ポワティエ攻略戦
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ポワティエから目測で5km程離れたところで雪菜、ダッサン、口羽が率いる〈閃光の師団〉の長槍、弓を基本とした装備の主力部隊が対するポワティエの軍勢を睨むようにして、距離を保ったまま対峙する。
「こちらから戦いをしかけるのか?」
雪菜が鞘にしまってある剣をチラリと見ながらフォーカスオンバーチャルで地図を確認している口羽に話しかける。
「はい、こちらから行かなければ相手は動きません。しかし、もう少しお待ちください。もうすぐその時がきますので」
口羽は少し小高くなっているポワティエの南西の方を凝視しながら答える。敵は防衛戦。わざわざこちらを攻めてくるような下策を取るはずがない。貝を手に入れるためにはその穴倉に塩を撒かねばならないのだ。
「いい加減教えてくれよぉ。一体どうやってポワティエを攻め落とすんだ?」
ダッサンが一回りは小さいであろう口羽の体を激しく揺する。当然口羽は足元がおぼつかなくなり、揺すられるがままとなっている。
「まあそろそろいいでしょう……あれが見えますか?」
雪菜、ダッサンのみならずその声が届く範囲にいた部隊のメンバーも口羽の指差す方向を見る。しかしその指し示す場所はポワティエの城壁にしか見えない。
全員の疑問を雪菜が代表して尋ねる。
「城壁がどうかしたのか?特に変わった様子は見られないが……」
目を凝らして見ても別段不審な点は見当たらない。むしろ堅固な石造りの城壁はこの攻撃の不可解さを物語っていると雪菜は思う。
「そこからじゃ見えないようですね。こちらに来てみてください」
雪菜とダッサンが口羽の頭の横から覗き込むようにしてもう一度指を差された方向を見る。するとさっきの角度からは見えなかったその事実が明らかになる。
「うん?後ろの方は城壁がないのか?」
ダッサンが目を細めて見た先には手前の城壁の裏で不自然に城壁が途中で途切れている光景だった。
「どうしてあそこだけ城壁が建てられていないんだ?」
雪菜は驚きと疑問が同居したような小さな呟きを漏らす。
「建てられていないのではありません、建てていないのです。あの裏には何があるかわかりますか?」
しばらくの沈黙の後突然に雪菜は口羽の意図しているところを理解して、目を見開いた。
「そうか!そういうことか!あの裏はクラン川に接しているのか!」
「ご名答です」
口羽は小さく素直に賞賛の拍手を送る。ダッサンは未だにわからないのか二人の顔を行ったり来たりしている。
古来より川は人間が暮らしていく上で必ず必要なものであった。
メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、黄河文明の四大文明も全て大河の元に成り立ったものだ。川は第一に生活に必要になる。飲み水、料理、排泄などその用法は多岐に渡る。第二に川は産業に必要になる。農業はもちろんのこと工業にも水は必要だ。ダムなどの例もある。そして第三に川は物流の拠点となる。人や物を運ぶための媒体となるのだ。
このゲームでは水は各都市で買うことができ、川に近い都市では水が安いなどの利点はあるが、先に述べた第一、第二の用法ではあまり川は重要視されない。
しかし、第三の用法は現実世界に準じてあるいはそれ以上に川を重要な物にしている。船を浮かべればその都市でしか買えない物を他の都市の物と交換できたり、軍事的にも軍隊の動員を手軽にする。
「つまりあの部分の城壁はわざと取り外されているんです。どうせ背後は川ですし、敵に攻められることもありませんし。仮に攻められたとしても川で身動きの鈍くなったところに攻撃を叩き込めば即座に追い返すことができる」
そこまで言い終わると口羽は突然口を噤んでフォーカスオンバーチャルを操作し始める。そこに書いてあったことに口羽は目で頷く。
「合図です。雪菜さん、敵に攻撃を仕掛けてください」
「わかった」
雪菜は短く返事をすると、眼光を強くして敵の軍勢を見据える。
「全軍!指令通りに行動せよ!攻撃開始!」
雪菜の号令と共に2500人の〈閃光の師団〉が一斉に敵めがけて進み出す。
背中に弓を背負った兵がその身軽さゆえ長槍部隊に先行して敵との距離を縮める。
敵は背負っているために弓兵だと認識しておらず、静観を貫いたため射程範囲に悠々と辿り着く。
「撃てぇ!」
雪菜の号令で背に弓を背負っていた先行部隊は矢筒から矢を抜き取って第一射を放つ。春の空に舞う1000の矢の雨。当然全てをよけきれるはずもなく、撃ち抜かれた者はうめき声を上げてその場で倒れ伏す。
