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ダンジョン作成記  作者: MS
第二章
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二章第八話

 解体された馬車は、その殆どが小鬼ゴブリン達の手により薪へと姿をかえ。

 馬車が積んでいた食料や飼い葉、毛布に薬剤などの物資は交易路から骸骨兵スケルトン犬人コボルト、そして奴隷達により森の中へと運ばれた。一旦森中へと運ばれた物資は馬の背に乗せられ、第二簡易拠点を目指し出発。

 奴隷達も無理のない範囲で荷物を持たせ、共に歩いてついて来させたのだった。

 第二簡易拠点に荷物をおろす時点で日が昇り始めた為、ゴブリンとコボルトと奴隷に休み(眠り)をとらせる。

 見張りを骸骨兵長イースと骸骨弓兵に任せ、彼は残りの骸骨兵と共に馬を連れ物資運搬に励むのだった。

 運搬作業は大変だった、骸骨兵は戦闘では頼りになる。が、こういった訓練していない行動にはとことん向かないために。

 馬に荷物を乗せ落ちないようにくくりつけ等の準備は全て彼が行わなければならず。骸骨兵が出来る仕事は馬を引き連れ彼について来るぐらいだった。

 簡易拠点の荷下ろしはイースの手伝いが有った為に助かったが。他の骸骨兵と違い色々と応用が効くイースの指揮の元だと、昨夜のバケツリレーならぬ荷物リレーのような事も可能となる。

 ならば荷物運びもイースに手伝わせるか、命じれば良いと思うだろう。だがイース単独では不安がある、だが見張りをイース指揮下以外での骸骨兵に任せられない。

 夜明け前の簡易拠点までの行程で、奴隷の子供が一人列から離れた。その子はちょっと花摘みにと離れただけだったようなのだが、見張りを命じられていた骸骨弓兵は逃走と判断、矢を放ったのだ。幸いにも子供に命中しなかったが、後でイースに確認させたら威嚇射撃だったらしく当てる積もりはなかったらしい。

 この事件は花摘み時は見張りに申告させる事で決着を着けた。ただ彼以外フルゥスターリ語が理解出来なく、結局大半は彼への申請になったが。泣くは土下座しだすは睨みつけられるは漏らすは、と場を収集させるのに時間を多大に喪失してしまったのだ。

 約四十人分、馬十一頭の四日から五日分の食料、飼い葉に生活物資。地下迷宮まで水は小川で補充可能な為破棄したが、それでも膨大な量になる。

 イースが『花摘みへ行きたい』とのフルゥスターリ語を覚えてくれて良かった。

 それを独りで黙々と馬に乗せ、第二簡易拠点へ運び、イース指揮で骸骨兵がおろす。それを何度も繰り返し物資を運ぶうちに太陽は真上近くまで昇り、眠っていたゴブリンやコボルト、奴隷の少女や子供達も起き出す。



 奴隷コボルト達は幼少時よりふるいにかけられ、仕分けられる。まず見た目、次に性質で。

 見えが栄え、性質も穏やかな質ならば、礼儀作法等を仕込まれ、王公貴族や裕福な人間に売られたり繁殖用に調教師の手元に置かれたりする。

 見栄えが良くても性質が荒いコボルトは徹底的に反抗心を折られ、従順心を植え付けられる。調教で性格改造が無理だった場合は魔法の道具マジック・アイテムの『服従の首輪』や『支配の首輪』等にて精神支配され出荷されていたのだが、その手の道具が高価な事と調教技術の発達でマジック・アイテムをつけられた奴隷コボルトは姿を消しつつあった。

 見栄えが悪くても穏やかな性質なら、労働奴隷として様々な場所に売り払われる。そして残ったコボルトは軍や傭兵ギルドへと売り飛ばされる。

 奴隷商から彼に主人をかえた奴隷コボルト四匹も、魔物との言葉から想像される狂暴な姿ではない。四匹いるコボルトの中の一匹は、セント・バーナードに良く似た姿をしている。

 もう少し凛々しいか、愛らしいならば臆病で穏やか。頭脳も優れていたので、執事コボルトとして売買されていただろう。

 他の三匹を説得、彼に服従をする様にまとめあげたのもこのコボルトだ。素早い降伏がなければ、おそらく護衛を全滅させた骸骨兵に、続け様に殲滅されていただろう。



 大概の人員が起床した為に朝食兼昼食作りに勤しむ地下迷宮の主たる彼、ゴブリンと骸骨兵長イースは彼と交代で物資移動作業へ。

 馬は彼が連れていた六頭から、今まで休んでいた五頭と交代しコボルトが水や飼い葉を与えたりした後休ませる予定だ。

 ゴブリンとこれから働く馬は、すでに食事を済ませて骸骨兵共々出発している。

 今この場に居るのは、今まで荷運びしていた馬六頭、その世話をするコボルト四匹。奴隷が二十二名、骸骨弓兵が五体。中学生から高校生ぐらいの少女達四人――エルフの少女を含む――に食事の支度の手伝いをさせて作っている。馬車には長旅用の食材しかない様だったのでスープを作るぐらいだが。

