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ダンジョン作成記  作者: MS
第三章
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三章第二十七話

 地下迷宮第二階層固定ダンジョン創作に伴う中核部強制転移事件から大きな事件はなく、地下迷宮農場部屋の生産作物が冬物から春物に切り替わった。

 秋から冬に変わった時と同様に一部の作物が立ち枯れたが、既に内政班魔物も捕虜達も経験済みだったので騒動は起きず。

 粛々と前々から立てられていた計画に沿って作物が植えられていく。

 転移魔法陣の登録が第一世代(ネームレスにより創作された)小鬼(ゴブリン)が済んだ時点で、増員作業を禁じる命を出してハブとディギンを救った、というゴブリン限定での大事件はあったが。

 命令が下された時点で七名のゴブリン女性陣は再妊娠していたので、残念そうであるが不満は見られなかった。

 そうしてお勤めから解放されたハブとディギンは、女性ゴブリンの目がない所でネームレスの靴先に口付けせんばかりに感謝をする。

 次の種付け、もとい次代のゴブリンを生み出す男女の共同作業が許可される頃には、ゴブリン男性陣の数も増えて負担は激減されるはずだ。

 雄には打ち止めがある、血が吹き出るまで、てか吹き出ても酷使されるのは本当にもう勘弁なハブとディギンである。

 そんなゴブリン達であるが、出産が近い妊娠中のゴブリンと第二世代(ゴブリンの交配にて出産された子供であるコブリン)を除いた戦闘班の訓練は時に固定ダンジョンを利用して行われていた。

