一章第五話
ウウゥル大陸北部は険しい山脈で西と東に分断されている。
西北部北端は分断山脈に繋がる山々に大地妖精族が大王国を築いている。
その王国の麓から続く大森林には森妖精族を主とした種族同盟国家を築いてる。
分断山脈から西部、その北部は人間族以外の勢力圏である。
妖精族の滞在場は大陸各地にあるが、この大王国と大森林の同盟国家以外は大きくても町程度の勢力で国家といえる勢力はこの二国だけだ。
大陸の中央には人間族最古の王国であるポース聖王国がある。
盟主王国ポース聖王国と周囲四国家の五ヵ国同盟こそ大陸最強の誉れ高い。
聖王国の歴史は千五百年、同盟は千年近く続いている。
分断山脈から東部には大陸最大の帝国が辛うじて存在する。
分断山脈、聖王国同盟に隣接する大帝国は神殿の政治介入により始まった人間族至上政策により、人間以外の種族を奴隷としたために人間族以外の種族から憎悪され国力の減退を招き、強力な地下迷宮の出現と侵略、有力貴族や豪族による内乱にて崩壊寸前まで追い詰められていた。
逆に繁栄を謳歌している帝国もある。
聖王国同盟より西、ドワーフ大王国と森林大同盟に隣接するスヴィエート帝国。
その大元となった王国は約四百年前に周辺国家を吸収、ドワーフ大王国と同盟を森林大同盟と不可侵条約を結ぶ事に成功。
三百年程前に支配制度を帝政に国名をスヴィエート帝国に改名した。
それからは拡張政策は鳴りを潜め、内政に力を注ぎ周辺国家との貿易で国力を増し単独国家最強に位置付けられる程だ。
スヴィエート帝国、聖王国同盟より南部は様々な小国が微妙なバランスの上で共存している。
ウウゥル大陸の勢力を簡単に説明するとこの様な感じだ。
骸骨兵達の訓練内容が変わる。
骸骨弓兵達は今まで装備していた小剣と小型盾を収めると、弓と矢筒を装備。
骸骨兵達は部屋の端まで移動すると武器と盾を構える。
弓兵達も反対側の端へ。
骸骨兵長のイースだけが中央で弓兵や骸骨兵に指示を飛ばしている。
「イキスギダ!モドレ!」
「ユミヘイハタイキ!ッオマエラハウゴケ!」
「アース、スウ、エースハコウシン!」
指示ができる魔物か
食料事情を考えれば小鬼や犬人の創作は早すぎる。
人造人では問題外
カスタムするのはポイントが
農場部屋の食料生産ペースが解るまですまんが頑張れ、イース。
心中でイースに詫びながら作業の続きに戻る。
「ユミヘイハオクニ!オマエラハウゴクナ!ッユミヘイハウゴケッ!」
イースの涙ぐましい努力を見て居られなくなり、骸骨弓兵の指示を引き受けて指揮を執る。
骸骨兵は弓矢の防御、弓兵は矢を目標にあてる訓練だ。
スケルトンは斬りや刺しに強い。
元々肉も内臓もないので当然だが。
矢を何本受けようが行動に支障はきたさない。
しかしダメージは負うし蓄積で破壊される事もある。
弓兵へと距離を縮めて来る骸骨兵達は盾で防ぎ、武器で矢を払い落としながら迫る。
盾も武器も間にあわないなら鎧で止めながら。
骸骨兵達は誰かを守りながらの接敵の訓練も兼ねていた。
この世界の魔法は必中でない。
例えば『火球』の魔法を使う時は、魔法を成功させ手に火球を発現させ投げつける。
だから投げつけに失敗したり、避けられたり、盾で防がれたりする。
訓練が終わり骸骨兵達が矢の回収をしている横で彼は遠い目をしていた。
技能投げを付与し忘れていて、ダンジョンマスターのカスタムは時間制限でまだできない。
モンスターのカスタムは創作して召喚するまでの間だけで、召喚した後技能を修得するには訓練や学習するしかない。
簡単に述べればダンジョンマスターの彼の戦闘力は現状零に近い。
骸骨兵達に反乱を起こされれば簡単に命を散らすだろう。
胃が痛くなり、背中に服が冷や汗で貼り付く。 意識して表情には出さない様にしている。
緊張で喉がカラカラに渇く。
気付かぬ間に火薬庫で火遊びをしていた事に唐突に気付かされた気分だ。
「失礼いたします。今よろしいでしょうか?」
心臓が口から飛び出るかと思うぐらい驚愕する。
思考に没頭するあまりエレナに気付かなかった様だ。