 他の子供は小学生の上級生ぐらいの子達がまとめているし、彼や骸骨兵を恐れて静かだ。

 木々のざわめきと鳥の鳴き声、調理に使っている薪がはぜる音や川のせせらぎ、馬の嘶きが聞こえるぐらいの静寂な空間が出来上がっていた。


「……お前達の名前は?」


 その静寂を打ち破り彼が手伝いの四人に話かける。これ迄は情がわいて殺せなくなるのを恐れ、態と名前を確認しなかった。だが彼の中で結論が出た為に名前を聞く。

 名前を聞かれる事など想像もしてなかったらしく、しばらく反応がなかったのだが事態を認識できたらしく慌てる少女達。


「お前からだ」


 話が進まないので杖で指し示す。


「ち、ちゅ、チュヴァです」

「チチュチュヴァ、だな?」


 服従を告げた茶髪の少女が名乗る。慌てた為に変な発音になっただけだと思うが、異世界であるこの世界だと、普遍的な名前かも知れないので確認する。


「あ、いえ、チチュチュヴァで良いです」


 いやそれで終わられても困るのだが。で良いです、と言っているのだから違うのだろうし。


「要らぬ気を使うな、名は?」

「……チュヴァです」


 表情かおに恐怖を浮かべ、身体を強張らせて返事が返ってくる。エルフの少女からの非難含みの視線が突き刺さりそうだ。フードとマスクの下で溜め息を噛み殺し、次の少女を指す。


「……ミラーシです」

「ミラーシだな?」

「はい」


 ミラーシは赤みがかった茶髪の少女。顔色は多少悪いものの、そこまで怯えている様子はない。そして次の少女に。


「……ナーヴェ、で、す」


 涙目で今にも倒れそうな顔色をした、栗毛の気弱そうな少女がナーヴェ。


「ナーヴェだな?」

「は、はいっ」


 三人共痩せすぎだが、整った顔だちをした少女だった。が、最後に残ったエルフの少女と比べると凡庸な容姿をしている、と言われても反論はあるまい。


「では、最後にエルフ殿の名前を聞こうか」


 だがエルフの少女からの返答はなく、相変わらず睨み付けるだけで言葉を口にしようとしない。そんな態度に、彼も剣呑な雰囲気を身にまといつつあった。

 内心の反発や、睨み付けるぐらいの抵抗なら致し方ない、と流そう。だが『命が惜しければ逆らわぬ事だ』との警告を無視するのなら話は別だ。この様な態度を許せば、他の人間の増長や職務放棄に繋がりかねない。

 二人の間に急速に緊張感が高まる、その空気にチュヴァ、ミラーシ、ナーヴェの三人が腰を抜かし地面に座りこむ。息を殺していた他の子供らも、異変に気づき耳をふさぎしゃがみこんだり、と動きが見える。


 そんな二人の間に飛び込んで来る影が一つ。


「エルフさんは、喋れないんですっ」


 飛び込んで来たのは馬の世話をしていた、コボルトの一匹だった。尻尾を巻いて涙目で必死に訴える二足歩行のわんこにより、緊張感は彼方へ飛んでいった。このコボルトを見てると幼い頃に見たアニメを思い出す……、思い出す?

 必死で説明するコボルトの、客うけするように仕込まれた仕草が女性陣を癒す。現実逃避も入っているのだろうが。


「状況は理解した、仕事に戻れ……、いや、食事にする」


 スープができあがったのに気付き、他のコボルトも連れてこい、と命じ。手伝いさせていた四人にも、子供を連れてこいと命じる。


 この食事が純粋な異世界食になる。地下迷宮では調味料は配給され、味付けは現代風にアレンジされている。農場部屋で作物が採れる用になると、献立こそ少ないが食事事情は現代とさほど変わらなくなっていた。

 味の感想は凄く薄味、出汁が塩漬けされた肉(何肉かは不明)だけで、具材もそれだけなのだから当然と言えば当然なのだが。

 彼自身のした調理など鍋底に焦げ付かぬようにかき回していたぐらいで、材料や分量は少女達任せ。後は少女達に混じっての配膳、子供が鍋の前に並ぶので食器にスープを注ぎ入れパンと一緒に渡すだけだが。

 骸骨兵は彼や奴隷、コボルトを囲むように分散されている。

 コボルトと奴隷達は一緒に食事を摂り、彼だけ独り黙々と食べている。

 エルフの少女以外からは、恐れられている。そしてエルフは敵愾心を隠す事なくぶつけて来るので誰も近寄らない。

 命を握られている奴隷やコボルトが、不興や怒りを買わぬために従順に振る舞うのは理解出来るのだが。エルフのあからさまな敵愾心は何なのだろうか?

 本気で此方を討つ気ならば、面従腹背し、油断を誘い寝首を掻くのが確実かつ、安全で成功確率も高くなるだろう。あの様な態度では警戒され、最悪殺されるだけだろうに。

 奴隷達は殺さずに、農場要員とすると決断したものの、中心人物の一人であるエルフがあの態度を崩さないならば獅子身中の虫となる。

 エルフの少女を殺す事による、メリット・デメリットを考える。これまでの行程でエルフの少女が奴隷達の精神的支柱であり、中心人物の一人である事は判っている。

 彼が視線をエルフの少女へ向けると幼い子供らを世話している姿が見えた。遠すぎて表情までは判らなかったが、雰囲気は柔らかく優しい。

 フードの下で苦笑し、殺すのはないなと結論を下す。子供達への悪影響か大きすぎる。

 武器を手に襲いかかって来るなら例外だが、自分では子供は殺せまい。理性では労働力とならない子供は殺しポイントにすべしと判断を下しても、感情が完全に拒絶する。

 地下迷宮の主としては甘いのだろう、罪のない商人や護衛を殺しておいて今更とも。

 色々と悩みながらもエルフの少女、ひいては奴隷達の懐柔策を考え出す彼だった。

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