通のメールが着信した事を知らせる音がなる。
「一つ言っておくと、私死んでませんよ?
私はこのゲームではどこにでも移動できるので移動しただけです。
シャルル君を頼みました!」
フォーカスオンバーチャルの画面にを閉じる。
「あのくそジジイィィィィ~!」
パリ南部の草原に光真の大絶叫が響き渡った。
お疲れ様です。
いよいよ本格的な戦いに入りますね。
是非是非これからもご愛読下さい。