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ダンジョン作成記  作者: MS
第一章
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一章第六話

 エレナは上機嫌に薩摩芋とほうれん草を冷蔵庫に仕舞う。

 魔具であるこの冷蔵庫は中の食材を現状に留める力がある。

 説明すると冷蔵庫の中に入れた食材は入れてある限り鮮度がおちないのだ。

 他にも外見からは信じられない容量を誇り、任意で冷やす事も可能という高性能。

 茶葉がなくお茶(紅茶)も用意できないので程好い温度の水に砂糖を溶かした砂糖水しか出す事ができない。

 己の主であり、このダンジョンの支配者たるに相応しい食事や飲み物を用意出来ぬ無能な僕である私を責めぬばかりか暖かい御言葉をかけて頂ける慈悲深き創造者様。

 必ずや尊い方に相応しい食卓を捧げてみせる。

 その前に今日の朝食の準備ですね。 

 大鍋に湯を沸かす、ほうれん草を茹で程好く茹で上がった処で湯を捨てほうれん草を絞り水分をきり、ひと口大に切るとボールで醤油と砂糖を絡め、ほうれん草のおひたしが完成。

 農場部屋の小川で釣った小魚の頭と内臓を取ると鍋に水と一緒に入れて煮だしあくをとると魚を取り出す。

 薩摩芋の皮を剥き、細かく乱切りにし鍋に投入し芋に火が通ったら味噌を入れて溶かし、味噌汁の完成。

 おひたしには胡麻を振りかけたかったし、味噌汁の出汁はいりこか昆布と鰹節で取り出したかった。

 出汁とりに使った魚の身をほぐし骨を取り除き醤油をかける。

 本日の朝食は黒パン、味噌汁、おひたし、魚のほぐし身の四品。 昨日よりは良くなりましたね。




 ほうれん草がとり尽くされた畑に新たな種を蒔き水をかける。

 さつまいもは三日もすればまた収穫できそう。

 にんじんとピーマンは後二日ぐらいすれば、なすは後四日ぐらいでいずれも収穫できそうだね。

 ご主人様とエレナ先輩が育てていた畑の確認を終え一息つく。

 エレナ先輩がシャワーを浴びてる間にほうれん草とさつまいもをキッチンまで運び、農場部屋の作業へ戻って来たんだ。

 エレナ先輩も運ぶの手伝うって言ってくれたけど、洗濯もして貰うし大丈夫ってシャワーに行ってもらったんだよ。

 僕達ホムンクルスは日に最低一度はシャワーを浴びて清潔を保つ事が義務と命じられてるんだね。

 僕は昨夜就寝前に使わせて貰ったんだ。

 エレナ先輩は洗濯の都合もあって朝なんだって。

 鶏小屋から鶏を一匹、小屋外の柵内に放す。


「いっぱい食べて明日も卵をよろしくね?」


 今朝産んだ卵は孵化器に置かれて孵される。

 数日すればひよこが生まれるだろう。

 昨日新たに耕し種蒔きした小麦畑と牧草畑に水を撒く。

 ストレートだと腰まである金髪をツインテールにしていて目が大きく幼い印象を他人ひとに与える。

 瞳は空色で生き生きと輝くが首が細く全体的に華奢な感じを受ける。 綺麗というよりも愛らしい少女。 

 それがホムンクルスのネブラという少女だ。

 如雨露に小川から水を汲むと畑に駆け足。

 本当に嬉しそうに水を撒いている。


「美味しく育ってね」


 農場部屋は凄い、まず耕し種を蒔いたら水をやるだけで作物が育つ。

 普通は肥料等を育成状況にあわせて使ってあげないと質の良い作物は育たない。

 連作障害もなく育成期間も短い。

 農家にすれば天国だよね。



 ダンジョンマスターである彼は鍛練前にイースと話をしていた。


