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ダンジョン作成記  作者: MS
第三章
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三章第二十四話

 弱粘液(ウィークスライム)、酸性の体液に包まれたアメーバ様生物であり、液状の体内にある核を破壊する事で殺す事が可能だ。

 だが、石以外のすべての物、革鎧だろうが鉄製鎧だろうが武器だろうが消化して食べてしまうスライムを攻撃するのはデメリットが高い。

 故にスライムを倒すには火を利用するのが一番だ、スライム種にもよるが松明の炎を押し当てるだけでも討伐可能である。

 残念ながら暗闇をものともしない骸骨兵、枝悪魔(インプ)小鬼(ゴブリン)ばかりのイース班とラン班は手元に松明や油などを用意しておらず。

 ランがダンジョンの壁で燃えて光源となっている松明を取り外そうとするも外れず。

 仕方なく安くて数がある――なるべく状態が悪い――槍を使用して五十八体いたウィークスライムを撃破した。

 その内、二十八体は弓矢で仕留めたが、槍が八本程駄目になってしまう。

 といっても刃部である槍頭が駄目になってしまっただけなので、柄は訓練用に再利用される。

 そんな尊い犠牲の上で殲滅されたスライムの死体から、ゴブリン達が採取したスライムの体液は生前程の消化力こそないが、火を使って倒した時は手にはいらない。

 故に地上ではなかなか出回らない為に利用方法が解析されておらず、別の意味で稀少(レア)素材だった。

 武具や松明などの道具(アイテム)が購入可能な施設である執務室が現在所在地不明で利用出来ない。

 スライム対策に油や松明を欲した骸骨兵長イースはインプ長デンスを通じて、後方支援を担当する人造人(ホムンクルス)エレナにランタン用の油や交易路襲撃略奪品にあった松明などの輸送を依頼する。

 しかし、現状の装備でも対処可能な為、時間を惜しんだイースは隊を率いて先を急ぐのだった。




 農場部屋にて捕らえられている捕虜達に、ネームレスの不在を悟らせない為、普段とかわりないように仕事を行っている内政班魔物達だが動揺が激しい。

 ネームレスに反発しているであろう、一角獣(ユニコーン)ユーンですら奇行に走っていた。


《水を司る乙女よ、何故に我の邪魔を冷痛ぁ!?》


 ちょっと水浴びがしたくなっただけなんだからね!?

 か、寒垢離(かんごり)しようとか考えてないんだからぁ!!

 勘違いしないでよ!

 誰に言い訳しているか不明だが、こんな事を考えながらユーンは農場部屋に流れる小川に入ろうとした。

 そこに小川を寝床にする水精霊(ウンディーネ)ミールが、そんなユーンに水を勢いよくぶつけたのだ。


《ちょ、冷た、まっ、痛っ、なにぃ、ひぐぅっ、ごめんなさい、らめっ!?》


 そんな二人を止めようと森妖精族(エルフ)の少女が右往左往している間にユーンはびしょ濡れにされて逃げ出す。

 だが、ミールはしつこくユーンを追い回し、結果二人して虫取り網を手にしたエレナにより雷を落とされる。

 ちなみに入浴部屋は犬人(コボルト)が使用して毛で湯が汚れても明け方を過ぎると綺麗になるので、入浴時間が遅くに指定されているがユーンも利用は許されていた。

 ミールは小川に捕虜(特に幼子)が落ちないよう監視、阻止する役目があり普段ならばもっと優しい手段で止めている。

 それに追い掛け回す事もない、叱られたミールは無表情ながら肩を落とし、顔を下に向けて水撒きするのだった。




 外見は人間族(ヒューマン)の美丈夫にしか見えない豚人(オーク)スチパノは、地下迷宮の(あるじ)ネームレスから武術師範の地位を授かっている程の戦技巧者である。

 百九十センチを越える体躯には戦う為に筋肉とスタミナを維持する脂肪が絶妙なバランスで備わっており、足がすらりと長い。

 そんなスチパノに相対峙するのは五名いる筋肉の塊、もとい山羊人(ゴート)を中心とした羊人(シープ)と山羊人の大群だ。

 スチパノの周囲には骸骨兵が崩れ落ち、インプが目を回していた。

 まだ矛を交えていないのだが、余りにも衝撃的な外見をした山羊人を目にいれた瞬間、骸骨兵は敗北を悟り崩れ落ち、インプは目に(うつ)った物の理解を拒否して気絶してしまったのだ。

