番外編エレナ
ホムンクルスのエレナは己を創作して頂いた創造者様の前に跪き、顔を伏せていた。
「しばらくそのままで待て」
「はい、創造者様」
創造者様がランタンを自ら持たれてゆっくりと離れて行かれる。
光源がなくなった為、一寸先も見透せない闇の中でエレナは歓喜に包まれていた。
何よりも尊い創造者様に創られたのだ、狂おしい程に望まれて!
普通はそんな事は伝わらないのだが、彼女の外装に凝りに凝ったためか?
創造者様の御命令がなかったら、床をゴロゴロと転がり回り、足をバタバタさせて全身を使って、この歓喜を現していた。
伏せている顔には何の表情も出ていないが。
それは胸内から溢れだしそうな歓喜を抑えこんでいるためだ。
それに今は御命令がある、全身全霊を賭けて遂行する。
【そのままで待て】
髪の毛一本も動かさず、瞬きもしないで命令を守っていた。
創造者様が御戻りになられ光が辺りを照らす。
御自ら私の傍までおいでになる。
「頭を上げよ」
「はい、創造者様」
伏せていた顔を上げ、御尊顔を拝見する。
深い慈悲を浮かべた瞳、闇をも凌ぐ漆黒の髪。
このお方が私の創造者様。
「服を着る様に」
「畏まりました」
創造者様から服や下着、靴等を下げ渡される。
賤しい僕たるこの身に手ずからに与えて頂けた!
身に余る光栄に胸が高鳴り幸福感に溢れる。
着る様に御命令為されたので、その意味を考える。
創造者様を御待たせする訳にはいかないので、瞬間で浮かんだ考えに飛び付いてしまった。
着る過程をお楽しみになられるのだ、と
爪先から髪の毛一本まで総て創造者様の物。
鑑賞為されるのなら喜んで望まれる姿勢になります。
そうならば淡々と着替えるのも嬉々と着替えるのも興醒めだろう、ならば
恥ずかしげに着替えるのが正解
どれぐらい時間をかけるべきか?
創造者様の反応で調整しましょう、と着替え始めたのだが創造者様が直ぐ様背中を向けられたので、失敗してしまったと目の前が暗くなる
期待を裏切ってしまった。
短絡的過ぎたとの後悔に苛まれる。
これ以上の不興を与えぬ様に急いで服を身に付けていく。
着替え終えるとすぐさま跪き頭を伏せる。
「御待たせしました」
「立て」
急いで立ち上がる。
先程の失敗で思わず創造者様を伺ってしまう。
どうか御許しを、と。
創造者様は私を暫く観察されると。
「付いて来るように」
「畏まりました」
創造者様は何事か深くお考えられながら進まれる。
従者の分を守り付いて行く。
主の思考を遮るなど、許されぬ事だがすがり付き許しを請いたい。
だが、そんな事をすれば不興を買うは必至。
今は御慈悲を祈るしかない。
どうか汚名返上の機会を、と。
新たな部屋で椅子にお座りに為られたので、跪こうとするが不要と御命令がありドア横に控える。
無言の空間の中、先程の失敗と弁明が頭の中で何度も繰り返される。
「近くへ」
「畏まりました」
私の処遇を御決めになされたのだろう。
背筋を伸ばし綺麗に見える様に歩く。
後三歩程の距離まで近寄るとスカートの両端を摘まみ、軽く持ち上げながら腰を曲げ頭を深々と下げ、膝も深く曲げる。
「お呼びでしょうか」
創造者様に創られた存在として見苦しい最後だけは避けましょう。
そんな覚悟を持って創造者様の前に立つ。