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Tarot Quest  作者: KINSYO
17/21

危機と危機

皆様いつもありがとうございます。

今回は導入の話になりますが、すぐに次を掲載できると思いますので、是非ご覧ください!

それではどうぞ!

「朝か……」

目を覚ますとそこは寝慣れたベッドの上だった。

昨日のポワティエ陥落の後、在地の人々も逃げ出した王に失望して〈閃光の師団〉に約一名を覗いて全員が加入した。約一名というのはポワティエの軍師天方隆景であり、とりあえず客人扱いということでポワティエにとどまっている。

その後はポワティエの周りでモンスターを倒していたのだが、ちょこまかと動き回る鹿のようなモンスターに〈閃光の師団〉は思いっきり苦戦していた。

雪菜と千鳥のモンスターへの攻撃のためらいのなさは全員を引かせるほどで、首が飛んだという目撃情報もあった。

ゆっくりとベッドから体を起こして、時計を見る。

八時十分。

ここから身支度をすることを考えると間に合う確率はグッと低い。

「やべぇ!」

光真は思わず目を見開いてダッシュで制服に着替え、味もわからぬままパンを食べる。洗顔を済ませてまさに家を出ようとしたその時、滅多に鳴ることのない家のチャイムが鳴る。

「誰だよっ!」

そのままカバンを持って玄関を開けるとそこにいたのは千鳥小夜だった。

「「何で⁈どうして俺の家が……?ていうか何で千鳥が⁈」

思わぬ来客に玄関を開けたまま茫然と立ち尽くす。対する千鳥は何食わぬ素振りで光真にぺこりと一礼する。

「おはようございます、速川様。早く学校に参りましょう」

全く質問の答えになっていない言葉を返し、千鳥は光真の手をとって出発しようとする。

「ちょっと待て!鍵、鍵!」

こちらの事情を一切聞かずに連れて行こうとする千鳥にストップをかけて玄関の戸締りをする。鍵を閉めてカバンにしまうとすぐにまた千鳥に手を引かれてよろつきながらも何とか転ばずに千鳥の後ろ出歩く。

「事情を説明しろよ、事情をっ!」

ほとんど呻くような声で光真が千鳥に尋ねる。

「恐れながらゆっくり話している暇はありません。少し飛ばしますので悪しからず」

千鳥が抑揚のない平坦な声で言うと同時、一瞬止まって走るためのタメをつくる。

「ちょっと待っ、俺走れな……ギャァァァァーー!」

千鳥は凄まじい速さで走り出し、光真はほとんど足がつくかつかないかのような状態で学校までたどり着いた。美少女に冴えない男子高校生がさらわれるというシュールな光景を晒し、閑静な住宅街で上げてしまった奇声が噂にならないことを光真は祈るばかりであった。


例のごとく学校に着いた瞬間に光真は机に突っ伏す。学校に入った時に千鳥に手を離させたので学校の中では特に噂にはなっていないだろう。

「はいはい朝礼始めるぞ~」

いつも通りの平凡な朝礼を済ませると凛はさっさと教室を出て行く。

そんな日常を噛み締めながら光真は眠りに落ちて行く。


「速川様起きて下さい。もう終わりましたよ」

目をこすりながら開けるとそこには澄まし顔をした千鳥が正面に見える。

「様はやめてくれ……ん、もう一時間目終わった?」

あくびをしながら光真が尋ねると千鳥がジト目になって答えを返す。

「もう四時間目が終わりましたよ。これをどうぞ」

「マジか⁈寝すぎたか……でこれは?」

千鳥が差し出してきたものはこの学校の食堂で一番の人気を誇る唐揚げカツサンド×2。これは食べ盛りの高校生の食欲を満たしてくれるボリュームでしかも100円という安さだ。授業後即座に食堂に向かわないと手に入れることは困難を決めるため光真もそれほど食べた事はない。

「よくこれ手に入れれたな。金払うよ」

財布をカバンから取り出して200円をつまみ上げる。

「速川さ……速川殿、お代は結構です」

「いや、呼び方が変わってない。むしろ余計悪どくなってる気がする。光真でいいよ、光真で。あとお金はきっちり払うから」

無理矢理机にもたせかけていた千鳥の手に200円を握らせる。

千鳥は少し頬を赤らめて渋々それを受け取った。

「光真ちゃん、光真ちゃん!」

雰囲気を完全にぶち壊しにして不破がいつもの調子のいい声ではなく、少し焦った声で不破が廊下から教室に駆け込んでくる。

「どうしたんだ、昼休みに騒がしいな」

光真が気怠そうに振り向くと大げさに身振り手振りをしながら不破が話し始める。

「光真ちゃん、今日どうやって通学してきた?」

不破に言われて光真は今日の朝の通学風景を思い浮かべる。今日は突然千鳥が来てそのまま引っ張られて学校に登校するという、半ば拉致のようにも見えなくはない情景を思い浮かべて少し気分が沈む。

「それがどうしたんだ?」

苦い記憶を振り払うようにして光真が努めて明るく不破に問いかける。

「それが学校で結構噂になっちゃってて、今頃早紀ちゃんにも知れ渡っているかもしれないんだよね」

ばつが悪そうにいつもよりワントーン低い声で答える。やはりというかあの奇行を目撃している者がいたらしい。もっともこの学校の生徒という想定しているケースの中で最悪であったが。

「こぉぉぉぉぉぉぉぉうぅぅぅぅぅぅぅぅまぁぁぁぁぁぁぁぁ~~!