 両手を後頭部に置き、肘を頭より高い位置にするアドビナブル・アンド・サイ、脇の下が丸見えだが筋肉を強調すべく体毛は全て剃られている。

 二本の捻れた(つの)に長い顎髭の山羊顔に歯茎と白く輝く歯を見せながら満面の笑みが浮かぶ。

 ふといガン(上腕二頭筋・三頭筋)、見事にキレてる(割れた)シックス・パック(腹筋)、ナイスバルク(良い筋肉)なサイ(太腿四頭筋)、きゅっと引き締まった(筋肉が)ムチムチなヒップ(尻)をくねくねと振りながら、スチパノ班をその見目だけで崩壊させた山羊人の一人、ビキニパンツに五番と書かれた名札を身に付けたマッスル山羊人がスチパノ班唯一の生き残りであるスチパノにそんな風に近寄っていく。


「ハッハッハッ、先ズハソイツガ相手ダ」


 葉巻をくゆらせるビキニパンツだけを身に付けた色黒なマッスル山羊人の大将格が告げる。


「ソイツハ俺達ノ中ジャマダマダダガ、オ前ニハ似合イノ相手サ」

「それはないぜ、サクヤーの兄貴。

 ま、てめえみたいなモヤシに負けるような柔な筋肉は……」


 その筋肉を誇示しながら無防備に近付いた五番の(ふところ)に腰を落とし右手、右足を前に左足を後ろした三体式の構えで、スチパノは滑るように踏み込む勢いと体重移動を利用した両掌での中段突きで吹っ飛ばす。

 観戦していた山羊人や羊人を巻き込み倒れた五番の名札を付けたマッスル山羊人は心臓部を陥没させ絶命していた。

 あまりの事態に凍り付くマッスル山羊人や観戦していた魔物らを置き去りにスチパノは後ろ腰に差していた二本の短剣を左右に握り二刀流となり、四番、三番、二番のマッスル山羊人の頸動脈を切り裂き沈める。

 五番が吹っ飛ばされ観客に突っ込んだ事に驚き、くわえていた葉巻が口から零れて床に落ちる僅かな時でマッスル山羊人サクヤーの額に短剣が根元まで突き刺された。

 スチパノが短剣を引き抜き、サクヤーの死体がどさりと倒れた音で解凍された羊人や山羊人は一気に恐慌に襲われ、スチパノ班が入室した穴の反対側にある出入口から逃げだそうとする。

 一部の山羊人や羊人は「兄貴!?」「あーにーきー」「メェー、メェー」「べぇ〜、べぇ〜」とすがり泣き付く。

 真ん丸のつぶらな瞳からポロポロと涙をこぼし、モコモコした身体をプルプルと震わせながら、スチパノに及び腰の羊人が非難を飛ばす。


「卑怯べぇ〜、まずはお互いの筋肉を見せ合い(魅せ愛)するのがDMLM(地下迷宮筋肉愛好会)の決闘流儀べぇ〜」


 何故か復活した仲間であるはずの骸骨兵を含む、室内に残った魔物達から非難の眼差しを浴び、スチパノは困ったように苦笑しながら。


「殲滅せよ、一体も残すな」


 戦いのプロフェッショナルであるスチパノに羊人の言い分や泣きすがる姿などは何の影響も与えない。

 冷徹な命令に反応し骸骨兵達は、狭い出入口に恐慌状態で密集し過ぎて出るに出れなくなっている山羊人も、状況を無視して未だにマッスル山羊人に泣きすがり、スチパノに非難や剣呑な視線を注ぐ魔物らも、分け隔てなく全てを平等で無慈悲に狩り取っていく。

