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ダンジョン作成記  作者: MS
第二章
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二章第十四話

「ラン、遠征帰還後なのに遅くまですまなかったな」

「問題ない、親分」


 荷物の運搬を終え、馬も馬小屋に入れて餌と水を与える。本当ならば他にブラッシングなどの手入れも必要だろうが、素人の自分とランがするよりコボルトに任せたが良いだろう、とのネームレスの判断だ。

 予めネブラに用意させておかせた、食料――生きた鶏を含む――を褒美として与えると下がらせる。

 そして骸骨弓兵三体に農場部屋詰め所にての歩哨を命じると、思案に耽りながら執務室へ足を運ぶ。

 ホムンクルス、水精霊ウンディーネ小鬼ゴブリン枝悪魔インプ女淫魔サキュバス骸骨兵スケルトン

 ネームレスが観察した分では現状地下迷宮に存在する魔物に不審な挙動は見られない。

 オクルスの反逆は何が原因だったのか、無意識に抉られた部分を揉みながらネームレスは執務室に入るとディスプレイを起動。

 物資購入時に目を通していたが、もう一度ポイント確認画面を呼び出す。


《残り使用可能ポイント784.5ポイント》


 創作魔物の必要ポイントがホブゴブリン35、インプ30、サキュバス40で合計105ポイント。

 施設創作や施設拡大バージョンアップに農場部屋50、入浴部屋30に拡大に15、同じく入浴部屋30、農場部屋内施設拡大に20の合計145ポイント。

 農場部屋奥の入浴部屋――福祉施設に分類されていた――が拡大されており、もう一個所はゴブリン居住区の奥に設置してある。

 魔物創作と施設創作の消費ポイントが合計で250ポイント、残ポイントと帰還後の追加ポイント合計が1034.5ポイント。

 追加ポイント確認画面が出なかったから分かっていたが、オクルス討伐による追加ポイントはなしか、とため息が漏れる。

 三十人近い人数の食事準備を一人ですると掃除や洗濯の業務に支障が出るとエレナからの増員要請もあり、捕虜が地下迷宮の生活に慣れるまで補助要員を創作したいのだが、オクルス反逆の原因を解明せねば創作は難しい。

 自己改造カスタムにもポイントは必要、反逆されたからと処分するのはポイントの浪費にしかならず。

 緊急処置で余裕がなかったので、今回は技能付与や能力増加は出来ていなく、次に自己改造するには約二十日は間をあけなくてはならない。

 ならば自己改造は次回遠征後に回すか。

 次回の遠征に向け、創作魔法での迷宮拡張は控え、施設維持魔力の貯蓄に魔力を注ぐ予定でもある。

 捕虜用の支給物資購入や、襲撃で消耗した武具も補給せねばならない。購入資金である仮想資金を増やすためにも魔物創作しなければならず。

 いや、そういえば新たに解放された機能があったなと確認するネームレス。遠征帰還後解放された機構システムの一つに物資の仮想資金化がある。

 不要な物資を仮想資金に変化する事が出来るのだが、変化させた物資は二度と戻ってこない。

 簡単に説明すれば、地下迷宮を攻めて来た人間の持っていた装備や品物等を仮想資金した後は、仮想資金を払ってもそれらは戻って来ないのだ。

 希少性が高い物ほど大金になるが、逆にありふれた物を変化させても資金にならない。

 軍は金食い虫だ。生産性がなく、消費しかしないので当然だが。

 武器・防具も基本的に消耗品、技量や運用、整備で消耗を抑えても取り換えなければならない。

 これに給与や最低限の衣食住を与えなければならない、はずだ。

 この世界ではどうかは分からないが、少なくともDMダンジョンマスターとして、武具の支給と衣食住の保証は最低限だろう。

 これらの考察はあくまでネームレスの予想や考えであり、他のDMの思考がどうかは不明である。

 ネームレスとしては、上司(主)ならば部下(配下)に装備や補給の心配などかけずに戦闘(仕事)に集中させる事が役目だと思っている。だが戦闘職だけ優遇し後方を不遇にする訳にはいかない。