 だがこれは、ネームレスが当初予定していた頻度よりは遥かに少ない物になっている。

 というのも、素材の仮想資金化が不可能だった為に、実戦で武具の消耗率が加速するのを嫌った為だ。

 特に武具を溶かす弱粘液(ウィークスライム)は元々消耗品である矢で倒す事で、消耗をなるべくおさえて剥ぎ取り素材も回収している。

 スライム系魔物は回収と消耗の対費用効果(コストパフォーマンス)が悪い、と侵入者からは松明等で焼き払われ素材回収されておらず。

 その為に地上ではスライム素材の効能や利用方法が解明されていない。

 だが、説明書にそれらの記述が回収後から追加されたので剥ぎ取られていた。

 スライムの体液は高品質の、(なめ)し剤として利用可能だ。

 魔物から剥ぎ取った皮は改めて脂肪や肉片を削り取り、スライムの体液を使い残っている毛や鱗を分解させる。

 普通ならばここから漂白剤やらと様々な薬品を使用されて革になるのだが、スライムの体液を使えばそれらの工程を施さないでもなめし革にできた。

 皮次第では数十日かかるのだが、スライムの体液を使えば一日で終えてしまう。

 豆知識だが、毛皮のコートなどが欲しい時は毛皮にスライムの体液を薄めて使うと良い。

 そういう効能もあり元が魔物素材である事を除けば洗髪剤としても有用であり、本能的に美を追及する女性陣の髪に輝く艶を与えている。

 捕虜の少女達も、天使の輪を振り撒きながら野菜をちぎり、鍬をふるい、馬や牛の世話をしていた。

 スチパノという男前が側にいる機会が増えているので、捕虜の少女らの大半が身嗜みに気を配っている。

 ネームレスに関しては、ローブにフードを深くかぶり顔付きも体型も解り難いので、声質から男性かもとせいぜい無礼にならない程度の対応だ。

 ネームレスがダミーダンジョンの構築をしない日は、朝から農場部屋のデッドスペースを利用した皮加工作業場で作業に励む。

 内政班トップの人造人(ホムンクルス)エレナからは「その様な些事は私達に」と諫言されたが、ネームレス自身がなめし作業に強い興味があり我を押し通した。

 豚人(オーク)スチパノの指導下で、ネームレス、フジャン、ラン、ハブ、ディギンのゴブリン勢とでナイフを使い魔物素材の皮や毛皮から不要な肉片や脂肪などを削り取る。

 削り終えて皮の厚みを整える等と前処理を済ます。その皮をスライムの体液で浸したり塗り込めたりした後、水で洗い流す等で体液を落とし天日干しせねばならない為だ。

 皮の種類や用途によっては煙で燻したりもせねばならないが、乾いたらなめし革の完成である。

 これ一枚(魔物一体分)で仮想銀貨約25枚か、全ての工程を終えて完成したなめし革を手にネームレスは表情や雰囲気には微塵も出さないが内心で小躍りしていた。

 こうして加工品にすれば仮想銀貨化可能となる。

 なるべく傷付けずに仕留めなければ、剥ぎ取って加工しても価値が二束三文になるので儲けは少ない。

 しかし、命懸けで戦っている魔物に、毛皮に傷を付けないように仕留めろとはネームレスも命じられずにいる。

 だが減り続ける地下迷宮運営費に切ない思いを抱き、補充する手段が少ない事はネームレスに頭痛と胃痛を招いていた。

 そんなネームレスからすると、切望していた収入源だ、嬉しくてなめし革加工作業に気合いもはいろうというものだ。

 これ以外では、農場部屋で生産された農作物や、増やした鶏や卵なども仮想資金化可能である。

 けれども食料品の備蓄に力を注いでいるネームレスには、食料品関連を変換する積もりはない。

 これで食料品が萎びたり腐ったりと悪くなるのならば、そうなる前に資金化もあった。

 だが、保管庫が隔絶した性能を誇り、そのような事は見当たらないので、食料品が仮想資金化されるのは余程の事がなければこの先もないだろう。

 嬉しいことに、他にも収入源となり得る魔物素材加工品があった。

 魔物素材である羊毛や山羊毛を日中に薄めたスライムの体液で洗って絞り乾燥させる。

 そうして美しい光沢を放つそれらをスチパノ指導の元に捕虜の少女達が、器具で糸車で糸に紡ぎ、その糸を使い機織りで織物を織っていた。

 今までは日が暮れて農作業の効率が悪くなると休ませていた夕飯後から就眠までの時間帯を利用して。

 寝床小屋の片隅に道具が運び入れられ、幼少組が毛を纏めて櫛で均す、それを器具で……と糸にしたら、チュヴァ達年嵩組が二台ある織機で織物を織る。

 年嵩といっても捕虜の中では、であり御年百歳越えの森妖精族(エルフ)の少女という例外はいるが、捕虜の少女はまだ十代だ。

 ただ、梳綿(そめん)、糸紡ぎ、機織りなどに使う糸車や織機などの初期投資、捕虜には日中の仕事に影響が出ない程度の作業量におさえているので、織物で利益が出るのはまだ先である。

