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ダンジョン作成記  作者: MS
第二章
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二章第九話

 彼が己の地下迷宮ダンジョンに帰還出来たのは隊商襲撃から二日過ぎ、出率して十日目。

 エルフの少女の態度はある程度改善された、下策だが脅迫にて。

 駆け引きではあるが、彼女の行動の咎めを他人に向けると匂わせて。エルフの少女は自身の命に興味がなさそうだが、己の態度で他の少女や子供が危険だと理解した後は改めた。表面上は問題解決となったが、彼と奴隷達との溝は深まったと言える。

 まぁ脅迫で態度を改めさせたのだ、良く思われるはずもない。飴役をエレナやネブラ達ホムンクルスに、鞭役を自分がと割り切った彼からすれば、奴隷の少女や子供に恐れ避けられる事など大した事ではない。時々体育座りで遠くを見たくなるぐらいだ。

 第二簡易拠点からの帰還の旅は、その人数を大きく減らしていた。奴隷二十二名、犬人コボルト四匹は変わらない。

 物資運搬に小鬼ゴブリンが三匹、骸骨兵長イースを含む骸骨兵が六体、馬八頭が別働隊として略奪品を後から運んで来る予定だ。

 食料品等の質は農場部屋で作れる作物の方が上なので、破棄も考えたのだが食べ物を棄てるなんてもったいないと全て回収する事に。奴隷やコボルトが従順な事もあり、隊を分ける事にしたのだ。速度を物資運搬隊に合わせると帰還に時間がかかり、捕虜である子供達の負担が大きすぎるとの考慮の元に。

 それでも子供の足や体力に合わせての行進、森中の不安定な足場等で時間がかかったが。幼い、あるいは疲労の激しい子供は馬に乗せたりとしたのだが人数が人数故にどうしても時間がかかったのだ。

 それにしても、子供の適応力は凄まじい。危険の線引きを理解してからは、骸骨兵への恐れがなくなった。個人差があるので、駄目な子も確かに居る。が、馬三頭だとどうしても数が足りないので、歩き疲れた子供を骸骨兵の腕や背中に乗せたりもした。最初は固まっていた子供らも、何度もくり返す内に慣れたのだろう。

 流石に自分とゴブリンのランには懐かなかったが、骸骨兵はそこまで恐れる存在でなくなった様だ。今も骸骨弓兵オースが肩車で一人、腕に一人と子供を運んでいる。ちなみにオースが運搬していた荷は、彼が改めて運んでいた。

 疲れを知らぬ骸骨兵だが、一度に運搬出来る重量は限られている。最低限の見張りとして骸骨弓兵一体とランは武具を手にしているが、他の骸骨兵は子供の足代わりだ。

 だから彼は骸骨兵が運搬していた四体分の荷物、そして彼自身の荷を合わせて五人分を運んでいた。マスクで呼吸がままならなく疲労や負担も大きい、が奴隷やコボルトに侮られる事を嫌った彼はそんな素振りは決して見せようとしなかった。

 子供の体力に合わせると休憩を頻繁にとったり、フードとマスクで表情かおを隠してなかったら確実に知られていただろうが。襲撃後、奴隷やコボルトとの仲介の為の睡眠不足、連日の過剰な重量を伴った移動、エルフの少女や奴隷への対応による精神的負荷ストレス。そして弱みを見せてはならない、との強迫観念と演技が奴隷への対応の冷たさ、エルフの少女への攻撃的反応に繋がり。

 それがより、奴隷の恐怖を煽り、エルフの少女の憤怒を買い敵対的反応に……。この悪循環に陥っているのだ。

 虐待に走っても可笑しくない状況なのだが、意地か面子か解らないがエルフの少女の態度の件以外で暴力を背景にした交渉や命令もなく。食事を抜いたり、過剰な労働や理不尽な命もない。それでも纏っている雰囲気が奴隷を怖がらせているが。