 当然の事だがエレナやネブラやミールの後方の努力と奉仕もまた、前衛をひいては己を支える力なのだし、作物の仮想資金化が可能となったのでなおのこと投資が必要だ。

 作業員であるホムンクルスや捕虜の労働意欲の維持・向上の為の報償や福祉施設創作、誘拐され拘束等からの鬱屈や抑圧ストレス解消の為の娯楽の提供。作業効率改善の……。

 しかし資金やポイントは有限であちらを立てればこちらが立たず、考えれば考える程、胃が痛くなってくる。

 オクルスの攻撃で破損した柔軟革鎧は仮想銀貨で210銀貨する。

 すでに整備でどうにかなる段階でなく修理に出さないと駄目な破損状況。

 だが鉄等の防具と違い革製装備は修理すると耐久性や防御力が低下する、それ以前に修理可能な技能持ちも存在せず、創作しても工房等も必要になる為買い換えた方が現状早くて消費もおさえられる。

 カスタム再生で寝不足や疲労も回復したはずなのだが、もの凄く疲労を感じる、が片付けなければいけない問題や仕事はまだまだ山積みだ。

 仕事量を考え世の中の経営者は凄い、と感嘆しながら試案を作り出す。

 時間的にはエレナ達が捕虜との交流会中だろうが、恐れられている自分が顔を出しても空気を壊すか重くするか暗くするだけだろう。

 襲撃後からネームレスを苛む殺害衝動や性的衝動と良心の葛藤、それらを気付かれぬようにとする余りに捕虜に冷淡な対応となり恐れられている故に。

 戦闘等の命の危機で生存本能が刺激され性的衝動が強まっているんだ、負けたら後悔するぞ、と己に言い聞かせたり、過剰な荷物を運び疲労を蓄積させる。名前を考えて意識を逸らす等して衝動を押し殺して、何とか地下迷宮に帰還。

 強盗殺人犯で誘拐犯だが、守るべき一線はあると意地で耐えていたが限界を感じ、男性の精が必要な女淫魔を創作。食事提供の義務として抱くのは許容範囲で、それを切望しているエレナに手を出す、あるいは支配者の権利として捕虜を好き勝手するのは駄目だという、筋が通っているのかいないのか判断が微妙な思惑で。

 エルフの少女の態度も、それら内心の欲望を悟られていたための強烈な警戒心からだったのかも知れない。

 そんな考察も交えつつ、予定作業や新たに購入可能となった物資を確認、購入予定品や試案をノートに書き写すネームレスだった。



 香ばしい香り漂う焼きたてのパン、具がたっぷりと入ったスープ、鶏肉と野菜の焼きびたし、鶏とゆで卵の甘辛醤油煮、唐揚げ、焼き茄子、ほうれん草のおひたし……。

 スィーツもスイートポテトにおさつだんご等、手元にある食材と調味料を完璧に使いこなし料理を作り上げていくエレナ。ネームレスが様子を見に来た時は偶々姿がなかったミールも料理をテーブルに運んでいる。

 エレナ達が使用していた小屋は拡大され、元々あった居住区に、六人掛けのテーブルと椅子の組み合わせが七席ある食堂部分とその数に対応可能なキッチンが追加されていた。

 ネブラは入浴後に休んでいる捕虜を呼びに出ている。隣なのですぐに連れ戻るだろう。

 ネームレスが考えた試案を元に作られた捕虜の信用を獲得、労働効率向上計画は順調に進んでいた。エレナからすれば至上にて至高。この世で最も尊き創造者たるネームレス様のために奉仕させて頂けるのは最大級の幸福な事なので、その栄誉を与えられた捕虜に対する意欲向上の意義が理解し難い計画内容だが。

 ネームレス様の御命令なのだから、己には思いもつかない深謀遠慮があるのだろう、とエレナは全力で命令を遂行していた。料理が各五テーブルに行き渡るのと同時ぐらいに食堂の扉が開き、ネブラの先導で捕虜達が入って来たのだった。