 ネームレスも機織りに挑戦しようかとも考慮したが、工程、特に毛を糸にする過程に手間隙が必要な事に加えて、機織りに時間が取られる事もあり、これには手を出していない。

 山羊毛を使った織物(布)は二体分の毛を使い、一枚で仮想銀貨約20枚になる。

 大量に採取されているシーダ材を木炭などに加工する事も可能だ。

 しかし、加工に必要な知識と技術を持つスチパノの仕事量が膨大な事、専用の施設を創作せねば効率が悪い事などからシーダ材加工は控えていた。

 なめし革作りも機織りも専用の加工場と要員を創作した方が効率が上がり、品質も高まり高値になる。

 だが、ネームレスの手元に残る創作P(ポイント)は10Pだけだ。

 Pはない、しかし資金は必要、そんな状況による妥協から、なめし革、織物の加工に繋がっている。

 もしPに余裕があったのならば農場部屋の北(上)部、かって応接室に続いていた箇所に加工部屋などを創作していたのだが。

 強制転移された中核部が存在していた地域は土に埋もれ、創作可能地域と化していた。

 この地域は生産や加工、魔物の居住区として利用する為に拡張する予定である。

 現状はPがないので部屋を創作できない、その為開発は後回しにされていた。

 こうした妥協下での、なめし革の仮想銀貨化も固定ダンジョン戦闘での出費を考えるとやはり足が出ていた。

 コブリン達も巨大鼠だけでなく、固定ダンジョンの魔物とも戦闘経験を積ませる為に武具を買い与えなくてはならず。

 槍、手斧、小型ナイフ、硬化革鎧、小型楯を人数分用意して仮想銀貨7500枚飛んでいる。

 コブリン、いやもう体格的には成体と変わりがないぐらい成長した第二世代ゴブリン達十五名は第一世代ゴブリンと合流した。

 とはいえ、コブリン用にと創作された訓練場を放置して巨大鼠だらけにするのも問題である。

 なので、第三世代が生まれるまでは第二世代の訓練を兼ね、常に二名一組の第二世代ゴブリンが訓練場に待機、訓練などをしながら巨大鼠を待ち受けて狩っていた。

 寝床は第一世代ゴブリンと同じ部屋に移されており、コブリン用の寝床は新たなる入居者が来るまで暫し空き家となっている。

 他のゴブリンは交代要員以外、自然洞窟偽装ダンジョンの大部屋で訓練に参加したり、固定ダンジョンの魔物を相手に実戦を経験しつつ剥ぎ取りなどを学ぶ。

 ネームレスも資金に余裕があれば第二世代ゴブリンに弓矢の訓練も施したかった。

 しかし練習に消費される矢の代金を考慮すると断念せねばならず。固定ダンジョンに突入する時はランと五名の骸骨弓兵が別れて前衛四名、後衛二名の三パーティで魔物と戦闘を重ねている。

 スライム対策に弓兵は必須だ。それに前衛ばかりだと戦闘に支障が出る可能性もある為にこの編成となっていた。

 まだ第二世代ゴブリンが成長しきれていない頃、ネームレスの方針で妊娠中のゴブリンが外されていて、前衛が骸骨兵六名、ゴブリン二名で五名パーティ二組と四名パーティに別れていたのだ。

 この状況下で、第二世代ゴブリンが全員前衛のままだと、後衛の弓兵が足らずにスライム対策などに問題が出る。

 しかし、弓術を身に付けるのは難易度が高く、かなり訓練を重ねなければ誤射の恐れがあり実戦への投入が難しい。

 技術を磨くには訓練を重ねるしかなく、その為には大量の矢が必要だ。

 そうなると財政に――ネームレスとしては情けない事だが――重い負担としてのし掛かる。

 致し方ないので、骸骨兵は救援隊として待機させ、なるべく第二世代ゴブリンに経験を積ませていた。

 中核部強制転移事件から骸骨兵の待機場自然洞窟偽装ダンジョン大部屋からDM(ダンジョンマスター)室へと変更される。

 当初の計画が頓挫した現状、応急措置だが戦力を集める事で対応しようとした。

 だが、骸骨兵は常に訓練などで一ヵ所にとどまる事は少なく、有効な案とはいい難い。

 結果、ネームレスはダミーダンジョン構築に力を注ぐ事で侵入者に対抗する事に。

 自然洞窟偽装ダンジョン地上出入口部屋から真っ直ぐ西(左)進、突き当たりを今度は北進して第一階層最大拡張範囲限界位置に階段部屋を創作。

 階段部屋の扉は一ヵ所しか設置できないので、部屋の壁沿い東(右)進し北進して扉と繋がっていた。

 この北進の直線通路は転移魔法陣が利用可能なので、ダミーダンジョン地上出入口部屋を創作したら塞ぐ予定だ。

 可能ならば自然洞窟偽装ダンジョンに繋がる通路も塞ぎたいが、地下迷宮はDM室に人間が行き来可能な通路等で繋がっていなければならない仕様なので階段部屋と繋がっていなければならず。

