番外編 ゴブリンのハブ
おっす、俺はハブ。
え〜と、そうそう。イダイなるソウゾウシュであるネームレスの親分が率いるゴブリン族いちの良い男なんだぜ!
イダイなるソウゾウシュってどういう意味だって? 知らん、ランの姉さんが誰かに聞かれたらイダイなるソウゾウシュであるネームレス様のって答えとけだって。
本当はもちっと長々とした物言いだったけと覚えてねぇんだ、悪いな!
「偉大なる創造主であらせられるネームレス様麾下、ゴブリンのハブ、だ、覚えろ」
「ランの姉さん! 今日もすこぶるいい女っぶりっすね! 俺の名前を呼んでくれるって愛の告白っすか!?」
燃える様な瞳に人間の頭なんて一口でかじり食えそうな程に裂けた口と鋭い牙。岩石の様な肌に厚い胸板、体躯も立派でゴブリン部族最強と良い女過ぎて惚れ惚れしちゃうね!
「……まだ任務中、働け」
あぁラン姉さん、その心底蔑む冷たい眼差しが最高っす! ツンデレっすね! いかにも時間の無駄だったって表情もそそるっす! 無言で離れていくのは放置プレイっすね! どんなプレイでもバッチ来いっす! むしろご褒美っす!
え? 今何してるかって?
戦利品を運んでいるのだ。親分の命令で間抜けな人間族の群れを狩って手に入れたのさ。ぶっちゃけ人間用の武具なんて俺らも骸骨兵も装備出来ない上に重いから何で持ち帰るのかわかんねぇけどな!
いやぁ〜、狩りでの俺の勇姿を見せたかったね! いの一番に飛び出して、槍を手にビューでドガンでゲシッてやったんだぜ!
「増長しとるな、これはネームレス様に報告して引き締めを上申せねば」
「あ! デンスの兄貴、チース。どうかされたんすかい?」
「何でもないぞ」
俺も成長したな。普段なら影すら掴めないデンスの兄貴に気付けるなんて。
でも兄貴、俺の尻は貸しませんから! そ、そんな冷たい視線で誘惑してもドキドキなんかしないんだからね!?
※ ※ ※ ※ ※
芋うまうま、焼いてホクホク、煮てアマアマ。ゴブリンの主食は芋なのだ。以前にランの姉さんとヤン姉さん、マリ姉さんと俺が作ったカンイキョテンで飯食ってる。
お、馬肉も焼けたな、うまそうな匂いだ、馬だけに!
「……何、ハブのあのどや顔」
「ほっておきなさい、何時もの事」
おや? 少し離れた場所で野性的に生で馬肉を食べてた新入りの女達が俺を見ながら内緒話してるな。
ニュフフッ、あれだな、モテる男は大変なんだな。ムフフフ、巣穴に帰ったら子作りせねばならないからな!
「キモッ、ないない。ハブの子種で孕むなんてないわー」
「そう? 男は馬鹿なぐらいが可愛くない?」
「あんた趣味悪すぎよ。あの抜けた血が子供に移ったらどうすんのよ?」
「肉の壁として使いますが何か?」
今まで親分から駄目だって言われてたけど、今回の狩り(襲撃)で生き残れたら子作りしても良いよって親分が言ってた!
でも悪いな! 俺の初めてはラン姉さんに捧げるんだ!
「まぁ今いる男としたくないなら、新しい男を用意するって親分言ってたから。無理に選ばなくて良いでしょ」
「でも、その男が使えるか解らないでしょ? なら今日の狩りで獲物を倒して生き延びた実績があるあの二人から選ぶべきよ」
ディギンの若造に向ける視線が冷たいなぁ。いや、俺のような男前なゴブリンと比べたらかわいそうだぜ!
「いや、ハブさん。あれはどう見てもあなたへの視線かと……」
ん? ディギン、そんな口の中でゴニョゴニョ言っても聞こえないぞ?
「ハブさんはフジャン姉さんはどう思います?」
どうしたディギン、急に大声出して。まるで話題を変える様だな? まぁいいけどな。ディギンはフジャンの姉さんが好みなのか?
確かに綺麗だとは思うが、胸板もないし、肌も白いし女としては魅力的か?
おぉそうか! ディギンはペドか! 氏ね! ほらこの縄貸してやるから。
「じゃちょっと吊ってきますって、悪質なデマを流さんといてください!」
いや、フジャン姉さんも大人だから問題ないのか? 合法ペドですね、わかりません!
「嘘!? ディギンはペドな上に異種族好きの変態だったなんて」
「えー、私狙ってたのにぃ。二重で変態だったなんて幻滅ぅ」
「や、フジャン様も外見はああだけどゴブリンなんだから良いんじゃ?」
かわいそうに、女どもからの視線がますます冷たくなったぞ。はっ!? これが狙いか、やるなディギン!
「ハブさんと一緒にせんでください! 自分はいたってノーマルです! 好みは肉付き(筋肉)が良くて強い女性ですから!」
てめぇディギン! やっぱりラン姉さん狙いか! 渡さんぞ! 素手で勝負したら不利だから一緒にラン姉さんの所にいって選んで貰うぞ! グワッハハッ勝負にならんか!?
※ ※ ※ ※ ※
くぅラン姉さんのツンデレを甘く見ていた。ね、姉さん、照れ隠しでこんなにボコボコにすると俺にはご褒美ですが、ディギン死んじゃうから! てか、生きてるかディギン?
「な、なん、とか」
しかし流石はラン姉さん。骨を折ったりして後々に響く怪我をさせずに痛みだけは確実に与えるだなんて。惚れ直しちゃったね!
「ハブさんは、頑丈、すねぇ」
ばきゃろう! 童貞捨てるまで死ねるかって意識を保て! つうか寧ろご褒美だろが、女王様的な!
「自分、ノーマルっす」
それで立派なゴブリン男子が勤まると思っているのか? 俺達男に選択権も拒否権もないんだぞ
「ハブさん?」
女が望んだらどんなプレイでもこなさなきゃならねぇんだよ。俺達はなぁ。
「もしかして、今までの態度は……」
我を押し通したければ強くなれ。我等が主君たるネームレス様はその環境を整えてくださっている。
「……」
食糧を求め、集めるだけで追われる毎日ではなく。反乱を恐れて武具を与えられない事もなく。訓練に費やす時間に技を学べる師すら用意されている。
「……はい」
魔物にとって弱い事は悪で強い事が善だ。ネームレス様の慈悲と恩義を心に刻め。強くなる事を許された慈悲と、その為に整えられた環境の恩を。
「はい!」
怠けず弛まず揺るがずにひたすら高みへと昇るぞ。
「ついていきます、ハブの兄貴!」
良い返事だ、ディギン。だからな
「はい!」
ラン姉さんは俺に譲れ! あれだ何なら土下座して足の裏舐めるぞ!
「うぎゃ、てか、舐めんでください!?」
俺はプライドを捨てるぞ! ディギン!
「捨てんでください!」
ラン姉さんは俺んじゃあぁあぁぁあ!?