一章第四話
太陽が木々の上へと顔を出し畑に日光を浴びせだす。
広大な農地であるが使用されてるのは極一部だけである。
丸太小屋のドアが開き美女が姿を現す。
美しい黒髪をポニーテールにし、メイド服を着た彼女の手には如雨露が握られていた。
木々に囲まれた農場に見えるがダンジョン、地下迷宮の一室である。
生産系に分類される部屋は名が現す様に生産の為の部屋だ。
この部屋では農作物の生産、家畜の飼育。
流れる小川では魚を捕る事も可能だ。
美女、エレナは小川から如雨露に水を汲むと耕し種を蒔き芽吹き、ぐんぐんと育ってきた農作物に水を撒いていく。
薩摩芋とホウレン草はもうすぐ収穫できそう
人参とピーマンはもうちょっと
茄子はまだかかりそうね。
水が入った如雨露は結構な重みで、意外と重労働なのだが彼女の表情は明るい。
足取りは如雨露の重みでふらふらだが。
魔法生物ホムンクルスである彼女に食事は必要ない
少量の水分と魔力があれば活動可能だ
自分には必要ない作物の世話をこんなにも楽しげに、嬉しげにできるのも創造者様の事を思えばこそ
彼女も努力はしているのだか、食材が三種だけではバリエーションはどうしても少なくなる。
創造者様は毎回食事のたびに感謝を伝えてくださる。
その御慈悲を授かる度にもっと豊かな食卓を、と思うのだ。
水やりを終えると丸太小屋に戻り、小屋内にある農具置場に如雨露を仕舞うと創造者様から下げ渡された籠から着替え一式を抱え持つと小屋から出、丸太小屋から出て右手の木にある扉から出て行く。
扉から出ると石畳で作られた廊下へ出る。
高さは三メートル程で先程の部屋と比べると圧迫感があるが彼女は気にならない様子で歩いて行く。
シャワーで輝きを増した彼女は二人分の洗濯物を洗濯籠に入れ洗濯場へと向かっていた。
浴槽へのドア、キッチン、洗濯場と並ぶ様な配置であり浴槽から洗濯場までは一度テーブルがある広間まで行ってから、洗濯場へ向かわなくてはならない。
洗濯場へとたどりつくと早速洗濯にとりかかる。
魔具である洗濯機は二層式で洗濯層と脱水層に別れている。
エレナの魔力量では洗濯機の使用は無理だが、あらかじめ創造者様が魔力をチャージ為されているので彼女でも使うことができる。
創造者様の服だけ洗濯機に入れ水洗いを開始。
執務室側のドアからノックし創造者様に起床を伺うと、洗濯物を脱水しながら自分の服も水洗。
それから食事の準備をし――干し肉のスープと茹でた芋と黒パン―ー創造者様がお越しになられるまで調理道具を洗ったり、洗濯物をしたりしながらお待ちする。
創造者様がお越しに為されたら食事でエレナは背後に控え給仕に徹し食事を終えられたのを確認したら本日の予定を伺う。
創造者様を見送った後洗濯物や洗い物を片付けて行く。
これが、ここ数日で定まってきた彼女の朝の日程である。
目覚まし代わりのノック音で目覚めるとエレナに感謝の言葉を伝えて起床。
昼夜が判らない地下迷宮で狂っていた感覚も修正できてきた。
農場部屋がウウゥル大陸の時間帯と同調しているならば、だが。
浴槽部屋で顔を洗い歯を磨き等々済ませると寝室へ戻り、執務室へ続くドア近くに立て掛けて置いた両手棍を手に取ると執務室へ。
そのまま仮称王座の間、正式名称ダンジョンマスター室の扉先に創った部屋へと向かう。
扉を出ると廊下が真っ直ぐと左へと別れている。
天井や壁はでこぼこしているが床は滑らかで水平になっていた。
天井や壁も修正が終われば左側へ続く廊下には隠し扉を設置する予定だ。
この先は農場部屋と仮称倉庫――正式名応接間――に続くため非戦闘員であるエレナの安全を考えてだ。
それもポイントが稼げる様になってからだが。
廊下を真っ直ぐに進むと大部屋に繋がっている。
ドアや扉はない、設置するにはポイントが要るので後回しにしてある。
大部屋は天然の洞窟を模範して創っていて態と四角に創らず床のでこぼこも戦闘に支障がない程度に残し、天井の高さもなるべく不自然にならない様微妙に変えていた。
「オハヨウゴザイマス、主ドノ」
片膝をつき頭を下げる骨達。
創作モンスターの骸骨兵達だ。
骸骨兵
アンデッド系モンスター、元来は肉がすべて腐れ落ちた死体に死霊魔法を掛ける事でポイント消費なしで作れる。
正式名はスケルトンだが、カスタム処置したスケルトンを骸骨兵と名付けている。
アンデッドで在るために食料が必要ない事、知能が低く裏切りを考え難い事等にて創作。
本来なら喋る事など無理だが、一体だけカスタムにより可能な存在が在る。
「出迎え、ご苦労」
片手を払い、行動を促す。
「訓練ヲ、再開シロ」
喋る骸骨兵も後ろの骸骨兵達も立ち上がる、後部の骸骨兵達は各々の武器や盾を構えると訓練を再開しだす。
「報告を聞こう」
「ハイ、訓練ハ順調ダト思ワレマスガ――」
闇が宿り奥まで覗けない眼窟に視線を向け話に耳を傾ける。
「――指示ヲ出ス者ヲ増ヤサネバ、実戦ハ厳シイカト」
