口羽の説得
まさかの本日二度目の掲載です。
テスト前になにしてんだというツッコミは置いておきまして、ご覧ください!
〈スペイン、マドリード〉
口羽はポワティエから馬を飛ばして〈鷹の城〉の首都マドリードに着いた。
クランマスターへの謁見を求めたところ、巨大クラン〈鷹の城〉の名に恥じない荘厳な宮殿の執政室に口羽は通された。煌びやかな飾りで彩られた木造りのドアを衛士が押し開けると口羽は一礼してその中に入る。正面にいるのはクランマスターのようで、20世紀の軍服のような服を着て赤色の豪華な椅子に座る二十代に入ったばかりの若々しい長髪の男が姿勢を正して座っている。
縦に長い長方形の机の脇には様々な年齢、性別の重臣が座っていて皆口羽の方を睨め回すようにじっと見ている。
口羽は大きく息を吸うと吐く勢いで話し始める。
「クラン〈閃光の師団〉の代表としてきました、口羽清嗣です。この度申し上げたい事がありここまでやって来ました」
「丁寧な挨拶ありがとうございます。立ち話もなんですから、そこの椅子に座ってください」
柔らかな微笑をたたえて、クランマスターが綺麗に揃えた指先で口羽の目の前にある背もたれの長い黒色の椅子を指す。口羽は一礼すると指された椅子に浅く腰掛ける。椅子に座って同じ高さから見てみるとクランマスターの顔は麗しい見た目の中に芯の通った、ある種羊の毛皮を被った狼のようにも感じられた。
「申し遅れました、私の名前は笛裏西牙です。〈鷹の城〉のクランマスターを務めております。しかして、今日は何用でございますか?」
口羽は重臣の視線を振り払い、真っ直ぐに笛裏だけを見る。笛裏の方もこちらから視線を外す事なく鋭い眼光を向けてくる。
「今日参りましたのは〈暁の幻魔団〉に共に対抗する必要性を論じるためです。〈暁の幻魔団〉は既に西ヨーロッパの大半を手中に収めており、現在〈閃光の師団〉も攻撃を受けてフランスの大半も支配されています。これに対抗するために〈鷹の城〉の力を借りたいわけです」
それを聞いて笛裏はしばらく考え込むような仕草をしていたが、その考えがまとまる前に、横に座っている三十代くらいの恰幅のいい男が怒鳴り散らすような大声で叫ぶ。
「聞くところによると〈閃光の師団〉は海からは〈魔弾の射手〉陸からは〈暁の幻魔団〉に攻められて風前の灯火。そんなところに力を貸してもかえって〈暁の幻魔団〉の敵対心を煽るだけだろう」
口羽は冷静に首を横に振る。
「いえ、フランスを落とせば次に進むのはどこだと思われますか?間違いなくこの地を狙うはずです、場合によっては〈魔弾の射手〉の海軍が繰り出してくる事も十分考えられます」
口羽の答えにさっきの男は歯軋りをして悔しそうな唸り声を漏らす。続いてその男とは反対側の席に座る老齢の女性が重々しく口を開く。
「だとしても〈閃光の師団〉を助ける必要はない。それなら要塞でも築いて守りを固める方が良いのではなくて?」
「人城を頼らば城人を捨てん。国を守るのは城ではありません。そこにいる人なのです。なのに仲間を助けず、石に頼るべきでしょうか?」
老婆はぐうの音も出ず黙り込む。次に老婆の隣に座る比較的若い青年が手を上げて発言する。
「でしたら〈閃光の師団〉と同盟を組むのではなく、〈暁の幻魔団〉と同盟を組めばいいのでは?その方が安全に国を守れます」
口羽はそれを聞いて本当に可笑しそうに笑い始める。それを見て席につく〈鷹の城〉の重臣たちが憮然とするのがわかる。特に先ほど発言した青年は顔を真っ赤にして声を荒げる。
「何が可笑しいか!それは失礼に当たりますぞ!」
口羽は笑いを止めて横目で笛裏を見て、正面ではその青年を見る。
「失敬、失敬。まさか売国奴がこのような場所に居ろうとは思いませんでしたので」
青年の顔はさらに真っ赤になって目をひん剥いて怒る。
「何が売国奴だ!私はクランの行く末を考えての発言をしたまでだ!」
「果たして本当にそれがクランの将来を憂う方法でしょうか。同盟とは同等の関係において成り立つもの。かようなクランと同盟を組んだ暁には属国となるのが目に見えています。国とは第一に独立していなければならない、あなたはかのクランのために自分のクランの民が搾取されるのを黙って見ていられるのですか?でしたらあなたにはクランの将来を論じる資格はありません、ただの売国奴です」
侮辱とも取れる口羽の言葉を受けて青年はさらに何かを言おうとしたが、笛裏が右手をあげてそれを制止する。
「口羽さんと言いましたか?確かにあなたの言う事は正しい。〈鷹の城〉も〈閃光の師団〉も単独で〈暁の幻魔団〉に勝てる見込みはない。しかし、あそこまで巨大化した〈暁の幻魔団〉に同盟したからと言って勝てる見込みがあるのですか?」
「あなたは何のために戦っているのですか?」
「私はついて来てくれた皆のために戦っている」
眉一つ動かさず口を真一文字に結ぶ。口羽も一度目を閉じて、今も戦っている〈閃光の師団〉の面々を心に浮かべて話す。ここまでくる時に見た〈鷹の城〉の民の様子は以下にも希望に満ちていた。笛裏が言っている事は嘘偽りなく真実であると口羽は確信した。
「あなたは黙示録をお聞きになりましたか?」
口羽が尋ねると一瞬少々意外そうな顔をしたが、また張り詰めた表情に帰る。
「ああ知っている、試練と呼ばれる敵がパリを廃墟にしたとか。でもそれは倒されたと聞いたが」
「それを倒したのが私どものクランのマスターです。あなたにそういう信念があるように、マスターにも試練を倒してこのゲームに連れてこられた人を救うという信念があります。その信念がある限り負ける道理はありません」
口羽はしっかりと笛裏の目を見据える。そこで不意に笛裏が席を立ち上がる。一度後ろを向いたあと、振り返って口羽を視界に捉える。
「〈閃光の師団〉のマスターは実に立派なお方だ。だから口羽さんのような素晴らしい部下が集まるのだろう。私の名において誓う〈鷹の城〉は〈閃光の師団〉との同盟を受け入れる。八重瀬!直ちに全水軍を集めてノルマンディー沖に出陣させよ。我々は同盟クラン〈閃光の師団〉の危機を救う!」
「は、はい!」
名前を呼ばれて指を指された先ほどの恰幅の良い男は一切の反論をせず、敬礼して急ぎ足で執政室を出て行く。あれ程まで言い争っていたのに快く命令に応じたのは笛裏の求心力の高さを示している。
「私も自ら出陣する。皆も準備を整えよ!」
笛裏は部屋を出る間際に椅子に座った口羽の方をポンと叩く。
「それでは”仲間”を救うために行こう!」
笛裏の後ろについて重臣たちが去って行く。
誰もいなくなった執政室の椅子を立ち上がって口羽は天を仰ぐ。
「こちらはやりました。あとはそちらの番ですよ」
がらんとした執政室に口羽の呟きが響く。
お疲れ様でした。
それでは今回はこの辺で筆をおきまして、また次回にお会いしましょう!