 出入口に殺到する魔物達には骸骨弓兵が矢の雨を降らせ、スチパノと骸骨兵は、挑み、反撃してくる魔物を優先して倒しながらすがり泣き付く魔物も仕留める。

 武装といっていいのか微妙な握り易い大きさの丸太や枝を棍棒代わりに挑んでくる山羊人、長めのそれを槍代わりにして突いてくる羊人だが豊かな毛が邪魔をして動きに精彩を欠き、スチパノや骸骨兵の敵ではない。


「正面からだと兄貴達に勝てないから不意討ちなんて真似をしたメェー」

「不意討ちがなければ筋肉がない骸骨戦士(スケルトン)や、厚みのない細マッチョに負ける兄ぃじゃなかったべぇ〜」


 恐慌に陥り逃げ出す事しか考えられなくなった山羊人や羊人も、冷静さを失わずスチパノ一行に立ち向かっていれば今少し反撃出来ていただろうが、真っ先に大将格のマッスル山羊人が倒された為に、魔物を纏められず。

 結果的に戦力の無力化による各個撃破を許してしまい、碌な反撃も出来ずに全滅の憂き目に会った山羊人と羊人である。

 数が数なだけに、骸骨兵の槍が途中で折れてしまい予備武器の小剣に切り替えるトラブルは有ったが、スチパノ班はインプが気絶した以上の被害はなく戦闘を終えた。

 武具の交換や矢の補充などで補給をしなければならない。

 だが、伝令であるインプが気絶しているのと魔物素材の剥ぎ取りがある為に、骸骨兵を見張りに立たせ、スチパノが死体から素材を採取する。

 イース班が剥ぎ取りをゴブリン班に任せているのは、判断力に違いがありすぎるのとネームレス捜索を優先してであり、骸骨兵に戦闘以外の活躍を期待するのが難しい事も理由として大きい。

 捜索優先ならば死体からの剥ぎ取りはしない方が手間を減らせるのだが、昨夜の会議で固定ダンジョンを創作する理由として素材採取もネームレスから説明されており、可能な限り回収する事にした為である。

 山羊人から山羊の毛、山羊の皮、山羊の肉、山羊の角を、羊人からは羊の毛、羊の皮、羊の肉、両者の武器代わりだった丸太なども素材であるシーダ材に加工可能だ。

 スチパノが黙々と死体から素材を剥ぎ取っている間にインプが覚醒、ラン班へと連絡に飛び補給物資と共にスチパノ班の元に戻る。

 骸骨兵が折れた槍や空になった矢筒を入れ替え、剥ぎ取り素材をゴブリン班に渡し後を任せるとスチパノ班は捜索を再開して次の部屋へ。

 この時、情報伝達の任も請け負っていたスチパノ班付きインプの頭脳が記憶する事すら拒否していた為に、マッスル山羊人の情報が回収班でもあるゴブリン隊に伝えられず。

 その為にマッスル五人衆の死体が消え失せた事に誰も気付く事が出来なかった。

 あれだけの数の山羊人と羊人を殲滅した為か、次の部屋、その次の部屋にも魔物の姿はなく、出入口も二ヵ所しかない細長い通路に出たスチパノ班は新たな魔物と遭遇する。

 体高が百十センチはある灰色狼(グレイ・ウルフ)が三頭、だが狼達はスチパノ班を視界にいれた瞬間、反転すると通路奥に姿を消した。

 これまで捜索を済ませた固定ダンジョンはどの部屋、今いる通路も不自然な程に水平で窪みや出っ張りで足を取られる心配はない。

 昨夜、創作されたばかりの為か山羊人や羊人に襲われた部屋以外は特に臭いもなかったのだが、この通路は狭く直前まで狼が居たせいか獣臭がスチパノとインプの鼻に付く。

 スチパノは短剣を左右の手に、骸骨兵は狭い通路内での戦闘を警戒して抜いていた小剣から槍に持ち変えた。

 通路を抜けた先に待ち構えるであろう固定ダンジョンの魔物に警戒を払いながら突入する。

 もっとも危険な先頭で部屋に突入したスチパノに狼が手首を狙い牙を剥く、左右それぞれの手首目掛け二匹の狼が低い位置から飛ぶように駆け襲う。

 スチパノは襲い来る狼らよりも二頭の奥で喉を狙う狼に注視しながら二頭からの噛み付きをすり抜ける。

 ガチン、と音が聞こえそうな勢いで顎を閉じた狼二頭はその勢いを殺す間もなく、スチパノに続いて突入してきた骸骨兵の槍突きにより一頭は目から脳まで貫かれ絶命、もう一頭は首を捻りその動きで身体も槍の軌道からそらして避けたが、さらに飛来した三本の矢はどうしようもなく深々とその身に受けてしまう。