 他にも思惑があり、この通路は当初の計画通りに二重の隠し扉と堀を使う事にしている。

 Pを入手するまでは、迂回路を創り誤魔化しておく積もりだ。

 創作魔法を用いての地下迷宮創作には、部屋や通路の広さや長さは階層最大拡張範囲内であれば制限はない。

 だが、床から天井までの高さや通路の幅には規定がある。

 高さは一階層ならば十二メートル、二階層は十五メートルまで、低さは最低二メートル、幅は最低一メートル。

 Pを消費して創作する部屋や通路に関しては例外で、繁殖部屋のように入室不可等とできる。

 ネームレスはスチパノ、フジャン、枝悪魔(インプ)コルジァを引き連れて元ダミーダンジョン、現、対侵入者迎撃ダンジョンを構築していた。

 とはいえ、歩く救急箱でありゴブリン族長であるフジャンは、貴重な回復役(ヒーラー)として、ゴブリンが固定ダンジョンを使った実戦訓練をする時にそちらに回る。

 実戦経験があった第一世代は軽い怪我があるぐらいだったが、第二世代ゴブリンが前衛を担当する時はスチパノも第一世代ゴブリンと共に救援隊として抜けていた。

 ネームレスの意向で手足が千切れたぐらいでは、一角獣(ユニコーン)ユーンの力で再生可能な為に助けに入らない。

 人間ならばショック死やPTSD(心的外傷後ストレス障害)で使い物にならなくなる可能性が大きくある。

 だが弱肉強食の厳しい掟に生きる魔物の身体能力と精神構造、少なくともゴブリンはものともしない。

 魔物であるからか妖魔という種によるのか、スチパノが施した教育の成果かは判断が難しいところだ。

 生きてさえいればフジャンが応急措置してユーンが復帰させられる。

 例え死んだとしてもゴブリンゾンビにして迎撃ダンジョンに配置すれば良い。

 このような苛烈な方針で固定ダンジョンに投入される第二世代ゴブリンから死者が出ないのは、同行する骸骨弓兵やランの手腕もある。

 救援隊である骸骨兵長イースを始めとした精鋭骸骨兵、武術師範スチパノの働きも大きい。

 だが最大の要因は……。

 地下迷宮第二階層固定ダンジョン内部。

 本日固定ダンジョンを使用した実戦鍛練に挑んでいる三班の一つが、固定ダンジョンの魔物で屈指に手強い灰色狼(グレイウルフ)の群れとぶつかっていた。

 班付きのインプがすぐさま救援隊を呼びに飛んで行ってはいるが、駆け付けるまでの時間を稼がなければならない。

 ゴブリン達は盾を前面に構え、槍を槍投げするかのように柄を肩に乗せる形で、骸骨弓兵は弓矢で牽制している。

 しかし、骸骨兵に比べると修練度が低く、体格も劣るゴブリンでは完璧に捌ききれず。

 古代ローマ歩兵が使っていたような身体の半分も隠せる程の大型盾ならば防げただろうが、百二十センチの体格に合わせた小盾では難しく。

 痛みと出血で闘争本能を強く刺激され、スチパノの教導で叩き込まれた連携が乱れだす。

 特に前衛連携による援護が薄くなる右端のゴブリンは暴れまわろうと囁く本能を抑え込みながらの戦闘で消耗が激しい。

 弓兵の援護も右端のゴブリン、この班の副長ヨンロウに比重がおかれていた。

 この配置はゴブリン達の指揮訓練を兼ねているからであり、班長もゴブリンのゴジョが務めている。

 経験や実力的には骸骨弓兵が務めるべきだが、イース以外の骸骨兵は喋れない上に後衛である弓兵が指揮を取るのは至難だ。

 そういう訳でゴブリン一族の幹部候補である第二世代の女性ゴブリン三名は、スチパノからパーティー指揮官としての教育も受けている。

 そんなゴジョは前衛の左から二番目、この陣形ならば前衛として左右から援護される箇所で指揮を取ろうと頑張っていた。

 実際は盾で防ぎ難い足首を狙い牙を剥く灰色狼を槍で追い払ったり、左隣にいるゴブリンへの攻撃を己の盾で逸らしたりしながら「防げ!」「もうすぐ救援が来る、踏んばれ!」と叫ぶだけだが。

 灰色狼は得意の一撃離脱と連携を駆使して前衛ゴブリンに出血と疲労を強いる。

 そんな中で連携のほころびと判断の誤りをつかれ、遂にヨンロウが牽制に突き出した槍を握る右腕が伸びきった瞬間の手首を強靭な顎で噛み付かれた。

 手首の骨を砕かれ槍を手放すヨンロウ、手首に噛み付いたまま首を右に回して倒そうとする灰色狼に反射的に抵抗して左足に力と重心を移した瞬間、別の灰色狼が左手に持つ盾に飛び掛かり突き飛ばす。

 そうしてヨンロウを崩してからその勢いを利して手首に噛み付いた灰色狼は身体ごと左回転する。

 変則的な小手投げで身体を空中で反転させられ背中から床に叩きつけらたヨンロウに、三頭目の灰色狼が無防備に晒された喉に喰らい付き、首の骨を砕き気管に牙を立て肉ごと噛み千切るべく顎を開き飛び掛かった。

