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Tarot Quest  作者: KINSYO
14/21

死神の襲来

ちょっとぶりです。

第十四話を書き終えました。

稚拙なところはたくさんあると思いますが。是非是非ご覧ください。

「〈ミストラル〉の連中はなかなか一筋縄にはいかないもので……」

光真ら〈閃光の師団〉は〈ガルディオン〉のメンバーをクランに加えて更に勢力を増しつつあった。あの後トゥールに入って突然の事に驚く元〈ガルディオン〉のメンバーにしかるべき説明と今後の方針を示したところ、全員が温かく〈閃光の師団〉を受け入れてくれた。シャルルにご飯もしっかりオゴらされた。

違う都市で食べるご飯は一味違うらしい。

それで現在次のポワティエ攻略に向けて元〈ガルディオン〉の大将、和泉健太いずみけんたを〈閃光の師団〉の主要メンバーに加えて軍議を行っている。

「ポワティエはこのトゥールから少し南西に行ったところにある手近な都市です。だから一度そこを攻撃したのですが、完膚なきまでに叩かれました」

和泉は恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながら話す。

「どうして落とせなかった?」

「敵には優秀な軍師がいるようで、平地戦に持ち込まれて包囲され、部隊の弱い部分を執拗に攻撃してくるので軍は壊滅し、這々の体でここまで逃げる羽目になりま

した……」

和泉は苦い記憶を呼び覚ましたことで、悔しさのあまり切歯扼腕している。

「軍師?マスターではないのか?」

和泉から当たり前のように発せられる言葉に光真は疑問を投じる。

「はい。マスターは武勇一辺の男です。だからあまり軍師との仲はうまく行っていないとも言われています」

「その辺があっちの弱点か……」

光真は顎に手を当てて思索を巡らせる。

ピピピーピピピーピピピー。

雪菜のフォーカスオンバーチャルからアラームのような音が突然鳴り響く。それを聞くと雪菜は顔を曇らせてホログラムの画面を操作する。

その表情は顔面蒼白と言っても差し支えないレベルだ。

「今のは緊急事態通報だ」

雪菜は漏れ出てくる感情を必死に心の中にとどめて冷静に振舞う。

「緊急事態通報?どこかの都市が危険に陥っているという事ですか?」

冷静沈着に口羽が雪菜に尋ねる。

「ああ、ルーアンからだ。陥落の危機だとメッセージは告げている」

「ルーアン……!〈暁の幻魔団〉の遠征軍を撃破したばかりだから〈暁の幻魔団〉の攻撃である線は薄い。だとしたらどこが?」

光真の疑問に各々沈黙する。それもそのはず、あの辺りは〈閃光の師団〉と〈暁の幻魔団〉で領土が二分されているからだ。

「とりあえず、ルーアンに援軍を出そう。俺と雪菜と口羽で行く。ダッサンと和泉らはここに残ってポワティエ攻略の準備を整えて置いてくれ。」

「わかったぜ」「了解」

「早く出発するぞ。ルーアンが落ちる前に!」

〈閃光の師団〉の動きがにわかに慌ただしくなった。


ルーアン付近の森に3000人の〈閃光の師団〉が潜む。

「で、何で先生がついてきてんですか?」

半眼で自称大人の担任を光真は睨む。

「お前の近くにおる方が安全だと思っての」

その小さな胸をドンと張っている。光真はツッコミどころの多さに頭を抱えた。

しかし冗談を語り合う暇もなく、光真の視界はルーアンを捉える。

「ルーアンから戦闘音などは全く聞こえないな。本当に攻撃されているのか疑問に思うほどだ」

普通大規模な軍隊が動けば嫌でも何らかの音は発生する。にも関わらずルーアンは静寂そのもので、かえってそれが不気味に感じられる。

「とりあえず敵の見えない南門から入るぞ」

光真の号令と共に南門に近づいてみても、見張りもおらず全く無警戒で人のいる気配がしない。

「どういう事だ、陥落した気配は無いが……」

雪菜の言葉が全員の疑問を簡潔に示していた。あまり音を立てないように数人で門を開けると、そこには長い大通りがあっけらかんに広がっていて、人の気配が全くしない。深夜にも関わらず、松明にも火がともっていない。敵の奇襲を考慮して城外に皆を待機させて数人で街の状況を確認するように光真が指令する。

しばらく捜索を続けると口羽が民家の陰から手を振って光真に合図を送ってくる。

「どうした?」

声を潜めて光真が尋ねる。無言で口羽が指を差す先には建物の上にいくに連れて太くなっていく民家の壁に身体を預けて座る、血まみれの男がいた。呼吸は荒く、意識も朦朧としているようだ。

「何があった!どうして誰もいないんだ!」

光真が男の目線にしゃがんで肩に手を置いて尋ねる。男の方は焦点の合わない眼をこちらに向ける。

「し、し、死神……」

その言葉を最後に男の体はフッと虚空に消え去る。体力が尽きたために死んでしまったのだ。そしてこの男だけではない。ルーアンの人口は3000人にのぼる。逃げおおせた者もいるであろうが、大半が力尽きてこの男のように死んでしまったに違いない。

「くそっ!」

光真は強く地面に拳を叩きつける。それを見て口羽がなだめるように肩に手を置いて話す。

「死んだ者をとやかく言ってもどうにもなりません。それより二時間後に安心して復活できるようにこのようにした敵を探しましょう」

「ああ、済まない。取り乱した」

光真は足に力を込めて立ち上がると、再び大通りの方に足を向ける。するとそこにいた二人の兵士が目の前から斬撃を受けてのたうち回るのが見えた。

「なっ!」

光真は早足で先ほど二人が攻撃を受けた方に行って見ると、そこには一対の剣を両手に携えた人物が見える。

「速川光真君ね。会いたかったわ」

フードを被った真っ黒なクロークを纏ったその人物は、声から判断するに女性、それも成人前のものであった。フードを被っている上に下を向いているためその顔を伺う事はできない。