良い言い訳を考える間もなく早紀がドアを荒っぽく開けて光真の胸ぐらを掴む。

「アンタ何してんのよ!近所の恥晒しになっちゃうじゃない!」

物凄い剣幕で突っかかる早紀に光真は流し目で千鳥に助けを求める事しかできなかった。光真の視線に合わせて早紀も千鳥の方に目を向ける。

「誰よ……」

早紀が不機嫌度マックスで転校生の千鳥に睨みつける。千鳥もそれに一歩も引かず淡々とした口調で告げる。

「光真君を朝連れて行ったのは私。そういうあなたこそ光真君の何なの?」

早紀の腕の力が弱まって光真は椅子から立ち退いて二人の間で不破と並んで立つ。

「私?私は光真の……幼馴染だけど?何か文句ある?」

二人の毒づき合いのボルテージはだんだんと上がって行き、教室に座っている全ての生徒が二人を注視している。

「光真ちゃん、二人の間に何か電撃のようなものが見えるんだけど……」

「奇遇だな、俺にも見えるよ……」

恐らく人生で初となる修羅場なるものに光真は手出しができないでいる。

「お前たち、喧嘩なら他所でしろ」

パン、パン、という心地よい音で視線で人を殺さんが如く睨み合っている二人の頭を担任の凛が手に持っていた棒状のもので叩く。

結構な威力で叩かれたのか二人は仲良くお互いに頭を抑えている。

いつの間にかそんな時間になっていたのか五時間目の授業の開始のチャイムが鳴る。全員が次の授業の準備に移る中、二人は再度キッと睨み合った後自分たちの席に戻って行った。

「お前も罪な男だな」

凛が光真に近寄ってそっと耳打ちする。

「からかわないで下さいよ……」

ため息にも似たつぶやきを漏らすと凛は教卓の方に戻って行く。

その日の午後の授業で光真が眠れなかったのは言うまでもない。

光真を挟んで砲撃戦を繰り返しているのだから。


いつのまに影の一日(シャドウ・デイ)に入ったのか、ポワティエの宿屋で目を覚ました。 午後の授業で寝れなかった分を家で寝たので、現実で寝たらこちらで目を覚ますという羽目になってしまった。

目覚めたところでとりあえずモンスターを討伐しに行くことになり、ポワティエの周りでカード集めに精を出している。

「どうしたんだ、疲れているのか?」

雪菜が目の前の狼を倒しながら背中で尋ねてくる。

「いや、ちょっと学校でいろいろありましてね……」

光真も毎度の残念なゴブリンの頭を槍で突き刺しながら答える。

「ふうん、若さだな、若さ」

雪菜がカードを拾いながら冗談めかしてそのような事をいう。

「若さって……雪菜さんもそんなに年はとってな……」

「年の話はするな」

キィィィンという音と共に光真の目の前に雪菜愛用の剣が向けられる。どうやら雪菜の触れてはいけないブラックボックスに触れてしまったらしい。

「す、すいません」

腰を引き気味に光真が謝ると雪菜は鼻を鳴らして剣を鞘にしまう。

「大将~!」

半蔵が相変わらずの快足でこちらに走ってくる。しかし布の間から覗かせる顔には悲壮感すら漂っているように見える。

「半蔵か、どうしたんだ?」

「ともかく一度ポワティエに戻りましょう。話はそれからです」

半蔵の焦りようにただならぬ予感を感じて光真と雪菜は三日月が見下ろす夜の丘を全力で駆け抜けて行った。

主要なメンバーが全員が腰掛けているところに光真と雪菜もそれぞれ席につく。

「率直に今の状況を伝達します」

半蔵が神妙な声で全員に告げる。

「まず、イギリスで〈漆黒の翼〉が〈魔弾の射手〉に敗れ、吸収される形で〈魔弾の射手〉が統一を成し遂げました。さらにこれが言いにくいことなのですが、フランス南部のリヨン、ボルドー、マルセイユ、トゥールーズなどの全ての都市が〈暁の師団〉の支配下に入りました」

その宣告に全員が言葉を失う。これは実質〈閃光の師団〉が二つの巨大なクランに包囲されたことを示しているからだ。

「このままだと二つに挟まれて殲滅される恐れがあります。何とかして皆が生き残るために一手考えなければなりません」

口羽が冷静さを失わずに現状を分析する。

「ここは彼に伺ってみるしかないだろうな……」

静寂の中に光真の一言が響いた。








お疲れ様でした。

次話からをお楽しみにしてください!

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