 援護(フォロー)に入ろうとするゴブリンも他の灰色狼に邪魔されて間に合わない。

 ヨンロウは叩き付けられた衝撃で朦朧としており盾で防ぐ事も、例え意識があり身体を転がして避けようとしても手首に噛み付いたままの灰色狼が許さず。

 灰色狼がヨンロウの喉を噛み千切ろうと顎を大きく開いたその口に槍が吸い込まれ、灰色狼の串刺しが出来上がる。


「うおぉおぉぉ! 死なせんぞ、誰一人として死なせんぞぉ!」


 走りながら己の槍を投射してヨンロウを救ったハブは手斧と小盾を手にスチパノよろしく灰色狼の群れに飛び込み縦横無尽に暴れ出す。

 すぐさま灰色狼達はハブを囲み、この間抜けなゴブリンの機動力を奪うべく両足首目掛け低く飛び掛かる。

 だが、足を止めずに手斧を振り回しながら走り回るハブを捕らえきれず。

 ハブに続いて部屋へと駆け付けた骸骨兵長イースが振るう芸術の域にまで昇華された剣舞の前に次々と首を落とされていく。

 イースとの戦闘能力差に勝てぬと判断した灰色狼達は敗走するも、今までの鬱憤を晴らすように苛烈に追撃するゴブリンらに逃走に成功した数は少ない。

 このように第二世代ゴブリン達の危機(ピンチ)には自らを省みずに救援に飛び込むハブとディギンの活躍あっての死者数零だ。

 ヨンロウを救った戦闘でも致命的な牙攻撃は回避したり防いだハブ、しかし爪を用いた攻撃に浅くはない傷を負う。

 スチパノやイースの最早神がかった回避力のないハブやディギンは救援に向かい、救援先のゴブリン達よりも重傷になる事もしばしばある。

 それでも回復魔法での治療は常に第二世代ゴブリンを優先に受けさせ、自分達は魔物として備わっている高い自然治癒力まかせ。

 せいぜい、仮想資金化できないぐらい品質が悪い織物で作った包帯を巻くぐらいだ。

 その為に二人の身体には大小様々な傷跡が残る。

 ハブもディギンもこれは男の勲章だと気にもとめていないので、ユーンの力で消す事も可能だがそのままにしていた。

 これらの活躍で、イースとスチパノから一目置かれ、ランからの好感度を高め、第二世代ゴブリン男性陣の信望を集める。

 第二世代ゴブリンを死なせない様にと必死でがむしゃらなハブとディギンは気付けない。

 フジャンとラン以外のゴブリン女性陣からの熱視線、第二世代女性陣からは憧れと思慕を、第一世代女性陣からは肉食獣が獲物に注ぐのにも似た欲望が多大に含まれたその視線に。

 そして、これらの活躍や第二世代男性陣が合流した事でゴブリン権力序列(ヒエラルキー)が変化してハブとディギンが序列三位に昇った事にも。

 お勤めへの負担軽減に死なせる訳にはいかないと全身全霊で動いた事で、一族繁栄に強い雄の種でしか孕んではならない事が頭から抜けていた事にも気付けずにいる。


「ハブの兄貴、こんなに男がいれば女性陣は選り取り見取りっす。

 こんなに傷跡だらけで醜い俺達が選ばれるはずがないっすよね?」

「うむうむ、肉食系な女性陣ならば俺達よりも若くて新鮮な男を選ぶはずだ」


 ネームレスにより創作(うみだ)されたハブとディギンは自然に焼き付いた創造主の知識に強く影響を受けて、魔物やゴブリンとしての常識や観念からちょっとだけずれていた。




 この様にネームレスと配下の魔物達は春に、雪解けに後の襲撃再開や行方不明になっているであろう奴隷商や傭兵団の捜索に備えている。

 再び異世界ミニチガンのウウゥル大陸に冬という終端と安息を司る夜神の巡りが終わり、新生と始まりを司る春、光神の巡りが訪れた。

 だがそれは同時にネームレスという嵐が、フルゥスターリ王国やヌイ帝国に血と嘆きをもたらす事に繋がる事をまだ誰も気付いていなかった。


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