「誰だ!」

光真はルーアンをこのようにした犯人がこの女だと当たりをつけて、声を荒げる。

すると女は剣を持ったままの右手でフードを取る。

そこにあった顔に光真は驚かざるを得なかった。

「千鳥小夜か……?」

するとその女はニコリと微笑む。

「覚えていてくれて嬉しいわ。そう、本日あなたの学校に来た転校生よ」

甘い声で返事をする千鳥に光真は吐き気がした。ここをこんなにしたのはさっきの二人の男を斬り捨てた事から見ても、間違いなく千鳥の仕業に違いない。ならどうしてここまで平然としていられるのか。

「口羽、二人を後ろに下がらしておいてくれ」

後方にいる口羽に向かって声をかける。口羽もその言葉で何が起こるのかを察して人を呼んで回収に当たると、一人の男を担ぎ上げながら光真に向かって呟く。

「どうかご武運を」

「ああ、ありがとう」

そう答えた刹那、光真は手に持った槍をためらう事なく千鳥の顔に突き立てる。しかしそれは千鳥のスウェーじみた動きによって避けられる。

「女の子にいきなりその挨拶は無いわね」

対する千鳥もバックステップで体勢を整えると、手にぶらりと下げていた双剣をしっかりと構える。

「今度はこちらから行かせて貰おうかしら」

光真が千鳥が一歩目を踏み出したと知覚した時、もう千鳥は手の届く位置にいた。辛うじて光真は振り下ろされた左手の剣を槍の柄で受け止める。その攻撃で一瞬体が硬直し、続いて繰り出された右手の剣が浅く光真を切り裂く。

しかし光真の体力はそれだけの攻撃で一気に三割ほど削られる。

「ガハッ……」

たまらず後ろに飛んだ光真は自分の傷を確認する。しかし傷はやはり浅く、それ程のダメージを受けるものではなかった。それを見て千鳥が愉快そうに光真を眺める。

「どう?これが『死神』の力よ。攻撃性なら全アルカナ中最強。かすっただけでも効くわよ~」

光真を浅く斬り裂いた右手の剣に付着した血を千鳥がピンク色の舌を出してそれを舐め取る。

「これが『死神』の力ね……なら君はどうしてこの力を身につけたんだ?」

光真のその言葉を聞くと、さっきまで愉快そうに笑っていた千鳥の顔が一気に不快な表情へと変化する。

「それはあなたには関係のない事よッ!」

怒りに任せて振り下ろされた一撃を槍で受け止める。その瞬間光真の元に槍を伝って何かが流れ込んで来た。


一人の少女が見える。

それを数人の男子が取り囲むように少女の前に立つ。

「お父さんもお母さんも事故で死んだんだってな~。一緒に車に乗ってたのによくお前だけ生き残ったな。死神だ~」

ギャハハという笑い声と共に男子が走り去って行く。

少女は帰路につく。

「あの子……事故でお父さんとお母さんを一緒になくしちゃったんだって……」

「まだ幼いのに大変ね……」

「それに一人暮らしですって……」

「えっ……!親戚の方は引き取ってくれなかったのかしら……」


目を開けると、そこには再びルーアンの大通りだった。

「人の心を覗き見しないでッ!」

怒り狂った千鳥は剣を闇雲に振り回す。乱雑な戦い方であるとはいえ、一撃一撃がどれも致命傷であり、気を抜く事はできない。

「そんな過去があったんだな。だからと言ってこの世界で鬱憤を晴らそうっていうのは間違った事だ。この世界は無理やり連れてこられた人だっている。皆生きるために戦ってるんだ」

光真が真っ直ぐに突き出した槍も千鳥は両の剣で受け止める。

「わかったような口を効かないでよ!」

千鳥が光真の槍を弾いてその勢いのままに十字に斬りつけようとする。光真はサイドステップでそれをかわすと右手の剣を槍で叩き地面に落とさせる。

「自分の体験した事のない人の苦しみなんてわかるわけがない。でもそれを解消する事は誰にだってできる。少なくとも俺はこの世界ではそうありたいと思う」

足元を薙ぎ払うような千鳥の剣を、槍を地面に突き立ててそれを軸にして後ろに飛んでかわす。

「苦しみからは憎しみが生まれ、憎しみからはまた憎しみが生まれる。このカルマは尽きる事がないのよッ!」

飛び上がった千鳥から振り下ろされる剣を光真は槍で弾き返す。千鳥が地面に上手く着地できなかったところに猛然と突進し、残る左の剣もはたき落とす。

素手になってなおも振り回される拳を光真は槍を捨ててがっしりと受け止める。

「非常に人間的な考え方だな。俺には理解できんことだ。でもそれは事実であって真実じゃない。それが真実なら人間なんてとっくの昔に滅んでるよ」

「私、人間の醜い部分しか見てこなかった。あの時死んだ方が良かったってずっと思ってた」

光真は千鳥の細い身体をしっかりと抱きしめる。

「死んでいいわけがないだろ。君の両親は絶対にそんな事を望んでない。両親の分も生きて行かなきゃダメだろ?」

千鳥は大声をあげて泣き始めた。

まだ暗さの残るルーアンに一筋の明るい希望が灯った瞬間だった。









お疲れ様です。

第十五話でも是非お会いしましょう。

ではでは。

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