「個々の技量を上げるのを優先してくれ。何か問題はないか?」

「ハイ、モンダイアリマセン」

「他のスケルトン達に不満や要求はあるか?」

「ゴザイマセン」

「そうか。イース、頼りにしている」

「モッタイナイオコトバ」


 骸骨兵達は不平も不満も述べない、それだけの知能がないだけかも知れないが。

 もう少し判断力や思考力が高いなら、農場部屋要員にしたのだが。

 ホムンクルスとスケルトンは今のところ忠実だ。

 しかしホムンクルスは戦闘能力がなく、スケルトンーアンデットーは致命的な弱点がある。

 説明書、カスタム本に書かれてる創作モンスターリストを改めて確認していく。

 創作リストはダンジョンマスターのレベル等で解禁される。

 彼がカスタム本と名付けた本の発見は解禁の代表例だ。

 強力な創作モンスターの解禁はダンジョンマスターレベルの高レベル化が求められる。

 それ故現状彼が創作可能モンスターは種類も少なく、強さも不安が残る魔物ばかりだ。

 知能が低いといっても命令を聞く動く死体ゾンビ骸骨スケルトン、魔法生物の木人形ウッド・ゴーレムはまだ良い。

 昆虫系魔物であり、現状最強クラスの巨大蜘蛛ジャイアント・スパイダーは説明書にすら、命令聞きません、他の創作魔物を襲います、ダンジョンマスターも襲います、と記されてる。

 どんな魔物も使い方次第、組み合わせ等で有効活用するのがダンジョンマスターの腕の見せどころと思うが

 これはない。

 下級の昆虫系や魔獣系は命令無効の魔物が多い。

 流石にダンジョンマスターを襲うと記されるのは巨大蜘蛛だけだが。

 命令無効の魔物は個体能力が高いモノが多いが、元人間(今は種族ダンジョンマスター)として強くても連携出来ない魔物の使い勝手は悪い。

 ダンジョンが育ちポイントに余裕ができれば有効活用も可能だろうが。

 だが彼の初期計画では活用場面は少ないので創作される事はないだろう。

 死なない事を最優先にすると決めた彼は小細工を考えてある。

 己が考えたとはいえ外道だな。

 何度も自問自答した考えがまた頭に浮かぶ。

 すで決断し覚悟を決めた計画だが、彼の中の良心が苛む。

 魔力を使いダンジョンを創っている間は集中して他の事に意識は向かないが、魔力を回復させている時やベッドの中では繰り返し考えてしまう。


「失礼いたします。今よろしいでしょうか」


 技能忍びや魔法は付与していないのに、この娘は時機のよい時に音もなく現れるな。


「エレナか。どうした?」

「昼食の時間となりますが、いかがなさいますか?」

「そうか、食堂に向かうとしよう」


 歩きだすと自分の後ろに付いて歩くエレナの事を考える。

 技能美形は本に書かれてない効果があるのかもな。

 能力値や所持技能を考えると有能すぎる

 悪い事でないのでネブラの技能可愛いの効果も見て実験するか。

 昼食を終えるとそのまま食堂でエレナ、ネブラの三人で農場部屋の生産、消費ペースを確認する会議だ。

 彼は椅子に座り二人は彼の右手に並び立っている。


「さて、ネブラ。どの程度のペースで収穫可能だ?」

「はい、ご主人様。え~と、その、最初から育ててたんじゃないから、間違ってるかもだけど」


 エレナがネブラの発言に眉を上げ何か言おうとするのを視線で制す。

 多分言葉使いやらを注意しようとしたのだろうと思うが

 両手の指を折り数え、言葉を詰まらせたり同じ作物を何度も説明したり十一日以上日数が懸かる作物は『沢山』や『いっぱい』と表現したりと酷い報告だったが懸命さは伝わって来たので許した。