 誰がどの席に着くかで多少手間取ったものの――主な原因がエルフの少女がミールにまとわりつき、致し方なくミールがエルフの少女の膝上に座る事で席に着かせた。

 その後は賑やかな食事会となり、親しみ易さを演出する事で信用を得る事に成功した、と思う。

 言葉が理解出来ないエレナには、表情や雰囲気で判断するしかなく。創作されてから地下迷宮内の狭い世界しか知らないエレナは人間族ヒューマンやコボルトの事を良く知らないので断言が出来ない。

 ネームレスの命令を完遂出来たかと悩むエレナと違い、計画内容を『仲良くなる』としか理解出来なかったネブラは言葉が通じない悪条件をものともせずに、その性格で捕虜と仲良くなっていた。

 ミールは外見年齢と捕虜の中心人物であるエルフの構いっぷりを見るに成功と言えるだろう、彼女にネームレスの命令を遂行する意志があったかは疑問だが。

 ヴォラーレは入浴時の対応もあり、完璧に遂行出来たであろう、と食器を洗いながらエレナは手伝うネブラとミールに気付かれないようため息をつく。

 スプーンは予備も用意していたのだが使われる事もなく――コボルトは使っていたが――捕虜もエルフも料理を手づかみで食べていた。この事態はフルゥスターリではまだ農村部にテーブルマナーが広がっていない事に起因する。

 美味しいと感涙しながら食べる者が多く、料理の取り合いの喧嘩もなく美味しい美味しいと夢中で食べ、食べ過ぎで動けなくなる者が続出。エレナ、ネブラ、ミール、ヴォラーレの4人と動ける人間で、手や口まわりを拭いて、寝床である小屋まで運び、毛布を掛けて……。

 動ける人間も休ませ、ヴォラーレ以外の三人で後片付けをしている。ヴォラーレも手伝っていたのだが、エレナがネームレスを待たせてはいけない、と下がらせたのだ。

 ヴォラーレは報告と夜伽を命じられていた為に。


 肥えさせろ、との命令にエレナ(爆乳)とネブラ(巨乳)とヴォラーレ(魔乳)は女性同僚の体型を思い浮かべ了承したのだった。ミール(絶壁)を外して、ネームレスは配下女性陣の誤解だが誤解でない思考を察せられなく、配下から注がれる微妙な視線に内心首を傾げたのだった。


 多目に作った料理が皿を舐めたように――実際舐めていたが――なくなっているのを見て、作るように命じられた時の事を思い出していたエレナ。

 ネームレスは今頃ヴォラーレの報告を受け、彼女に恩寵を恵まれておられるのだろうか。そう考えるだけで嫉妬の炎が身を焦がし、洗っている皿を壁なり地面に叩きつけたい衝動が沸き起こるエレナ。


「先輩これで最後だよ……ひぃいっっ!?」


 皿を運んで来たネブラがエレナの表情かおを見て腰を抜かし皿を落としてしまう。木製の皿は割れたりはしなかったが、大きな音を響かせる。


「どうしたの、ネブラ? 慣れない事ばかりで疲れたの?」


 落ちた皿を拾いながら、エレナが心配そうにネブラに問いかける。


「あ、あれ? 先輩?」


 新しい友達が沢山出来たから興奮して思ってた以上に疲れてて幻覚を見たのかな、とネブラは先程の光景を忘れる事に。いくら何でも先輩に失礼だし、覚えてたら一人でお手洗いに行けなくなるよ、と。

 ちなみに捕虜へのお手洗いの場所と使い方は入浴前に希望者に、入浴後にもう一度ヴォラーレが説明していたので必要なら自力で可能だろう。


「そうみたいだよ、先輩」

「今日は遅くまで頑張ってるものね。もう良いから休みなさい」

「うん、お風呂に入って休むよ」

「じゃネームレス様が用意してくださった入浴部屋を使いなさいね?」


 皿が落ちた音を聞きつけたミールがキッチンまで様子を見に来たが、二人の会話から問題ないと台拭きに戻って行った。


 食後、コボルトは馬の手入れなどのため、デンスと馬小屋で作業していたのだが、ネブラが皿を落とした時間前後に一斉に食堂に向け、腹を見せる降伏の姿勢ポーズをして。


「何をしとるんだ、お前ら?」


 デンスに突っ込まれていた。


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