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ダンジョン作成記  作者: MS
第三章
78/102

おまけ 地下迷宮竜宮の姫君

 三月十一日、19時に改訂した改訂版と差し替えさせて頂きました。

 暗く、蒼い海中を泳ぐ影がある。体長四メートル程の青鮫(ブルー・シャーク)人間族(ヒューマン)男性の上半身に魚の下半身を持つ人魚(マーマン)(つか)まり群れをなしていた。

 本来ならば捕食する側とされる側(食うか食われるか)の関係である両者が協力して泳いでいるのは、祖先が同じダンジョンマスターに創作(うみだ)された魔物(モンスター)であり、幼少時より共に過ごした仲間だからだ。

 青鮫が三頭に三股槍(トライデント)を持つマーマンが五名、彼らはウウゥル大陸の東南部にある海岸段丘(かいがんだんきゅう)に出現している、地下迷宮(ダンジョン)からの警邏(パトロール)隊の一つである。

 人間族勢力による、この地域の開拓(かいたく)は、海からは激しい波や海流、暗礁(あんしょう)などの自然の驚異(きょうい)、海生の魔物が侵入を拒み。

 地上からはフルゥスターリ王国などが徐々に切り開いていたが、この海岸線まで開拓するには何百年単位の時が必要だと予想された。

 しかし、地下迷宮を襲う脅威は他にもあり、二十四時間体制で警戒にあたっているのだ。

 地下迷宮は前触れもなく唐突に出現して魔物を吐き出し、人や町を襲い平穏や命などを(うば)う。人間族、森妖精族(エルフ)大地妖精族(ドワーフ)などの亞人(あじん)たちと、敵対する地下迷宮は、発見されれば即攻略されるのは当然の道理だ。

 だが、魔物の巣であり砦でもある地下迷宮の攻略は命懸けであり、統治者や迷宮付近に住む者などの関係者以外には、忌避(きひ)されていた。

 そのために、ある時期までは頭痛と憎悪の対象でしかなかった地下迷宮の出現だったが、迷宮内でのみ採取(さいしゅ)可能な鉱物や動植物の発見、何よりも最深部にある魔石と呼ばれるようになった宝石の利用方法が解明されてから状況は一変する。

 地下迷宮から産出される物が、高値で取り引きされるようになれば、一攫千金(いっかくせんきん)を夢見て、命を掛ける者たちも多く現れだした。

 特に魔石は例え最小の物でも、売れば一生遊んで暮らせるだけの値がついた。

 魔石の奪取が地下迷宮攻略の鍵であり、それを失った迷宮は崩壊を迎える。

 魔物だけ狩り尽くし、採取に専念できる環境(かんきょう)をととのえた方が莫大な利益を得れるのでないか。

 そう考えられていた時期もあったが、迷宮が貴重ならともかく、消滅させても場所や内容は変わったりするが、かなりの頻度で発生するうえに、魔物を全滅させても、次の日に移れば――太陽が昇れば――何処からともなく再出現したり、魔石に若返りを始めとした様々な力が確認された事から、採取専用の地下迷宮確保の考えは(すた)れていった。


※ ※ ※ ※ ※


 その部屋は柔らかい明かりがともされた寝室だった。部屋の中央に幅の広い天蓋(てんがい)つきのベッドが置かれている。

 床には美しい羊毛で編まれた毛長の絨毯(じゅうたん)が敷き詰められ、壁紙は薄いピンク色で統一されており、全体的に優しい印象を与えていた。

 化粧台(ドレッサー)衣装棚(いるいだな)などの家具、花瓶(かびん)()けられた花、可愛らしいヌイグルミをはじめとした小物等々と年頃の少女の寝室かと想像させられる。

 出入口は両開きの扉がベッドの足元の方向の壁に、同じくベッドの左手にもドアがあった。

 扉もドアも材質といい、彫り施されている彫刻も、格調高くノブも本物の金作りだ。

 部屋の広さはかなりの物で十八畳はあり、置かれている家具の質などを考えれば、使用者が膨大な資産家だろうと思われた。

 両開きの扉から、ノック音が三度部屋に(ひび)くと「失礼します」の言葉と一緒に開き、五人程つらなって入ってくる。

 先導者こそ人間の女性に見えるが、他の四名は身長の平均が百十センチと小柄で、二足歩行する犬といった風貌だ。

 その四人は皆、黒地のドレスに白いエプロン姿、頭にも白いカチューシャといかにもなメイド服を着ており、その身分が従者だと表していた。

 犬人(コボルト)と呼ばれる魔物の一種である。

 魔物の中でも最下層の強さしか持たないコボルトは、人間に捕らえられて繁殖させられ、物心つく前から徹底的に服従を刷り込まされ、奴隷として売買される事もある種族だ。

 もっともそんな奴隷コボルトの大半は、危険な労働で潰されたり、傭兵や兵の教導に殺すべき獲物にあてられたりする。

 見栄(みば)え、知能、服従心……すべてが最上級のコボルトだけが、貴人(きじん)側働(そばはたら)きが許されていた。


「サクラ様、朝でございます」


 見た者に深淵の闇を思い起こさせる、漆黒の輝きを放つ黒髪を(なび)かせた先導者の女性だけが寝台に近付き、透ける様に薄いのに中を覗かせない、天蓋から下ろされたカーテンを割って、眠る少女を揺さぶり起こす。


「……ふにゃっ、おはよぅございますぅ」

「はい、おはようございます。さ、DM(ダンジョンマスター)が起きられましたよ」


 寝起きで頭が回っていないサクラを、五人がかりでドアを抜けた先にある、大理石で造られた豪華な浴室で磨きあげる。

 といっても、自前の毛皮を持つコボルトは、濡れてしまうと乾くのに時間が掛かるので、着脱の手伝いのみ。

 同じ黒髪と黒瞳をした女性とサクラだが、美女は西洋風の顔付きの迫力がある美女で、サクラは東洋風というべきか、はっきりいえば日本人的な美少女である。


「な、ナイアさん、そこは、自分であらいっひゃん、ら、らめぇっ!?」

「大丈夫です、サクラ様。大事な場所ですので繊細(せんさい)ながら大胆(だいたん)に優しいく激しく徹底的で念入りに洗いますので」


 脱衣室で待つ四人のコボルトは、浴室内での騒ぎも、毎朝の恒例行事と慌てる事もなく静かに待機するのだった。


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