 可愛いし

 これが技能可愛いの効果か、と戦慄が走ったが。


「簡単にまとめると種蒔きからほうれん草とさつまいもは六日で、にんじんとピーマンは八日で、なすは十日で収穫可能になるのだな?」


 もとより大きな眼を更に大きくひらき、口をポカーンと開けコクコクと何度も頷くネブラ。

 びっくりしてます、の見本の様な表情だ。

 苦笑いというか微笑みというか微妙な表情で続きを話す彼をうっとり見詰めるエレナ


「さつまいもは収穫から三日で再収穫が可能で、小麦と牧草は予測が難しい。卵も何時孵るか判らない、この認識で間違いないか?」


「は、はひゅ」


 涙目で両手で口を隠すネブラ。


――噛んだな――


――噛みましたね――


 二人で生暖かな視線でネブラを見守る。

 口を隠したままで真っ赤になり身体を小さくするネブラ。

 暫くして痛みも引いたらしく、何事もなかった様に話しだす。


「はい、間違いないかなって僕は思います」

「そうか、報告ご苦労だったな。引き続き農場を頼むぞ」

「はいっ、頑張るよ。じゃなくて、頑張ります」

「エレナ、報告を」

「はい、承知いたしました。畑一面で八から十品の料理が作成可能です。一人分で考えれば三日程になるかと」

「小麦次第か。報告ご苦労。使用可能な畑は何面だ? ネブラ」

「え、え~と…」

 

 指を折りながら小声で『一つ二つ…』と数えるも折る指がなくなる十になると固まるネブラ。

 無言で見守る二人

 涙目でキョロキョロと周りを見渡して、エレナを見付けるとパアッと表情を輝かせる。

 とエレナに近付き小声で『先輩指を貸してください』と相談しだす。

 困惑気味に彼に視線で指示を仰げば頷く彼。

 優しく小声で『ええ、構わないわよ』『ありがとです、助かるよ』そんな会話の後ネブラの『一つ二つ…』に合わせて両手の指をネブラの目の前で折るエレナ。

 そしてエレナの指も折れなくなると真っ青になり、絶望の表情になる。

 『先輩、ありがとでした』と告げるとポロポロと泣きながら彼の前に戻るネブラ。

 おろおろするエレナ。

 わ、悪い事をしてしまったと表情をひきつらせる彼。


「わ、わきゃりませにゅっ」


 眼をギュッとつぶり俯いてひっく、ひっくとしゃくりあげながら報告する。

 右往左往するエレナ。

 胃に多大なダメージを負いながらも、この状況をどう治め慰めるかと悩む彼。

 懸命に泣き声を我慢するネブラ。


 胃に締め付けられる様な痛みを感じながらも状況を治める為に動きだす。


「エレナ、水を持って来い。ネブラ、大丈夫か?」


 エレナが一礼しキッチンへと下品にならない程度の急ぎ足で向かうのを横目にネブラに話しかける。


「すまなかった。ネブラは悪くないから自分を責めるな」

「ひぐっえぐっごびゅじんじゃまぁばわぶぐぅぎゃれず」


 エレナがネブラにグラスを渡そとするのを手で制し、その手を彼女に差し出す。

 視線はネブラを見詰めているので普通はグラスを渡せと受け取るだろうが、エレナなら理解するだろうと信頼して指示は口にしない。

 彼の手に折り畳まれたハンカチを渡される。


「ほら、顔を上げなさい」


 左手でネブラの額を優しく押して顔を上げさせ涙を拭く。

 落ち着かせようと穏やかに低い声色で話しかけ、エレナもネブラの背を撫でながら声をかける。

 二人の努力の賜物か、ネブラも落ち着き泣き止む。

 恥ずかしいのか真っ赤になり、エレナから渡されたグラスを両手で包み持ちながら水を飲む。

 彼とエレナは微笑みながら視線だけで会話する。


――お疲れ様でした――


――エレナもご苦労様だったな。助かった――


 戦場を力を合わせて生き抜いた戦友の様な絆を感じる二人だった。


「ご主人様、先輩、ごめんなさい」


 ペコリと頭を下げてばつが悪そうに縮こまる、ネブラ。


「気にするな。エレナ、畑の件は二人で調査し報告を」

「畏まりました」

「二人共仕事に戻れ」


 それぞれ一礼するとエレナはキッチンへ、ネブラは農場へと向かって行く。




 つ、疲れた。

 ダンジョンの拡張部分で魔力回復の休憩中だ。

 ただでさえ偉そうな態度を取る演技をしているのに、女の子の涙だ。

 謙遜を美徳とする日本人ですよ中身は。

 まさかあんな大惨事になるなんて予想もしてませんでしたよ。

 エレナをホムンクルスの基本と思った自分のミスですけどね!

 女の子を泣かすつもりはなかった。

 無理やりテンションを上げないと、際限なく落ち込みそうだ。



 創作、カスタム使用ポイント5ポイント(鶏一匹)。

 残り使用ポイント327.5ポイント。

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