 一方、二頭の同時攻撃を絶妙なタイミングで躱して後続の骸骨兵達への隙を作ったスチパノは常に三頭の狼から攻撃を受けて押されていた。

 狼達の攻撃を逸らし躱してその身に掠る事すら許さないスチパノだが、三十頭はいるだろう狼の波状攻撃により反撃が難しい。

 だが、それも骸骨兵達が槍で弓矢で援護にはいると急激にスチパノ班側有利に戦局が傾く。

 骸骨兵らが傷付いた狼にとどめを刺し、背面を取られないように壁を背にする弓兵と護衛の骸骨兵。

 そんな骸骨兵から囮として突出しているスチパノ、そうする事で攻撃をその身に集めているのだ。

 俊敏で勘も鋭い魔獣系魔物である灰色狼は、小型の馬並みの体躯を誇り体力や生命力も体躯に負けはしない。

 灰色狼の強さは、そんな体躯や力だけでなく、真髄は群れとしての徹底された連携である。

 正攻法で挑んだ方が確実でありリスクも少ないのだが、主目的がネームレス捜索なので戦闘に取られる時間を嫌った他にスチパノ自身の鍛練を兼ねてだ。

 スチパノを攻撃して反撃を受けない位置まで飛び退く狼、その際、追撃をかけられないように他の狼が同様の戦法で次々と襲いかかる。

 この連携でスチパノを完全に封じ込めているように見えるが、回避位置を誘導されており狼が気付いた時は骸骨兵の攻撃範囲に追いやられ鋭い槍捌きにて出血を強いられていた。

 他にもスチパノへと同時に襲いかかろうとする三頭の狼が居れば、二頭に向けて矢が放たれ回避を強要し、一頭だけが襲い掛かる形に制限され、やはり手痛い反撃をくらう。

 出血により動きが鈍り、それでまた反撃を……、この悪循環にて一頭、また一頭と倒されて行く狼達、猛攻をかけているのに掠り傷さえ与えられず、体力の消費で動きが鈍くなる。

 集中力が途切れて判断を誤る事もないスチパノに、狼達は戦術を切り替えた。

 半数がスチパノを封じ込める為に今までと同じ戦術を、残り半数は骨だけで食い出がない骸骨兵と戦う。

 二名しかいない骸骨兵は壁を背に亀が甲羅にこもるように防御に徹して隙を見せず、その為に得意の機動戦を封じられた狼達はにらみ合いの膠着状態に。

 一方、スチパノは数が減り波状攻撃の間隔がどうしても鈍る狼達に逸らし躱すだけから反撃や追撃も織り交ぜ出血を益々強いた。

 膠着状態で余裕が出た弓兵による援護がはいると狼達の殲滅速度が上がる。

 仲間が倒されて勝ち目なしと狼達が逃走を決断した時には出血などで機動力と体力が削られており、これもまたスチパノの狙い通りに一頭の逃亡も許さなかった。

 インプがゴブリン隊を連れて来るまで、やはりスチパノが灰色狼から魔物素材を剥ぎ取る。

 灰色狼から取れる素材は狼の毛皮だけであり、それも綺麗な死体からだけである。

 もっと少数ならば綺麗に殺す事も可能だったが。

 階段部屋に続くドア以外に固定ダンジョン内部を遮断する物は見当たらない。

 だが部屋内の空気が循環されている様子はなく、剥ぎ取りで皮を剥がされた狼の死体から発する血の臭いで充たされていた。

 (もっと)も骨だけで嗅覚のない骸骨兵と強靭な精神力を持つスチパノには何の問題もなかったが。

 ゴブリン隊が補給物資を持って到着、矢の補充や武具の手入れを済ませスチパノ隊は捜索を再開させるのだった。




 巨大蜥蜴(ジャイアント・リザート)弱粘液(ウィークスライム)の大群を退けたイース隊は、それから巨大蝙蝠(ジャイアント・バット)を中心とした小規模の魔物と戦闘を重ねながら捜索を進めている。