「そうだな、考えておく」
裏切る心配はないが知能が低いので判断力や応用力に欠けている骸骨兵。
「イース、何体までなら使える?」
喋る骸骨兵――骸骨兵長イースは少し考えて答える。
「三体、限界ハ五体カト」
「参考になった。訓練に戻れ」
「ハッ、失礼シマス」
イースが訓練に戻るのを横目に自分の鍛練を開始する。
両手棍を構え半身ー肩幅ぐらいに片足を前にだし、腰を落とす。
突き、薙ぎ、払いの三動作をひたすら繰り返す。
骸骨兵の槍使いの動きの見よう見まねだが。
技能は使えば使うほど熟練度が上がる。
訓練より実戦の方が上がり易いらしいが、だからと言って訓練が無駄になる訳でもない。
睡眠も休息も必要なく、種族固定技能再生(小)もあり傷付いても再生するので実戦式の訓練を実施させている。
裏切りは考え難い骸骨兵達だか知能を高めた骸骨兵長は可能性があるので日に一度は自らも訓練に参加し、様子をうかがっていた。
程好く汗を流した処で終了し、朝食を摂りに仮称食堂――正式名称も食堂だった――に向かう。
食堂では席に着けばエレナの手で料理が配膳される。
食事中もグラスの水が少なくなれば注がれ、スープが空になれば自分に伺いたて新たなスープを用意されたりと上げ膳据え膳だ。
時々思考を読まれてるのではと疑ってしまうが。
何も言ってないし視線や態度で指示もしてないのに、まだ水が欲しい時は注がれ要らない時は注がれなかったりと。
概念としては理解できる、優秀な使用人は主に一々指示されなくても主の望む事ができると。
だが彼女はまだ創られてから五日しかたってないのだ。
偶然だろう、多分、おそらく。
食後に今日の打ち合わせしてダンジョン創作に繰り出して行く。
農場部屋を創作してからの五日でダンジョンは少し大きくなった。
応接間の扉から続く廊下は石畳で創られ、でこぼこで歩き難かった床も水平に補修され真っ直ぐに歩いて行けば左側に農場部屋への扉が見える。
そのまま進めば右へ直角に曲がり、もう暫く歩くとダンジョンマスター室の扉から繋がる廊下に合流。
高さは変わらないが幅が四メートはあり大部屋まで八メートル程の長さだ。
そして大部屋になる。
予定だと大部屋に隣接する小部屋を創る積もりだ。
執務室や宝石椅子に戻る時間も惜しいので大部屋で骸骨兵達を眺めながら休息、魔力を回復させる。
槍と盾を装備した骸骨兵と剣と盾を装備した骸骨兵が打ち合っていた。
骸骨兵は個々の武具の他、ヘビー・レザーアーマーを支給し装備させてある。
レザー・アーマー(皮鎧)を特殊な液体に浸かせたりし、硬くした物だ。
金属製鎧程の防御力はないが、音が出にくく軽いため長時間装備してても体力の消費が少なくすむ。
兵士や探索者の多くが愛用している鎧だ。
ニ体の戦いは素人目でも巧みだと感じさせる。
剣を盾受け止め、槍の突きをかわし。
剣の切りつけを鎧表面で受け流し盾を使った体当たりがあれば槍の一撃を剣で弾き返す。
カスタムで技能を付与したとはいえ、必要ポイントが20ポイントと低めだとは思えない、この戦闘を見てるだけなら。
そう骸骨兵――アンデット――達には解りやすい弱点がある。
聖属性にとことん弱いのだ。
駆け出しの僧侶の神聖魔法でも危険な程に。
槍使いの骸骨兵はアース。
スケルトンとして最初に創作した個体だ。
名前:アース
種族:スケルトン
性別:男
技能:再生(小)、弱点属性(聖)、槍、槍投げ、盾
魔法:
能力値
ST:9
DX:12
I:8
HT:10
HP:26
MP:8
創作、カスタム消費ポイント20ポイント。
剣使いはスウだな。
名前:スウ
種族:スケルトン
性別:男
技能:再生(小)、弱点属性(聖)、剣、盾
魔法:
能力値
ST:11
DX:12
I:8
HT:10
HP:10
MP:8
創作、カスタム消費ポイント22ポイント。
中央付近でイースと戦っている槍使いはエースか。
名前:イース
種族:スケルトン
性別:男
技能:再生(小)、弱点属性(聖)、剣、盾
魔法:
能力値
ST:11
DX:12
I:11
HT:10
HP:34
MP:8
創作、カスタム消費ポイント50ポイント。
名前:エース
種族:スケルトン
性別:男
技能:再生(小)、弱点属性(聖)、槍、槍投げ、盾
魔法:
能力値
ST:9
DX:12
I:8
HT:10
HP:26
MP:8
創作、カスタム消費ポイント20ポイント。
四体で戦っているのは骸骨弓兵達だな。
四体共通ステータス
名前:オース、カース、キース、スーク
種族:スケルトン
性別:男
技能:再生(小)、弱点属性(聖)、小剣、小型盾、弓矢、弩
魔法:
能力値
ST:9
DX:12
I:8
HT:10
HP:10
MP:8
創作、カスタム消費ポイント20ポイント。
スケルトン創作、カスタム合計消費ポイント192ポイント。残り創作ポイント347.5ポイント