「無事の御帰還、心より御祝い申し上げます」

「……あげます」


 奴隷やコボルトを地下迷宮自然洞窟偽装部に置いて、骸骨兵演習場と化している部屋の隠し扉に入った直後。彼はかけられた声に驚き、固まってしまっていた。

 見ればネブラも信じられないものを見たような、驚愕した表情かおで帰還したばかりの彼を見詰めている。内心の動揺を治める為に、ゆっくりとフードを脱ぎ、マスクを外す。


「出迎え、ご苦労」


 エレナは綺麗な、ネブラはぎこちない跪礼カーテシーで彼を出迎えた。エレナは潤んだ瞳に頬を染めて、ネブラは子が親を出迎えるような親愛の情を浮かべて。


「留守中に問題は?」

「はい、何もございませんでした」

「そうか、農場要員に捕虜を捕まえて来た。受け入れの打ち合わせをするぞ」

「畏まりました」


 連絡もしてないのに、もしかして毎日待っていたの、等々の疑問を押し殺し、次々と指示や確認を取り交わす。


「作物と鶏の育成や収穫はどうだ?」

「さすがは先輩、ご主人様の帰りを秒単位で当てたよ。吃驚だ」


 確認や報告は落ち着いてからで構わんな、とネブラから反応がない事を流す。だから独り言も聞こえなかった。

 疲労と睡眠不足からの幻聴だ、と自分を偽る彼だった。



 奴隷とコボルトの見張りにランと骸骨兵を残している、とはいえなるべく早く農場部屋に受け入れた方が良い。だが奴隷二十二名、コボルト四匹の寝床等もしっかり確実に用意せねばならない。

 いかんせ、奴隷として買われた少女や子供はフルゥスターリ語しか使えず、コボルトも魔物共通語らしい日本語を理解出来ないので通訳役も無理なのだ。


「さて、捕虜はコボルトが四匹、少女や子供が二十一名、そしてエルフで二十六名だ」


 水精霊ウンディーネのミールにも帰還を知らせ、打ち合わせに参加させる為に4人は農場部屋にて会議中だ。相変わらずミールの発言はないが、話し合いは進む。

 ホムンクルスから人数増加による食料消費速度、生産拡大予想が思考されていく。


「住居も生産速度も問題ない、か」

「うん、じゃなくて、はい、ご主人様。現状の規模でも住居は家畜小屋を使わなくても四十人ぐらいなら余裕だよ」


 二段ベット等を導入すればまだまだ増えても大丈夫との事だ、さすがに個室や家族単位の部屋はないが。農場部屋の仕事効率なら、小学生ぐらいの子供でも十分戦力になる、これがホムンクルス二人の見解だ。

 子供を生かす為に、エルフに対する人質等の理由付けまで考えていた彼にとっては多少拍子抜けしたが、悪い結論でないので口出しや反論はしなかった。

 最もこの結論は彼の内心を察したエレナが、ネブラを誘導した結果だが。食料生産速度や他に問題があれば、また違っただろうがエレナは彼の思惑通りか近い結論に誘導するのが忠実な従者として当然、と実践している。




 ホムンクルスと水精霊に農場部屋の掃除を始めとした受け入れ準備を命じた後、彼は執務室に足を運ぶ。留守中に消費しているはずの地下迷宮の維持魔力補充や、獲得ポイントの確認の為に。

 久々に訪れた執務室は相変わらずに廃墟一歩手間、何年も放置された事務所や店舗のような印象を受ける。エレナ達の努力で清潔感があるので、今から開店する事務所ぐらいに改善されているが。

 机に付属された椅子に座り、空中ディスプレイを起動。各施設の残魔力値を確認、補充していく。

 眠る前など、余裕がある時に補充し大量に備蓄があった魔力値も十日も補充がなかったため危険域に。襲撃計画に気を取られすぎていた、と反省する彼だった。

 他にも仕事は山積みだが緊急性の高い施設魔力管理だけ終わらせ、今回の襲撃にて獲得出来たであろうポイント確認に移る。緊張と興奮で震える指先、心臓も早鐘を打ち目眩も感じる程だ。

 深呼吸し、興奮を抑えると確認画面へ。


《新たにポイントを獲得しました。獲得ポイント992ポイント。『確認』》


 命懸けで六人殺した事を考えると、高いのか低いのか悩むポイントだ。『確認』に触れると画面がかわる。


《残り使用可能ポイント1034.5ポイント》


 これだけか?

 他の画面に切り替えて情報を集めようとするもポイント関連の情報画面は発見出来ず。

 例えば何人殺したから何ポイント加算や、初項目ボーナスで加算等の情報を期待していた彼はガックリと肩をおとす。

 確認出来た情報だけだと殺しただけで九百ポイント稼げたのか、捕虜や略奪での加算があったかも判断がつかない。

 前向き(ポジティブ)に考えよう、現状で骸骨兵なら五十体、ゴブリンで四十匹創作可能だと考えれば稼いだ方だろう。というか初期ポイントとほぼ同ポイントだ。

 それに情報の細分化も、執務室のバージョンアップで追加されるかも知れない。これだけポイントに余裕が出来れば、新たな生産部屋や魔物創作、自己強化も可能だろう。

 まずは奴隷を監視・監督する魔物の創作をするか。

 ディスプレイを消すとダンジョンマスター室へと赴く彼だった。

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