「畜生ッ!全員突撃だ!弓を撃つ奴らを蹴散らせ!」
ポワティエの王は叫ぶような声で全員に命令を下す。
「おやめ下さい。ここは一度退いて城門を固く閉ざすべきです」
天方隆景は激昂して余すところなく青い筋を浮かび上がらせる直情な王を、諌めるように手で敵に今にも飛びかからんとする王を抑える。
「うるせぇ!ここまでコケにされてだまっていられるか!」
しかし怒りに震える王はその手を乱暴に振り払うと剣を抜いて先頭を切って一列に並んだ〈閃光の師団〉の弓部隊に突っ込んでいく。
いかに足の速い者といえども、射撃の間に弓部隊のところまで辿り着くことはできず、第二射でもポワティエの軍勢はかなりの被害を出す。
徐々に距離を詰めて行ったその時、〈閃光の師団〉弓が左右に広がり中央がぽっかりと空いた格好になる。そこから二列に並んで飛び出してくるのは体長ほどもあろうかという長槍部隊だった。
「さて、そろそろ激戦になったきたか。今が好機だ、千鳥頼む」
千鳥は頷くと両腰にぶら下げている一対の剣を抜き放つ。この剣の名前は二天表裏と言うらしい。千鳥はそれらの剣を胸の前で合わせる。小さな金属と金属が擦れるような音がしたと思うと、次の瞬間には双の剣は一本の千鳥の身長を上回るほどの大剣となっていた。
「ハッ!」
千鳥が軽々とそれを振りかぶって虚空に向かって振り下ろす。すると大量の水飛沫を上げながら、クラン川の川底に一筋の亀裂が走る。水は低いところに流れる。つまりは千鳥の攻撃力を利用して川底に穴をあけ、そこに水を流し込んで移動の妨げとなる川の水嵩を下げるという手段に出た。
もちろんこれには『死神』のアルカナを冠する千鳥がおらねば机上の空論である。
光真はルーアンの際にこの攻撃を食らうことがなかったことを一人胸を撫で下ろすのであった。
「……そろそろ普通に渡れるほどの水嵩になりましたぞ。渡りましょう」
目の前でおこった災害とも言うべき所業にやや顔を引きつらせながら、和泉は光真に進行を促す。光真はその言葉に首を縦に振ってこうていする。
「よし、皆行くぞ!無用に敵を傷つけるのはやめてくれよ」
膝下程の水嵩になったクラン川を500人の〈閃光の師団〉の部隊が駆けていく。
城門の前まで行くと流石に見張りの兵も築いて弓を射かける。しかし大半の兵が外に出ていてしまったのか、弓の数はまばらでさしたる被害を出すこともなく、千鳥の攻撃によって一刀両断された門から堂々侵入する。
「抵抗しないでくれ!もう大勢は決している」
光真の叫びに応じて剣を捨てる者もおり、城塞の警備の組織を迅速に無力化していく。口々に「西門を制圧!」「東門を制圧!」という戦況の芳しさを伝える伝令がフォーカスオンバーチャルから発される。
「残りは北門だけか……」
北門は頑強に抵抗しているらしく、西門や東門のようにあっさりと攻略することはできないようだ。そんな時北門から外のポワティエの軍に危険を知らせるためか、一筋の赤い炎が信号弾のように打ち上がる。
「何やら炎が北門から上がっております!」
それを見たと同時に走ってきたためか、慌ただしく呼吸を繰り返しながら一人の兵士が王に非常事態を告げる。
「何だとっ!」
目の前の長槍の部隊と獲物をぶつけ合いながら振り向く先では、何度も炎が空に向かって打ち上げられていた。
「やはりこのようなことに……今すぐ逃げるべきです!」
天方の現状としては最善の手にも王は素直に応じることはできない。
「何言ってやがる!俺の城は渡さねぇぞ、全員今すぐ城に戻れ!」
王の無用な執着が悲劇を生むことになる。戦いでは退きながら戦うというのは難しいことである。なりふり構わ転身によって背後からの長槍による攻撃を受け続け、
一人、また一人とポワティエの軍は倒れていく。
這々の体で北門にたどり着いたものの、既に北門は王の帰還を待つことなく陥落しており、雨のような矢の洗礼を受ける。
「く、クソったれ!」
あろうことか王は配下を省みることなく一人で戦場から逃げ出す。
「軍師、どうします?王は逃げました、降伏しましょう!」
天方のそばの兵士が鬼気迫る表情で懇願する。天方はこの戦いの無意味さを噛み締めながら全員に向かって宣告する。
「全員剣を捨てよ。我らは降伏する」
ポワティエの兵士は我先にと自分の持っていた武器を地面に投げ捨てる。天方も踏みつけられている地面に生えた名前も知らない花を見ながら剣を捨てる。
ここにポワティエはわずか数時間にして陥落し、〈閃光の師団〉に併呑されることとなった。
お疲れ様でした。
そろそろ迫りますテスト。
何とか執筆は続けますのでどうかご覧下さい。
ではではまた会う日まで。




