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ダンジョン作成記  作者: MS
第二章
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二章第二十一話

 地下迷宮自然洞窟偽装部大部屋にて、新たに創作された小鬼(ゴブリン)七体は骸骨兵長イースにより扱かれている。

 まずはイースが一対一でゴブリンと対戦。残りの六体はその対戦を観察する。


「槍ノリーチヲ生カセ」


 だがゴブリン達はイースの剣技の前に一分も持たず、次々と立ち向かい打ちのめされた。


「防イデイルダケデハ勝テヌゾ」


 無論イースも手加減はしている、打ちのめす時は剣でなく盾で殴り蹴り飛ばす


「正面カラ突ッ込ムダケデハ死ヌゾ」


 欠点を指摘し改善策を提示。

 後遺症が残らない様に、しかし苦痛は確りと感じる部位に攻撃を当て。

 最も殺気に限りなく近いイースから発せられる闘気、恐怖や怪我からくる苦痛でゴブリン達はそういった気遣いやアドバイスが頭に入っている様子はないが。

 イース以外の骸骨兵は自己鍛練に励み、弓兵達は弓術を磨く。特に機械式弓クロスボウの有効射程距離を伸ばし、命中率を上げる為に麦藁で作られた案山子を的に狙撃の訓練を重ねている。

 訓練用の矢だが、十二本で仮想銀貨三十枚もの価値があり、財政的な負担が非常に厳しい訓練だった。

 ラン達先任組が疲労回復後に合流してからは、ハブ、マリ、ヤンの下に二体ずつ振り分けられ、骸骨兵対ゴブリン三体組での対戦となる。

 すでに死んでいる骸骨兵と違い、生きているゴブリンの損失を可能な限り防ぐためにネームレスが何かの知識から引っ張りだした戦術だ。

 魔法型のゴブリンは魔法発動の訓練を独り寂しく励んでいたが。

 ランはネームレスの指示でデンス配下の枝悪魔(インプ)一体を伴って地下迷宮周辺の地形調査、地図作成、そしてインプの連続飛行可能な距離や高速飛行可能な距離と時間、長距離巡航時の距離と時間の調査を兼ねて外に出ている。