 小規模の魔物を撃破した場合はゴブリン隊には報せずに死体を放置していた。

 もったいないがゴブリン隊の消耗を考えると致し方ない。補給物資運搬後、物資置場に戻る途中で放置されていれば剥ぎ取ってはいるが。

 進んでは戻り、戻っては別の部屋に進む。

 インプが書いている地図(マップ)を覗きながら未捜索区域を踏破していく。

 灰色狼といった討伐に手間が取られる魔物と遭遇したり、モンスターハウス(大量の魔物が居る部屋)的な大群もリザート達以外には当たらず。

 イース隊は広さや長さなどは考慮せずにいえば部屋や通路を十八箇所踏破した。

 十三箇所目の部屋には回復の泉(飲んだモノの傷や疲労、失われた魔力を回復させる)があったが骸骨兵長イース以外は入室出来ず。

 マップに要調査と書き込まれただけで現時点では回復の泉とは知り得なかった。

 他にも細々とした発見も詳細に書き込まれており、千金に値する価値のマップとなっている。

 十九箇所目の捜索箇所は通路のようだったが、時たまにある壁に松明がなく光源が用意されておらず暗闇に支配されていた。

 骸骨兵もインプも暗闇でも問題がないので意味はないが。

 だが、奥から初遭遇となる魔物が二種近付いて来ていた。

 赤い花弁の中心に牙が覗く口を持ち、何本もの緑色をした蔓と茶色の根を使用して移動する食肉赤花(ラフレシア)、赤地に白い斑点がある(かさ)に白い柄の胞子茸(ファンガス)は柄をくの字に曲げると勢い良く伸ばしピョンと跳躍しながイース隊に向かって来る。

 ラフレシアもファンガスもただ立っているだけなら両者共に体長百センチぐらいだが、ラフレシアは根をただ伸ばせばどれぐらい長くなるだろうか。

 そんなラフレシアが三体、ファンガスが三体いる。

 だが、しかし、ファンガスの一体があからさまに異常であり体長が二百センチはあり、傘や柄の色は黒に近い紫、根元というべき箇所に他のファンガスにはない、大きさは体長の三分の一はあり楕円形の袋に似た謎の器官を持つ。


「ほう、どうやら上の階から降りてきた魔物らしいのぉ。

 こんな奥まで来れるとは強いんじゃのぉ。

 じゃが、それもここまでよ!」


 イース以外の骸骨兵が喋り出したファンガスの威容に圧倒された如く後ずさる。

 いや、このファンガス相手に二歩下がっただけで持ちこたえた骸骨兵達は誇っていいだろう。

 イース隊で唯一の性別女であるインプが漏らす。


「卑猥なうえにキモいです」

「ワシの名はマーラモドキ!」


 ぶらんぶらんと揺れながら高々と名乗りを上げた、松茸に似たファンガス。


「主らはここでワシらの子供(胞子)を育てる苗床としてくれるわ!」


 上下に身体を伸ばしたりしながらイース隊に襲い掛かるマーラモドキ率いるラフレシア、ファンガス連合だった。




 ――その後に起こったことはあまり思い出したくありません。

 卑猥で尊大な怪物は口ほどにも無くあっさりとイース隊長の手によって切り刻まれました。

 しかし、奴が戦いの最中に撒き散らした白い不気味な粘液が部屋中のいたるところに飛び散り誰もが生理的に受け付けない地獄の空間を作り出したのです。

 特に女性ばかりで構成されているゴブリン隊に、あの存在自体が十八禁な卑猥生物(なまもの)の成れの果てを見せるのは同性としても避けるべきと判断を下しました。

 イース隊長にそう進言すれば思いの外あっさりと聞き入れられ、対スライム用に準備していた油を用いて全てを灰燼(かいじん)に還したのです。


「報告ご苦労」


 補給の為にゴブリン隊へ伝令兼案内人として飛んで来たインプからこんな報告を受けたデンスだった。


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