緊張や驚愕で声が出せなく、頷く事で返事にする。
「水をお持ちしました」
恭しく盆に乗せられた木製のグラスを差し出される。
奪いとって一気に飲み干したくなる気持ちを抑え
「すまんな」
「勿体ない御言葉です」
声が掠れてしまったが礼を述べ水を飲む。
意識してゆっくりと飲み干す。
すっと横から皮袋が差し出されグラスに水が注がれる。
ちらっとエレナの表情を覗き見ると微かな微笑みを浮かべているだけだった。
水を飲んだ後、昼食を摂る(エレナは元々昼食の時間だと報せに来ていた)。
エレナに不満や必要(一人で大変なら創作する事も伝える)なモノはないか尋ねると農場用員と種が有ればと申し訳なさげに申請されたので、ホムンクルス創作と種の購入を決める。
「農作業を主に任せるなら男の方が良いか?」
「はい、よいと思われます。……ところで創造者様、ひとつ確認させていただきたいことがあるのですが」
「なんだ?」
「私の思い違いかもしれませんが、ホムンクルスに性別による性能差はなかったかと」
「いや、間違いない。性能差はないな」
「でしたら女性でもよいかと。その方が何かとやりやすいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「それもそうだな。エレナの手伝いやらもあるしな」
「恐れいります」
執務室にて農場で使用する種を購入する。
現在農場で生産可能な作物は秋物だけだ。
購入画面の様に施設管理の項目で確認している。
そして執務室にて購入できる種はこの世界特有種でなく、日本というか以前の世界の物である。 作業員が増えるなら家畜の飼育も可能か?
ひとまず鶏を一匹創作するか?
エレナの意見を聞こう、今は寝室の掃除をしてる時間だった……
「お呼びでしょうか」
思わず奇声を発声しかけるが気合いでのみ込む。
机の前で背筋を伸ばしスカートを摘まみ上げているエレナを見詰める。
今の発言疑問係じゃなかったよね?
何時から居たの?
てかドアが開いたり閉じたりした音聞いてないんだけど?
後何故頬を赤らめる?
「エレナ。自分は独り言を喋っていたか?」
「いいえ、おっしゃられておりません」
「そうか。……作業員が増えるなら家畜の飼育も可能か?」
「はい、可能かと思われます」
多分また思考に没頭して気付かなかったのだろう、と自分を誤魔化す。
「御前失礼いたします」
音もなく寝室へと消えたエレナに
流石メイドさんドアの開け閉めは無音か。
現実逃避気味な彼だった。
何とか現実に戻って来た彼は宝石椅子に座っていた。
召喚魔法陣が出現する手前にエレナがシーツを持って待機していた。
足元には新たなホムンクルス用の着替え一式を用意して籠に入れてある。
すでにモンスター創作とカスタム操作も終了させており、後は召喚するだけだ。
視線でエレナに確認をとると頷いてシーツを広げ視線を遮る。
エレナの時の失敗から予め予防策は調えている。
シーツで遮る意味を説明する様に頼んであるので大丈夫だと信じている。
信じずに裏切られるより、信じて裏切られよう。
裏切られるのは己が責任だからエレナやイース、これから創作される存在達の責任じゃない。
当然裏切られぬ様に努力と注意は続けるが。
「モンスター召喚」
シーツ越しに魔方陣の閃光が見えた後、エレナが小声でシーツ向こうと喋っている。
静寂の中ゴソゴソと衣擦れの音だけが響く。
念の為と目を瞑ったのもあり、やけに大きく聞こえていた音が止むと目を開く。
機微を伺っていたエレナが目を開くと同時にシーツを視線から除くと、跪き頭を伏せる。
エレナの少し後ろに金髪の少女が土下座していた。
何故土下座?
との疑問を押し殺し
「頭を上げよ」
エレナは優雅に、新たなるホムンクルスーネブラはピョンと頭を上げる。
名前:ネブラ
種族:ホムンクルス
性別:女
技能:可愛い、農業
魔法:
能力値
ST:8
DX:10
I:10
HT:9
HP:4
MP:2
モンスター創作、カスタム使用ポイント15ポイント。
残り使用可能ポイント332.5ポイント。