 夜間は調査を行い昼間に休み、ランが休んでいる間にインプが食料の補給と交代の為に地下迷宮に帰還。

 食糧を持たされた新たなインプはランの元へと向かう。

 報告、連絡の訓練や荷重時の飛行時間の調査も平行して行われる予定である。

 イース監督下で骸骨兵とゴブリン組の対戦が三組、激しい戦闘を繰り広げていた。

 アース、エース、シーザーの三体は(スピア)から槍頭を外し、柄だけのスピアと盾だけだ。

 ゴブリン達は九体の内、八体はスピアに盾、革鎧で武装を固めていた。

 新たに創作されはゴブリンの一体は、反逆し処分された中鬼(ホブゴブリン)オクルスのコンセプトを継いだ格闘型である。

 今回創作されたゴブリンの中で唯一の雄である。

 ちなみにゴブリンの雄は格闘型のディギンとハブの二体のみ。

 武装面の弱体化によるハンデ、一対三と圧倒的にゴブリン側優勢の戦況。

 この状態で骸骨兵とゴブリンはやっと互角に戦えていた。

 創作されたばかりであり、カスタムで与えられている技能(スキル)が個人戦を念頭に置いたもので、数の有利を活かせていない。

 疲労もあり、集中力等で訓練時間が短くなるゴブリンと違い、疲労も集中力の低下もない骸骨兵の練度が隔絶している。

 イースにボコボコにされた為に、ゴブリンらは冷静に欠けていた。

 これらが重なり実戦経験のあるハブ達が、何とかまとめ様と奮起するも、絶対的なコミュニケーション不足でままならない。

 下級不死者アンデット特有の感情の欠如が、焦りや恐怖からくる判断力の低下がない骸骨兵に合理的な戦いを採らせている事等から、互角の戦いを繰り広げていた。

 スピア系は本来、中距離戦用の武器だが、柄を持つ位置や運用で接近戦や投げる事で飛び道具としても運用可能な万能武器だ。

 それでもやはり超接近戦の格闘とは相性が悪く、両手に蹴りと手数の多さ、同チームゴブリン二体のスピアによる援護で、三組中唯一骸骨兵を押していた。

 というか三対一で互角に戦える骸骨兵が異常なだけだが。

 ランチェスターの法則を持ち出さなくても、単純に考えて腕二本と腕六本。

 骸骨兵が一度攻撃するのに、ゴブリン側は三度攻撃可能。

 リーチ差や練度差等を考慮しても、骸骨兵は本来手も足も出せずに防戦一方になるのが普通なのだ。


 ゴブリンが正三角形を作る様に骸骨兵を囲む。

 数の利を活かすべく動いたのだが、体制が整い間合いを詰め寄る為にゴブリンがタイミングを合わせ様と互いの顔を伺った瞬間

 囲まれた骸骨兵アースが三角を形成する一角のゴブリンに襲いかかる。

 慌てて盾に身を隠すゴブリンを盾ごと蹴り押して転倒させると、振り向き様にスピアを横一閃し背後から襲いかかって来た二体を牽制。

 転倒から立ち上がろうとしているゴブリンも視界に入る様に二体と突き、払い、盾で打ち止めの応酬を繰り広げながら移動。

 囲む為に離れすぎてお互いのフォローに支障をきたしたゴブリン達だった。


 骸骨兵エースは巧みに三対一の状況をゴブリンの位置を調整して、一体は遊兵とし二対一を作り上げている。

 疲労がない骸骨兵だから採れる、防御に徹し長期戦によるゴブリン達の体力と精神力を消費させる戦術だ。

 左右からのスピアの突きを盾で流し、己のスピアをぶつけ止め、ここまでの様に移動しようとして投擲されたスピアに足を捕られ転倒してしまう。

 同じ展開を続けすぎてゴブリンに場所取りの癖や思考を読まれた為に。

 ゴブリン側も唯一の武器を手放すという賭けだったが、一体が武器を喪失しても他のゴブリンが援護出来る、と数の優位を考えた上での作戦。

 転倒したエースを打ちのめすべく二体のゴブリンはスピアを叩きつける。

 だが骸骨兵も転倒したまま転がりよけ、機をうかがい立ち上がろうとする。

 骸骨兵もゴブリンも発展途上であり、失敗も糧として力量を上げる事に腐心していた。

 骸骨兵はともかく、ゴブリン達の士気の高さは十二分に支給される食糧と、イースの絶妙な匙加減故。

 余りにも厳しく、力量差を叩きこめば諦めから来るやる気の低下を招く。

 逆に緩いと増長から訓練に身を入れずに、等を招き兼ねない。

 三組十二体の動きを把握しながら、型稽古するイースの人心(魔物心?)掌握術や指導者としての力量の高さをうかがわせる訓練模様だ。


「あ、あの、イース様、魔力が切れたのですが?」

「……休息ヲ取リ魔力ヲ回復セヨ」

「は、はいっ」


 魔法型のゴブリンであるフジャンは、戦闘力だけ見ればゴブリン最弱である。

 衛生兵として創作された故だが。

 技能評価、改造P(ポイント)増加と様々なネームレスの思惑の元、技能アルビノや技能臆病等が付与されている。

 技能アルビノのために白い肌と銀髪、おどおどとした眼差し、いじめてというかいじめないでという雰囲気、額にある二本の角と口を閉じても唇にかかる牙を除けば人間の美少女、というかスタイルと身長、頭身から美幼女然とした外装をしていた。

 これはエレナと同じ技能美形も所持しているためなのだが、技能美形の外装変化以外の効果を調べるためにだ。

 ゴブリンの視点から見て美形なのだろうとの先入観、そして凶悪な外見は威圧等に有効なので変える積もりのないネームレスは外装改造は手を付けておらず。

 美少(幼)女でありながら、どちらが背中で胸か判らないスタイルだったりした。

 七体纏めてのゴブリン召喚後、フジャンの外見に気付いたネームレスが側に控えるイースにのみ聞こえた声量で「不覚」と呟いたが、何が不覚だったかは謎である。

 武器戦闘の指導や監督は出来ても、魔法関連は不可能なイースは彼女の訓練内容に頭を悩ませていたりした。

 ゴブリン達の疲労等を見ながら休息を入れさせたり、食事をさせたりしながらもイース、そして他骸骨兵は休まずひたすら訓練に励むのだった。


※ ※ ※ ※ ※


 訓練の終了を告げられ、足を引きずり、スピアを杖代わりにゴブリン居住区にたどり着いたゴブリンズ。

 大きな怪我はフジャンの精霊魔法で癒してあるが、体力等は休んで回復させるしかない。

 フジャンは怪我を癒す以外にも体力回復の魔法も使えるが、九体ものゴブリンを癒した後だど魔力が足りないので施していない。

 イースも魔法型のフジャンを怪我させる様な訓練は命じなかった。

 疲労困憊なゴブリンは重い目蓋を必死に開きながら、現状専用の入浴部屋へ向かう。

 雄二体を残して。

 雄二体、ハブとディギンは疲れた身体に鞭打って、訓練中にネームレスの魔法で拡張された住居部屋に麦藁で寝床を作り、自分や他ゴブリンの武装の手入れをする。

 別に命じられたりした訳ではなかったが、何か作業をしていないと寝落ちしそうだからだ。

 福祉部屋と評されている入浴部屋だが、地下迷宮に相応しい効果がある。

 飲むだけで耐久力と魔力を全快させる回復の泉には程遠いが、約一時間も浸かると疲労が全快する。

 ただしこの効果は魔物、敵・味方関係なく効果を及ぼすので下手な場所に設置すると侵入者に益を与えてしまう。

 故に雌達が居住部屋に戻るのに時間がかかり、ハブとディギンが眠気と戦いながらの作業でも全てを終わらせるには十分だった。

 そしてこの半分は善意からの行為が、ゴブリン達の序列最下層に雄二体があてられる事の既成事実とされてしまうのだった。




 ゴブリン達が寝静まった居住部屋から、インプのデンスが音もなく出て来る。

 ネームレスの命で、訓練の厳しさから反逆や逃走がないか見張っていたためだ。

 空中を無音で飛びながらも考える。

 フジャン『殿』には気付かれていたな、と。

 戦闘訓練等積んだ事のない元村人の捕虜は当然として、優秀な魔法戦士である森妖精族(エルフ)すら欺いた己に気が付いたフジャンに敬意を表するデンス。

 こうなるとエルフに気取られていない、との自信も揺らぐ。

 骸骨兵やゴブリンに負けておけぬな、と自身と部下の鍛練を厳しく行う事を決意するデンスだった。


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